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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第347話 南側の惨状

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「う……ここは……?」
「あれ? 私たちは蜂の猛攻のさなかに居たはずじゃ……?」
「何でこんなところに……?」

 私が彼らを強制転移させたところ、南側 (一、二、七、八部隊)を担っていた特攻部隊側からも強制転移で引き返してきた。

「ジョアンニャさん! イルリースさん! ご無事でしたか!」
「ア、アルトラ様……な、何とか……」

 イルリースさんが恐怖感からかガタガタと震え、憔悴し切っている。

「【強制転移フォースド・ゲート】を教わっておいて良かったです。何とか助けられる範囲だけでも強制的に転移させることができました……」

 震えは小さいがジョアンニャさんも。
 【強制転移フォースド・ゲート】を教えた手前、ルイスさんも心配だ。

 見回してみると、ルイスさんも戻って来ていた。とは言え、本人もかなりの精神的ダメージを負っているらしく、こちらに近寄ってくる素振りを見せない。
 しかし、無事戻ってきているということでとりあえず安心した。

 私が所属していた北側の状況については飲み込めているが、南側の情報は全く無い。二人に何があったか聞いてみるか。

「やっぱり特攻部隊側 (南側の部隊)にも強敵が?」
「……うぅ……思い出したくもないくらい悲惨でした……」

 イルリースさんが涙を流し始めてしまった……

「何があったんですか?」
「……私が説明します」

 イルリースさんは話すことができる精神状態ではないということで、ジョアンニャさんが代わりにその惨状を聞かせてくれた。
 曰く、作戦開始してすぐは私の所属していた北側の部隊 (三、四、五、六部隊)に多くの蜂たちが引き付けられて、南側には蜂がほとんどいなかったらしいが、少しすると漆黒の蜂が現れ、何も無い空間から大量の矢を放つように無数の針を飛ばしてきて、足止めされてしまったとか。
 それだけで済めば鎧を着ている分大したダメージにはならなかったが、その後の惨状が酷かったそうだ。

 突然黒い球と白い球が戦場に多数出現し、それに少しでも触れた者は成す術無く死亡したとのこと。
 黒い球に触れた隊員は、内側に折り畳まれるように小さく圧縮され、後に残ったのは血にまみれた二、三センチほどの金属の球体だけだったらしい。
、白い球に触れた隊員は、白い球が体内に入り込んだ後、内側から破裂するように死亡。後には着ていた血まみれの鎧と服だけが残されていたとか。
 いずれにしても、触れただけで即死する魔法らしい。

 これを聞いてとあることが思い浮かぶ。
 『ブラックホール』と『ホワイトホール』、それに似た能力なのではないかと思う。
 この黒い球は引力、白い球は斥力で出来た魔力の塊だろう。
 性質を聞く限り、トラップのように場に設置して使う魔法で、触れた瞬間に発動のスイッチが入るものと予想した。
 恐らくその黒い蜂は空間魔法を操っている。何も無い空間から無数の針を飛ばすのも空間転移能力の一つだろう。例えば自身で作った針を亜空間に大量にストックしておいて、有事の際に大放出するとか。

 雷の国エレアースモのサンダジャバードに続いて、またも空間魔法使いのモンスターか……論理的な考え方が出来る生物以外が空間魔法を持つと災害になりやすいのかな?
 亜空間の構築 (※)はルイスさんでも知らなかったのに、まさか本能で作り出したのか?
 ブラックホールやホワイトホールのような魔法だって、それほど高密度の空間魔法領域を作れる空間魔術師がどれほどいるだろう?
   (※亜空間の構築:一例は『亜空間収納ポケット』の収納空間のこと)

「もしやアルトラ様の所属していた方も強敵が……?」
「はい、私の方は――」

 こちらも紫と緑の蜂が出現し、多くの死傷者が出たことを伝えた。

 ……
 …………
 ………………

 少しの沈黙の後、ジョアンニャさんとイルリースさんが重い口を開く。

「…………あんな化け物……倒せるのでしょうか……? たった三匹に数百人が蹂躙じゅうりんされるなんて……」
「…………もう……障らずに放っておいた方が良いんじゃ……」
「それはダメだよ! 巣が九個の現在ですら大きく苦戦してる状況なのに、それ以上になったらこの世界の支配者は亜人から蜂に交代してしまう! そうなったらいずれにしても亜人は虐殺されて絶滅させられることになると思います!」
「………………」
「…………確かに……そうなる可能性は高いですよね……」

 その時、別方向から声がかかった。

「アルトラ殿、対策会議を行いますのでご出席願います。それとジョアンニャ殿とイルリース殿も」
「イルリースさんは戦場に出られるような精神状態ではないと思います」
「そうですか……しかし現状になって死傷者を少なくするには空間魔術師が必要不可欠です。会議だけでも出席願います」
「…………分かりました……」
「ルイスさんには?」
「もう声をかけてあります」

   ◇

 会議の顔ぶれは昨日の最終会議と同じ、出席する隊長は、

  第一部隊:樹の国 竜種ユグドドラゴン族のウォライト
  第二部隊:風の国 怪鳥種ルフ族のティナリス
  第三部隊:樹の国 魔人種バルバトス族のクラウディオ
  第四部隊:風の国 怪鳥種ガルダ族セシーリア
  第五部隊:樹の国 竜人種ドラゴニュート族のアランドラ
  第六部隊: 〃  亜人種エルフ族のフリアマギア
  第七部隊: 〃  土の精霊種ソリッドノーム族のベオバルツ
  第八部隊:風の国 鳥人種ヘルヘヴン族のルーコス
  総指揮官:樹の国 木の精霊種トレント族のマルク

 だが、第二部隊長のティナリスがいない。

「あの……マルクさん、ティナリスは?」

 まさか……戦死!?

「怪我を負って現在治療中です。幸い致命傷ではないので復帰できるかと思いますが、毒を喰らってしまっているので、その解毒も含めての治療です」

 ホッ……良かった。

「何があったんですか?」
「……わたくしがお話しします」

 イルリースさんが話し出した。

「危機的状況になって、隊員の皆さんに対して強制転移の魔法を使おうとした時にティナリス様が盾になってくださいました。その時に運悪く鎧の隙間を縫って針を喰らってしまったようなのです」

 なるほど、そういう状況も合わさって心神耗弱こうじゃくしていたわけか。
 人を守って怪我を負ったわけか。そんな優しい子に育ってお母さん鼻が高いわ。まあ、前々世の記憶はあまり無いんだけど……

 議長のマルクが重い口を開く。

「まずはみんな、ここまでの駆除作戦ご苦労だった。しかし、ここに来て新たな局面を迎えてしまった。知っての通り、我々が見たこともない個体が四体も出て来ている。あれらの発生理由が不明だが、恐らくこの史上最多数のコロニーの所為ではないかと見ている。いずれにせよ、あの個体を根絶しておかねば、現在まで続いてきた亜人史が終わると確信されるほどの脅威だ」

 これは私の考えと同じだな。
 その時、ティナリスが治療を終えて会議に参加。

「申し訳ありません、会議に遅れてしまいました」
「ティナリス! 大丈夫!?」
「ベルゼビュート様、怪我は大したことないです。毒の影響で少々熱がありますが、私、回復能力高いので、すぐに元に戻ると思います」

 ガッツポーズをするが、空元気に見える。

「そう、大事無くて良かったわ、無理はしないで」
「分かってます!」
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