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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第348話 特殊個体の対策会議

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「さて、ティナリス殿も戻ったことなので、今後の作戦について話し合いたい。倒さなければならないのは毒の風を使う緑の個体、ビーム砲のような強力な雷で毒針を発射する紫の個体、そして黒の球と白の球を操る黒の個体、最後に白い色の女王と思われる個体だ」
「黒と白の球体を操るとは、一体どんな能力なんですか?」

 黒と白の球体について南側を担当していた特攻部隊から説明がある。

 ……
 …………
 ………………

「それは……恐ろしい能力ですね。触れただけで即死とは……」
「恐らく空間魔術師の特性を持っているのでしょうが、そこまで強力な魔法を操る者を相手にできる空間魔術師など……ほぼ聞いたことがありませんが……」
「そいつの相手は私がします」
「アルトラ殿が?」
「私はそいつ以上の空間魔術師です。その黒い蜂と似たような魔法も使えます」

「「「ホントですか!?」」」

 などと大見得を切った。
 実際のところは黒い球とか白い球とかの魔法は使ったことはない。
 もし相手の方が強かったら生きては帰れないのだから、大見得切ってでも自分自身で鼓舞するより他はない。

「しかし、そんな危険な魔法にお一人で対応して大丈夫なのですか?」
「はい。もし私の方が弱かったとしても、攻撃能力のある空間魔術師がこの場にいない以上、私がやるしかないと思います」

 しかし……黒い球と白い球については私にも効果があるのではと危惧している。
 黒い球と白い球が私に効果が無いかどうかも、触れなければ分からないので、触れた瞬間に即死と分かっている以上リスクが高くて試すことはできない。
 が、私にはスキル【分身体】があるから、私に効果があるかどうかの検証はできそうだ。
 それに触れることがないような対応策も今思いついた。

「確かに……空間魔術師で攻撃的な能力が高い者はあまりいませんよね……大抵移動役として重用されることが多いので。しかし、どう対応されるおつもりですか?」
「私の見立てではその二つの球はトラップ魔法と同じで、触れなければ発動しない類の魔法だと予想できます。それなら触れない方法にすれば対策できるはずです」
「その方法が分かっているのですか?」
「恐らくは……しかし万が一予想が外れて私が倒されてしまった場合には対応をお任せしなければなりません」
「それはそうですが……」
「しかし、この場に適任はアルトラ殿しかいないようだ」
「ではみんな、ここはアルトラ殿にお任せして良いだろうか?」

 議長マルクが隊長全員に呼び掛ける。

「他に方法が思いつかない以上は……」
「仕方ありませんな」
「ここまでに高いレベルの空間魔法を披露されていますしね。彼女以外に黒い個体に対応できそうな者はいないでしょう」
「もし失敗した場合の尻ぬぐいは任せておけ!」

「では黒い個体はアルトラ殿にお任せします」
「はい、任せてください」
「ここからは他の二体の担当を決めていこう。今回は私も出撃する」
「しかし、指令部の指揮はどうするんですか?」
「この状況になってしまっては、もはや指揮も何も無いだろう。一人だけ安全圏でのほほんとしているわけにはいかない」

 確かに……突出して強い個体が出てくると、指揮が成り立たない可能性も高い。なぜならその個体だけで大群を蹂躙じゅうりんできてしまうから。
 地球では一個人の力で出来ることは限られているのでまずあり得ないことだが、魔法や魔力量によって雲泥の差が表れるこの魔界ではあり得ないことではない。
 一例を挙げてみると、魔王を相手取る場合、一般兵卒では数百人、数千人が束になっても勝てるかどうかわからないだろう。魔力量によってはそれくらい差が出る。

 で、今回現れた三体の蜂は、私の見立てでは攻撃能力だけならドラゴンにも匹敵する。しかも、強力な毒まで持ってるとするなら、一般兵では既に手の施しようが無い。
 自画自賛になってしまうが、一人で相手取れるのはドラゴンに単身で勝ち、毒も無効化できる私くらいだろう。
 駆除隊の中にはドラゴンに匹敵する能力を持つ隊長が何人かいるが、相手に『毒』というあまりにも強力なアドバンテージがあるため、複数人で当たらなければならないわけだ。

「じゃあ司令官込みで考えましょう。緑は恐らく風魔術師の性質が強く、紫は雷魔術師の性質が強いですよね?」
「それなら、こう分けるのが最適かと思われます――」

 と、第六部隊の隊長フリアマギアがホワイトボードに書き記す。
 緑の個体担当と紫の個体担当に四人ずつ振り分けられた。

 ▼緑の個体担当
 第二部隊ティナリス
 第四部隊セシーリア
 第六部隊フリアマギア
 第八部隊ルーコス

 ▼紫の個体担当
 第一部隊ウォライト
 第五部隊アランドラ
 第七部隊ベオバルツ
 総司令官マルク

「俺の名前が無いが、俺が担当するのは?」

 と、第三部隊バルバトス族のクラウディオが訊ねる。

「あなたの能力は多数に効果があるので、働き蜂の相手をお願いします。各隊長が特殊個体を相手にしている間に働き蜂が親衛蜂を助けに行かないよう、邪魔をされぬよう、牽制をお願いします」
「承知した」

 その時、現場に残された隊員から通信が入る。

「どうした?」
『司令官、我々はどうしたら良いでしょうか?』
「危険が無ければその場で待機していてくれ。今作戦を練っている。作戦会議が終わり次第もう一度第九コロニーの攻略を開始する。ただ、危険なようならすぐに離脱しろ」
『了解、現在は鳴りを潜めていますので、このまま待機致します』

 通信が繋がっている間に、マルクに南側の隊員に伝えてほしいことを伝える。

「あ、南側に居る特攻部隊の隊員ですが、北側同様引き付け役に回るように伝えてください。敵には恐らく既に警戒されていて、現在では第九コロニー周辺にバラけて配置され、北側だけの引き付けでは足りなくなってると思います。できるだけ黒い個体に近寄らないように、遠くから働き蜂を引き付けてほしいのです」
「分かりました、伝えます。現場の隊員聞こえるか?」
『はい、どうぞ』
「南側の駆除隊員も働き蜂の引き付け役に回ってくれ。黒い個体はこちらで対処するからなるべく近寄らない方法でやってくれ。やつらの行動理念は『女王を守ること』だから巣に近寄りさえしなければ追跡して来ないはずだ」
『了解』
「これでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」

「よし、ではこの作戦でみんなよろしく頼む。四体の中で脅威度が分からない女王はこの三体を打ち破ってから対処しよう。ではすぐにでも作戦を開始する!」
「少しお待ちください」

 エルフ族の隊長フリアマギアから待ったが入った。

「特殊個体と戦うみなさんにこれをお配りしておきます」

 渡されたものは薬に使うタイプのカプセル。

「これは?」
「血清を元に作らせていた魔道具です。血清の効果を身体中に行き渡らせる細工がしてあり、飲むと一時的にですがデスキラービーの毒をほぼ完全に無効化できます」
「ほぼ完全にの“ほぼ”というのは?」
「時間が経つほど効果が薄くなっていきます。飲んだ時点から無効化が開始され十五分をピークに徐々に効果が減少していきます。戦う直前にお飲みください」
「ちょっと質問です、毒を喰らってしまった後でも無効化できるんですか?」
「できます。先ほど毒を喰らった隊員で実証済みです。毒を喰らうまで温存しておくのも作戦かもしれませんね。効果が薄まった後に喰らった毒を消すには新たに血清が必要なのでご注意ください」
「わかった。ではアルトラ殿、転移をお願いできますか?」
「はい」

 隊長八人と司令官を緑の個体、紫の個体がいる北側の戦場へ空間転移させた。

「次は私の番だ」

 黒い個体のいる南側の戦場に空間転移。
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