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第10章 アルトレリアの生活改善編(身分証明を作ろう)

第254話 七兄弟、骨肉の(?)争い

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 その後日、名字の件でイチトス七兄弟と、その他複数兄弟姉妹を呼び付けた。

「あなたたちを呼び付けたのは他でもありません、名字のことについてです!」

「いかがいたしましたか? きちんと提出したように思いますが……」
「私たちもちゃんと提出しましたよ!」
「何でみんな兄弟姉妹揃って呼ばれてるんですか?」
「名字の付け方についてルール説明を回覧板で回したよね? 特にイチトス七兄弟!」

「「「「「「「えっ!? 私 (俺) (僕) (俺っち)たちです (ッス)か!?」」」」」」」

「兄弟の人数が多いから仕方ないところもあるのかもしれないけど、あなた達が特に酷かったのよ!」
「私が名付けて提出したはずですが……」

「「「「「「えっ?」」」」」」

 イチトスの言葉に六兄弟全員が驚きの反応を示した。

「えっ?」

 六兄弟全員に驚かれたためか、イチトス一人だけポカーンとしている。
 そして全員が顔を見合わせ、一呼吸後に全員がしゃべり出す。

「いや、私が提出しましたけど!」
「いやいや! 俺も出したぞ!」
「僕も出しましたよ!」
「私も出しました!」
「……俺も出した……」
「俺っちも出したッスよ!」

 六人一度にしゃべり出して、うるさい……
 全員が全員独自に提出してるじゃない……どうなってるの?

「それって全員ちゃんと確認し合った?」
「いえ、こういうのは長男が提出することかと……」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 ニートスから順に、全員がイチトスに反論する。

「いやいや、『私が出して良いか?』って後ろから声かけたらイチ兄やん、『ああ、頼む……』って言ってたじゃないか!」
「えっ!? ニー兄貴も!? 俺も後ろから声をかけたらイチ兄貴、『頼む……』って」
「僕も後ろから声かけたらイチ兄ちゃん、『ああ、わかった……』って言ってたよ?」
「私も後ろから声をかけたらイチ兄さん、『お前に任せる』って」
「……俺も後ろからだった……俺が出して良いかって聞いたらイチあにぃ、『主張するなんて珍しいな、お前の考えを尊重する』って……」
「俺っちも後ろからだったッスね! イチにー、『好きなのにすると良い』って……」

「ハァァ!? お前たち何言ってんだ!? 声をかけた!? いつ!?」

 全く意思疎通が出来てないな……
 しかも了承した本人は覚えていないと……
 この話から導き出される答えは一つ。

「イチトス、あなたもしかして居眠りしてたんじゃない? みんな後ろからしか目撃してないし。全員に寝言で返事しちゃったとか」
「ははは……そんなバカな……」

 私も『こんなことあるのか?』とは思うけど……

「あの時電灯 (※)点けて何か書き物してたな」
「そういえば、前後に揺れててうつらうつらしているような動きだった気も……」
「覚えてないのがその証拠ッスね!」
   (※電灯:魔力動力式のドワーフ製携帯電灯。まだ町に発電施設が無いため、魔力を溜めて発光させる)

「ち、ちなみに、アルトラ様、みんなが提出したのはどんな名字だったんですか?」
「全員が全員思い思いの名字を提出しに来たよ。じゃあニートスから順に言ってみて!」

 順にニートスからナナトスまで思い思いの名字を言っていく。

「ニートス・トロル・ファーマー」
「サントス・トロル・アーキテクト」
「ヨントス・トロル・アーティスト」
「ゴトス・トロル・コック」
「ロクトス・トロル・ニンジャー」
「ナナトス・トロル・ローリングサイクロントルネード」

「で、イチトスは?」
「イチトス・トロル・サブリード」

「バラバラじゃねぇか!!」

 と、思わず大声でツッコミを入れてしまった……
 全員が全員、今自分が就いている職業を元に考えてきたらしい。ナナトスを除いて……
 そして、ここから言い争いに発展。

「何言ってんだイチ兄やん! 『副先導者サブリード』って自分だけのことじゃないか!」
「お前たちこそ『農家ファーマー』とか建築家アーキテクトとか料理人コックとか気が早いだろ!」
「一度名付けたら、以後変えられないだろうが!」
「いやいや、ニー兄貴のを付けたら、俺たち全員、名字が農家ファーマーになるのかよ!」
「ところでロクトス、『ニンジャー』って何でしょうか?」
「……俺、生態調査部だから、裏方の職業で何かカッコイイのが無いかカイベルさんに聞いたら『ニンジャなんてどうでしょうか?』って言われた……」
「それよりもナナトスの『ローリングサイクロントルネード』って何だ!! 何の職業なんだ!」
「カッコイイじゃないッスか! それに職業を元に名付けるところでもないッスから!!」

 子供達が雨の日に言ってた『ローリングサイクロントルネード』って、もしかしてナナトス考案の名前なのか?

 ちなみに、ルークも『サブリード』だった。イチトスと被ったと伝え、今後の子孫のことも考えて変えてもらうように頼んだ。
 更に余談だが、リーヴァントは『リード』、キャンフィールドは『アシスト』だった。これらも後々もしかしたら子孫に影響が出そうだから変えてもらうよう頼んだ。
 何せ一度名付けてしまったら、ずっと未来永劫『先導者リード』、『副先導者サブリード』、『補佐アシスト』と呼ばれることになる。もし未来に子孫の立場が変わった時に困る可能性を想定し、変えた方が無難だと考えた。
 サブリーダー四人の中では、クリスティンだけ常識的で『ティーチャン』だった。人を教える立場になりたいということで、ティーチャー。それをちょっともじって『ティーチャン』になったらしい。

「はいはい、言い争いはそこまで!」

 「パンパンッ」と手を叩いて言い争いを制止させる。

「一つ解決案を提示する。あなたたち親いるでしょ?」
「いますが……それがどうか致しましたか?」
「両親に考えてもらったら良いんじゃない?」
「長男の私に一任されましたので」

 ってことは、一応決定権はイチトスにあるわけか。
 でも、イチトスは六人全員の意思について、覚えていないながらも了承していると。

「でも、イチ兄は俺ッチたちの案を採用したじゃないッスか!」
「それは……すまん、覚えてないから無かったことに……」

「「「「「「えーーー……!!」」」」」」

「それに六人全員了承してたら収拾つかないし、今回は私の案で……」
「『今回は』って、名字決めるのは今回しか無いだろ!」

「とにかく! 七人でちゃんと話し合って、一つを考えて来て! この場に呼ばれている他の兄弟姉妹の人たちも一つに統一して、後日再提出を!」
「「「……わかりました……」」」
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