280 / 589
第11章 雷の国エレアースモ探訪編
第275話 エレアースモ国立博物館探訪 その8(動き回る“モノ”たち)
しおりを挟む
「人型が動くって言うなら、解せぬことがあるんだけど……あそこのホウキとチリトリと雑巾、あれも動き回ってるように見えるんだけど何で?」
「あれらも精霊が宿ったものです。亜人とよく接触していた物体も動くことがあるとかなんとか。亜人に限りませんが生物が物に触れると魔力の残滓 (※)が残るのでその記憶だったり想いだったりをトレースして、宿ったものの用途と同じような動きをするとか。私も原理とかそういう詳しいところまでは知りません」
(※残滓:残りカスのこと)
地球でよく言われるところの『念が籠る』というような状態かしら?
まるで付喪神のようだ。精霊と言うよりは妖怪の話を聞いてる気分になってきた。
「あの掃除用具たちは勝手に掃除してくれるので便利ですよ」
お~、それは良い! うちの役所に一式欲しいわ。
「あれは何の精霊なの?」
「多分ホウキの精霊とチリトリの精霊と雑巾の精霊なんじゃないでしょうか?」
そのままかい!
「十二属性に大別したらどれになるの?」
「多分、樹とか物質辺りですかね。ホウキや雑巾は元々は植物でしょうし。チリトリは金属ですから」
エミリーさんの話を聞いた後、改めて見回ってみると、ここの像や物は確かに動き回ってる。
ここに来た直後、ゴチャゴチャして倉庫みたいだと思ったが、ここへ運び込んで設置しておいてもその場にずっと居てくれるわけじゃないから、場所が動いたりゴチャゴチャしてくるのは仕方ないのかもしれない。
人の形をした石像やフィギュアは当然のように動くし、骨は身体を鳴らしながら動くからガチャガチャガチャガチャ五月蠅い。
松明の中には火精霊が寄って来て火を着ける。電球には雷精霊が電気を流す。床にぶちまけられた水は水精霊がお休みしていただけだった。後で人型になった水がペタペタ歩いてるのを目撃した。
時折強い風に吹かれるのは風精霊が通り抜けてるらしい。
フロア内に植えられている木は実は樹精霊で、時折動き回って散歩が終わったら元の場所に戻るらしい。この樹精霊は割と頭が良くて、閉館時には館内のお手伝いもしてるとか。
床に張り付いていた焼死体のようだった黒い影は、水精霊と同じくお休みしていた闇精霊だったらしい、近付いたらムクリと起き上がって人型になってどこかへ移動して行った。まるで名探偵ロナンの犯人みたいな見た目だった。
洋画にこんな風に展示物が動き回るのあったな……確か……『イブニングミュージアム』っていう、夕方になると博物館の物が好き勝手動き回る映画。兵士とか原始人の人形が動いて争っていたのが印象に残ってる。恐竜の骨とかも動いてたっけ。
「…………? エミリーさん、何か……外からも精霊入って来てない? あの火精霊とかは宿った物体がすぐに焼失するからすぐ精霊界へ帰れるよね? 何で頻繁に火が着いたり消えたりするの?」
「ここは精霊が沢山集まってるので、外側からも入って来易いのかもしれません。入り口の護符はあくまで“物体に宿った精霊を外へ出さないようにするもの”なので」
その直後、突然後ろから声をかけられた。
「こんにちは」
振り向くも誰もおらず……
キョロキョロと辺りを見回してみるものの――
「誰の声?」
「アルトラ様、アレですね」
エミリーさんが指差した先にあったのは――
「絵画?」
――女の子の描かれた絵画。
「これが語りかけて来たの?」
訝しみながらじっと見つめると――
「こんにちはこんにちは、わたしマリー、ようこそようこそ!」
おぉ……絵画なのに口まで動いてる……
「見ていれば身体も動き出すと思いますよ」
「身体が動き出す? どうやって?」
あ、ちょうど催してきた。じゃあトイレの場所でも聞いてみるか。
「マリーちゃん、おトイレはどこかしら?」
「あっちあっち」
絵の中で手と指が動き、方向を指し示してくれた。
「おぉ! 凄い! ホントに絵が動いてるわ!」
と思ったら――
絵の中から身体ごと出て来た!?
「あんないしてあげる、こっちこっち」
トイレまで案内してくれるらしい。今彼女が入っていた絵画には女の子がいなくなって、平原と空だけが残った。
まるでプロジェクションマッピングのようだ。
「案内してくれるみたいだから、ちょっと行ってくるね」
◇
用を足して戻ってくると、飛び出したマリーちゃんは元の絵画に戻っていた。
「あ、きちんと所定の位置に戻るんだ」
「本来下位精霊はコミュニケーションが取れない者がほとんどですけど、入り込んだ物が人型だと簡単な会話なら成り立つみたいですよ」
「へぇ~、この場所凄いわ……」
もしかしたらこういう風に亜人と関わることで言葉とか思考能力を学習して、上位精霊に成長していくのかもしれない。
「アルトラ、この部屋にある物面白いナ! 沢山の人形や絵と話して来たゾ!」
「どんなこと話して来たの?」
「お前は何の種族かとカ、普段なにしてるのかとカ、どこから来たのかとか聞かれタ。こっちから聞き返したラ、ここに来る前はどんなとこにいたとカ、見に来る客がどんなだったとかを聞かせてくれたゾ!」
あ~、やっぱりあっちからも観察されてるのか。そうやって知識を得ていくのね。
「あと、話してみると話し方が上手いヤツと何言ってるかわからないヤツがいたゾ! でもほとんどのヤツは何言ってるかわからんかっタ!」
それは最初にリディアに会った時みたいな感じってことなんだろうか? (第79話参照)
人型に宿って長い年月を過ごすと自我が確立されてコミュニケーションも上手くなってくるのかな?
ってことは、今トイレへ案内してくれたマリーちゃんは話し方が上手い部類なのかしら?
「動く骨みたいなヤツらは全然しゃべれないみたいだナ。近付いてみたけド、口動かしてもカタカタ鳴るだけで声が出なかっタ」
「ああ、それは多分声帯が無いからかな」
たまにいるしゃべる骸骨みたいなやつは、多分魔力で声帯機能を作ってるかなんかしてるんだろう。
自我があまり無いとされる下位精霊にそれが出来るとは思えない。
まあ……それを考えると『人形とかフィギュアとか、絵画に声帯があるのか?』って話になるけど、多分これも下位精霊のイメージがどう結びつくかの問題なんだろう。
細かいこと考えなくて良い魔法的考えって便利。
「じゃあそろそろ次へ行こうカ、どこ行くんダ? 死体展カ? それとも植物展カ?」
時計をチラっと見る。
もう四時半か……ここの閉館は確か五時。
「う~ん、閉館時間が迫ってるね。残念だけど今日はここでおしまいかな。他は次の機会だね」
「え~~、次いつ来るかわからないのニ?」
「そうは言っても、時間の問題はしょうがないし。さ、おみやげ見て帰りましょう」
「あれらも精霊が宿ったものです。亜人とよく接触していた物体も動くことがあるとかなんとか。亜人に限りませんが生物が物に触れると魔力の残滓 (※)が残るのでその記憶だったり想いだったりをトレースして、宿ったものの用途と同じような動きをするとか。私も原理とかそういう詳しいところまでは知りません」
(※残滓:残りカスのこと)
地球でよく言われるところの『念が籠る』というような状態かしら?
まるで付喪神のようだ。精霊と言うよりは妖怪の話を聞いてる気分になってきた。
「あの掃除用具たちは勝手に掃除してくれるので便利ですよ」
お~、それは良い! うちの役所に一式欲しいわ。
「あれは何の精霊なの?」
「多分ホウキの精霊とチリトリの精霊と雑巾の精霊なんじゃないでしょうか?」
そのままかい!
「十二属性に大別したらどれになるの?」
「多分、樹とか物質辺りですかね。ホウキや雑巾は元々は植物でしょうし。チリトリは金属ですから」
エミリーさんの話を聞いた後、改めて見回ってみると、ここの像や物は確かに動き回ってる。
ここに来た直後、ゴチャゴチャして倉庫みたいだと思ったが、ここへ運び込んで設置しておいてもその場にずっと居てくれるわけじゃないから、場所が動いたりゴチャゴチャしてくるのは仕方ないのかもしれない。
人の形をした石像やフィギュアは当然のように動くし、骨は身体を鳴らしながら動くからガチャガチャガチャガチャ五月蠅い。
松明の中には火精霊が寄って来て火を着ける。電球には雷精霊が電気を流す。床にぶちまけられた水は水精霊がお休みしていただけだった。後で人型になった水がペタペタ歩いてるのを目撃した。
時折強い風に吹かれるのは風精霊が通り抜けてるらしい。
フロア内に植えられている木は実は樹精霊で、時折動き回って散歩が終わったら元の場所に戻るらしい。この樹精霊は割と頭が良くて、閉館時には館内のお手伝いもしてるとか。
床に張り付いていた焼死体のようだった黒い影は、水精霊と同じくお休みしていた闇精霊だったらしい、近付いたらムクリと起き上がって人型になってどこかへ移動して行った。まるで名探偵ロナンの犯人みたいな見た目だった。
洋画にこんな風に展示物が動き回るのあったな……確か……『イブニングミュージアム』っていう、夕方になると博物館の物が好き勝手動き回る映画。兵士とか原始人の人形が動いて争っていたのが印象に残ってる。恐竜の骨とかも動いてたっけ。
「…………? エミリーさん、何か……外からも精霊入って来てない? あの火精霊とかは宿った物体がすぐに焼失するからすぐ精霊界へ帰れるよね? 何で頻繁に火が着いたり消えたりするの?」
「ここは精霊が沢山集まってるので、外側からも入って来易いのかもしれません。入り口の護符はあくまで“物体に宿った精霊を外へ出さないようにするもの”なので」
その直後、突然後ろから声をかけられた。
「こんにちは」
振り向くも誰もおらず……
キョロキョロと辺りを見回してみるものの――
「誰の声?」
「アルトラ様、アレですね」
エミリーさんが指差した先にあったのは――
「絵画?」
――女の子の描かれた絵画。
「これが語りかけて来たの?」
訝しみながらじっと見つめると――
「こんにちはこんにちは、わたしマリー、ようこそようこそ!」
おぉ……絵画なのに口まで動いてる……
「見ていれば身体も動き出すと思いますよ」
「身体が動き出す? どうやって?」
あ、ちょうど催してきた。じゃあトイレの場所でも聞いてみるか。
「マリーちゃん、おトイレはどこかしら?」
「あっちあっち」
絵の中で手と指が動き、方向を指し示してくれた。
「おぉ! 凄い! ホントに絵が動いてるわ!」
と思ったら――
絵の中から身体ごと出て来た!?
「あんないしてあげる、こっちこっち」
トイレまで案内してくれるらしい。今彼女が入っていた絵画には女の子がいなくなって、平原と空だけが残った。
まるでプロジェクションマッピングのようだ。
「案内してくれるみたいだから、ちょっと行ってくるね」
◇
用を足して戻ってくると、飛び出したマリーちゃんは元の絵画に戻っていた。
「あ、きちんと所定の位置に戻るんだ」
「本来下位精霊はコミュニケーションが取れない者がほとんどですけど、入り込んだ物が人型だと簡単な会話なら成り立つみたいですよ」
「へぇ~、この場所凄いわ……」
もしかしたらこういう風に亜人と関わることで言葉とか思考能力を学習して、上位精霊に成長していくのかもしれない。
「アルトラ、この部屋にある物面白いナ! 沢山の人形や絵と話して来たゾ!」
「どんなこと話して来たの?」
「お前は何の種族かとカ、普段なにしてるのかとカ、どこから来たのかとか聞かれタ。こっちから聞き返したラ、ここに来る前はどんなとこにいたとカ、見に来る客がどんなだったとかを聞かせてくれたゾ!」
あ~、やっぱりあっちからも観察されてるのか。そうやって知識を得ていくのね。
「あと、話してみると話し方が上手いヤツと何言ってるかわからないヤツがいたゾ! でもほとんどのヤツは何言ってるかわからんかっタ!」
それは最初にリディアに会った時みたいな感じってことなんだろうか? (第79話参照)
人型に宿って長い年月を過ごすと自我が確立されてコミュニケーションも上手くなってくるのかな?
ってことは、今トイレへ案内してくれたマリーちゃんは話し方が上手い部類なのかしら?
「動く骨みたいなヤツらは全然しゃべれないみたいだナ。近付いてみたけド、口動かしてもカタカタ鳴るだけで声が出なかっタ」
「ああ、それは多分声帯が無いからかな」
たまにいるしゃべる骸骨みたいなやつは、多分魔力で声帯機能を作ってるかなんかしてるんだろう。
自我があまり無いとされる下位精霊にそれが出来るとは思えない。
まあ……それを考えると『人形とかフィギュアとか、絵画に声帯があるのか?』って話になるけど、多分これも下位精霊のイメージがどう結びつくかの問題なんだろう。
細かいこと考えなくて良い魔法的考えって便利。
「じゃあそろそろ次へ行こうカ、どこ行くんダ? 死体展カ? それとも植物展カ?」
時計をチラっと見る。
もう四時半か……ここの閉館は確か五時。
「う~ん、閉館時間が迫ってるね。残念だけど今日はここでおしまいかな。他は次の機会だね」
「え~~、次いつ来るかわからないのニ?」
「そうは言っても、時間の問題はしょうがないし。さ、おみやげ見て帰りましょう」
1
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!
966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」
最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。
この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。
錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
※タイトルはそのうち変更するかもしれません※
※お気に入り登録お願いします!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる