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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏
第318話 樹の国産の風変りな植物 その1(マンドレイクと顔のような果物)
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しばし雑談に興じていると、程なくしてロクトスとナナトスが帰って来た。
幸いなことに危険は無かったらしく、転送玉の出番は無かったみたいだ。
「収穫はあった?」
「面白いもの見つけたッスよ!」
そう言って両手に持った動く根っこみたいなものを掲げる。
「動き回る大根みたいなヤツが居たんで、捕まえてみたッス!」
あれって……もしかしてマンドレイクかしら?
あんなに動き回る根っこは初めて見た。嫌いな人に抱き上げられた猫のごとくイヤイヤを繰り返している。
「これ引っこ抜く時悲鳴上げなかった?」
「引っこ抜いてないッスよ? 普通に森の中を歩いてたんで捕まえたッス!」
この植物って普通に歩いてるものなのか……
最初から土の外に居るものは抱き上げられても悲鳴を上げないのね。
これって確か惚れ薬の材料になるのよね。分かりやすく葉っぱがハートの形をしている。
ナナトスの信条が『楽に生きたいッス』だから、誰かに使おうとするとも限らない。いや、ここにいる全員誰に使うとも限らない。私も意中の男性がいたら使うかもしれない。
使われる相手の意思だってあるし、自分で知った場合には仕方ないけど、ここでは言わない方が良いか。
「トリニアさん、これって精霊ですか? 植物ですか?」
「植物ですよ。樹人と違って純粋な植物です。まあ少々濃い魔力に中てられて、動き回るように進化してしまったものですが。これ実は惚れぐ――」
「わーーーーー!!」
「きゅ、急にどうしたんスか、アルトラ様!? ビックリして手ぇ離しちゃったじゃないッスか!」
「あ、ああ……窓の近くにゴキブリが居たもんで……」
トリニアさんに急いで目配せし、顔を横に振る動作をする。
こちらの意図を汲み取ってくれたのか、軽くうなづいた。
離されたマンドレイクは出入口である玄関扉が閉まっているため、部屋の隅へ移動して縮こまっている。
「あの、これ擦り卸して良いですか?」
あ~、この様子だとルイスさんはこれが何なのか知ってるっぽいな、少し目が血走っている。
誰に使うつもりなんだろう?
「え? ダメッスよ! 連れて帰って飼うんだから」
え!? 飼う!? いやいやいや! これを飼うって……そもそも植物なんだから“飼う”ものなのか?
「ダメだよ。得体が知れないし、動く植物なんて。生態系もおかしくなっちゃうかもしれないし」
実際のところは今のアルトレリアに崩れておかしくなる生態系なんかまだ構築されていないから持ち込んだところでそれほど影響は無い。
しかし、これの薬効に気付かれた時に想定される混乱を考えると、アルトレリアに持ち込ませたくない。嘘も方便である。
「歩く植物なんて面白そうじゃないッスか! ちゃんと面倒見るッスから!」
何か拾って来た犬に対して、飼う飼わないの応酬を繰り広げる母親と息子みたいな構図になってしまった……
面倒見るって言ったって、コイツをどう面倒見るんだ? 何食べるかすら分からないのに……
「それにまだまだ道中長いんだから、その間ずっと捕まえておくの? 捕まえておける?」
「大丈夫ッスよ! ずっと抱えてるッス!」
それ、根っこだから全身土だらけになりそうだけど、それは良いのかしら?
「じゃあ明日までずっと捕まえてられたら認めるよ」
流石にそんなに動き回る根っこを明日まで離さないのは無理でしょ。
という理由ですんなり了承した。
「よっしゃぁ!」
と喜んで捕まえたものの暴れ方が激しく、ものの五分でナナトスの手から脱出されることに。
「これは無理ね。道中連れて歩いてもどこかで逃げられると思う。連れ歩いた結果どことも知らぬ場所で逃げられるなら、生まれた場所で放してあげた方が良くない?」
「うぅ……仕方ないッス……」
マンドレイクを捕まえて玄関の外へ置いてあげたところ、森の中へと消えて行った。
「ああ……さようならッス、ネッココ……」
ネッココって……もう名前付けてるのか。
玄関から逃がす際、ルイスさんがあからさまに残念そうな顔でこちらを見ていたが、気付かなかったフリをしておこう。
「他にはどんなもの採って来たの?」
「また変わった実があったんで採って来たッス」
取り出したのは、モロに人の顔の形をした果実。色は薄い緑色。
「なにこれ! 亜人の顔した果物!? 気持ち悪っ!」
「俺っちたちと似た色してたから見つけた時はちょっと心躍ったッス!」
「あ、それも甘くておいしいですよ。見た目は亜人の顔みたいで不気味ですけど」
「もしかしてこれ試食してから持って来た? まさか、中身は赤色ってことは無いよね?」
「「「………………」」」
ナナトス、ロクトス、トリニアさんと三人全員が黙る。
これは中身が赤いってことを肯定してるんだな……
「マジ? 顔みたいな形してて、中身が赤って……グロいなぁ……」
「ちなみにこの果実、完全に熟すと目を見開きます。傷んでくると顔色に青味が足されて、口が半開きになってそこから果汁を垂れ流します」
うわぁ……モロに口から血を吐いてるみたいだ……嫌な特徴だなぁ……
『外皮に青味が足されて』って言わなきゃいけないところを『顔色に青味が足されて』って言ってるし……
もうトリニアさんはこの果物を“顔”だと認識しているってわけだ。
「更に腐ってくると、目の部分に穴が開いて、そこから血のなみ……赤い果汁を垂れ流すようになります」
今、“血の涙”って言いかけた!
「ですので、熟しているのも、傷んでいるかどうかも一目で分かる、分かりやすい果物ですね。見た目はアレですけど、昨日のデュリオ (※)のように臭いがあるわけでもないので美味しく食べられますよ」
「美味しいッスからぜひ食べてみてくださいよ!」
(※デュリオ:ドリアンのこと)
人の顔のような果物があるとは……流石魔界……
気は進まないが受け取って一口かじる。
「あら! ホントだ! 美味しい!」
皮が緑で果肉が赤ってことで、スイカをイメージしてたけど、まさにスイカだ。片手でかじれる小振りなスイカ。
「その見た目から『グリーンフェイス』って名付けられてます」
見たまんまの名前ね……“グリーン”ってことは別の色もあるのかな?
「ただ……美味しい反面、これがなってる木は首が沢山ぶら下がってるみたいで、ちょっと怖いですけど……」
生首果樹園か……それは見たくない。スイカのような味なのに土の上になるんじゃなくて、木からぶら下がってるのね。
地面に転がってたら、それはそれで生首が転がってるようで嫌だけど……
幸いなことに危険は無かったらしく、転送玉の出番は無かったみたいだ。
「収穫はあった?」
「面白いもの見つけたッスよ!」
そう言って両手に持った動く根っこみたいなものを掲げる。
「動き回る大根みたいなヤツが居たんで、捕まえてみたッス!」
あれって……もしかしてマンドレイクかしら?
あんなに動き回る根っこは初めて見た。嫌いな人に抱き上げられた猫のごとくイヤイヤを繰り返している。
「これ引っこ抜く時悲鳴上げなかった?」
「引っこ抜いてないッスよ? 普通に森の中を歩いてたんで捕まえたッス!」
この植物って普通に歩いてるものなのか……
最初から土の外に居るものは抱き上げられても悲鳴を上げないのね。
これって確か惚れ薬の材料になるのよね。分かりやすく葉っぱがハートの形をしている。
ナナトスの信条が『楽に生きたいッス』だから、誰かに使おうとするとも限らない。いや、ここにいる全員誰に使うとも限らない。私も意中の男性がいたら使うかもしれない。
使われる相手の意思だってあるし、自分で知った場合には仕方ないけど、ここでは言わない方が良いか。
「トリニアさん、これって精霊ですか? 植物ですか?」
「植物ですよ。樹人と違って純粋な植物です。まあ少々濃い魔力に中てられて、動き回るように進化してしまったものですが。これ実は惚れぐ――」
「わーーーーー!!」
「きゅ、急にどうしたんスか、アルトラ様!? ビックリして手ぇ離しちゃったじゃないッスか!」
「あ、ああ……窓の近くにゴキブリが居たもんで……」
トリニアさんに急いで目配せし、顔を横に振る動作をする。
こちらの意図を汲み取ってくれたのか、軽くうなづいた。
離されたマンドレイクは出入口である玄関扉が閉まっているため、部屋の隅へ移動して縮こまっている。
「あの、これ擦り卸して良いですか?」
あ~、この様子だとルイスさんはこれが何なのか知ってるっぽいな、少し目が血走っている。
誰に使うつもりなんだろう?
「え? ダメッスよ! 連れて帰って飼うんだから」
え!? 飼う!? いやいやいや! これを飼うって……そもそも植物なんだから“飼う”ものなのか?
「ダメだよ。得体が知れないし、動く植物なんて。生態系もおかしくなっちゃうかもしれないし」
実際のところは今のアルトレリアに崩れておかしくなる生態系なんかまだ構築されていないから持ち込んだところでそれほど影響は無い。
しかし、これの薬効に気付かれた時に想定される混乱を考えると、アルトレリアに持ち込ませたくない。嘘も方便である。
「歩く植物なんて面白そうじゃないッスか! ちゃんと面倒見るッスから!」
何か拾って来た犬に対して、飼う飼わないの応酬を繰り広げる母親と息子みたいな構図になってしまった……
面倒見るって言ったって、コイツをどう面倒見るんだ? 何食べるかすら分からないのに……
「それにまだまだ道中長いんだから、その間ずっと捕まえておくの? 捕まえておける?」
「大丈夫ッスよ! ずっと抱えてるッス!」
それ、根っこだから全身土だらけになりそうだけど、それは良いのかしら?
「じゃあ明日までずっと捕まえてられたら認めるよ」
流石にそんなに動き回る根っこを明日まで離さないのは無理でしょ。
という理由ですんなり了承した。
「よっしゃぁ!」
と喜んで捕まえたものの暴れ方が激しく、ものの五分でナナトスの手から脱出されることに。
「これは無理ね。道中連れて歩いてもどこかで逃げられると思う。連れ歩いた結果どことも知らぬ場所で逃げられるなら、生まれた場所で放してあげた方が良くない?」
「うぅ……仕方ないッス……」
マンドレイクを捕まえて玄関の外へ置いてあげたところ、森の中へと消えて行った。
「ああ……さようならッス、ネッココ……」
ネッココって……もう名前付けてるのか。
玄関から逃がす際、ルイスさんがあからさまに残念そうな顔でこちらを見ていたが、気付かなかったフリをしておこう。
「他にはどんなもの採って来たの?」
「また変わった実があったんで採って来たッス」
取り出したのは、モロに人の顔の形をした果実。色は薄い緑色。
「なにこれ! 亜人の顔した果物!? 気持ち悪っ!」
「俺っちたちと似た色してたから見つけた時はちょっと心躍ったッス!」
「あ、それも甘くておいしいですよ。見た目は亜人の顔みたいで不気味ですけど」
「もしかしてこれ試食してから持って来た? まさか、中身は赤色ってことは無いよね?」
「「「………………」」」
ナナトス、ロクトス、トリニアさんと三人全員が黙る。
これは中身が赤いってことを肯定してるんだな……
「マジ? 顔みたいな形してて、中身が赤って……グロいなぁ……」
「ちなみにこの果実、完全に熟すと目を見開きます。傷んでくると顔色に青味が足されて、口が半開きになってそこから果汁を垂れ流します」
うわぁ……モロに口から血を吐いてるみたいだ……嫌な特徴だなぁ……
『外皮に青味が足されて』って言わなきゃいけないところを『顔色に青味が足されて』って言ってるし……
もうトリニアさんはこの果物を“顔”だと認識しているってわけだ。
「更に腐ってくると、目の部分に穴が開いて、そこから血のなみ……赤い果汁を垂れ流すようになります」
今、“血の涙”って言いかけた!
「ですので、熟しているのも、傷んでいるかどうかも一目で分かる、分かりやすい果物ですね。見た目はアレですけど、昨日のデュリオ (※)のように臭いがあるわけでもないので美味しく食べられますよ」
「美味しいッスからぜひ食べてみてくださいよ!」
(※デュリオ:ドリアンのこと)
人の顔のような果物があるとは……流石魔界……
気は進まないが受け取って一口かじる。
「あら! ホントだ! 美味しい!」
皮が緑で果肉が赤ってことで、スイカをイメージしてたけど、まさにスイカだ。片手でかじれる小振りなスイカ。
「その見た目から『グリーンフェイス』って名付けられてます」
見たまんまの名前ね……“グリーン”ってことは別の色もあるのかな?
「ただ……美味しい反面、これがなってる木は首が沢山ぶら下がってるみたいで、ちょっと怖いですけど……」
生首果樹園か……それは見たくない。スイカのような味なのに土の上になるんじゃなくて、木からぶら下がってるのね。
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