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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第339話 第五部隊の作戦会議

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 ここからは私を含めたきちんとした作戦会議に移行。

「ここからは第五部隊の参謀兼副隊長の私、ルシガンが務めさせていただく。まず今までの会議で決定した作戦内容を述べます。従来通り一つのコロニーに対して、引き付け部隊と引き付け後の特攻部隊の二つの部隊に分担して駆除にかかります。引き付け部隊が多数の蜂を引き付けた、一時間後に特攻部隊がコロニーを攻撃するという作戦です」

 これは事前にトリニアさんに聞いていた通りだな。 (第334話)

「作戦内容ですが、このような順番で作戦を遂行する手筈になっています」

 町の外から持ち込まれたらしきホワイドボードに作戦の大まかな順番が書かれている。
 その内容によると

  1.アラクネ族による蜘蛛の巣トラップ作成
  2.蜂が活発に動き出す時間帯より前に紋章術でゴーレムを造り、
    各蜂の巣コロニーに突撃させて蜂をおびき出す
  3.風の国兵士が空を飛んで蜂に追跡させ、
    蜘蛛の巣トラップに誘い込み絡め捕る
  4.ここより全身鎧フルプレートの引き付け部隊出撃
  5.一時間ほど働き蜂を相手にし、十分な数を引き付けた後に特攻部隊が出撃
  6.手薄になった蜂の巣コロニーへ突撃し女王を討ち取る

 と言った内容。

「トラップ作りとそれを引き込む飛行種族が必要との都合で、アラクネ族と風の国の飛翔種族の兵士を分散させて各隊に配置されています」

「「「みなさん、よろしくお願いします」」」

 アラクネ族、風の兵士の挨拶を挟む。

「そしてアラクネ族にお願いする蜘蛛の巣トラップについてですが、これは作戦前に現場に行って張っておく必要があります。明朝作戦決行なら、夜のうちにトラップを仕込んでおかなければなりませんが、八部隊中三部隊が作戦を開始するポイントが、蜂の巣付近を通行しなければならないため、徒歩で行くには危険です。そこで少々面倒ですが、渓谷を登り降りして作戦開始ポイントまで行く必要があります。これには少々時間を要しますが、深夜にここを発つことは可能ですか? ラクアベル殿」

 アラクネ族の代表はラクアベルと言うらしい。
 参謀ルシガンがアラクネ族のラクアベルに質問したところ――

「我々は亜人に比べたら傾斜がかかっている場所でもすんなり登ることができるから、我々が先行して、他の者たちは後で来てくれれば問題無いと思う」

 と、アラクネ族のラクアベルが答える。

「デスキラービーの睡眠時間帯って何時から何時くらいでしたっけ?」
「二十一時頃から翌日の五時頃までと知られています。ですので睡眠時間帯に襲撃するには、四時頃までに作戦開始準備が完了している必要があります。現在十六時を過ぎたところですので、約六時間後にはここを出発してもらわねばなりません。トラップ作成時には見張りを立てて、蜂に警戒してください。少ないものの偵察蜂が来る可能性があります。またこの時点で各自交互に休息を取っておいてください」
「現場に行くのにどれくらいの時間がかかるんですか?」
「う~~ん……なにぶん、エルフの隠し渓谷には入ったことがないので、所要時間までは測ることができないですね……」

 エルフの隠し渓谷――
 彼らエルフ族が危機的状況に陥った時のために脱出できるように作られていた渓谷らしい。

 木々はそれなり生えているのだが、彼らが危機的状況を想定してか、馬車での通行ができるくらいの道幅が確保されている。この地で行商を行うエルフの商人にとっては打ってつけの道なんだそうだ。
 大森林を通らなくても良いため、通行を許可されたエルフたちの商人はこの渓谷を使って森の外に出るのだとか。
 低い山に囲まれた盆地に存在しており、上からは森林地帯にしか見えないため、この会議では便宜的に『隠し渓谷』と仮称されたのだろう。
 ちなみに、なぜか大森林の木々と比べて成長速度が遅いらしく、根っこを這わせて幹ごと移動するような性質も無いらしい。同じ地域にある木々なのに成長速度が違う理由が何かあるのかもしれない。

「作戦に必要とのことでエルフの方に渓谷の簡単な地図を描いてもらったものをコピーしたものですが、――」

─────────────────────────────────────

  至:大森林の外
     ┃
  ┏┓ ╋┳┳
  ┗④━╋⑤┻┳┳
 ┣③┗┓┃  ⑥┛
 ┣┻┳┻⑨━┳┛ ┃
 ┣━②┏┻┓┣⑦━┫
 ┗┓┗①┳┻⑧┓┣┛
  ┗━┻╋━━┻┛
     ┃
 至:エルフヴィレッジ

 ⑨が蜂にとって最も重要と思われるコロニー。
 それを守るように囲む八個のコロニー。
 ①②③⑦⑧は外周を回れば作戦開始ポイントまで徒歩で移動できる。
 しかし④⑤⑥は、途中で大岩や岩壁などにより不自然に道が途切れているため、蜂の巣を避けて作戦開始ポイントまで行くためには、それらを登り降りしなければならないということ。

─────────────────────────────────────

「――道が繋がっていないところは岩や岩壁で塞がっているらしく、音を立てずに作戦開始ポイントに着くには岩や岩壁の登り降りを繰り返す必要があるようです。ああ、番号はデスキラービーのコロニーがある場所です」
「岩を壊すにも音が出るので魔法で壊して進むわけにはいかないしな……」
「現場に着いた時間によっては、碌なトラップ設置もできないまま作戦決行を迎えてしまう可能性もあり得ます。その場合は相手にする数が増えてしまいますが、やむを得ませんね……」
「飛べる種族に運んでもらうのはどうだ? 例えば風の国の方々とか」
全身鎧フルプレートを着た者を? この部隊だけでも数十人いるのに?」
「現実的ではないですね……」
「と言うか、大人一人分+全身鎧フルプレートの重量だと、体重と合わせると平均でも百二十キロから百五十キロにもなる。体格の良い種族、体重の重い種族では合計三百に達する者もいる。重すぎてルフ族のティナリス殿のような巨鳥・怪鳥種でもないと飛べないどころか、持ち上げることすらできないぞ?」

 全身鎧フルプレートってそんな重いの!? (※)
 いくら体力あったって、現場に着くまでに疲れちゃうよ!
   (※全身鎧フルプレート:少し調べたところでは四十キロほどあるそうです)

「そうだ! 今現在この町に空間魔術師が三人もいるんですよね? 彼らに輸送してもらうのはどうでしょうか?」

 三人?
 え~と、樹の国ユグドマンモンのジョアンニャさん、名前をまだ存じないが翼を持つ風の国ストムバアル亜人ひと水の国アクアリヴィアのルイスさん。
 あれ? 私は頭数に入ってないな……
 まあ知られてないから当然か。
 ルイスさんが何か言いたそうにこちらをチラチラ見てるけど、特に名指しもされてないし少し静観しよう。

「今日の十八時に最終的な作戦会議がある。空間魔術師を使うことについてそこで提案してみよう。ところでお嬢さん……いや、アルトラ殿、あなたが頑丈なのは先ほど見せてもらったが、戦力的にはどの程度と考えて良いのだろうか?」

 戦力的にはって言われると、客観的に言うのは難しいな……本気出したことは無いし。

 そんなことを思案していたところ、先にトリニアさんが私のことを“客観的”に話してくれた。

「この方は単身でブルードラゴンを退治できるほどお強い方です」

 その一言で場の雰囲気が更に一変する。

「「「ドラゴンンッッ!? 単身で!?」」」

「おい! い、色付きのドラゴン倒せるやつ、この中に居るか?」
「いや、あれを単身で倒せるやつなんて、同じ竜族か魔王か一部の魔人くらいだろ。俺たち一般の亜人とじゃ、持ってる魔力の総量が違い過ぎる」
「隊長殿はどうですか? 隊長殿もドラゴンですよね?」
「いや、俺はドラゴニュートだから竜人族であって竜族じゃない。まあ俺でも倒せるドラゴンもいるが、それは魔力が少ないレッサーロプロスやワイバーンなど下位のドラゴンに限られる。流石に色付きのドラゴンを倒すとなると……魔力も筋力も体格を見ても遥かに上の存在だから、戦ったところできっと相手にすらならんよ」

 色付きってのは、名前に色が付いてるドラゴンってことなのかな?
 色が付いてたら強いドラゴンなのか。
 じゃあ『レッドドラゴン・ロード』であるフレアハルトってその中でもなお突出してる能力ってことなのか。
 私程度に負けるんだから、上にはもっともっととんでもないのがいるのかと、彼の能力を大分甘く見積もってたけど……実はフレアハルトって魔界全体で見てもかなりの上位の方の実力者ってことなのかな?

「ほ、本当にブルードラゴンを倒したのか……いや、倒したんですか?」

 その質問にもトリニアさんが代わりに答えてくれる。

「はい! ここに来る前にブルーソーン強盗団の女頭目を倒したのがこの方です」
「ブルーソーンって倒されてたのか……」
「女頭目が強くて厄介なヤツだったな……アイツが出てくると我々では被害規模を小さくするくらいしか成す術が無かった」
「樹の国の守護志士・警察全体含めてもヤツに対抗できるのは、数人しかいませんからね。その方々が出動するとあの女は逃げますし……」

 そういえば、私の時も逃げられたっけな……

 ブルーソーンについては、一昨日捕まったばかりだからまだ情報は全体に伝わっていないらしい。
 いや、もしかしたら他の強盗団を警戒して、意図的に隠している可能性があるが。
 それを聞いたアランドラ隊長がこんなことを言い出した。

「なればアルトラ殿、貴女に第五部隊の作戦の中核を担っていただきたい!」
「え!? 私がですか!?」
「本来であれば部隊長である私がやらねばならぬところです。しかし、情けない話ですが女王の撃破は魔力量の多い貴女の方が適任と考えます。それに付け加えてその鋼のような耐久性なら、我々の部隊に作戦の失敗はあり得ないでしょう。私は第五部隊第一軍の引き付け部隊の指揮に回りますので、貴女は我々が引き付けた後、第二軍の特攻部隊と共に巣の女王を倒していただきたい!」
「しかし、ぽっと出のよそ者が特攻部隊所属でよろしいのですか?」
「死傷者が少ないに越したことはありません。デスキラービーを退治するのに、貴女ほど適任はいないと思いますので、よろしくお願い致します」

 隊長自ら深々と頭を下げられた。
 こうなってはもう引くこともできないだろう。

「わかりました」

 通常であれば責任のある立場になど立ちたくはないのだが、もうここしばらく領主という役目をやっているためか、意外にすんなり返事をしてしまった。
 しかしフッと考えた。私はやり方によっては両方の部隊に入れる能力を持っているということを。

「……いや、両方の部隊に入ります」
「どういうことですか? 両方に? そんなの身体が二つ無ければ不可能だと思いますが……」
「はい、ですので身体を二つに増やします」

 スキル『分身体』を使って分身を作り出した。

「「「えっ!? アルトラ殿が増えた!?」」」

「今増えた方の分身体を引き付け部隊に組み込み、本体こと私は特攻部隊に入ります。分身体は私と同じ思考回路をしているので、私だと思って普通に接してもらえれば大丈夫です」

 この場にいる全員が絶句。
 これについてはトリニアさん、ルイスさんも知らなかったことなので、二人も言葉を失っていた。

「ああ、分身体の注意点ですが――」

 分身体に切れ目を入れる。
 バシャっという水音を立てて分身体が消滅した。

「――このようにダメージを受けると消えてしまうので、最後まで戦場に立っているのは難しいかもしれませんが、私同様鋼鉄のような身体なので、そう簡単にはダメージを受けないと思います」
「でも、今簡単に切れ目が入ったじゃないですか?」
「私の身体は外部からはほとんどダメージを受けませんが、私自身が自ら傷を付けることは可能です。そのため分身体にも切れ目を入れることができました。疑うなら分身体に攻撃して確かめてもらっても良いですよ」

 ……
 …………
 ………………
 またしばらくの沈黙の後――

「な……何でもありだな……」
「これもう特異体質で済ませられる話なのか?」
「まあ、あんたがもう一人増えるんなら心強い!」

 部隊長も唖然として見ていたが、我に返ったのか言葉を発する。

「……驚きです。ここまで予想外のことばかり起こるとは……それでは両方の部隊に組み込まれるということでよろしいですか?」
「はい」
「では改めて特攻および引き付け役の役目をお願いします」
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