上 下
260 / 541
第10章 アルトレリアの生活改善編(身分証明を作ろう)

第256話 死神が迎えに来た!

しおりを挟む
 寒さのピークも過ぎ、ほんの少しだけ暖かくなってきたらしい。
 農繁期に向けて畑の魔道具の性能点検に行き、帰りがけにメイフィーと世間話をしていたところ、長い黒髪で人間のような見た目の女の子がこちらへ向かって歩いて来るのが目に入った。

 何だあの女の子……?
 あんな子うちの町に居たかな?
 明らかにトロルじゃない。
 人間みたいな肌の色。そんな亜人はこの町では私が把握している数人しかいないはず。

「ねえ、あの子、いつこの町に住み着いたの?」
「あの子? どの子ですか?」
「ほら、あそこにいる……」
「どこですか?」

 私にしか見えないのか?

『歪な魂をあるべき場所へ戻すため来ました……』

 何言ってるんだ? いびつな……魂?

『地獄に身を置かず、亡者でありながら地獄からの脱走を企て、何事も無かったかのように外で生者のように振舞う。地野ちの かい、あなたの魂を本来あるべき地獄へと連れ帰ります』

 今、『地野ちの かい』って言った?
 明らかに私に対して敵意が向いている。
 それに手に持ってるのは大鎌? あれってもしかして死神ってやつ?

『ただし、『代価』を支払うことで猶予を与えられます。つきましては、代価を支払っていただきたいと思います』

 代価? 代価ってなに?

「あ、あの……代価って何ですか?」
「アルトラ様……誰と話してるんですか?」
『………………代価の存在すら知らないようなので、あなたの魂を本来行くべきだった場所へお返しします』

 大鎌が振りかぶられ、大振りの一撃!
 身体を反らしてかわした。

「アルトラ様、突然身体を反らして、どうしたんですか?」

 死神が見えてないから、メイフィーには私が突然身体を反らしたように見えるのか。

「ごめん、私もわけがわからない! カイベル連れて来て! 早く!」
「は、はい!」

 その後も振りかぶられる大鎌をかわす。
 この場で交戦すると周りに被害が及ぶかもしれない。
 羽を出してこの場を飛び去り、町の外へ誘い出す。
 死神の方も骨の翼を出して付いてきた。

   ◇

 大分南へ飛び、魔法を撃っても町にまで被害が及ばないであろう場所まで飛んで来た。

「さあ、ここなら町に被害が及ばないから相手してあげられるわ!」

 あの鎌は……多分当たったらヤバイ部類のものだと思う。胴体に当たったら多分即死か、魂にされて持って行かれるか。どちらにしても即死には違いない。
 「連れ帰る」って言っておいて鎌を振り抜いたから、あれに斬られれば地獄へ連れ去れる可能性が濃厚。

「ファイアボール!」

 炎の球を複数個投げつけて牽制してみるが――

 ………………
 全く意に介さず一直線に突っ込んで来た!
 火球が当たってるのにダメージが全く無い!
 大鎌を下から振られ、空中で翻ってかわす。
 なおも空中で二度、三度と大鎌を振り抜かれ、その度に上に下に避ける。

『避けられてらちが明かないですね。動きを止めてもらいましょう。『シャドウ・バインド』』

 彼女の影の中から黒いツタのようなものが出現! 四肢を拘束されてしまった!

「しまった! これじゃ避けられない!」

 このツタ、多分闇魔法だから――

「ライティング!」

 自分の頭上から光で照らし、黒いツタを消し去った。
 これで再び動ける!

「じゃあ、今度はあなたに動きを止めてもらうわ! 『石神像の圧殺掌ゴーレム・ハンド』!」

 土魔法で地面から石の腕を作り出し、両側から圧し潰し、そのまま石の中に閉じ込めた。
 さっき全くダメージが無かったのを見る限り、これくらいやっても大丈夫……なはず。下手したらミンチになってるかもしれないけど……
 このままカイベルが来るまで閉じ込められててもらおう。

 ドオォォン!!

「………………」

 大丈夫どころか、すぐに石の腕を破壊して無傷で出て来た……
 めちゃくちゃだ……

『ふぅ……面倒ですね……』
「面倒なら見逃してくれない?」
『申し訳ありませんが『代価』をお支払いいただけなければ見逃さない規定ですので』

 だから『代価』ってなんなの!?
 死神だって言うなら、きっと光には弱いはず!

「『超広範囲ギガンティックホーリー』!」

 逃げられないように、超広範囲に強い光の力で攻撃する。
 まばゆい光の柱が出現、死神の姿は光で全く見えなくなった。

「アンド『輝きの鉄柵牢シャインジェイル』」

 ダメ押しにホーリーから逃げられないように光の柵を作った。
 光に弱いならこれで多少はダメージを受けてくれるはずだけど……
 光の柱から少し離れた場所へ移動して様子を見る。

 動いた様子はない。やったか?
 ホーリーの光が徐々に消えて、光の柵だけ残った。

「!?」

 全くダメージが無い……
 光の柵を鎌で一薙ぎすると、粉々に砕け散った!

『多少目がくらみましたね。さああるべき場所へ帰りましょうか。大丈夫、斬られた際に痛みはありますが、瞬時に地獄に送られて蘇生されるのでご安心ください』

 地獄に連れて行かれるんじゃ、ご安心できないじゃないの!!

 更に攻撃してくる!
 大鎌を避ける避ける!
 炎がダメ、物理的な圧迫攻撃もダメ、弱点ではないかと予想した光魔法もダメ、ど、どうしたら!?

 と、効果的な方法が思いつかず、回避に徹していた時、メイフィーに呼んでもらっていたカイベルが到着した!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました

新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。

処理中です...