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第11章 雷の国エレアースモ探訪編

第262話 知らない間に気恥ずかしい尊称を付けられていた!

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『今日のゲストは、空間魔法災害の折りに、胴体切断という命に関わる大怪我を負いながら、奇跡の生還を果たした樹の国の商人、エルフ族のフレデリックさんで~す!』
『恐縮です』

 あの顔見覚えある! あの亜人ひと、病院で治療したエルフの男性ね。 (第134話参照)
 思いっきり私が治療したエルフひとじゃん!
 あの時は憔悴しきっていて、ゲッソリしていたからまるで別人のようだわ!
 良かった、歩けるようになったのね。

『私がこうして、二本の足で立って歩いていられるのはトールズ総合病院のみなさんと、瀕死の私を治療してくれた“とある女性”のお蔭です』
『フレデリックさんは空間魔法災害で、胴体を切断され、死も目前と言われるほどの瀕死の重傷を負ったようですが、どのように生還されたのでしょうか?』
『私がベッドに寝かされ息も絶え絶えで血も止まらず、成す術も無い状態の時に、そのとある女性がふらりとやってきて、水の球で出来た回復魔法を胴体と、左腕の切断面に施して『一、二週間ほどで完全に回復できます』と言って去って行きました。その後、彼女の言われた通り、日ごとにどんどん身体が再生されていき、二週間経たずして完全な状態に回復することができました。その後のリハビリが少々大変でしたが、こうして半年ほどで歩けるくらいにまで回復できました』

『下半身そのものを回復させるとなると、普通の回復魔術師では中々難しい技術ですね。それも痛みを伴わない回復となると』
『はい、その回復治療に痛みが無かったことについても感謝しています。私自身、意識も朦朧とした状態でしたので、きちんと頭が働くようになるまでは夢現ゆめうつつの出来事かと思っていました。胴体切断すら夢であったのではないかと。しかし、意識がはっきりした後に私の担当の先生に聞いたところ、治療に訪れてくれた女性は確かに実在したようなのです。ですが彼女は名前も名乗らずにいずこかへ行ってしまわれたため、どこの誰かもわかりません。わかっているのはこの国の回復魔術師の格好をしていたことと、片目に眼帯をしていたことくらいです。それと少女のように見えました。それ以上は意識が朦朧としていた所為かよく憶えがありません』

 しゃべってるのは完全に私のことだ……目立たないように行動しないと。疑似太陽創成に支障が起きてもいけない。

「へぇ~、下半身まるまる再生させるなんテ、凄いヤツがいるんだナ~」

 リディアがサインドウィッチを頬張りながらもテレビから聞こえる声に傾聴している。
 あなたの目の前に居るよ、その凄いヤツが! 普段もうちょっと敬ってくれないかな? 最近アニメ再生マシーンと化してるし。

「リディアも足くらいならいけるけド、胴体まで行ってたらダメかもナ~」

 足は再生できるのか。流石イカ!

『今回もうお二方、恐らく同じ女性に命を救われたのではないかと言う方々に来てもらっています』
『はい、私たちもその女性に切断された腕を治してもらいました。私たちは路上で治療を受け、顔も見ています。金髪で黒いツノか髪飾りをしていて、黒くて動く不思議な服を着ていました』
『黒くて動く服ですか? それは凄く特徴的な服ですね!』
『はい、あの日以来、お礼をしようと首都トールズ内を探しましたが半年経った今でも見つけられていません。広場での大規模な治療に従事していたそうなので、治療してもらった方は沢山いるものの、その後の足取りは全く掴めないんです』

「黒く動く服だってサ! アルトラと同じだナ!」
「そ、そうだね……」

『噂によると、空間魔法災害を終息へ導いた女王アスモデウス様のサポートを務められた『名も知らぬ少女』と同一人物ではないかという話もありますが』
『その話は私も聞いたことがあります。そのサポートを務められた方も金髪でツノか髪飾りをしていたそうですし、最初は騎士団の白天使の誰かかと思い聞き込みに行ってみましたが、残念ながらその中にはいないようです。その時話を聞いた白天使の方に、画期的な回復魔法を伝授してくれたのもその方ではないかという話を聞いています』

 な……なんか大ごとになってるみたいだけど……もし訊ねられるようなことがあっても知らんフリしよ。
 エルフィーレ製の服を着て来て正解だった。ゆらゆら動く闇のドレスは否が応にも目立つ。
 ドキドキしながら、運ばれてきたコーヒーに刺さったストローに口を付け、勢い良く吸い込んだところ――

『これらの話や噂話と併せ、その少女のような風貌から『救国の乙女』と呼ばれてるみたいですね!』

「ぶーー!! ゴホッゴホッ!!」

 ――コーヒーを盛大に吐き出してしまった……

「アルトラ……汚いゾ……」
「ご、ごめん……」

 え、なに? 『救国の乙女』って……そんな呼ばれ方してるの?
 “救国”って……何て仰々しい……

『この映像に映っている方たちの中で、眼帯をしているのはこの方しかいないのでこの方が『救国の乙女』とされています。現在、この方を探しています。お心当たりのある方はEHKエレアースモ放送局のこちらの番号までご連絡ください』

 映像!? いつの間に撮られたの!?
 あ、あの広場の治療の時か! あの時テレビ局もいたのね。
 白黒で、多少画質が荒いのが救いか……
 それを見てエミリーさんが話しかけてくる。

「あれって眼帯してますけど、アルトラ様ですよね? 名乗り出ないんですか?」
「とんでもない! 面倒が増えるだけだからわざわざ名乗り出ることなんかしないよ!」
「バレるのも時間の問題だと思いますけど……」
「アスモのお願い聞いたらすぐ帰る予定だから、それまでにバレなきゃOKよ」

「あの!」
「はい?」
「もしかして『救国の乙女』さんではないですか?」

 実際言われると恥ずかしいな、“救国の乙女”……
 短時間だからバレるはずがないと思った矢先からこれか……

「あの時あなたに脚の治療をしていただいた者です!」
「い……いえ、観光客ですので何のことだか……」

 う~ん……もう半年も前のことだから一目見た人の顔なんて流石に覚えがない。

「た、多分人違いではないかなと思います」
「そうですか……やっとお礼が出来ると思ったのですが……失礼しました」

 断ったことで、ちょっとした罪悪感……

「良いんですか? 凄くガッカリして帰りましたけど……」
「私の平穏のためには仕方がないのです」
「もうすでにバレそうになってましたけど……?」
「知らんぷりすれば問題無い、と思う……」

 と、思っていたのだが――

   ◇

「『救国の乙女』さんですか?」
「い、いえ違います……」

   ◇

「もしかして、『救国の乙女』さんでは?」
「いえ……人違いです……」

   ◇

「あのー、『救国の乙女』さんではないですか?」
「ち、違います……」

 みんな勘が良すぎじゃないか!?
 あの画質の荒い映像で、何で私だって思うのか……?

「なー、アルトラ~、さっきからみんな言ってる『救国の乙女』って何ダ?」
「さ、さあ何だろうね……?」

 さっきテレビ見てなかったっけ?
 いや、そもそもリディアには私が『救国の乙女』と呼ばれているという認識が無いから、『救国の乙女=アルトラ』という考えに至らないのか。

「あのー……」

 また来た……

「違います!!」
「あ、すみません! 道をお聞きしたかったのですが……」
「わ、私の勘違いでした! し、失礼しました!」

 近付いてくる人全員に救国の乙女だと質問されるのではないかと思った私の早とちり。恥ずかしい……
 食い気味に否定してしまったが、ただの道を聞きたいだけの一般人だった。
 とは言え私も観光客だから答えられない……が、カイベルを連れて来ているので彼女に任せれば解決するだろう。

「カイベル、対応してあげて」
「はい、どこへ行きたいのでしょうか?」
「この場所に――」

 ここまでは知らぬ存ぜぬで捌けていたが、小一時間もすると噂はかなりの速度で広がるようで、決定的に面倒な出来事が起きる。

   ◇

「ここに『救国の乙女』に似た亜人ひとが居るというタレコミがありました!」
「さっきの映像に映ってる亜人ひとに容姿が似ている方ならそこのテラス席に座っておられますけど……」

 え!? まさかテレビ局!? 耳が早い! まだ放送されて小一時間しか経ってないのに!
 カメラやマイクを持った数人の亜人ひとが私に詰め寄る!

「もしかしてあなたが『救国の乙女』さんですか!?」

 まずい……まだ疑似太陽創成前だし、テレビに映るのはかなり面倒になりそうだ!
 さっさとおいとましよう。

「い、いえ観光客なのでよくわかりません……ご、ごめんなさい、この後用があるので失礼します! みんな行くよ!」
「え? もう行くのカ?」
「あ、お待ちください! お話だけでも……!」
「ごめんなさい、急ぎの用事ですので!」
「あ、サンドウィッチもう一つ食べてないのニ!」

 渋るリディアの手を引き足早に歩きつつ、後ろから付いてくる亜人ひとたちに聞こえないくらいの声量でエミリーさんに話しかける。

「エミリーさん、そこの路地を曲がったところで、リディア抱えて空飛んで! 空中にゲートを開いて王城へ帰還する!」

 と、言いながらリディアをエミリーさんにお任せする。

「わ、わかりました!」

 路地を曲がった直後、私も筋力強化の魔法をかけてカイベルを抱えて飛び上がり、ゲート転移。

「あの! お話だけでもお聞かせくださ……あれいない?」
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