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第12章 臨時会談編
第290話 脱走と保釈、二種類の亡者と呪いを解けるかもしれない魔道具
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「ところでさ、リディアの希望でアニメと特撮しか見てないけど、クリューは楽しめてるの?」
「ええ、楽しいですよ。それにたまに見る時代劇も面白いです」
そう、この世界には無い侍文化だが、リディアはなぜか時代劇も楽しめるみたいだ。
アニメ以外に何か無いか聞かれた時に、ニュース、ドラマ、バラエティ、ワイドショー、時代劇と一通り見せた時に新しい扉を開けてしまったらしい。
町民が着ているものがリディアには奇抜に映ったらしく、興味が出てしまったようだ。
今は週一くらいの割合で『水戸の黄門様』か『暴れん坊将軍家』か『近山の銀さん』を見ている。『必殺作業人』は中二病を誘発するカッコイイポーズがあるため普段の振舞いに影響しそうと考え、見せるのを思い留まった。
近い将来、ポリピュアのごっこ遊びの次は、侍のごっこ遊びがブームになるかもしれない。
「魔界に侍文化無いでしょ? それでも面白いの?」
「侍文化はありませんが、侍はいますよ?」
「えっ!? ホントに!?」
「まあ、お侍さんは人殺してる率が現代人より高いためか、地獄行きの方はそれなりの人数いますので」
あ~、殺人の定義の問題か。
地球で、例えば戦国時代なら、敵を沢山殺した武将は英雄として祀り上げられるけど、現代の感覚で言えばただの大量殺人者ってことになる。
この定義は時代の移り変わりで変わって行ったもの。
しかし、そんなことは関係ない死後の世界の定義で殺人が悪いことの頂点と考えられてるとしたなら、地獄で亡者やってる侍はそれなりに居ることになるわけだ。
まあ、これと死ぬまでその者が行った善行とを秤にかけられて、地獄に来ていない侍も沢山いるのだろう。例えば民衆を困らせる悪を裁いた人とか。守るためにやむを得ず命を奪うことになってしまった人とか。
ここら辺は、私は神様ではないから考えても正解には辿り着かないが、少なくとも人殺しが悪いことには違いないからね。
侍の時代からもう何百年も経ってるから脱走してる人もいるかもしれないし。
「刀だってありますよ。村正って人が作る刀は他とは一線を画すとか」
「えっ!? あの有名な妖刀作った人!? 魔界にいるの!?」
「ええ、とある島国に隠れ住んでるそうです。魔力の存在しない地球で魔道具を作った類まれな人物ですね。噂によれば妖刀だけじゃなくて、斬魔の刀も作ってるらしく、身体を一切傷付けず呪いだけを切り裂く刀もあるとかなんとか」
「それホント!?」
「え、ええ、彼担当の死神から聞き及んだ程度なので、詳しいことまでは分かりませんけど……」
それが本当なら、私にかかっている呪い染みたスキル (『蘇生耐性Lv10』、『自動転生 (無効化中)』、『冥獄の枷』)も切り裂いてくれるかもしれない! (第7話、第105話参照)
「その呪いを切り裂く刀って、村正さんが持ってるの?」
「いえ、作ったのは恐らく彼ですが、確か別の持ち主に渡って今はどこかの寺院で宝具として扱われていると聞きました」
「宝具ってなに?」
「特級魔道具のことですね。その道に精通した者でさえも作るのが非常に困難な魔道具を尊称して宝具と呼んでいるようです」
「へぇ~、そんなのがあるんだ。それで、誰が持ってるの?」
「さあ? 詳しいことまでは知りません」
う~ん……残念……呪いを解く刀までは行き着けなかったか……
でも一筋の光明は見えた! これを探し出して呪いを切り裂いてもらえれば来年のお盆には一時的にとはいえ地球に帰れるかも!
ここの生活は気に入ってるけど、一度地球には戻りたいと思っていた。私が死んだ後の私の周りがどう変化しているのかも気になる。会社の子らが私がいなくなった煽りを受けていないかも心配だ。あと、親友のアイの墓前と仏前に線香を手向けたい、私も死んでるけど。
「その村正さんも亡者よね?」
「そりゃまあ、この世界で生身の人間ってのは中々いませんからね。極々稀に異世界転移に巻き込まれてやってくる者がいるくらいで。ある意味では希少種ですよ」
「じゃあさ、魔界のあちこちで亡者亡者聞くけど、地獄を脱走してる亡者多過ぎない? 脱走時にほとんどケルベロスに食べられるんでしょ? それにしては魔界の文化に影響与えている地球由来の亡者が結構居る気がするんだけど……」
「亡者が脱走している者だけだと思ってるんですか?」
「え? 違うの? 脱走以外で地獄を出る方法があるの?」
「そもそも脱走は正当に地獄を出る方法じゃありません。地獄で刑期を終えた亡者は浄化され、また地球へと転生するってのは知ってますか?」
「それは知ってるわ。輪廻転生でしょ? 地球でも割と有名な話だし」
「地球への転生の前段階として生活を整える『保釈』という段階があります。これは刑期を終えた亡者に刑罰が終了したことを証明する刻印を魔法によって身体に刻まれ、刑期本終了の期限が設定されます。残りの亡者としての時間を魔界のいずこかで過ごして通常の生活に慣れさせるのです。地獄で苛烈な罰を受けたその足で転生させても良い影響はありません。この保釈期間が終了を迎えた時に完全に刑期を終え、地球に転生するのです」
「ちょっと待って、亡者って地獄外で死んだら消滅するって聞いたけど……?」
「それは脱走亡者のことですね。脱走亡者は消滅します。刑期を終えてませんので地球へは送られることはありません。しかし保釈された亡者は終了証明を刻まれているため、それによって刑期の終了が完全なものとなり地球へと転生するんですよ。ただし亡者は年を取らないため、期限を迎えた時に地球に転生するか、そのまま亡者として魔界で生きるかを選ぶことができます。そのまま亡者として生活することを選んだ者はまた長期間の亡者としての期限が与えられ、再び期限を迎えた場合に再度転生するかどうかを選択することになります。つまり希望すればずっと亡者で居続けることができます。ただし、不慮の事故などで死んだ場合は強制的に地球へ転生させられます」
私が今まで聞いていたのは脱走亡者の話だったわけか。
「でもレヴィ……水の国女王が魔界の者の方が亡者より強いから大抵はトラブル無く働いてるって言ってたんだけど、もしかして水の国女王は脱走亡者と保釈亡者の二種類がいるのを知らないってことなのかな?」
「さあ? それは私には分かりかねます。ただ、亡者は全部脱走者だと思っている魔界の者は多いですね。この世界に人間はほとんどいないので、人間のような見た目をしたものは全部亡者だと思ってると思います。そもそもケルベロスは滅多なことでは脱走を許しません。年に一人か二人出るかどうかですよ。なので魔界各地で働いているのは、そのほとんどが浄化された善良な亡者ということになります」
そうだったのか……それはレヴィに教えておかなくちゃ。
「最初にあなたに会った時に、私が追いかけ回されたのはどういうわけなの?」 (第256~257話参照)
「私たち死神は脱走亡者のところを訪れて代価か地獄への強制送還かを選ばせるんです。アルトラは地獄での刑期を終えてませんよね? だから脱走亡者扱いで悪いことしてないかどうかを確認するため定期的に訪れる必要があるんですよ。まあ……関わってみたらこれほど特殊な亡者とは思ってませんでしたけど……」
私、地獄に堕とされるほど悪いことした自覚無いんだけどなぁ……
「ああ、そうだ! 宝具のことと言えば、キミの創った『疑似太陽』と『ゼロ距離ドア』、あれは間違いなく宝具クラスの代物だから、他国の動向には一層注意した方が良いと思います」
「やっぱりそうよね……」
私が関わる範囲がアルトレリアから他国に広がるにしたがって、不安が大きくなってたけど、やっぱり空間魔法系の魔道具は無闇に創るものじゃなかったかな……
でも状況によってはまた創ってしまうと思うけど……
「話は戻りますけど、刀ってカッコ良いですよね。死神の鎌も飽きたので、死神の刀に変えるのも良いかもしれません」
どうやらリディアより、彼の方が時代劇を気に入ってしまったみたいだ……
「あと徳川吉宗が馬に乗っているのもカッコ良かったので、デュラハン (※)に頼んで馬を貸し出してもらおうかな?」
(※デュラハン:首の無い馬に乗って現れる首の無い騎士の姿をした妖精)
デュラハンの馬って、確か首が無いやつよね……? そんなのでアルトレリアの町中を闊歩するのは勘弁願いたい。それを見た町民が悲鳴を上げそうだから……
「く、首の無い馬に乗るのはやめてね……」
「え? 首が無いなんて死神が乗るのにぴったりじゃないですか!」
「町の住民に死神だってこと隠してる人物が、死神のように振舞ってどうするのよ!」
「そ、そうでしたね、ハハハ……」
「乗るなら六本脚の馬に乗るくらいに留めておいて」
余談だけど、ショップチャンネルを見せようとした時も思い留まった。買えるはずがないものを見せても催促が増えるだけで、私もリディアも幸せになれないと判断したため。
地球の商品の宣伝なのに、それを冥球住みの私たちが見たところでどうしようもない。
何せ、この地には無いものばかりを紹介するから多分延々と見ていられる。
ただでさえ、アニメに差し込まれるCMを見て――
『なあアルトラ~、このCMでやってるピッツァーラのピザっての食べてみたイ!』
『それはまだこの町でチーズが作れてないから無理かな~……あとまだ小麦粉が生産されてない (※)から贅沢に沢山は使えない』
(※小麦粉の生産について:本エピソードは第288話より前の話です)
とか、
『なあアルトラ~、このワークドナルドのハンバーガーってのを食べてみたイ!』
『それも小麦粉とチーズが……』
とか、
『このコンビニってどこにあるんダ? ファミリアマートって店のプリンのスイーツが美味しそウ、食べたイ!』
『コンビニねぇ……私、 (魔界では)見たことないわ』
『え!? 地球出身のアルトラでも見たことないのカ!?』
『 (魔界では)見たことないねぇ……』
と嘘を吐かなければならなかった始末だし。
実際のところは、会社帰りに毎日のように買って帰ってたけど……
あまりにも食べたい食べたいと言うものだから、カイベルに再現してもらおうかと思ったが、一度作ったらアレも欲しいコレも欲しいと増長しそうなのでこれも思い留まった。
食べ物だけでなくオモチャを要求されるのも珍しくない。CMに映るもの映るものが面白そうに見えるらしい。
今後も様々な要求をされるだろうけど、それをあれやこれやの言い訳で躱す日々が続きそうだ……
「ええ、楽しいですよ。それにたまに見る時代劇も面白いです」
そう、この世界には無い侍文化だが、リディアはなぜか時代劇も楽しめるみたいだ。
アニメ以外に何か無いか聞かれた時に、ニュース、ドラマ、バラエティ、ワイドショー、時代劇と一通り見せた時に新しい扉を開けてしまったらしい。
町民が着ているものがリディアには奇抜に映ったらしく、興味が出てしまったようだ。
今は週一くらいの割合で『水戸の黄門様』か『暴れん坊将軍家』か『近山の銀さん』を見ている。『必殺作業人』は中二病を誘発するカッコイイポーズがあるため普段の振舞いに影響しそうと考え、見せるのを思い留まった。
近い将来、ポリピュアのごっこ遊びの次は、侍のごっこ遊びがブームになるかもしれない。
「魔界に侍文化無いでしょ? それでも面白いの?」
「侍文化はありませんが、侍はいますよ?」
「えっ!? ホントに!?」
「まあ、お侍さんは人殺してる率が現代人より高いためか、地獄行きの方はそれなりの人数いますので」
あ~、殺人の定義の問題か。
地球で、例えば戦国時代なら、敵を沢山殺した武将は英雄として祀り上げられるけど、現代の感覚で言えばただの大量殺人者ってことになる。
この定義は時代の移り変わりで変わって行ったもの。
しかし、そんなことは関係ない死後の世界の定義で殺人が悪いことの頂点と考えられてるとしたなら、地獄で亡者やってる侍はそれなりに居ることになるわけだ。
まあ、これと死ぬまでその者が行った善行とを秤にかけられて、地獄に来ていない侍も沢山いるのだろう。例えば民衆を困らせる悪を裁いた人とか。守るためにやむを得ず命を奪うことになってしまった人とか。
ここら辺は、私は神様ではないから考えても正解には辿り着かないが、少なくとも人殺しが悪いことには違いないからね。
侍の時代からもう何百年も経ってるから脱走してる人もいるかもしれないし。
「刀だってありますよ。村正って人が作る刀は他とは一線を画すとか」
「えっ!? あの有名な妖刀作った人!? 魔界にいるの!?」
「ええ、とある島国に隠れ住んでるそうです。魔力の存在しない地球で魔道具を作った類まれな人物ですね。噂によれば妖刀だけじゃなくて、斬魔の刀も作ってるらしく、身体を一切傷付けず呪いだけを切り裂く刀もあるとかなんとか」
「それホント!?」
「え、ええ、彼担当の死神から聞き及んだ程度なので、詳しいことまでは分かりませんけど……」
それが本当なら、私にかかっている呪い染みたスキル (『蘇生耐性Lv10』、『自動転生 (無効化中)』、『冥獄の枷』)も切り裂いてくれるかもしれない! (第7話、第105話参照)
「その呪いを切り裂く刀って、村正さんが持ってるの?」
「いえ、作ったのは恐らく彼ですが、確か別の持ち主に渡って今はどこかの寺院で宝具として扱われていると聞きました」
「宝具ってなに?」
「特級魔道具のことですね。その道に精通した者でさえも作るのが非常に困難な魔道具を尊称して宝具と呼んでいるようです」
「へぇ~、そんなのがあるんだ。それで、誰が持ってるの?」
「さあ? 詳しいことまでは知りません」
う~ん……残念……呪いを解く刀までは行き着けなかったか……
でも一筋の光明は見えた! これを探し出して呪いを切り裂いてもらえれば来年のお盆には一時的にとはいえ地球に帰れるかも!
ここの生活は気に入ってるけど、一度地球には戻りたいと思っていた。私が死んだ後の私の周りがどう変化しているのかも気になる。会社の子らが私がいなくなった煽りを受けていないかも心配だ。あと、親友のアイの墓前と仏前に線香を手向けたい、私も死んでるけど。
「その村正さんも亡者よね?」
「そりゃまあ、この世界で生身の人間ってのは中々いませんからね。極々稀に異世界転移に巻き込まれてやってくる者がいるくらいで。ある意味では希少種ですよ」
「じゃあさ、魔界のあちこちで亡者亡者聞くけど、地獄を脱走してる亡者多過ぎない? 脱走時にほとんどケルベロスに食べられるんでしょ? それにしては魔界の文化に影響与えている地球由来の亡者が結構居る気がするんだけど……」
「亡者が脱走している者だけだと思ってるんですか?」
「え? 違うの? 脱走以外で地獄を出る方法があるの?」
「そもそも脱走は正当に地獄を出る方法じゃありません。地獄で刑期を終えた亡者は浄化され、また地球へと転生するってのは知ってますか?」
「それは知ってるわ。輪廻転生でしょ? 地球でも割と有名な話だし」
「地球への転生の前段階として生活を整える『保釈』という段階があります。これは刑期を終えた亡者に刑罰が終了したことを証明する刻印を魔法によって身体に刻まれ、刑期本終了の期限が設定されます。残りの亡者としての時間を魔界のいずこかで過ごして通常の生活に慣れさせるのです。地獄で苛烈な罰を受けたその足で転生させても良い影響はありません。この保釈期間が終了を迎えた時に完全に刑期を終え、地球に転生するのです」
「ちょっと待って、亡者って地獄外で死んだら消滅するって聞いたけど……?」
「それは脱走亡者のことですね。脱走亡者は消滅します。刑期を終えてませんので地球へは送られることはありません。しかし保釈された亡者は終了証明を刻まれているため、それによって刑期の終了が完全なものとなり地球へと転生するんですよ。ただし亡者は年を取らないため、期限を迎えた時に地球に転生するか、そのまま亡者として魔界で生きるかを選ぶことができます。そのまま亡者として生活することを選んだ者はまた長期間の亡者としての期限が与えられ、再び期限を迎えた場合に再度転生するかどうかを選択することになります。つまり希望すればずっと亡者で居続けることができます。ただし、不慮の事故などで死んだ場合は強制的に地球へ転生させられます」
私が今まで聞いていたのは脱走亡者の話だったわけか。
「でもレヴィ……水の国女王が魔界の者の方が亡者より強いから大抵はトラブル無く働いてるって言ってたんだけど、もしかして水の国女王は脱走亡者と保釈亡者の二種類がいるのを知らないってことなのかな?」
「さあ? それは私には分かりかねます。ただ、亡者は全部脱走者だと思っている魔界の者は多いですね。この世界に人間はほとんどいないので、人間のような見た目をしたものは全部亡者だと思ってると思います。そもそもケルベロスは滅多なことでは脱走を許しません。年に一人か二人出るかどうかですよ。なので魔界各地で働いているのは、そのほとんどが浄化された善良な亡者ということになります」
そうだったのか……それはレヴィに教えておかなくちゃ。
「最初にあなたに会った時に、私が追いかけ回されたのはどういうわけなの?」 (第256~257話参照)
「私たち死神は脱走亡者のところを訪れて代価か地獄への強制送還かを選ばせるんです。アルトラは地獄での刑期を終えてませんよね? だから脱走亡者扱いで悪いことしてないかどうかを確認するため定期的に訪れる必要があるんですよ。まあ……関わってみたらこれほど特殊な亡者とは思ってませんでしたけど……」
私、地獄に堕とされるほど悪いことした自覚無いんだけどなぁ……
「ああ、そうだ! 宝具のことと言えば、キミの創った『疑似太陽』と『ゼロ距離ドア』、あれは間違いなく宝具クラスの代物だから、他国の動向には一層注意した方が良いと思います」
「やっぱりそうよね……」
私が関わる範囲がアルトレリアから他国に広がるにしたがって、不安が大きくなってたけど、やっぱり空間魔法系の魔道具は無闇に創るものじゃなかったかな……
でも状況によってはまた創ってしまうと思うけど……
「話は戻りますけど、刀ってカッコ良いですよね。死神の鎌も飽きたので、死神の刀に変えるのも良いかもしれません」
どうやらリディアより、彼の方が時代劇を気に入ってしまったみたいだ……
「あと徳川吉宗が馬に乗っているのもカッコ良かったので、デュラハン (※)に頼んで馬を貸し出してもらおうかな?」
(※デュラハン:首の無い馬に乗って現れる首の無い騎士の姿をした妖精)
デュラハンの馬って、確か首が無いやつよね……? そんなのでアルトレリアの町中を闊歩するのは勘弁願いたい。それを見た町民が悲鳴を上げそうだから……
「く、首の無い馬に乗るのはやめてね……」
「え? 首が無いなんて死神が乗るのにぴったりじゃないですか!」
「町の住民に死神だってこと隠してる人物が、死神のように振舞ってどうするのよ!」
「そ、そうでしたね、ハハハ……」
「乗るなら六本脚の馬に乗るくらいに留めておいて」
余談だけど、ショップチャンネルを見せようとした時も思い留まった。買えるはずがないものを見せても催促が増えるだけで、私もリディアも幸せになれないと判断したため。
地球の商品の宣伝なのに、それを冥球住みの私たちが見たところでどうしようもない。
何せ、この地には無いものばかりを紹介するから多分延々と見ていられる。
ただでさえ、アニメに差し込まれるCMを見て――
『なあアルトラ~、このCMでやってるピッツァーラのピザっての食べてみたイ!』
『それはまだこの町でチーズが作れてないから無理かな~……あとまだ小麦粉が生産されてない (※)から贅沢に沢山は使えない』
(※小麦粉の生産について:本エピソードは第288話より前の話です)
とか、
『なあアルトラ~、このワークドナルドのハンバーガーってのを食べてみたイ!』
『それも小麦粉とチーズが……』
とか、
『このコンビニってどこにあるんダ? ファミリアマートって店のプリンのスイーツが美味しそウ、食べたイ!』
『コンビニねぇ……私、 (魔界では)見たことないわ』
『え!? 地球出身のアルトラでも見たことないのカ!?』
『 (魔界では)見たことないねぇ……』
と嘘を吐かなければならなかった始末だし。
実際のところは、会社帰りに毎日のように買って帰ってたけど……
あまりにも食べたい食べたいと言うものだから、カイベルに再現してもらおうかと思ったが、一度作ったらアレも欲しいコレも欲しいと増長しそうなのでこれも思い留まった。
食べ物だけでなくオモチャを要求されるのも珍しくない。CMに映るもの映るものが面白そうに見えるらしい。
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