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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第351話 独断で女王を駆除したことの弊害……

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 会議室前まで来ると、中の話し声が聞こえる。

「あの強力な個体を三体も生み出した女王ですからな、早ければ一ヶ月もすればまた新たな強力個体が出現してしまうかもしれない」
「樹人に伝達したとは言え、この広大な大森林を樹人だけで探し出せるでしょうか?」
「ならば樹人だけでなく、木の下位精霊たちにも伝達して、一刻も早く女王を探し出してもらおう」
「確かに木の下位精霊というのはどの程度意思があるものなのですか?」
「意思はほとんど無い。こうこうこういうものを見つけろと言えば、それに似たものを見つけてくれる」
「それって別のものを大量に見つけたりとかしませんか?」
「まああり得るが……」
「島のような離れたところでも見つけられるんですか?」
「いや、精霊が動ける範囲でないと無理だな。木の下位精霊は自身の棲む木から五メートルくらいがその範囲だから川程度なら可能だと思うが」
「だとしたら、見つけられない範囲は結構多いのでは? 風の国以外の七大国にも応援を要請して、捜索人員を増やした方が良いと思います!」
「樹人なら島にも移動できるから伝達自体は可能だ」
「しかし――」

 切羽詰まった会議の最中みたいだ。
 まあ、女王の死骸も回収してきているし、入っても大丈夫だろう。

 コンコンコン

「どうぞ」

 会議には、今までの会議と同じく隊長・副隊長が揃っている。

「「「アルトラ殿!」」」

「どこへ行ってらしたのですか?」
「あ、はい、女王を討伐してきました」

 ……
 …………
 ………………

「「「えぇっ!?」」」

「どういうことですか!?」
「女王って……第九コロニーの女王か?」
「そんなバカな! この広大な森でどうやって見つけたんだ!?」
「しかし手ぶらじゃないか!」

 司令官のマルクが近寄って来た。

「………………失礼ながら、証拠はありますか? 見たところ何も持っていないようですが」
「はい、ちゃんと持って来ています。ちょっと大きいので会議室の机を借りますね。ああ、傷口は凍らせてありますが、体液が出るかもしれないので一応布か何か引いていただけるとありがたいのですが」

 机の上に厚めの布を用意してもらった。
 亜空間収納ポケットを出現させ、女王蜂の死骸と卵を会議室の机の上に取り出した。
 体高が二メートルもあるから、近くで見るとかなりでかい。

「「「おおぉ!?」」」

「中から蜂の死骸!?」
「何だあの魔法は!?」
「あれも空間魔法か!?」

 こうやって驚かれると、この収納魔法って本当にこの世界に浸透してないんだな。当事者のルイスさんも知らなかったくらいだし。

 今フッと考えたが、この世界の空間魔術師にアイテムボックスの概念が存在しないのは、『テレビゲーム』というメディアが存在しないからなんじゃないだろうか?
 テレビゲーム、特にRPGに慣れ親しんでいる地球人は、アイテムが無限に入る『アイテムボックス』のようなイメージが可能だが、テレビゲームの無い場所で生きている者が無限に入る袋という発想をするのが中々難しいのだろう。
 中にはその発想に辿り着いて使えるようになった空間魔術師もいるかもしれないが、これだけ有用な魔法だから、誰にも教えず、自分だけの固有ユニークスキルとして秘匿している可能性が高い。

「流石ベルゼビュート様です! ねぇイルリース、あなたもあれ覚えたら良いんじゃない?」
「もう覚えました、ルイスさんに教えていただいたので」
「ホント!? じゃあ今後公務も便利になるね!」

 多くが収納魔法に驚く中、ティナリスはみんなとは別の感想。

「それで、これが第九コロニーの女王ですか?」
「はい」
「確かに私たちが見た白い個体みたいですね」
「ど、どうやって見つけたんだ!?」
「え~と……」

 カイベルが見つけてくれたなんて言えるわけないし……ここは――

「か……勘です!」

「「「は?」」」

「わ、私勘が凄く良いので、予感がした場所に行ってみたら見つかりました!」

 自分で言ってても分かる、これは言い訳として大分苦しい!

「そんなの信じられるわけないだろう!」
「え、え~と……そ、それ以外言い様が無いので……」
「しかしこうやって女王を駆除してきたのも事実ですし」
「あ、そういえば『席を外す』と言ってどこかへ行かれましたが、あの時に既に女王の居所の目星を付けていたということですか?」

 と、トリニアさん。
 この言葉が言い訳の活路を開く。

「え、え~と……そ、そうかな……そう! そうなんです! その時既に目星を付けていました!」

 カイベルに助言を求めに行くために言った『席を外す』が、上手い具合に活きてきた!

「でも確信を持てなかったため、報告をせずに現場に行ってみたら本当に居たから、本部に戻ってる間に逃げられたらいけないと考えて一人で討伐したんです!」

 い、一応辻褄は合ってるはず!

「…………もし……女王コレが特殊個体より強かったらどうするつもりだったのですか?」

 マルクさん、怒ってる?

「そ……それは……」
「今回は単身で討伐できたので問題ありませんでしたが、やはり一度報告に戻ってもらうのが最善だったと思います。あなたならパッと報告に来れますし」
「はい……そうですね……すみません……」

 ああ……一人で倒しに行ったのはやっぱり軽率だったか……

「とは言え、女王を倒せたのなら良かった。それで……一応聞きますが、本物で間違いないですか?」
「も、もちろんです! わ、私は本物だと思っています! 近付いて見てみてください」

 みんな近付いて見てみるものの、その反応はかんばしくない。

「う~ん……しかし俺たちが見ても……」
「この中の誰もがコレに遭ったことがないので分からないですよね……」
「そもそもこんな強力な個体を生み出す女王を相手にしたのが初めてですしね」
「アルトラ殿には黒の個体を倒してもらったので、信用していますが……突然空間転移魔法で逃げた女王を倒してきたと言われても……」
「にわかには信じられませんな……」

 突然出された女王コレを信じろというのが難しいのかもしれない。
 一言『直感がするので付いて来てもらえますか?』って言っただけでも大分違う反応だったかも……

「アルトラ殿は空間魔術師ですから、黒の個体の空間魔法に何か感じるものがあったとか?」
「ジョアンニャ、君には何か感じ取れたか?」
「いえ、私には何も……」
「イルリース殿とルイス殿は?」
「僕にはそんな直感的な能力ありませんよ」
「わたくしもそんな能力は無いですね……」

 私にだって誰がどこへ空間転移したかなんて分からない。
 だからと言って、カイベルの機能については最重要機密だから『私には居場所が分かるそういう能力を持ってる仲間がいる』とも言えない!
 『勘』で納得してもらう他ないのだ!

 懇願するようにアランドラとルシガンの方をチラッと見ると――

「私はアルトラ殿を信じます! 彼女の貢献度合いは全隊員の中でも一、二を争う」
「関わった期間は短いですがその間、彼女からウソだと感じた言動はありません。黒の個体についても、有言実行してくれましたしね」

 ありがとうアランドラ隊長、ルシガン副隊長!

 私では収拾を付けられない中、司令官のマルク一言でその場を鎮めてくれた。

「…………みんな少し落ち着こう。この死骸が女王であることを証明することはできる。アルトラ殿も本当に女王を倒してきたのならご心配には及ばない。フリアマギア、我々が倒した三体の特殊個体とこの女王に親子関係があるかどうか調べてくれ」
「わかりました。では少しお時間いただきます」

 私が切った傷から体液を採取してどこかへ持って行った。
 DNA鑑定とかするのかな?

「では結果が出次第、再度招集をかける。結果が出ないうちは女王蜂がまだどこかで生きているかもしれないと不安かもしれないが、今はゆっくり身体を休めてくれ。ではこれにて一旦会議を終了する。みんなここ数日間ご苦労だった」

 少々重苦しい雰囲気の中、一旦の解散となった。

 エルフヴィレッジでは行ける場所が制限されて散策も難しいし、ロクトスとナナトスの様子でも見に行くか。
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