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第12章 臨時会談編

第289話 アルトラさんちのテレビ事情

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 時は少し遡り、エレアースモから帰った次の日――

 コンコンコン

 玄関扉へのノック音。
 現在夜の七時を回ったところ。こんな遅くに誰かしら?

 ガチャ

「あら、クリュー、どうしたの?」

   ・
   ・
   ・

   ◇


 そしてその数日後、現在――

 エレアースモから帰ってからなぜか夜七時になるとクリューが訪問して、入り浸るようになってしまった……
 「なぜか」とは言ったが、その理由は明確に分かっている。

「何でこの時間になるとうちに来るの?」
「ああ、いや……ここに来ると地球のテレビが見られるので、楽しくてつい。それと――」

「アルトラ様、リディア様、夕飯の支度が整いました。クリュー様もよろしければどうぞ」

「――というカイベルからの美味しい誘惑を持ちかけられ、私が自分で作るより美味しい料理をいただけるのでそれも手伝ってついこの時間に足が向かってしまうのです……」

 夜七時から九時まで我が家では『千里眼リモート・アイ』により地球のテレビを解禁しているのを知っているため、それを見に来るのだ。以前死神クリューに憑かれた時 (第258話参照)に四六時中私に張り付いていたから、その時に知られてしまっているらしく、エレアースモから帰ってくるのを待っていたらしい。
 その以前からテレビ見たさにどうやって家に入り込もうかと思っていたらしいが、約束した一日一お菓子 (第259話参照)が三日間無かったために、これ幸いにとエレアースモから帰って来たタイミングで要求しに来て、そのままテレビ見て帰る日が続いているというわけだ。
 現在、この町でうちに来ればテレビを見られると知っているのは、私を除くとリディアとカイベルとクリューの三人だけ。
 そのため、七時からのアニメタイムに我が家に来てテレビを見て、ご飯を食べて帰るというサイクルが常態化しつつある。

 私がこの町に住むのを誘ってしまった手前、露骨に邪見にするのも感じ悪いかと思って家に招き入れてしまったのが判断の誤り。
 連日のように入り浸るようになってしまった……
 とは言え、連日となると入り浸り過ぎな気がする。
 それとなく別の場所でもテレビが見られるということを示唆してみる。

「我が家に来なくたってテレビ見られるところはあるよ、アクアリヴィアとかエレアースモなら見られると思う」
「遠いですよ……」
「あなたも闇のゲートでひとっ飛びできるんでしょ?」

 クリューには私のゲートに似た闇属性の転移魔法がある。
 これは私が用いる空間魔法のゲートとそれほど違いは無く、闇や影さえあれば使用可能。
 例えば自身の影と現地にある影とを繋げ、自身の影に飛び込めば現地の影に移動できるらしい。本人は闇の道ダークロードと呼んでいる。
 ほぼ死神や闇を司る神専用の魔法らしく、亜人や魔人の中には極々稀に使える者がいるものの、使い手は皆無に近いらしく、クリュー曰く『闇の道ダークロードを使える亜人や魔人を探すより、空間転移魔法を使える者を探す方が早い』らしく、世界中に数人いるかどうかだとか。

「わざわざテレビを見に外国へ行くんですか? 宿泊費だってかかりますし」
「義体から出て、死神の姿で行けば勝手に他人の家に入って視聴できるんじゃない?」

 死神の姿は亡者と魔力量が物凄く高い一部の魔人以外には視認出来ないから、他人の家に入って後ろで見ていても気付かれないはず。

「そんなこと何回も繰り返してたら義体が腐ってしまいますよ……それならこの町に住んでるんですから、ここに来ますよ」

 『ここに来ますよ』って……私が迷惑そうにしてるのは伝わらないのかしら?

「それに魔界のテレビはまだカラー化黎明期だったり白黒だったりで画質が地球のものと比較になりませんから。番組も地球のものより数十段見劣りしますし。正直言って面白くありません」

 ハ、ハッキリ言うわね……!
 しかし、女三人しかいなかったところに、男性が一人入ってくるというのは、否が応でも気になる……

「クリューは気付いてないのかもしれないけど、ここに住んでるのは女三人なんだけど……」
「はい。…………それが何か?」

 『それが何か?』じゃねぇよ!
 匂わせる程度では、こちらの意図を汲み取ってもらえないらしい……

「今まで女三人で生活してた中に男性が一人混ざると気になるんだけど……」
「まあ……女性三人とは言っても、一人はイカの幼生、一人はロリババア、一人は自動人形オート・マトンですから、私の興味の対象ではありません。裸でいられさえしなければ私は特に問題はありません」

 コイツ、今さりげなくロリババアって言いやがった!

「あなたが気にしなくてもこっちが気にするの!」
「ま、まああなた方が風呂に入る時間までには帰ってますし、そこまで目くじら立てるほどではないのでは……」

 死神という種族が心の機微に疎いのか、コイツの性格なのかは知らないが、こちらに対する心配りが足りてない!
 人間界で男女が一緒の部屋にいるというのは問題視される可能性があるが、コイツの場合は世界中飛び回っている根無し草だったから私たちとは常識が違うのかもしれない。
 ここに来れば『テレビが見られる』と知られてしまった以上、きっと今後も入り浸ると思われる。
 死神ですらこの体たらくなのだから、うちでテレビが見られるなんてことが町中に知られたら、大挙して押し寄せるのは明白ね……地球人の『楽しませよう!』という熱意は死神の心すら動かすってことか。
 死神って種族は、コイツに会う前は淡泊な性格のイメージだったけど、最初に遭った時に食べ物やお菓子が捧げ物になっていた辺り、欲望には忠実なのかもしれない。
 妥協案を提示して、徐々にその範囲を狭めて行って、ここに来る日にちも徐々に減らして行ってもらう作戦で行くか。

「じゃあ、ここに居るのは最大でも夜九時までにして! ただでさえ最近あなたの所為で七時から九時に設定したテレビ時間を超過しがちなのに! 十時近くまでダラダラとここに居座るから! お風呂入る時間だって遅くなるのよ!」
「……わ、わかりましたよ……九時には退去します……」

 しかし、私だけが気になっているだけで、リディアはと言うと……
 一緒にテレビ (主にアニメ)について語ることができる仲間が出来たため、むしろ喜んでいるように見える。今までテレビ仲間がいなかったから尚のこと。
 時には我が家の周りで『ポリピュアごっこ』と称して、魔法の打ち合いをする実戦さながらのごっこ遊びをしているようである。
 私……こんなごっこ遊び誘われたことないのに……
 これって、私を『母親代わり』、クリューを『友達』として見ているから……とか?

 このごっこ遊び、最初は結界の類は使っておらず、「家に魔法が当たると壊れるからよそでやれ」って言ったら、次の時は庭に闇の結界が登場。周囲に魔法の影響を出さないための囲いらしく、その中で打ち合いをしていた。
 クリューの方は闇魔法で何やら影のゴーレムのようなものを召喚し、リディアがそれを水魔法で倒すというような、地球ではやりたくても出来ない本物さながらの楽しそうなごっこ遊び。
 その成果なのかリディアは『500キロ水圧パンチ』と『水圧カッター』とかいう技を新たに修得したらしい。これがまた結構な威力がある上、クラーケン状態で使うとなお強力になる。移動を考慮しなければ最大で触手十本分の攻撃が同時に行えるとか。
 もしアクアリヴィアで対峙したのが現在のリディアだったら、私はコマ切れにされていたかもしれない。

 ただ……今、私の周りにはちょっと不穏な影がチラついているし、有事の際を想定すればこの“実戦的”ごっこ遊びは理に適っていると言えるかも。
 庭の結界については、町の人が見たらきっと何事かと思うだろうから、一応二人にはゼロ距離ドアが開いたら結界を消して何事も無かったかのように振舞うように言ってある。

 ちなみにカイベルがクリューのことをどう思ってるかと言うと……我関せず。
 まあもし邪魔だと思っていたとしても……仮にカイベルにクリューの排除を命令したところで、戦闘能力が『カイベル<私≦クリュー』のため、力づくで排除ってことは出来ないが……
 もう彼がここに居るのは仕方ないことと割り切ろう……
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