建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第11章 雷の国エレアースモ探訪編

第269話 エレアースモ国立博物館探訪 その2(魔界の生物の進化史)

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「生物展に行きたイ!」

 やっぱりね。子供は生物好きだものね。
 私としては魔道具展と死体展、あと精霊展に興味があったけど。

「じゃあ生物展に行きましょうか」

 残念だけど魔道具展や死体展、精霊展は次の機会かな。

 生物展の部屋へ進む。
 生物展、最初のコーナーは生物の成り立ち。
 この冥球でも地球と同じく、微生物からの進化により亜人種が誕生したという説が有力。
 ただ地球と違うところは、人型生物に進化したのが猿からだけではなかったという点。
 微生物⇒水棲の小動物⇒魚類などの海洋生物、ここまではそれほど変わらない。
 ここから凄かったのが、海洋生物からの亜人への進化。そして生まれたのがサハギンや人魚族のような水棲の亜人だとか。人型になる過程をかなりすっ飛ばしているが、この世界には魔法の概念があるため、突然魔法を使えるようになった魚が出現し、そこから知識を得、知恵を得、人に近い身体機能をも獲得していったと考えられている。
 ただ、もちろん長い年月の進化であるため、魚と魚人の間にしゃべれない魚人とか、しゃべれる魚類とかも挟んだのかもしれない。
 海洋生物の中で特に魔力量が多かったものが、高位生物へと進化し、完全なる人型の身体を疑似的に手に入れることに成功したとか。
 ということは、リディアはこれらの海洋生物たちの営みの結晶、至宝ってことね。
 ちなみに人型になれる生物はクラーケンやレッドドラゴン、ルフの他にもいるらしいことが示唆されている。なお、『高位生物』という呼称については私がそう認識しているだけで、そう記述されているわけではない。『中には稀に人型に変身可能な生物が確認されている』とだけ記されているに過ぎない。

 同様に猫の獣人は猫から、犬の獣人は犬から、鳥の獣人は鳥からの進化らしい。
 『何で地球でもないのに、犬とか鳥とか地球と似たような進化なんだよ』と考えてはいけない。魔界ここではそういう進化をしたのだから考えるだけ野暮やぼというものだ。

 ドラゴンについては恐竜からの進化らしく、太陽が消えた時の寒さを乗り越えて現在の形になったらしいので、ある意味恐竜の生き残りと言える。
 魔力量の多かった者が寒さに適応して高位種族となり、それが今居る全てのドラゴンの祖となったらしい。つまり最初に恐竜からドラゴンに進化したのは氷に強かったドラゴン。下位種の人型になれないドラゴンはその後に生まれた魔力量の少なくなった者たち。
 これを知ると、何でフレアハルトらレッドドラゴンが寒さに弱いのか全くわからない……きっと長い年月の間に炎に特化進化し過ぎたのだろう。

 魔界の進化形態は、地球の進化形態に比べてかなり幅広い。
 地球では微生物から人へと進化する絵図を描いたものが存在するが、ここにもその進化絵図があった。
 しかし、地球のものは微生物から人への進化の矢印は一直線だったのに対し、ここの進化絵図には分岐する矢印がいくつもある。
 魚から分かれて魚人、両生類から分かれてカエル人、爬虫類から分かれてドラゴンや竜人、鳥類から分かれて鳥人、獣から分かれて獣人、最後にようやく亜人に行き着く。
 具体的には以下みたいな進化図になっている。

 魚類 ⇒ 両生類  ⇒  爬虫類   ⇒  鳥類  ⇒  獣  ⇒ 亜人
 │     │     ┌─┴─┐     │      │
 魚人   カエル人  ドラゴン 竜人    鳥人     獣人

 かなり簡略化しているが、人型に進化してる者の中でも複雑に進化していて、魚に近い顔の魚人であるサハギン、人に近い顔の魚人である人魚や、獣に近い顔の獣人、獣耳や尻尾だけ残ったほぼ人間のような見た目の獣人など、進化の方向が幅広く複雑になっている。

   ◇

 私が生物の進化史を見ていたら、リディアはそんなのに興味無いらしく、大分先へ進んでいた。
 慌てて追いかける。

「リディア、もうちょっとゆっくり見たら?」

 リディアに近づくと再び空間が開け、大きめの生物が展示されたフロアへ出た。
 上を向いていたリディアの視線の先を追うと、そこにはクラーケンの剥製があった。

「でかーーー!!」

 成体のクラーケン。目測ではどれくらいの大きさか分からないけど、以前リディアが言っていたことをそのまま鵜呑みにするなら、百メートルくらいあるらしい。

「リディアにはわかル。このクラーケン、リディアと同じ血筋。多分グランパかそれより前ノ」
「へぇ~、そんなことまで分かるんだ」
「まだ微かに魔力が残ってル」
「このクラーケンは、この国のために尽力してくださったクラーケンらしいですよ」

 と、エミリーさんが横から教えてくれた。

「何でそんなこと分かるの?」
展示の紹介文ここに書いてあります」
「なになに? 『九千四百年代にエレアースモから出航する船を補佐した偉大なクラーケン。世にも珍しい会話が可能な海洋生物ということで国で重宝され、その巨体が珍しいことから死後はエレアースモ国立博物館に献体された』って書いてあるね。国のために頑張ってくれたんだって、リディア!」
「へぇ~、良いことしたんだナ。ご先祖様安らかにお眠りくださイ」

 と言いつつ手を合わせるリディア。

 でも、五百年も前って考えると、このクラーケンの子孫は結構沢山いるんじゃないかしら?
 それとリディアこの子は出会った時、会話が成り立たないくらいの知能だったから、他人との会話がきちんと成り立ってたかどうかは気になるわね。多分ほとんどの者たちは海から出て生活することなく、海中生活で一生を終えるんだろうけど。

 クラーケンの巨大さに気を取られていたけど、この場所は海洋生物の剥製が沢山置いてあるみたいだ。
 クラーケン以外で特に大きいものはアスピドケロンという巨大亀、リヴィアロブスターという超巨大海老とか。リヴィアロブスターについては、その名の通りアクアリヴィアに現れた海老らしい。普通の大きさの亜人ならそのハサミで挟まれたら胴体も真っ二つだろうと想像できるくらい大きい。
 水族館に居た生物の剥製もある。上半身馬で下半身魚のケルピー、広域を飲み込んでしまうというカリュブディス、骨鯨の成体と幼体。
 骨鯨の成体はほぼ真っ白のクジラという感じ。それに対し、幼体はスッカスカで骨格標本のようだ。
   (本作の『骨鯨』の生態については第86話を参照)
 あ! シンガポールにいるヤツマーライオンの剥製まで置いてある!

 幻想生物だけかと思ったら、普通の魚とかタコとかイカとか、甲殻類も置いてある。

   ◇

「こっちは何だろウ?」

 設えられた小部屋に入ると、小さめの貝、カニなどが展示されたスペース。なるほどこれらは小さくても確かに海洋生物だ。

「あ、海にいた頃はこういうの食べてたナ。これが特に上手かったゾ!」

 と言って指差したのがサザエに似た貝。魔界こちらにも似た貝があるのね。見た目が似てれば味も美味しいわけか。

「こういうのってどうやって食べてたの?」

 イカの触手で器用に中身取り出せるとは思えない。
 かと言って、外殻はかなり硬い。

「そのまま口に入れてたゾ。バリバリして歯ごたえもあって美味かっタ!」

 普通に貝殻ごと食べてたのか。まあそうよね……人間には真似できないわ。

 見回すと顕微鏡が置いてある。
 生物展だから微生物も展示しようってことかな?

「何が居るか覗いてみたら?」

 リディアが顕微鏡を覗いてみると――
 数秒後に凄い勢いで後ずさりした。

「ど、どうしたの?」

 少し青ざめた顔をしている。微生物が気持ち悪かったのかな?

「アレ、魔法で小さくなった時に風呂で見たことあル! ウジャウジャいた気持ち悪いヤツらダ!」

 ああ、あの時の……
 トラウマになってるやつか。 (第99話参照)

「こ、ここはもう良いヤ!」

 早々に出て行ってしまった。あの一件は思った以上にトラウマになってるらしい。
 せっかくなので私も顕微鏡を覗く。
 う~ん……これが巨大に見えるとなると、確かに……キモい……

「アルトラ! 変な生物の剥製があるゾ!」
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