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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏
第334話 毒の中和剤と樹の国本国からの援軍、そして精霊の生態
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ロクトスとナナトスが連れて行かれておよそ一時間。
検査の結果はすぐに出た。
大方の予想通り、二人ともデスキラービーの毒に対してすら完全な耐性があり、一般的な亜人一人分の平均致死量程度なら毒を注入しても全く問題無いとのこと。致死量の五倍ほどを一気に注入すると、腹痛が起こるかどうかだとか。死に至るまでには五十倍ほどの毒が必要との見解。頑丈過ぎだろグリーントロル!
すぐに毒が注射され、中和剤が作られる。
本来であれば、元々毒に耐性のある生物に対して長期間少しずつ注入して、体内で慣らして抗体を作り、その血液を使って中和剤にするらしい。
地球では人間に対して毒を注入して中和剤を作るのは、死んでしまう可能性があるためあり得ない。 (※)
しかし、この二人は入れて間もなく毒の抗体を作ってしまうらしく、すぐにでも中和剤を作ることができるとか。
(※人間への毒注入:実際には自分の身体に少しずつ毒を入れて、中和剤を作った偉人もいるそうです)
戻って来たロクトス、ナナトスはというと――
「大分血を抜かれたッス……」
「……頭がフラフラする……」
「ちょ、大丈夫!?」
「申し訳ありません、今後中和剤を作るのに必要ということで、体重の十八パーセントほどの血液を提供していただきました」
十八パーセントがどれくらいか分からないが……
「い、命に関わることはないんですよね!?」
「そこは問題ありませんので、ご心配なく」
この二人の血は、中和剤を作るのに欠かせない素材だから、この様子を見ると、今後必要になるのを見越して生命危機に陥らない程度に多少多めに抜かれたのだろう。
「何だか初めて体調が悪いってのがどういうことなのかを実感してるッス。頭がクラクラして気持ち悪いッス……」
「……アルトラ様、寝てて良い……?」
「うん、ゆっくり休んでおいて。あと、寝て起きたら血を作るためによく食べるのよ?」
「了解ッス……」
「お二人にはお部屋とお食事を用意させていただきます」
と言ってくれたのはエルフの女性。
二人は来客用のゲストハウスでゆっくり静養させてもらうことになった。
そして、超特急で中和剤が作られた。
作られた中和剤はデスキラービーに刺されたエルフに注射され、数時間後が峠だと言われていたが、快方に向かっているらしい。
本来であれば助かるはずのないエルフたちだが、彼ら二人が偶然この場に居合わせたことによって、命を拾う形となった。
◇
それから数時間ほど経って、トリニアさんが本国から帰って来た。
「本国にはデスキラービーが大量発生したことを伝えてきました。王にお伝えしたところ、王専属の空間魔術師をこちらに寄越して、見習いで何とかしていただけるとのことです」
「つまり、樹の国の空間魔術師がデスキラービー駆除のために動いてくれるということですか?」
「そうなりますね。属国や風の国にも要請しておきましたので、間もなく来ていただけると思います。特に属国の中にはデスキラービーの天敵とも呼べる種族がいる国がありますので、その働きには期待できるかと思います」
「三大凶虫に天敵がいるんですか? その天敵ってどんな種族なんですか?」
「アラクネ族と呼ばれる、上半身が人で下半身が蜘蛛の亜人です。人魚族同様変身能力を有するので、変身が上手い者は完全に人の姿をしています。彼らは蜘蛛の糸を使って、蜂を絡め取ってしまうことができます。毒にもある程度耐性があるので、連続して針を喰らわない限りは死ぬ可能性も低いと思います」
「おお! 蜘蛛の種族がいるんですね!」
「あと、ラーテルの獣人をはじめ、毒に強い耐性のある獣人の方々にもお願いしました。彼らはエルフや亜人種に比べて身体能力が優れているので役立ってもらえると思います」
「全身鎧の数の問題についてはどうなったんですか?」
「こういうこともあろうかと、予備をかなりの数作っていたそうで、相当数確保できるかと思います」
◇
それから間もなくして、本国から軍人を引き連れた空間魔術師が到着した。
「今回は大量の人員の引き入れを許可いただき、ありがとうございます!」
「こちらとしても、アレが発生してしまったとなると生きるか死ぬかの問題になりますので、駆除に赴いていただけたことには感謝致します」
「ここより現場の指揮は、わたくし大佐のマルクが務めます。作戦会議本部を設立したいのですが、建物を一つお貸しいただけますか?」
「こちらへ」
などという、本国樹の国軍の大佐とエルフの族長のやり取りが聞こえた後、作戦会議本部予定地へと案内されて行った。
「トリニアさん、あれが今回指揮する人と樹の国の空間魔術師ですか?」
「はい。樹の国守護志士のマルク氏です」
「守護志士って何ですか?」
「樹の国の国防機関の直轄組織で、警察の上位機関に位置し、有事でない時はユグドラシルの守護管理や森林の環境保護を主に行い、有事の際は密猟、強盗などを“正式に”武力を持って取り締まれる機関です。また、達成困難な任務にも従事します。他の国で言うところの軍や騎士団に相当するものというところですね。デスキラービーの件は警察が手に負えるレベルではないので、上位機関が出動することになっています」
なるほど、日本で言うところの自衛隊みたいなもんか。
「確かに死人が出るような現場では、捕まえるのが主な任務の警察では分が悪いですよね」
「彼もトレント族で、三百歳を超えます」
「え!? 若く見えますね!」
トリニアさん同様、三百歳超えか……かなり若く見えるが、木の精霊ってのは一体いくつになったら年を取って見えるようになるんだろう?
「空間魔術師は獣人ですか?」
「猫獣人でジョアンニャさんと言います。現在は我が王の専属の空間魔術師ですが、今回異常事態に限り、王のお世話を見習いに任せてこちらへ来てくださいました」
気にし過ぎかもしれないが、猫みたいな名前だな……
獣人で空間魔法が発現することはかなり珍しいことらしく、重宝されているとか。そして水の国同様、空間魔術師が輩出された一族は丁重に扱われるらしい。
ちなみに見習いの方はエルフでまだかなり若く、十代そこそこだとか。それは迎え寄越すのに気が引けるのも分かるわ……
ああそういえば、空間魔法使ってそうな猫のキャラがいたっけな。『不思議の国のアリスティア』に登場するチェッチャ猫ってキャラが酷似した能力を使ってた。どこにでも突然出現するからまるで空間魔法を使っているかのようなキャラだった。
「精霊界への入り口がある国だから、空間魔術師も精霊かと思いましたが、違うんですね」
「時間や空間を司る精霊は滅多に魔界に顕現しません。精霊界には居らっしゃるのですが魔界では誰も見たことがないですし、数もごく少数しか存在しません。最後に魔界に顕現されたのはもう数百年、数千年の遠い昔ですので、一般的には広く知られている時の精霊王様と次元の精霊王様以外にはいないものとされています」
「ごく少数というとどれくらいいるんですか?」
「そうですね……少しボカしますが、片手の指で足りるくらいしかいらっしゃいません」
精霊ってこんなに沢山いるのに!?
木の精霊なんて無数にいるって言ってなかった!? さっきメガネのエルフが精霊に話しかけた時、沢山の木々が微かな光を発してたし。 (第329話参照)
それなのに、時間・空間の精霊は五人以下!? 少なっ!
「そんなに少ないんですか!? 木の下位精霊はあんなに沢山いたのに!?」
「はい、しかも全員が高位精霊の最上位クラスで、大精霊様にも匹敵する魔力の持ち主ですので、わたくしたちではおいそれとお会いすることはありません。我が国の魔王様ですらあの方々に比べると位が下に位置しますから」 (大精霊・精霊王については第273話参照)
「魔王より位が上!?」
「そもそも魔王というシステム自体が、魔王が死んだ時に偶然近くの者が襲名するようなものなので、精霊界では格下でもおかしくないわけです」
確かにそうだけど……魔界では最上位の魔王が格下ってのが信じられない……
「話を戻しますが、つまり空間魔法を使える精霊ってのは、現状魔界には存在しないということですか?」
「そうなります。時間魔法と空間魔法を使える精霊は大変力がお強いので、顕現すれば瞬く間に魔界全土の精霊たちが察知できると思います」
「そんなに強いんですか!?」
「はい、顕現したばかりで受肉する前の精霊体の状態だと、魔力を器に入れて蓋をしていないような状態なので、魔王と同等かそれ以上の魔力を垂れ流してるような状態になっています。精霊であれば相当な距離が離れていても察知できると思います。もしかしたら冥球の裏側にいても分かるかもしれません。もしその方々が魔界にいらっしゃった場合は、何か災害レベルの大ごとが起こるのではないかと勘繰られるかもしれないくらいです」
さ、災害って……そんなレベル……?
「それと、精霊は自身の持つ属性と近い属性の魔法しか使えるようにならないので、後天的に空間魔法を修得するということは絶対にありません」
「そうなんですか?」
「はい、火の精霊なら火魔法のみ、水の精霊なら水しか使えるようになりません。特別な条件としてマグマの精霊や砂塵の精霊、雷雲の精霊のように二つ以上の属性で構成された複合的な精霊の場合は二つ、三つと異なる属性の魔法を使うことができます」
「つまりトリニアさんは……」
「はい、樹魔法の素養しかありません。ただ、わたくしたち木の精霊は少々特殊な事情があり、樹魔法の他に水、土、火、光などを間接的に使うことができます」
「間接的に? どういうことですか?」
「水は水分として吸収し、土も養分として吸収するため、水と土も間接的に使えます」
「火と光は何ですか? 木の精霊とは最も縁遠いと思うんですけど……」
「発火する木というものが存在するため、小規模ながら間接的に火魔法に近いことができます。光も同様の理由です。ちなみに火属性や光属性に見えますが樹属性の魔法です」
「なるほど」
「亜人の方々の方が複数の属性をお持ちで、少々羨ましいくらいです。ただ後天的に修得出来ない分、亜人よりも強い魔力を引き出せますが」
トリニアさんの話でまた精霊について深く知ることになった。
そうだ、精霊の話で忘れてたけど、後で空間魔術師を紹介してもらわないと。もしかしたら、ここから樹の国第一首都まで一瞬で行けるよう交渉できるかもしれないし。
「あの、空間魔術師のジョアンニャさんの紹介を――」
言い終わる前に別の方向から声がした。
「トリニア殿、駆除作戦について会議を行いますので、出席をお願いします」
「わかりました。ではアルトラ様、また後ほど」
ああ……紹介してもらうように取り付けなかったか……まあまだ後でチャンスがあるはず。
検査の結果はすぐに出た。
大方の予想通り、二人ともデスキラービーの毒に対してすら完全な耐性があり、一般的な亜人一人分の平均致死量程度なら毒を注入しても全く問題無いとのこと。致死量の五倍ほどを一気に注入すると、腹痛が起こるかどうかだとか。死に至るまでには五十倍ほどの毒が必要との見解。頑丈過ぎだろグリーントロル!
すぐに毒が注射され、中和剤が作られる。
本来であれば、元々毒に耐性のある生物に対して長期間少しずつ注入して、体内で慣らして抗体を作り、その血液を使って中和剤にするらしい。
地球では人間に対して毒を注入して中和剤を作るのは、死んでしまう可能性があるためあり得ない。 (※)
しかし、この二人は入れて間もなく毒の抗体を作ってしまうらしく、すぐにでも中和剤を作ることができるとか。
(※人間への毒注入:実際には自分の身体に少しずつ毒を入れて、中和剤を作った偉人もいるそうです)
戻って来たロクトス、ナナトスはというと――
「大分血を抜かれたッス……」
「……頭がフラフラする……」
「ちょ、大丈夫!?」
「申し訳ありません、今後中和剤を作るのに必要ということで、体重の十八パーセントほどの血液を提供していただきました」
十八パーセントがどれくらいか分からないが……
「い、命に関わることはないんですよね!?」
「そこは問題ありませんので、ご心配なく」
この二人の血は、中和剤を作るのに欠かせない素材だから、この様子を見ると、今後必要になるのを見越して生命危機に陥らない程度に多少多めに抜かれたのだろう。
「何だか初めて体調が悪いってのがどういうことなのかを実感してるッス。頭がクラクラして気持ち悪いッス……」
「……アルトラ様、寝てて良い……?」
「うん、ゆっくり休んでおいて。あと、寝て起きたら血を作るためによく食べるのよ?」
「了解ッス……」
「お二人にはお部屋とお食事を用意させていただきます」
と言ってくれたのはエルフの女性。
二人は来客用のゲストハウスでゆっくり静養させてもらうことになった。
そして、超特急で中和剤が作られた。
作られた中和剤はデスキラービーに刺されたエルフに注射され、数時間後が峠だと言われていたが、快方に向かっているらしい。
本来であれば助かるはずのないエルフたちだが、彼ら二人が偶然この場に居合わせたことによって、命を拾う形となった。
◇
それから数時間ほど経って、トリニアさんが本国から帰って来た。
「本国にはデスキラービーが大量発生したことを伝えてきました。王にお伝えしたところ、王専属の空間魔術師をこちらに寄越して、見習いで何とかしていただけるとのことです」
「つまり、樹の国の空間魔術師がデスキラービー駆除のために動いてくれるということですか?」
「そうなりますね。属国や風の国にも要請しておきましたので、間もなく来ていただけると思います。特に属国の中にはデスキラービーの天敵とも呼べる種族がいる国がありますので、その働きには期待できるかと思います」
「三大凶虫に天敵がいるんですか? その天敵ってどんな種族なんですか?」
「アラクネ族と呼ばれる、上半身が人で下半身が蜘蛛の亜人です。人魚族同様変身能力を有するので、変身が上手い者は完全に人の姿をしています。彼らは蜘蛛の糸を使って、蜂を絡め取ってしまうことができます。毒にもある程度耐性があるので、連続して針を喰らわない限りは死ぬ可能性も低いと思います」
「おお! 蜘蛛の種族がいるんですね!」
「あと、ラーテルの獣人をはじめ、毒に強い耐性のある獣人の方々にもお願いしました。彼らはエルフや亜人種に比べて身体能力が優れているので役立ってもらえると思います」
「全身鎧の数の問題についてはどうなったんですか?」
「こういうこともあろうかと、予備をかなりの数作っていたそうで、相当数確保できるかと思います」
◇
それから間もなくして、本国から軍人を引き連れた空間魔術師が到着した。
「今回は大量の人員の引き入れを許可いただき、ありがとうございます!」
「こちらとしても、アレが発生してしまったとなると生きるか死ぬかの問題になりますので、駆除に赴いていただけたことには感謝致します」
「ここより現場の指揮は、わたくし大佐のマルクが務めます。作戦会議本部を設立したいのですが、建物を一つお貸しいただけますか?」
「こちらへ」
などという、本国樹の国軍の大佐とエルフの族長のやり取りが聞こえた後、作戦会議本部予定地へと案内されて行った。
「トリニアさん、あれが今回指揮する人と樹の国の空間魔術師ですか?」
「はい。樹の国守護志士のマルク氏です」
「守護志士って何ですか?」
「樹の国の国防機関の直轄組織で、警察の上位機関に位置し、有事でない時はユグドラシルの守護管理や森林の環境保護を主に行い、有事の際は密猟、強盗などを“正式に”武力を持って取り締まれる機関です。また、達成困難な任務にも従事します。他の国で言うところの軍や騎士団に相当するものというところですね。デスキラービーの件は警察が手に負えるレベルではないので、上位機関が出動することになっています」
なるほど、日本で言うところの自衛隊みたいなもんか。
「確かに死人が出るような現場では、捕まえるのが主な任務の警察では分が悪いですよね」
「彼もトレント族で、三百歳を超えます」
「え!? 若く見えますね!」
トリニアさん同様、三百歳超えか……かなり若く見えるが、木の精霊ってのは一体いくつになったら年を取って見えるようになるんだろう?
「空間魔術師は獣人ですか?」
「猫獣人でジョアンニャさんと言います。現在は我が王の専属の空間魔術師ですが、今回異常事態に限り、王のお世話を見習いに任せてこちらへ来てくださいました」
気にし過ぎかもしれないが、猫みたいな名前だな……
獣人で空間魔法が発現することはかなり珍しいことらしく、重宝されているとか。そして水の国同様、空間魔術師が輩出された一族は丁重に扱われるらしい。
ちなみに見習いの方はエルフでまだかなり若く、十代そこそこだとか。それは迎え寄越すのに気が引けるのも分かるわ……
ああそういえば、空間魔法使ってそうな猫のキャラがいたっけな。『不思議の国のアリスティア』に登場するチェッチャ猫ってキャラが酷似した能力を使ってた。どこにでも突然出現するからまるで空間魔法を使っているかのようなキャラだった。
「精霊界への入り口がある国だから、空間魔術師も精霊かと思いましたが、違うんですね」
「時間や空間を司る精霊は滅多に魔界に顕現しません。精霊界には居らっしゃるのですが魔界では誰も見たことがないですし、数もごく少数しか存在しません。最後に魔界に顕現されたのはもう数百年、数千年の遠い昔ですので、一般的には広く知られている時の精霊王様と次元の精霊王様以外にはいないものとされています」
「ごく少数というとどれくらいいるんですか?」
「そうですね……少しボカしますが、片手の指で足りるくらいしかいらっしゃいません」
精霊ってこんなに沢山いるのに!?
木の精霊なんて無数にいるって言ってなかった!? さっきメガネのエルフが精霊に話しかけた時、沢山の木々が微かな光を発してたし。 (第329話参照)
それなのに、時間・空間の精霊は五人以下!? 少なっ!
「そんなに少ないんですか!? 木の下位精霊はあんなに沢山いたのに!?」
「はい、しかも全員が高位精霊の最上位クラスで、大精霊様にも匹敵する魔力の持ち主ですので、わたくしたちではおいそれとお会いすることはありません。我が国の魔王様ですらあの方々に比べると位が下に位置しますから」 (大精霊・精霊王については第273話参照)
「魔王より位が上!?」
「そもそも魔王というシステム自体が、魔王が死んだ時に偶然近くの者が襲名するようなものなので、精霊界では格下でもおかしくないわけです」
確かにそうだけど……魔界では最上位の魔王が格下ってのが信じられない……
「話を戻しますが、つまり空間魔法を使える精霊ってのは、現状魔界には存在しないということですか?」
「そうなります。時間魔法と空間魔法を使える精霊は大変力がお強いので、顕現すれば瞬く間に魔界全土の精霊たちが察知できると思います」
「そんなに強いんですか!?」
「はい、顕現したばかりで受肉する前の精霊体の状態だと、魔力を器に入れて蓋をしていないような状態なので、魔王と同等かそれ以上の魔力を垂れ流してるような状態になっています。精霊であれば相当な距離が離れていても察知できると思います。もしかしたら冥球の裏側にいても分かるかもしれません。もしその方々が魔界にいらっしゃった場合は、何か災害レベルの大ごとが起こるのではないかと勘繰られるかもしれないくらいです」
さ、災害って……そんなレベル……?
「それと、精霊は自身の持つ属性と近い属性の魔法しか使えるようにならないので、後天的に空間魔法を修得するということは絶対にありません」
「そうなんですか?」
「はい、火の精霊なら火魔法のみ、水の精霊なら水しか使えるようになりません。特別な条件としてマグマの精霊や砂塵の精霊、雷雲の精霊のように二つ以上の属性で構成された複合的な精霊の場合は二つ、三つと異なる属性の魔法を使うことができます」
「つまりトリニアさんは……」
「はい、樹魔法の素養しかありません。ただ、わたくしたち木の精霊は少々特殊な事情があり、樹魔法の他に水、土、火、光などを間接的に使うことができます」
「間接的に? どういうことですか?」
「水は水分として吸収し、土も養分として吸収するため、水と土も間接的に使えます」
「火と光は何ですか? 木の精霊とは最も縁遠いと思うんですけど……」
「発火する木というものが存在するため、小規模ながら間接的に火魔法に近いことができます。光も同様の理由です。ちなみに火属性や光属性に見えますが樹属性の魔法です」
「なるほど」
「亜人の方々の方が複数の属性をお持ちで、少々羨ましいくらいです。ただ後天的に修得出来ない分、亜人よりも強い魔力を引き出せますが」
トリニアさんの話でまた精霊について深く知ることになった。
そうだ、精霊の話で忘れてたけど、後で空間魔術師を紹介してもらわないと。もしかしたら、ここから樹の国第一首都まで一瞬で行けるよう交渉できるかもしれないし。
「あの、空間魔術師のジョアンニャさんの紹介を――」
言い終わる前に別の方向から声がした。
「トリニア殿、駆除作戦について会議を行いますので、出席をお願いします」
「わかりました。ではアルトラ様、また後ほど」
ああ……紹介してもらうように取り付けなかったか……まあまだ後でチャンスがあるはず。
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