建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

文字の大きさ
上 下
319 / 546
第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第314話 魔界の銃のポジションと物資運搬の樹人たち

しおりを挟む
「ところで、さっきのマシンガンエラテリウムの名前に“マシンガン”って付いてますけど、魔界にも機関銃マシンガンってあるんですか?」

 現在のところ、水の国でも雷の国でも、マシンガンはおろか銃すら見たことがないし、その存在感すら無い。

「今もあると思いますよ」

 『あると“思います”』? 確証は無いのかしら?

「戦争している地域では使われているそうです。ただ、樹の国ではほとんど戦争が起こったことがないので、この森で使われたことは多分ありません。少なくともわたくしはお目にかかったことは無いです」

 銃が普及している地域から存在しなくなることってあるのかしら?

「遠距離から攻撃できるモノとなると、かなり有利な気がしますが、使われないことに理由があるんですか?」
「物質的な話ですけど、あの銃……というか剣でも槍でも、物質的な攻撃そのものが精霊にはあまり効果が無いので、水の国や雷の国のように平穏に近い環境になったところでは使われなくなりました。火の国や氷の国など、内戦など争いがあるところではまだ使われていると思います」
「精霊にはあまり効果が無い?」
「精霊に対して飛び道具のようなものは、身体をすり抜けてしまってダメージが無いことがほとんどなので、銃もあまり効果がありません」

 なるほど。

「でも木の精霊には効果があるんじゃないんですか? 木の精霊はぶっしつに受肉して身体を形成するんですよね?」
「確かに木の受肉体ですが、わたくしたちにもあまり効果はありません。そもそもこの受肉体は本体ではないので傷を負っても、すぐに修復できます。精霊にダメージを与えるには精霊体ほんたいに届く魔力が伴っていなければならないので、銃のように魔力を込めにくいものではダメージが無いのです」
「へぇ~、そうなんですね」
「その半面、剣や槍などは自身の身体に接触していれば魔力を伝達することができるので、強い魔力が込められた剣や槍では傷を負います。そういった面で魔力を込められない銃はあまり使われなくなりました。そのため森林を根城にしている森賊たちも我々精霊による取り締まりを想定してか、銃ではなく剣やナイフ、槍、その他手から離れないモノを主に武器としています。銃を持っている森賊は稀ですね。もちろん亜人には効果があるので、亜人の大群に対してマシンガンはかなり効果があると思いますが」

 銃では傷を負わないのか。便利な身体だ。

「ただ……ミスリル銀という鉱物で作られた銃弾は、魔力を長時間溜め込むので精霊でもダメージを負ってしまいますね」

 幻想金属ミスリルキターーー!

「もっとも……物凄く高価なので一発消費の銃弾に使われるのは稀ですし、弾丸の構成素材に使われていても純度の高いものでなければ大した脅威ではありません。例えば鉛の弾丸の表面に薄くコーティングした程度では、直撃してもかすり傷や痣程度にしかなりません。なので銃で精霊の相手をするのは効率が悪いわけです」

 エルフの使う武器と言えば弓が定番だけど、弓矢も飛び道具だから使われないのかしら?

「ってことはエルフも弓矢を使わないんですか?」
「いえ、使いますよ。今でもエルフの主な武器は弓矢です」

 どゆこと? 理屈に合わない!

「え? だって、さっき飛び道具では精霊にダメージを与えられないって……」
「エルフにとって精霊は信仰対象なので、滅多なことでは精霊を相手にすることはありません」
「森賊の中に精霊はいないんですか?」
「いない……とは限りませんが見たことはないですね。そもそもわたくしたち精霊は周囲に魔力があれば何も食べなくても死ぬことはないので、食うに困って野党に身を落とす必要性がありません」

 なるほど。フレアハルトと同じような“魔力食いマジカリアン”ってことか。

「それに魔力を帯びやすい物質というのがありまして、生物に近いものほど魔力の滞留時間が長くなります。木は滞留時間が長く、土、岩石、金属と無生物に近くなるほど時間が短くなります。そういう理屈でエルフの使う弓矢は矢尻を除いてほとんどが木や羽根など生物に近いモノで作られていますから魔力を帯びた状態で精霊に届けばダメージを与えられるということになります。いざ精霊を相手にする事態になればそういう戦い方が可能です。対して銃は金属で作られているので、魔力を帯びさせるのがほぼ不可能なのです。よって銃では精霊を倒せないということになります。ミスリル銀だけは金属の中でも特殊ということですね」

 へ~、魔力って生物に近い物質ほど留まる性質があるのか。

「あ、でもこの世界のあらゆる物質は微量ながら魔力を帯びてるって聞きましたけど、それでも金属には魔力が留まらないんですか? 鉱物系の精霊もいますよね?」
「微量は帯びてますが、元々ある以上の魔力はすぐに放散してしまうということですね。その物質によって留まれる魔力の許容量があるということでしょう。鉱物系の精霊が存在することについても、精霊体ほんたいまで鉱物というわけではありませんので、魔力性質の考え方とは切り離して考えないといけません」

 精霊が憑けば魔力が大きいというわけでもないってことか。
 それにしても……魔力を蓄える石って最近どっかで聞いたな……
 あっ!

「もしかしてミスリル銀って、魔力の電力変換に使われてたりします?」
「詳しくはないですが、使われてると思います。土の国が主な産出国で、確か粉にしてパネルに張り付けて吸着した魔力を電気に変換するとか」

 あ~、ローレンスさんが言ってた魔力を蓄える石、あれがミスリル銀の鉱石だったのか! (第279話参照)

 銃についての話を終える頃、後ろからナナトスの声がした。

   ◇

「あ、何か後ろから木のような亜人が来たッスよ?」

 ホントだ。随分と歩調が速い。
 あ、あれ見たことある……エレアースモ国立博物館の精霊展にアレにソックリなのが居た。確か閉館後に館内のお手伝いをしてくれるとかなんとか。 (第275話参照)

「ああ、あれは亜人ではありません。あの者たちは樹人じゅじんと言って、わたくしたちと同じ木の精霊に属する下位精霊の一種です」
「あれも精霊なんスか? 何か運んでるッスね」

 三人が一人一台リヤカーのようなものに物資を載せて運んでいる。
 その周りにも五人の樹人。

首都ユグドグランへの物資を運んでいる最中なのでしょう」
「運んでるのが三人しかいませんけど、あとの五人は何をしているんですか?」
「三人が運搬役、四人がその護衛役、一人がリヤカーから物資がこぼれ落ちた時に元に戻す役というところですね。下位精霊への命令は一度に一種類しかできませんので、運搬役は運搬役にしかならず、目の前で物資を盗まれてもそのまま突き進んで行ってしまいます。なので、『物資と運搬役を護衛しろ』という命令を与えた護衛役に運搬役を守らせるわけです。同様に物資が落ちた時に回収して戻してくれる命令を帯びた役ということですね」
「へぇ~、そうなんですね」
「もっとも……護衛役も単純作業しか出来ないので、盗まれることもありますけど、護衛を付けないよりは遥かにマシですので。ちなみにあの樹人は半端な森族程度では敵わないくらい強いですよ。精霊ですので魔法も使えますし」
「へぇ~、下位精霊でもきちんと魔法を使えるんですね。でも、物資を運ぶにしては人数が少なくないですか?」
「こういった森の中を動くには大勢で行き過ぎるとかえって遅くなるので、少人数を小分けにして何度も送るのです。日に何十ものパーティーを輸送に使っています。それと道はここ以外にもありますので別の道を通行しているパーティーもいます」

 三人で一人一台のリヤカーって、随分効率が悪いわね……

「馬車とかで運んだ方が楽な気がするんですが、馬車では通行できないんですか?」
「道を平らに整備したとしても、あっという間に木々で覆われて、再び凹凸が出来てしまうので中々難しいと思います」
「じゃあペガサスとかいないんですか? 空から行けば楽なんじゃ?」
「ペガサスは風の国に多くおり、我が国にも少ない頭数ですが存在します。しかし、彼らの翼は馬車を引いて空を飛ぶようにはできていませんので重量的な面で不可能かと」
「じゃ、じゃあドラゴン種に空から運んでもらうとかは? アクアリヴィアにはワイバーンやドラゴンフラヤーに空から運んでもらうスカイドラゴン便というのがあって、それを使って運搬してもらえましたけど」
「ドラゴンほどの巨体になると、降りられる場所が限られてきますので……その整備と管理をしなければなりません。もう少し小振りなものではグリフォン (※)という生物がいますが、物資を運ぶとなるとそれなりに頭数が必要なうえ、樹人のように継続的に長時間動けるというわけではないので、やはり現状は樹人が効率的なのです」
   (※グリフォン:ワシの頭と脚を持ち、ライオンの身体と後ろ足がくっ付いた幻想生物)

 不便なところねぇ……

「首都へ向かってるってことは、あの人 (?)たちに付いて行けば首都まで行けるってことッスか?」
「そうですね。ただ、彼らは休み無く進むので、彼らに付いて行くのは中々骨が折れると思いますよ。休み無く進行しても首都までおよそ三日から四日はかかりますので、その間不眠不休、飲まず食わず、全力で付いて行かないといけないとなると最早苦行の域かと」

 確かに……後ろから来たのにもう見えなくなってしまった……

「昔、正式なガイドの制度ができる前、ガイド費用をケチったとある旅人が樹人にくっ付いて首都へ行こうとしたところ、途中で樹人を見失ってしまい迷ってしまった挙句、およそ二週間後にユグドフロントの捜索隊に回収されて振り出しに戻ってしまったなんてケースもありますし」

 二週間迷いに迷って振り出しって……
 すごろくのゴール一歩手前で『振り出しに戻る』なんて目じゃないくらい悲惨な振り出しだわ……

「ちなみに、その方はユグドフロントで少しの間療養した後、首都へ行くのを諦めていずこかへ旅立って行きました」

 それはガイド制度ができるはずだ。

「さあ、我々の現在の目的地はエルフヴィレッジですので、右へ曲がりますよ」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...