建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第322話 取り囲む森賊たちと刀剣・斬治癒丸

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 今日泊まる予定の森小屋に着いた。
 小屋の形状は昨日と同じような構造で二階建て。
 マンイーターに食われかけて疲れたのか、今日は二人も探検に行くことなく、夕食を食べ、早々に就寝。
 流れるように時間が過ぎた。

 就寝してほどなく――

「…………!? トリニアさん!」
「はい! 気付いてます」

 森小屋の近くに突然二十人ほどの気配がするようになった。
 流石精霊。不自然な魔力にはすぐに気付いたみたいだ。

「森賊ですか?」
「十中八九そうだと思います。このような集団で森を通行する者はほぼいません。しかし、今日は小屋の近くには樹人がいるので小屋の中に居れば襲われることはないとは思いますが……」
「小屋を燃やされたりは?」
「この森で火を使うこと自体が愚の骨頂なので、そんなバカはいないと思います。下手をしたら自分自身も危険に曝しますので。それにこの小屋をカモとしている側面があるのでこの小屋の中にいる限りは襲われないと思います」
「もし、今就寝して朝を迎えるとして、襲われるならどの時点だと思います?」
「森小屋を出発して、少し離れたところでしょうね。小屋近くで襲って、小屋に引き返して立て籠もられると面倒と考えるでしょうし」

 ってことは、このまま放置しておくと明日の朝辺りには襲われるってわけか。
 上で寝ている三人は多分気付いていない。
 ロクトスとナナトスは多少の武術指南を受けているとは言え、ほぼ非戦闘員には間違いない。ルイスさんはそれより更に弱いときている。
 知らせないで対処した方が良いか。

「よし、じゃあ今夜のうちに退治してきます」
「え!? 今からですか!? 二十人ですよ!? ロクトスさんたちを起こして全員で対処した方が……」
「大丈夫! 私、ドラゴンより強いので!」

 戦闘に参加させて怪我させたくない。怪我しても回復すれば良いが、万が一殺されたりした場合には蘇生することは出来ない。ダメージが通らない私一人で対処するのが最善だと思う。

「全員縛り上げたら戻ってきます。撃ち漏らしがあった場合に森賊がこの小屋に来ることも考えられます。多分私の次にトリニアさんがお強いと思いますので、迎撃できるようここで待機していてください」
「本当にお一人で大丈夫ですか?」
「キャノンエラテリウムの種大砲に比べたら、亜人の攻撃なんて涼風みたいなものですよ」

   ◇

 散歩に行くフリをして、森小屋から少し離れたところまで歩くと森賊らしき人物が声をかけてきた。

「おっとお嬢さん、どこへ行こうとしてるんだい? ここから先に行くには通行料が必要だぜ。身ぐるみ全部置いていきゃあお散歩を許可してやるぜ?」

 背が低い。私と同じくらい。見たところドワーフ?かしら。身体の割にはごっつい武器ハンマーを持っている。
 アルトレリアにいるドワーフと比べたら随分と人相が悪いけど。

「へっへっへ」
「ぐへへ」

 一人が声をかけると、周りから続々と顔を出した。
 笑い方が小悪党のソレである。「ぐへへ」なんて中々聞かない。
 出て来た人数は十人ほど。種族はダブっているのもあるけど、バラバラ。まだ出てきてない気配が十人ほど。
 グリーントロルを大分凶悪にしたような顔のヤツがいる。頭に小さいが二本のツノ。多分これがゴブリン?
 他はリザードマン、猫か虎の獣人、犬か狼の獣人、蛇人、オーク、サハギン、一つ目モノアイの大男などなど。
 最後に人間に近い姿を持つ女が偉そうな態度で出て来た。
 人間に近いのは何の種族なのかわからない。私の会った中では人魚族とヘルヘヴン族が該当するけど、どっちの特徴も表出していないから確証は無い。あと該当しそうな人間に近い種族と言えば『亡者』がいるけど……悪いことしてるとこの辺り担当の死神に狩られるだろうから多分亡者ではないと思う。
 もしくはリディアやフレアハルトのように人型に変身している高位種族か?

 とは言え、地球では絶対にお目にかかれない種族のオンパレードだ!
 姿だけならエレアースモの博物館で見られたけど、動いてるリザードマンや獣人に遭遇するなんて!

 なんてことを考えて、ちょっとわくわくしていると、リザードマンが近寄って来た。

「お嬢さん、あんたお仲間もいるんだろ? 随分と良い格好のヤツを連れて歩いてるのを見たぜ? たんまり金持ってそうだよな~。ちょっと呼んできてもらえないか? うん?」
「う~ん、呼びに行く必要は無いかなぁ」

 ……
 …………
 ………………
 意図しない私の言葉に、少しの間場がシンと静まり返った。

「…………あ~……お嬢さん、どの立場で答えてるんだい? この状況分かってる? あんたは十人以上の森賊に囲まれて絶体絶命の状態なんだよ?」
「二度同じことを言わないといけないのかしら? 呼びに行く必要はありません」
「何だその態度は!? お前! 状況をよく見て言えよ!? あんた今俺たちに生殺与奪の権利を握られてるんだぞ? 俺がその気ならあんたの首は胴体とおさらばしてるぜ?」

 片刃の剣を首元に突き付けて凄むリザードマン。

「あら? 随分難しい言葉を知っているのね。でも全然握られてないから安心して」

「何だこの女! ふざけてんのか?」
「それとも今置かれてる状況すら分からないのか?」
「この人数に囲まれて悪態ついてられるって……」

 今まで脅した旅人や商人にそんな反応をされたことが無かったのか、私の返答に対して若干どよめく森賊たち。
 彼らが呆気に取られてる間に筋力強化魔法を使い、剣を首に突き付ているリザードマンの手首を握って前方へ投げ飛ばした――

「てめぇ!」

 ――が、重そうなウロコとは裏腹に大分身軽だったらしく、すぐに体勢を立て直される。

「通行料? ここのどこに関所があるの? あなたたちのような輩には荷物も、お金も一円だって……じゃなかった、一ツリン (※)だってあげないわ! かかってきなさい!」
   (※ツリン:樹の国の通貨単位)

 亜空間収納ポケットからさっき作った刀を出す。

「何だそりゃ!?」
「コイツ何も無いところから刀を出したぞ!? 空間魔法の一種か!?」
「あの中に物を仕舞っておけるのか!? 便利な能力だな!!」
「ハハッ! そりゃ良いねぇ、あの中には色んなもんが入ってるってことだろ? コイツを動けないくらい痛めつけてから奪ってやろうじゃないか。多分その“物置”はこの小娘にしか開けられない。殺すんじゃないよ。それに、こんな珍しい能力持ちなら金持ち連中に売れるかもしれないねぇ」

 驚く他の強盗団員とは違い、私の亜空間収納ポケットの中にあるものを奪おうとする人間に近い姿の女。
 どうやらこの女が、この強盗団のリーダーのようだ。
 見た目は細身な美人に見えるが強盗団のリーダーなんてやっているのを考えると、腕っぷしも相当強いのだと思われる。
 しかし……目の前にいる小柄な、見た目少女の私に対してこの言い草である。
 ゲスい考え方だ。相手の出方によっては痛い目を見ない方法 (眠らせて縛り上げたりとかね)で解決しようかと思ったけど、考えが変わった。

 この取り出した刀、職人の打ったものに見劣りするとは言えこのままでも十分殺傷能力がある。殺してしまう可能性があるから、少し切れ味を鈍らせておこうか。
 …………いや、少し特徴を変えよう。
 創成魔法で刀身に回復魔法を付与し、『斬った瞬間にその傷を治癒する刀』に変質させた。
 斬った時に傷が出来るが、それを瞬時に回復する……つまり痛みは与えるものの、傷は瞬時に癒えるため致命的な切り傷を負っても決して死ぬことは無い。そういう魔道具を創り出した。
 鋭い刃で斬られるため当然激烈な痛みがあるが、それを斬ったと同時に瞬時に回復するため、この魔界の回復魔法の法則によりもう一度激烈な痛みを味わう。
 多少意地悪な魔道具。
   (大きい傷を瞬時に回復すればするほどそれに比例する痛みを伴います。大回復の弊害については第133話を参照)

 せっかくユニークな魔道具として誕生したのだから名前を付けてやろう。斬って回復するから……『殺生丸』ってどうだろう!
 ……いや……これだと『犬修羅』に出てくるお兄様と同じ名前になってしまうから……斬治癒きりちゆ丸とか。
 よし! 斬治癒きりちゆ丸にしよう! 今からお前の名前は『斬治癒きりちゆ丸』だ!

「散々悪いことしてるのだから、少しくらい痛い目を見てもらいましょうか。我が斬治癒きりちゆ丸の錆になると良いわ……!」

 ふふふ……殺陣たてって一回やってみたかったのよね。
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