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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第305話 アルトラの頑丈な生態

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「アルトラ、先ほど町中を強力な魔力反応がいくつも通りましたが、何か物騒なことが起きてるんですか?」

 クリューか、ちょうど良いところで会った。

「今、樹の国のお客さんが来てて、大森林を歩くことが決定してね、一人じゃ心細いから誰か同行者を探してたの。一緒に行く?」
「樹の国ですか……面倒そうなのでよしておきます。あの地方の担当は死神もあまりやりたがりませんし」

 うわぁ……嫌なこと聞いたわ……亜人よりずっと高い身体能力を持つ死神が行くのを渋るってことは……それ相応に大変なところってわけだ。

「気を付けて行って来てください。あ、帰還予定はいつですか?」
「さあ? 一週間後とか二週間後とか?」
「じゃあ、三週間分のお菓子を。一日一お菓子の約束ですので」

 と言って両手を差し出す。

 何で一週間分増えたのよ?

 押し問答も面倒くさいので三週間分のお菓子を創成魔法で作って渡した。

「では、改めて気を付けて行って来てください」

 クリューはダメか。じゃあアイツに声をかけてみようか。

   ◇

「フレハル、旅行行かない?」
「旅行か、良いな、どこへ行くのだ? 世界の頂で泊まったホテルみたいに綺麗な寝床があるところなら良いぞ」

 あそこは世界の要人のために建てられたようなホテルだから、あんな綺麗なところはそうそう無いよ。

「今回は森林浴できるところかな」
「ボカして言ったところを考えるとただの森林浴ではないな? 野営か? あまり気は進まんな」

 今まで非文化的な生活してたレッドドラゴンが野営がダメって……

「具体的にはどこだ?」
「樹の国の大森林」
「………………聞くからに気が進まんな。今回は護衛でお付きというわけでもないしパスする。見たことない虫とか出そうで行こうと思わん」
「アリサはどう?」
「わたくしも虫はちょっと……ドラゴンの姿で生活している時は大して気になりませんでしたが、人型で生活することが多くなった現在では、あまり触りたくないものになってしまいましたので……」

 ドラゴンまで綺麗好きになってきた……
 以前は泥だらけの村だったから、住民も汚れても気にしなかったけど、町が整備されて水が通るようになって清潔になってきたから、汚れるのを気にする者も多くなってきた。
 きっと潔癖症ってこうやって生産されていくのかな……

「レイアは?」
「う~ん……そこら辺の森で虫取るのは良いんだけど、“大森林”ってワードが何だか大変そうなんで、遠慮しときますよ。行ってみて、もし嫌なことがあってもアルトラ様みたいにパッと帰って来れるわけじゃないですし」

 頼りになりそうなのは全滅か……
 じゃあ今回は私一人か……一人旅はアクアリヴィア以来ね……

「アルトラ様~、どっか行くんスか?」

 ナナトスか。

「樹の国の大森林に行くことになってね、カイベルもリディアも行かないって言うから、クリューやフレアハルトたちを誘ってみたんだけどみんなに断られたところ」

 まあ、好き好んで密林を歩きたいとは思わないよね……探検家なら嬉々として同行してくれるかもしれないけど。

「何か面白そうッスね!」

 おぉ……探検家気質がすぐ近くに居た。

「そういうのならロクにーが喜んで付いて行くって言うかもしれないッス! ちょっと声をかけてきますッス!」

 行動が早い。

「ちょ、多分危ないところよ?」

 ああ、もう聞こえないか……
 まあ帰って来たら説明したら良いかな。


   ◇


 我が家でお茶しているドリアード三姉妹のところに戻ると、ちょうどルイスさんが重装備と大荷物を持って戻って来た。

「な、何ですかその大荷物?」
「何が居るか分からない大森林に向かうのですから、色々必要かと思いまして買い揃えてきました」

 リュックの中に主にケガの治療薬と毒消し、麻痺消し、気付け薬、細菌感染用の薬などの服薬・塗り薬、缶詰などの食糧、水、簡易テントに寝袋。
 服装も山歩きに近い重装備。靴裏も厚めのもの。杖代わりのトレッキングポールも用意してきたみたいだ。それとは別に魔法の杖みたいなものもある。こっちは護身用?
 あと、サバイバルナイフとか鍋とか雨具とか。
 エナジードリンク的な体力を回復するための飲み物まである。

「こんなに要ります?」
「アルトラ様、まだ用意できてないんですか!? 待ってますので用意してきてください!」

 ルイスさんに語気荒く聞かれるも――

「私は必要なものはもう持ってますので」
「どこにですか? 手ぶらじゃないですか! それにそんな軽装備で行くんですか!?」

 格好はいつも通り闇のドレスの下にパンツ一丁。足元は裸足。
 まあ持ち物はあらかた亜空間収納ポケットに入ってるし。

「アルトラ様、森には刺す虫もいますし、猛毒を持つ生物もいます。その格好で森の中を歩くのはちょっとやめておいた方が……」

 トリニアさんに心配された。

「私は……虫に刺されることも、毒蛇に噛まれることも無いので大丈夫です」

 それを聞いた四人が顔を見合わせて――

「虫や小動物が寄ってこない体質なんですか~? そんなの噛まれないという確実性は無いですよ~?」
「そうですそうです! 毒を持ってるものや強酸を吐くものもいます! 万が一浴びたらドロドロになっちゃいますよ! その過信は命取りですよ?」

 トライアさんとトルテアさんにも心配される。

「私、刃物でも傷が付かないし、毒も強酸も効かないし、素足で尖った棘やガラスを踏んでも、溶岩に落ちても傷付かないので……」

 再び四人が顔を見合わせて――

「「「「いやいやいやいや!」」」」

 四人で同時に否定された。

「溶岩に落ちて大丈夫な生物なんているわけないじゃないですか!」

 いや、いるよ! 我が家から見える赤龍峰あの山の内部には何十何百いるよ! 何ならさっき同行を断られたけどアルトレリアにだって三人いるよ!
 赤龍峰あそこは溶岩食べるヤツらの巣窟だから!

「ホントなんですよ!」
「溶岩に落ちて平気なんて、到底信じられませんよ……」

 そっか、ここにいる四人は私の身体が頑丈なの知らないんだっけ……
 アルトレリアのみんなには周知の事実だから、知られていると思い込んでいた。
 証拠見せた方が早いか。

「じゃあ、頑丈な証拠を見せます。カイベル!」
「はい」

 物質魔法で剣を作ってカイベルに向かって放り投げる。

「その剣で私の腕を斬って」
「はい」
「その後、私に向かって強力な火魔法を放って」
「はい」

 私は土魔法で石の台座を作り、そこに手のひらを置いて腕を水平に保ち、カイベルの斬撃を待つ。

「え? な、なに言ってるんですか!?」
「そんなことしたら切断してしまいますよ!!」
「目の前でスプラッタなんて見たくないですよ!?」
「それに、強力な火魔法なんて放ったら、火だるまになって最悪死んじゃいますよ!」
「いいから見ててください」

 ルイスさんとドリアード三姉妹の言葉をよそに、カイベルが私の腕に剣を振り下ろす。

 キーーーン……

 という残響音を残して刃が二つに折れ、折れた刃は前方へ飛んで行った。

「「「「えぇ!?」」」」

 四人の目が、折れた刃の方を追って行き、少しの間思考が停止したかのように動かなくなった。
 少し経って、四人それぞれが、私と自分以外の三人の顔をそれぞれ交互に見回して、無言ながらお互いの目で目の前で起こったことの事実確認を測っているかのように見える。

「フレイム・スフィア」

 そこへ間髪入れずにカイベルが巨大な炎の球を私の後ろから放つ。
 ドォォンという音が響き、私が立っていた辺りは小規模ながら火の海に。

「あ……あぁ……」
「ホ、ホントにやるなんて……」
「こ、これで死んでたらただの殺人ですよ……?」
「あ、炎の中で何か動いてます!」

「ゴホッ……ちょっとすすけてしまった……」

 炎から出て来た私を見て四人とも絶句。

 ……
 …………
 ………………

 少しの沈黙が流れた後――
 耐えかねた私が口を開く。

「ご理解いただけましたか? これくらい頑丈だから、蛇の牙程度じゃ刺さらないんです」
「ご、ご無事なんですか?」
「はい」
「な……何ですかコレ? その剣って本物……なんですよね? 本物の金属なんですよね?」
「剣が亜人ひとの身体で折れて飛んで行くところなんて初めて見ました……」
「ま、魔界には体が岩のように硬い亜人もいますが……全く傷を負わない方は初めて見ます……それに炎にも強いと……」
「………………レ、レヴィアタン様があなたと関わるようになってからずっと考えていました……失礼ながら魔王ともあろうあの方がなぜこんな片田舎の小娘にご執心なのかと……今、レヴィアタン様があなたに注目される理由が断片的ながら分かりました……」

 この発言を聞く限り、ルイスさんはレヴィが私と接触することに対して若干の不満があったってことかな。

「みなさん納得されましたか?」

「「「「はい……」」」」

 全員未だに『にわかには信じられない』といった顔をしているが、目の前でその現象を目撃しているため、一応納得はしてくれたらしい。

「確かにその身体なら生身で大森林を歩いても大丈夫そうですね」
「溶岩でも耐えられそうですね~」

 何とか理解してくれたようで、今後余計な説明をせずに済みそうだ。
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