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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第359話 フリーの一日、古代に神託を受けていた施設を見に行こう! その2(トラップと祭壇)

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 少し進むと――

「あ、ナナトスさん、そこ危ないので気を付けてください」
「え? うわぁっ!!」

 ナナトスが落とし穴に落ちかけていた!

「いいいぃぃっ!? 骨えぇ!?」

 この辺りから罠が設置されたフロアになるらしい。
 落とし穴の底には槍を逆向きにして何本も突き立ててある。
 落ちれば串刺しになって命を落とすかもしれない。
 槍の下には頭蓋骨や肋骨、その他の骨がちらほら。かつてここで罠にかかって命を落とした者たちの成れの果てか。

「な、なんスかコレ!?」
「昔は異種族間で争いがあったため、神殿も賊に侵入されることがありました。その時の罠の名残ですね」
「物騒なとこッスね……これ塞いどいた方が良いんじゃないッスか? いつか誰か落ちるッスよ?」
「ふふ……大丈夫ですよ。本当はガラスで蓋がしてありますから」
「……あ、ホントだ……」
「ちょっとした冗談だったんですけど、予想以上に驚いてくれましたね」
「こんなので驚いた自分が情けないッス……」

 また少し進むと見覚えのある回廊。

「随分傾斜がある回廊ね……何か既視感があるわ、こういう風景。もしかして横の通路から大きい岩とか転がって来ないですよね?」

 『シンディー・デョーンズ』みたいな岩が。

「よくご存じで! 大昔そういったトラップが設置されていたらしいですよ。土魔法で大岩を召喚して、敵を圧し潰すようなトラップがあったとか」

 大岩を召喚? ってことは同じトラップが何回も再起動するってことなのか?

「神殿の奥を利用してた獣人ひとたちはどうやってここを通過してたんですか? 下手したら身内に死人が出ますよね?」
「ああ、それは――」

 ジゼルさんが壁にあった特定の石を押すと、ゴゴゴゴという音と共に隠し通路が現れた!

「「「おぉ~~!!」」」

「――こういった安全に通行できる隠し通路が内部に張り巡らされているんです。知らなければ気付かない仕掛けなので、外部の敵には発見しにくいというわけですね。今では開く時にこんなに大きい音がしていますが、利用されていた当時はもっと小さい音だったんじゃないかとされています」

   ◇

 また少し歩くと、分かれ道の片方に魔界文字で『立入禁止』と書かれた看板が置いてある。

「ジゼルさぁ~ん、立入禁止って書いてあるあっちは何で禁止なんスか?」
「魔法でトラップを作ってあるところは、まだ起動するものがあるので立ち入りを禁じてるんです。あの奥は敵を閉じ込めて丸焼きにするトラップのある部屋ですね。何十年も前、ここを観光名所にしようとした当初、トラップにかかって犠牲になった職員が居たそうなので、いっそ入れないように看板を置いておいた方が良いという判断で設置されました。あと、片付けられないので太古からの犠牲者の骨も沢山ありますよ」

 うわっ! ここって中々ハードな観光名所だな!
 古代の死体だらけじゃないか!

「ナナトス、勝手にあっちに行かないでよ?」
「……ナナトス、勝手にあっちに行くなよ……?」
「行かないッスよ! 丸焼きになんかなりたくないッスから」

 ここって神殿って言う割には危ないな……
 さっき聞いた時にジゼルさんは『お墓じゃない』って言ってたけど、古代の時代にこれだけ外敵が死んでるんなら、立派にお墓の機能を果たしてるのでは?
 もしかしたら沢山飛び交ってる下位精霊の中にも成仏できてない邪霊が混じっているかも?

 興味本位で【霊視スピリチュアル・ヴィジョン】で霊視して……みようと思ったが思い留まった。
 きっと沢山居るから見ない方が良い。

   ◇

 また少し進むと、大空洞に舞台のある部屋に着いた。

「ジゼルさん、ここは?」
「ここがピラミッドの最奥の降神の間です。部屋中央の舞台で巫女が舞いを舞って神を賛美したという話です」

 舞台は正方形の形で一段高いところにあり、四つ角には火を灯せる祭壇。その下には舞台を囲むように水路らしきものがあるが、今は水が流れていない。

「そして、ここから見える更に奥の階段の上にあるユグドの祭壇にて、古代の獣人たちの神官が神の器となって神託を賜っていたとされています。当時は巨大なクリスタルがあったそうですが、今はただの祭壇があるだけになっております」
「へぇ~、ここで神を降ろしたのか」
「この場所がこのピラミッド内で最も魔力を集めやすい場所とされています」
「神を降ろしたとは言いますが、トリニアさん曰く、大精霊クラスが魔界に顕現すると大災害の予兆じゃないかと心配されるという話を聞きました。神ともなるともっと凄いことが起こるんじゃないんですか?」

 疑問に思ったから聞いてみたが、ガイドさんにとっては大分意地悪な質問だったかもしれない。

「そのようですね。わたくしたちは大精霊が顕現する場に立ち会ったことがないので分からないことですが、トリニア様が仰られてるのなら信憑性が高いのではないかと思います。なので現在では、『古代に召喚されていたのが本当に神だったのか疑問視する意見もあり、もっと下位の精霊だったのではないか』と度々論争になっていますね。『精霊体そのままで顕現すると魔力の放出が激しいが、神官という器に降ろしていたからそれほどの魔力は出なかったのではないか?』、『そもそも大精霊が顕現したら、ホントにそんな強大な魔力を撒き散らされるのか?』などの意見も聞かれます」

 なるほど、大精霊ですら顕現すれば魔界中 (の精霊たち)がビックリしてしまうのだから、神を降ろすなんて言ったら更に信憑性が低い。そりゃあそういう議論も起こるわけだ。

「いずれにせよ太古の昔の話ですので、大精霊顕現という現象が実際に起きない限りはきっと結論は出せないでしょう」
「今はここで精霊が召喚されたりはしないんですか?」
「昔と違って、今は身近に精霊がいらっしゃいますからね。亜人にしろ獣人にしろ、知恵のある者は神秘性を求めますから、精霊が身近になってしまっては神秘に感じ辛くなってしまったのでしょう。ここで召喚せずともユグドラシルを伝って勝手に魔界に来るそうですから」

 別にわざわざ召喚しなくても良いわけね……

「何でユグドラシルを伝って来るようになったんですか?」
「神託が行われていた時代よりずっと以前から来ていたそうですが、受肉している精霊があまりいなかったため、多くの亜人や獣人は知らなかっただけみたいです。受肉してなければ精霊使いの素養がある者以外には見えませんから」

 確かに。私も意識して見ようとしないと見えないし。

「亜人の文化が進むにつれて、精霊たちも受肉する数が増えて、亜人や獣人に身近なところでも生活するようになってきたとか」
「何で文化が進んだら受肉する数が増えたんですか?」
「一説によると、亜人の文化が面白そうと興味を持ち始め、それから魔界で行動するために受肉する精霊が増えたとか」

 ああ、そういえば首都までの道中でトリニアさんが語ってたな。 (第316話参照)
 『楽しそう』という話を例に取ると、有名な話では天照大御神あまてらすおおみかみ天岩戸あまのいわとに引き籠った時に、外で楽しそうな音を響かせて外へ興味を向けさせて、外に誘い出したって神話がある。
 神様だって楽しそうなものに興味を示すのだから、亜人にせよ、精霊にせよ、楽しそうなものは自分も体験したいと思うわけだ。

「さて、それでは戻りましょうか。今来た道を戻りますか? それとも別のルートで戻りますか?」
「違うルートがあるんですか?」
「この部屋に来るのに、四ヶ所のルートがあります。ここから見える今入って来た入り口以外の五ヶ所のうち、三ヶ所が外と繋がっています」
「それも外敵を想定した作りになってるというわけですか?」
「その通りです! ああちなみに、実は五か所目のルートがあって、あの祭壇の下辺りに隠し通路があります。そのルートのみ罠や仕掛けが一切存在しないルートです。最奥まで攻め込まれた時の脱出も想定していたのでしょうね」
「なるほど~」

 よく聞くところの、城の地下にある脱出口のようなものか。

「残りの二ヶ所はなんスか?」
「神官や巫女の生活スペースに繋がっています。現在はただ少し大きい部屋があるだけですね」
「じゃあ、別のルートで戻りましょう」

 別のルートに行くとやはりトラップはあった。
 水で流されて針山に落とされるトラップ、無数の矢が飛び交うトラップ、硫酸シャワーので床が溶けた痕跡など、全部起動しないようにしてあるが、ジゼルさんの説明によると、聞くだけでもう危ないと分かるトラップが多数。
 古代の神官ってそんなに外敵から狙われていたんだろうか?
 神託受けられるってだけでも相当な影響力があったのかもしれない。昔の獣人がどの程度の知能か分からないけど、神官の話を丸々信じてたって可能性もあるし。

   ◇

「みなさまお疲れ様でした。他にも二ヶ所ルートがありますが、もう一度行きますか?」
「いえ、明日に向けて準備もしないといけないので、少し早いですがもう帰ろうと思います。ロクトス、ナナトス、あなたたちはどうする?」
「……じゃあ俺たちはピラミッドをもう一周……」
「え!? もう一回行くんスか!?」
「……折角アルトレリアを出たんだから、堪能しないと損……!」

 あとで他の二つのルートにはどんなトラップがあったか聞くか。

「じゃあジゼルさん、この二人をお願いできますか?」
「わかりました。アルトラ様はどうされるのですか?」
「私は空間魔法で帰れるので、先に宿に帰ります」
「ではお二人は後々馬車でお送りします」

   ◇

 一足先に宿に帰……らずアルトレリアに帰った。
 エルフィーレの店を訪問。
 通貨制度が出来て以降、縫製所だけでなく、服屋も始めたらしい。

「こんにちは、エルフィーレとリナさん居る?」
「あれ? アルトラ様、樹の国に行っていたのでは?」
「王様に会うのにフォーマルドレスが必要だから一時的に戻って来た」
「呼んできますので少々お待ちください」

 そういうわけで明日に備え、ドレスを見繕ってもらった。



   ◆◇◆



【あとがき】
 最近この小説の名前を変えようか悩んでいます。
 これは、『当小説の名前が長すぎる』と思ったのと、『タイトルに特徴とする名前が入っている』ものに少し憧れが出てしまったというところがあります。
 候補としては、以下のようなものを考えています。

 1.転生天使アルトラの国造り奮闘譚
 2.魔界の天使アルトラは住み心地をよくしたい
 3.アルトラ~魔界の天使の住み心地改善計画~
 4.現状はそのまま変えない方が良い

 後日アンケートを取るかもしれないので、よろしければご協力いただけるとありがたく思います。
 また、意見があったらコメントしていただけるとありがたいです。

 次回は6月1日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第360話【樹の国魔王との謁見】
 次回は木曜日投稿予定です。
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