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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏
第327話 高位精霊への昇華の瞬間
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「トリニア殿! ブルーソーンの逮捕にご協力いただき、ありがとうございました!」
「いえ、わたくしではなく、あちらの方なのですが……」
「どちらの方ですか?」
「あの黒い服の方です」
「あ、あなたが!? その……随分と小さい方で……う~む……どう見てもドラゴンに勝てるとは思えませんが……」
いつも通り、初見では侮られる。
「見た目で判断してはいけませんよ」
「失礼いたしました! 改めて逮捕にご協力いただき、ありがとうございました!」
「凶悪犯って他にもいるんですか?」
「危険視されている者はあと三組ほどです。まあ、この広大な大森林内で活動しているので、滅多なことでは遭遇することは無いと思います。一応彼らにはナワバリにしている範囲があるので、この辺りで他の強盗団に遭遇する可能性は今後しばらくは低いと言えるでしょう。ブルーソーンが捕まったという情報が広まれば、勢力圏拡大に動くかもしれませんが」
そっか、じゃあ今後はあまり警戒しなくても済みそうかな。
「ブルーソーン強盗団はあれで全てですか?」
「いえいえいえいえ! ボスが捕まったというだけで末端まで含めれば恐らくあの数十倍いますよ! ここからは捕まった者たちに情報を吐かせつつ残党を潰す作業になると思います」
それもそうか、最大勢力の一つなのにたった二十人のわけがない。
じゃあ、引き続き襲われることも想定して警戒しながら進まないといけないってわけか。
「勢力圏内でも場所の分担はありますので、今後この辺りの脅威度は少しだけ下がると考えて良いかもしれません」
まあ、遭遇するかどうかは運もあるだろうし、警戒を怠らないように行こう。
事情聴取が終わった後の後処理は警察の方々に任せて、森小屋へ帰還した。
余談だけど――
戦闘が終わって、改めて考えると斬治癒丸を振るってみて一つ気付いたことがある。
それは――
『突き攻撃で刀が刺さったままにしておくのはヤバイ』
と言うこと。
敵の肩に刺さった時に泣き喚めいて、早く抜くよう懇願されたのを鑑みるに、どうやら傷が作られることとそれを治癒することを繰り返すため、刺さったままだと刺さった時の痛みを何度も繰り返し与え続けるらしい。
これが生物の重要器官、例えば脳や心臓などに刺さり続けた場合は、死んでしまう可能性が高い。
これからは突き攻撃を廃止して、斬り攻撃だけにしよう。
◇
「あ、お帰りなさい。お二人ともお疲れ様でした」
「いえ、わたくしは特に何も……」
「早かったッスね。てっきりこの森小屋でもう一泊かと思ったッスけど」
「まあ、森賊ボスの引き渡しだけだしね。じゃあ、エルフヴィレッジへ向けて出発しましょうか」
と、その前に――
「ねえ、ロクトス、ナナトス、さっき案内してくれた樹人にお礼を言いたいんだけど、どの方がそう?」
「え~と……あ、あれじゃないッスかね」
「……違うよ、あっちだろ……たしか……」
「え~……いやぁ、あの子だった気がするんスけど……」
まあ、見た目が似たような感じだし、どれがそうか分からなくても無理もない。私から見ても並ばせないと樹人の見分けつかないし。
トリニアさんに聞くのが早いか。
「…………トリニアさん、どの子か分かりますか?」
「はい、あちらの樹人ですね」
ロクトスとナナトスが言った者とは全然別の樹人を指し示す。
「ロク兄、全然違うじゃないッスか!」
「……お前が言ったのも違うだろ……」
案内してくれた樹人の元へ行き、お礼を伝える。
「さっきは私の部下を私のところへ送り届けていただいて、ありがとうございました。お蔭で助かりました」
表情が無いから声が届いてるかどうかも分からないけれど……一応お礼を言うことはできた。
その時、樹人が光を放ち出した。
「な、なにこれ!? トリニアさん!」
「これはまさか……下位精霊が高位精霊に昇華する現象でしょうか……わたくしも直接見るのは初めです!」
光が治まった後には、裸の女の子が!
急いで創成魔法で布を作って被せる。
「あれ? ここは? 私は……木の精霊……名前は……」
光を放った本人は突然の昇華で自我を持ったことに困惑しているらしい。
トリニアさん曰く、下位精霊だった頃の記憶はほとんど無いらしいから、彼女はここで新たに誕生した赤ちゃんに等しい存在ということになる。
トリニアさんが話しかける。
「あなたは今より下位精霊から高位精霊に昇華しました。ここからは高位精霊の仲間入りです。おめでとう」
「私……高位精霊になったんですね!」
急な展開。何で私がお礼をした直後に昇華が発生したんだろう?
「トリニアさん! なぜ突然こんな現象が?」
「下位精霊は亜人や高位精霊と接した時の経験の積み重ねで、高位精霊へと進化していくという話をしたのは覚えていますよね?」
「はい」
「この経験の積み重ねというのは、関わった様々な方から少しずつ魔力をいただいて累積させていくこととされています。恐らくですが、あなたが彼女にお礼を伝えたことにより、あなたの膨大な魔力が感謝の念となって、経験値……つまり彼女の魔力の累積量を急激に上昇させ、昇華に足る魔力を得たのではないかと思います」
「わ、私の所為ですか?」
「あなたの“お蔭”ですね。そしてまた一人高位精霊が誕生しました」
目の前で精霊の進化を目の当たりにするとは!
「あなたの名前は何と言うのですか?」
「リリーアと申します」
「ではリリーア、あなたは首都へ行って、トライアというわたくしの姉に指示を仰ぎなさい」
「はい」
「姉への手紙をしたためます。紙を作ることはできますか?」
「はい。ですが……それほど上手に作ることは……」
「構いません。あなたの精霊体で作った紙が必要なのです」
そう言われると、リリーアさんは自身の魔力で不格好ながら紙を作り出した。多少厚さのある書きにくそうな紙。
そこへ、なぜ手紙を出すことになったか、その経緯を書き記すトリニアさん。
「あなたが高位精霊に昇華した経緯をしたためておきました。この手紙をトライアに渡せば良きに計らってくれるはずです」
「ありがとうございます!」
「それと首都には綿や麻が採れる畑があります。あなたはまずそこの植物に乗り移って自身の精霊体から服を作りなさい。そのままでは裸で首都へ行くことになってしまいますから」
地図を取り出して、綿花畑と大麻草畑の場所を示す。
「この場所です。行けますか?」
「はい、大丈夫です」
「高位精霊への昇華というのはたまにあることなので、こういう時のために畑の近くに服を仕立ててくれる者が常駐しています。自分で服を仕立てられるのなら良いのですが、出来ない場合はその方にあなたの精霊体で作った素材で服を作ってもらいなさい」
「はい」
その後、リリーアさんは近くの植物を媒介にして花が散るように消え、後には私が創成魔法で作った布だけが残された。
「さて、アルトラ様、皆様、改めてエルフヴィレッジへ出発いたしましょう」
「いえ、わたくしではなく、あちらの方なのですが……」
「どちらの方ですか?」
「あの黒い服の方です」
「あ、あなたが!? その……随分と小さい方で……う~む……どう見てもドラゴンに勝てるとは思えませんが……」
いつも通り、初見では侮られる。
「見た目で判断してはいけませんよ」
「失礼いたしました! 改めて逮捕にご協力いただき、ありがとうございました!」
「凶悪犯って他にもいるんですか?」
「危険視されている者はあと三組ほどです。まあ、この広大な大森林内で活動しているので、滅多なことでは遭遇することは無いと思います。一応彼らにはナワバリにしている範囲があるので、この辺りで他の強盗団に遭遇する可能性は今後しばらくは低いと言えるでしょう。ブルーソーンが捕まったという情報が広まれば、勢力圏拡大に動くかもしれませんが」
そっか、じゃあ今後はあまり警戒しなくても済みそうかな。
「ブルーソーン強盗団はあれで全てですか?」
「いえいえいえいえ! ボスが捕まったというだけで末端まで含めれば恐らくあの数十倍いますよ! ここからは捕まった者たちに情報を吐かせつつ残党を潰す作業になると思います」
それもそうか、最大勢力の一つなのにたった二十人のわけがない。
じゃあ、引き続き襲われることも想定して警戒しながら進まないといけないってわけか。
「勢力圏内でも場所の分担はありますので、今後この辺りの脅威度は少しだけ下がると考えて良いかもしれません」
まあ、遭遇するかどうかは運もあるだろうし、警戒を怠らないように行こう。
事情聴取が終わった後の後処理は警察の方々に任せて、森小屋へ帰還した。
余談だけど――
戦闘が終わって、改めて考えると斬治癒丸を振るってみて一つ気付いたことがある。
それは――
『突き攻撃で刀が刺さったままにしておくのはヤバイ』
と言うこと。
敵の肩に刺さった時に泣き喚めいて、早く抜くよう懇願されたのを鑑みるに、どうやら傷が作られることとそれを治癒することを繰り返すため、刺さったままだと刺さった時の痛みを何度も繰り返し与え続けるらしい。
これが生物の重要器官、例えば脳や心臓などに刺さり続けた場合は、死んでしまう可能性が高い。
これからは突き攻撃を廃止して、斬り攻撃だけにしよう。
◇
「あ、お帰りなさい。お二人ともお疲れ様でした」
「いえ、わたくしは特に何も……」
「早かったッスね。てっきりこの森小屋でもう一泊かと思ったッスけど」
「まあ、森賊ボスの引き渡しだけだしね。じゃあ、エルフヴィレッジへ向けて出発しましょうか」
と、その前に――
「ねえ、ロクトス、ナナトス、さっき案内してくれた樹人にお礼を言いたいんだけど、どの方がそう?」
「え~と……あ、あれじゃないッスかね」
「……違うよ、あっちだろ……たしか……」
「え~……いやぁ、あの子だった気がするんスけど……」
まあ、見た目が似たような感じだし、どれがそうか分からなくても無理もない。私から見ても並ばせないと樹人の見分けつかないし。
トリニアさんに聞くのが早いか。
「…………トリニアさん、どの子か分かりますか?」
「はい、あちらの樹人ですね」
ロクトスとナナトスが言った者とは全然別の樹人を指し示す。
「ロク兄、全然違うじゃないッスか!」
「……お前が言ったのも違うだろ……」
案内してくれた樹人の元へ行き、お礼を伝える。
「さっきは私の部下を私のところへ送り届けていただいて、ありがとうございました。お蔭で助かりました」
表情が無いから声が届いてるかどうかも分からないけれど……一応お礼を言うことはできた。
その時、樹人が光を放ち出した。
「な、なにこれ!? トリニアさん!」
「これはまさか……下位精霊が高位精霊に昇華する現象でしょうか……わたくしも直接見るのは初めです!」
光が治まった後には、裸の女の子が!
急いで創成魔法で布を作って被せる。
「あれ? ここは? 私は……木の精霊……名前は……」
光を放った本人は突然の昇華で自我を持ったことに困惑しているらしい。
トリニアさん曰く、下位精霊だった頃の記憶はほとんど無いらしいから、彼女はここで新たに誕生した赤ちゃんに等しい存在ということになる。
トリニアさんが話しかける。
「あなたは今より下位精霊から高位精霊に昇華しました。ここからは高位精霊の仲間入りです。おめでとう」
「私……高位精霊になったんですね!」
急な展開。何で私がお礼をした直後に昇華が発生したんだろう?
「トリニアさん! なぜ突然こんな現象が?」
「下位精霊は亜人や高位精霊と接した時の経験の積み重ねで、高位精霊へと進化していくという話をしたのは覚えていますよね?」
「はい」
「この経験の積み重ねというのは、関わった様々な方から少しずつ魔力をいただいて累積させていくこととされています。恐らくですが、あなたが彼女にお礼を伝えたことにより、あなたの膨大な魔力が感謝の念となって、経験値……つまり彼女の魔力の累積量を急激に上昇させ、昇華に足る魔力を得たのではないかと思います」
「わ、私の所為ですか?」
「あなたの“お蔭”ですね。そしてまた一人高位精霊が誕生しました」
目の前で精霊の進化を目の当たりにするとは!
「あなたの名前は何と言うのですか?」
「リリーアと申します」
「ではリリーア、あなたは首都へ行って、トライアというわたくしの姉に指示を仰ぎなさい」
「はい」
「姉への手紙をしたためます。紙を作ることはできますか?」
「はい。ですが……それほど上手に作ることは……」
「構いません。あなたの精霊体で作った紙が必要なのです」
そう言われると、リリーアさんは自身の魔力で不格好ながら紙を作り出した。多少厚さのある書きにくそうな紙。
そこへ、なぜ手紙を出すことになったか、その経緯を書き記すトリニアさん。
「あなたが高位精霊に昇華した経緯をしたためておきました。この手紙をトライアに渡せば良きに計らってくれるはずです」
「ありがとうございます!」
「それと首都には綿や麻が採れる畑があります。あなたはまずそこの植物に乗り移って自身の精霊体から服を作りなさい。そのままでは裸で首都へ行くことになってしまいますから」
地図を取り出して、綿花畑と大麻草畑の場所を示す。
「この場所です。行けますか?」
「はい、大丈夫です」
「高位精霊への昇華というのはたまにあることなので、こういう時のために畑の近くに服を仕立ててくれる者が常駐しています。自分で服を仕立てられるのなら良いのですが、出来ない場合はその方にあなたの精霊体で作った素材で服を作ってもらいなさい」
「はい」
その後、リリーアさんは近くの植物を媒介にして花が散るように消え、後には私が創成魔法で作った布だけが残された。
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