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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第344話 特攻作戦開始!

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 少し時は遡り、特攻部隊、本体のアルトラサイド――

 作戦が開始されたらしく、地響きが聞こえる。地響きは恐らく作戦開始の合図にされているゴーレムが動いた時のものだろう。
 続いて、遠目に凄い勢いで黒い集団が通り過ぎたのが見えた。あれが多分デスキラービーの集団だろう。
 上手いこと誘い出しには成功したみたいだ。

「よし、予定通り蜂たちは引き付け部隊の方におびき出されてくれたようだ。一時間後に巣へ向けて進軍する、準備をしておいてくれ!」

   ◇

 そして一時間――

「よし、一時間経った。出撃しよう。アルトラ殿、認識阻害の解除を」
「はい」

 引き付け作戦中に蜂たちに見つからないように部隊全員にかけていた【不可視化インビジブル】と【魔力遮断シャットアウト・スペル】を解除する。

「よし! くぞ! 突撃だ!」

 特攻部隊隊長ルシガンの号令で、特攻部隊全員が巣に向かって走る。
 こういう時、戦国時代の合戦だと「うおおおぉぉぉぉ!!」とか大声を張り上げながら走るが、全然そんなことはなく、特殊部隊の作戦さながらに、音を立てず、静か~に、かつ足早に走って巣を目指す。
 そりゃそうだ。気付かれたら命懸けで引き付けてもらった意味が無いし。

 巣に近寄るに連れて、まだ引き付けられていなかった蜂たちが巣を守るために飛び出して来るが、数もまばら。毒針を連射されるほどの数はいないため、進行がてら斬って捨てる。

 あ、コイツらからも一応スキルを得ておこうか。

「【スキルドレイン】!」

 デスキラービーからは【毒針】を会得した。

 毒針か……毒って私の中のイメージでは結構卑怯な手だからあまり使う機会は無いな。

 巣は作戦開始時のゴーレムによって、下側が多少破壊されているが、それでも問題なくそびえ立っている。
 今からこの中に突入して女王を倒すのだ。
 外から火や煙でいぶり出したいところだが、火魔法厳禁と伝えられているので侵入する他無い。

 でもこの中入るの面倒だな……
 【結界内爆炎バリアレンジ・フレア】を使えば限定的な範囲を焼き尽くすことができる。ちょっと提案してみるか。

「あの……」
「どうかしましたか? アルトラ殿」
「森は火魔法厳禁とは言ってましたが、私なら巣だけを限定範囲に指定して焼き尽くせますけど……外側から焼いてしまえば中に入って女王を相手にしなくても良いのでは?」
「範囲指定!? そんなことも可能なんですか!?」

 ルシガンに提案してみるものの――

「………………確かにそれが出来れば楽だと思います。しかし、相手は動きの予想ができない蜂です。火が点いた一メートルもの巨体が森のあちこちに飛ぶ可能性を考えると、下手をしたら飛び火しかねません。そうすると大森林全体が火災に見舞われる可能性も……」
「確かに……そうですね……浅慮でした……」

 私の考えが浅はかだったな……マンイーターのようにほぼ動かない相手に使うのとはわけが違う。マンイーターだって、火が点いて暴れ回らない生物だったから良かったものの、もし暴れまわる生物だったら森林火災が起こっていたかもしれない。
 この場は森林警備のエキスパートの言うことが正しいだろう。流石我が部隊の参謀。
 今後の大森林での火魔法はより慎重に使おう。

「よし、全員準備は良いか? 突入するぞ!」

 デスキラービーの巣の出入り口は一階部分に東西南北四ヶ所、そこから五、六メートル上がるごとに四つの出入り口が開いている。ゴーレムの攻撃で多少穴が開いてしまっているが出入り口はおよそ四つ。
 巣の構造は下ほどフロアが広く、上に行くほど先細りしていく。まあ五十メートルもある巣だから当然の構造かもしれない。
 さて一階部分は――

「おぉ! 結構広い!」

 一階部分は天井まで三メートルほどの高さ、広さは直径三十メートルほどの円と四角い部屋の中間くらいの形。生活するにも十分なスペースがある。蜂の家でなければ別荘として使いたいくらいだ。
 天井まで三メートルほどということは、多分全部で十階から十一階あるってことかな?

「明るいな。光を咲かせる花ライトブルームが植えて……いやただ置いてあるだけか。摘んだ後もしばらく光続けるから、定期的に交換しているようだな。枯れた花の残骸も無いからきっと毎日取り換えているんだろう。マメな虫だ」
「うわっ!」

 隊員の一人が慌てる。
 死角から引き付け部隊にかからなかった働き蜂が襲い掛かって来た。
 毒針が発射され、鎧に当たってカンッという金属音を響かせる。

「ふんっ!!」

 ルシガンが落ち着き払った態度で剣で一閃。不意打ちしてきた蜂は真っ二つになった。

「表に出て行った数よりは少ないだろうが、まだ警備蜂は残っているはずだ。油断するな!」
「す、すみません」

 その後もまばらながら複数の蜂に襲われるも、難なく撃退。

「隊長、幼虫いますけど、これはどうします?」
「放っておいて良い。自分で動くことはできないし、どうせ女王を倒したら死ぬ。後で戦利品として回収しに来よう」
さなぎは?」
「この作戦中に羽化されたら邪魔になる可能性があるから潰して行こう」

 一通り一階層を回り終えて――

「さて、脅威も無くなったようだし、次の階層へ行くぞ」

 『階層』って言ってる辺りが、ダンジョンを攻略しているようだわ。元地球人の私から見るとちょっとワクワクする。

 そして二階層への入り口を発見するも、二階層への入り口は三メートル上の天井に付いている。
 階段があることを期待したが、この建物が蜂の巣であるわけで、彼らは飛べるわけで、階段などあろうはずもない。私や有翼種族は飛べるから二階層へ行けるが、飛行手段を持たない他の者は……

「届きませんがどうしますか?」
「私たちが先に上に行ってロープを繋ぎますか?」

 風の国の翼のある兵士がそう提案するが――

「いや、私の駆除経験からすると、二階層から四階層は繋がっていて、蜂がまだ残っている可能性が高い。ロープを繋いでる間に後ろから攻撃される可能性がある。こういう時のために各部隊に樹魔法が上手いヤツを一人入れてあるんだ。ニコラ隊員! 頼む!」
「了解!」

 ニコラと呼ばれた亜人……いや、多分木の精霊か、彼が樹魔法を操ると……

「「「おぉ!!」」」

 あっという間に木の階段が出来上がった!
 枝が複雑に絡まっていて、木造の階段として申し分ない。

「今後も階層移動ごとに彼に階段を作ってもらう。ロープで移動しようとすると、全身鎧フルプレートの重さもあって、這い上がるのは中々キツイ。それに這い上がっている間に攻撃されればどうにもならないからな。さ、おしゃべりしてないで行くぞ」

 二階層に上がって上を見ると一階層の天井とは違う様相を呈していた。
 ハニカム構造と言われる六角形の穴が多数開いた天井が見える。所謂いわゆる私たちが見知った蜂の巣のような見た目の天井。ところどころ穴が塞がれているが、塞がっている部分は多分蜂たちが足場として使っているのだろう。

「恐らく二階層と三階層の天井はあの六角形の穴が開いた天井のはずだ。三階層ごとに区画が分かれてると考えて良い。一階層が単一区画、二階層から四階層で一区画、五階層から七階層で一区画というところだ。この蜂の巣の大きさだと八、九、十は恐らく単一区画だろう。八階層が近衛蜂の区画、九階層が親衛蜂の区画、十階層が女王区画と考えられる」

 一階層だけが特殊な構造だったってわけか。
 女王が一番上の階層ってことは、卵は直接穴の中に産むというわけではないのか?
 最上階で産んで、他の蜂が穴に持って行って収納するのかもしれない。
 地球の蜂は穴の中に直接産むから、随分特殊な進化をしたことになる。

 それにしても、天井に穴が多数開いている割には蜂が出て来ない。

「働き蜂出てきませんね」
「一階層でほとんど倒し切ってしまったのかもしれないな。まあ油断せずに行こう。ここと三階層は上階へ上る穴を見つける必要が無いから、このまま登ろう。ニコラ、樹魔法で階段の設置を頼む」
「了解」

 二階層と三階層はほぼ素通り。
 四階層は一階層と同じく、上階へ行くための穴が一つしかない天井だったが、ここも蜂がおらず素通り。
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