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第10章 アルトレリアの生活改善編(身分証明を作ろう)

第248話 米と小麦が来るらしい

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 リナさんにお願いしていた、スカイドラゴン便が来るらしい。

「え? いつ?」
「今日の予定ですけど……」

 マジ?

「きゅ、急に!?」
「あれ? リーヴァントさんから伝わってませんか?」
「リーヴァント了承してるの? じゃあ全部任せておけば良いわ」
「そういうわけにはいかないのでここへ来たんです!」
「な……何で?」
「今回は一応私が持つとは言え、後々アルトラ様にお支払いいただくので、責任者に居てもらわないと困ります」

 あ~、そういうことか。

「私が用意するものはある?」
「いえ、用意するものは無いですが、一応確認のため運送されたものを見に来てください」
「カイベルも同行してもらえる?」
「了解しました」


   ◇


 連れて来られたのは、壁の外にある畑よりなお南の平原。
 もう既にお手伝いとして大勢の町民が集まっている。

「これ全部手伝い?」
「そうらしいですね」

 あ、あそこにリーヴァントがいる。
 早速運送屋にお願いしたみたいだ。
 六本脚の馬スレイプルが引く馬車が六台来ている。もうリヤカーから馬車にバージョンアップしたらしい。あまりにも短期間の移行だから、最初から馬車を想定して動いてたかもしれないわね。

「ん? リナさん、あの地面に書かれたSは何?」

 地面に大きく書かれた円の中に魔界文字のSに似たものが入った紋様がある。

「『Sky Dragon Flightスカイドラゴン便』の頭文字ですよ。着陸の目印として書いておきました」

 ああ、なるほど、地球で言うところのヘリポートの『H』みたいなもんか。

「これをどこへ運ぶ予定なの?」
「とりあえず役所近くの倉庫へって話では? 入りきらない場合は役所内へと……」
「それで……これって何日分?」
「通貨制度開始初日の反省会後に話し合って三ヶ月分ってことになったんじゃなかったでしたっけ?」
「ああ、そういえばそんな話してたっけ。ここ数日七大国会談とか、突然の雪とかで頭がいっぱいだったから忘れてた」
「アルトラ様、疲れてませんか?」
「ああ、うん、ごめん、ちょっと思い出すわ」


   ◆


 時は少し遡り、通貨制度開始初日、反省会後――

 リナさん、リーヴァント、カイベルを交えて、どれくらいの米と小麦を取り寄せてもらうか話し合っていた。

「冬の間、私がお米と小麦を輸入するって話になりましたけど、この冬とかいう期間はいつ終わるんですか?」
「さあ?」
「さあって、じゃあ区切りが付けられないじゃないですか!」
「魔界の冬がいつ終わるか判断付けられないのよ。日本なら大体現在から三ヶ月後くらいには終わり頃を迎えるんだけど……」
「じゃあ、とりあえず三ヶ月分の輸入ってことにしておきますか?」
「うん、ちょっと待って、少し考えてみるから」

 え~と……一人分の三ヶ月ってどれくらいになるんだ?
 確か……昔の『一石いっこく』って単位が人一人が一年間食べられる米の量だったはず。

「カイベル、一石いっこくってどれくらいの量?」
千合せんごうですね」

 『千合せんごうですね』って言われても現代人の私にはピンと来ない……

千合せんごうって何キロなの?」
「およそ百五十キロです」

 ってことは、それを三ヶ月分に割ると……え~……三十七.五キロか。
 これの千四百人分だから……
 …………五万二千五百キロ!? 五十二.五トン!?
 三ヶ月でそんなに食べてる!?
 これを一日平均に直すと……四百十六グラム……う~ん……私生前多分これくらい食べてたから判断が難しいわ。これって適正な量なのかしら?
 でも、これは江戸時代のめちゃくちゃ米を食べてた時のだから、現在の日本人の消費量は多分もっと少ないよね。近年、日本人があまり米を食べなくなったって話も聞くし。

「カイベル、日本人の一日に食べる平均的なお米の量ってどれくらい?」
「現在は百四十六グラムほどです」

 百四十六グラム……私、明らかに食べ過ぎだったわ……その三倍食べてたらしい……

「じゃ、じゃあ、この町の人って一日平均どれくらいお米を食べてたの?」
「八十二グラムほどですね」
「え!? この町の人、八十二グラム!? 少なっ!! あまり食べてないのね」

 私の五分の一しか食べてない!
 実は言うほどお米好きでもないのかしら?
 じゃあそんなに沢山取り寄せる必要は無い?

「この町の全員の平均で考えただけで、ほぼ食べてない方も頭数に含めましたので」

 ああ、そういうことか。

「じゃあ頻繁に食堂行ってた人の平均は?」
「『頻繁』にと言うとどれくらいと考えますか?」
「う~ん……じゃあ二日に一回以上」
「とすると二百四十一グラムほどですね」

 日本人平均が百四十六グラムだから……

「多いな! 食べ過ぎてるヤツがいるね」
「おかわりをされていた方もいますので」

 とは言っても、私より遥かに少ないが……
 それに、トロルと日本人じゃ身体構造が全く違うから適正な量かもしれないし。とは言え、全く食べない者もいるくらいだから、必要というわけではないか。

「じゃあ……そうね、一人当たり二百グラムの三ヶ月分をお願いできるかな?」
「わかりました。小麦はどうしますか?」
「カイベル、小麦の平均消費量は?」
「一日八十七グラムほどです」

 あら? 小麦って割と消費が少ないのね。三ヶ月分でも一万一千キロ=十一トンくらいか。

「じゃあ、一人当たり九十グラムの三ヶ月分でお願い」
「わかりました。じゃあそういうように注文しておきますね」

「あの、私は何をすれば……?」
「リーヴァントには運び手の手配をお願い。役所の近くに簡易倉庫作っておくからそこへ運んでもらって」
「わかりました」

 後々考えてみると……この米って吸収された水分も加味されてるのかしら?
 米に吸収される水は米の重さの四十八パーセントぐらいだってのをどこかで見たような気がするから……
 だとしたら、当時一日に食べてる量は……六百十六グラム!?
 一食二百五グラム……小さいどんぶり一つ分くらいの量だったわけね。
 現在の日本人で考えると、一食七十二グラムか。現代人は随分と少食になってしまったみたいだ。


   ◆


 ――と、こんなようなやり取りだったはず。
 ああ……運び手の手配頼んだのも、倉庫作ってそこへ運べって言ったのも私だったわ……

「飛んでくるドラゴンってワイバーンだったっけ? 一頭の大きさがどれくらいで、何頭来るの?」
「一頭の体高が五メートルくらいですかね。体長となるとその倍くらいでしょうか」

 でかっ!? フレアハルトと同等!?
 そんな大きくてよく亜人にこき使われて黙ってるわね。

「頭数は十二頭です」
「け、結構多いね。何でそんなに?」
「四頭で陣形を組みながら運ぶので少なくとも四頭必要なんですよ。それを三箱ですね。ホントはもう一頭真ん中を支えるのがいると安定するんですけど、今回は借りられませんでした」

 体長十メートルのドラゴンが四頭で運ぶ箱ってどんな大きさなのかしら……?

「今回、三十六トン運んでもらいます。一頭辺り三トンくらいまで安全に運べるそうなので十二頭でちょうど三回分ですね」

 三十六トン……?

「あああ、あ、あの、ききき、金額を聞くの忘れてたけど、いい、一体いくらになるの?」
「今回少々値段を抑えましたので、お米一千八万ウォル、二十八万六千ウォルで、占めて一千三十六万六千ウォルになりますね」
「一千万超え!?」

 食材を舐めてた! 数揃うとそんなに高いのか……しかし米が高い……小麦と米でここまで差があるとは……そりゃあ日本で小麦を沢山使うわけだわ。
 これは本当に米・小麦作りが急務だ!

「あ、そうでしたスカイドラゴン便の料金が入ってませんでした、十二頭で一頭辺り六万ウォルなので、合計で七十二万ウォルですね」

 ってことは、一千百八万六千ウォルの借金か……
 これをポケットマネーでポンと支払えるリナさんが凄い……
 返金はいつでも良いって言われてるし、ここはお言葉に甘えておこう。

「ところでワイバーンってしゃべれるの?」
「いえ、下級ドラゴンなのでしゃべるような知能は無いですね」

 ということは、単純に餌付けして操ってるのかな?

「ワイバーンって何食べてるの?」
「さあ? 聞いたことないのでわからないですね。全部貿易会社側にお願いしているので。そういえば何食べてるんでしょう?」

 何食べて生きてるんだろう? 食費が大変そうだわ。
 もしフレアハルトと同じく魔力食いだったら、物質的な対価はゼロか。まあ実際はどうだかわからないけど……
 そう考えると、フレアハルトのコストパフォーマンスって凄く高いんじゃ……?
 下級とは言えドラゴンだから、フレアハルトと同じ性質なら溶岩地帯に住まわせておけば、食費は実質タダのようなものだ。

「ところでリナさん、どうやってアクアリヴィアと連絡取ってるの?」

 電気も電話も無いのに。

「アルトラ様も一度見てますよね、これ」

 あ、あの時の通信機か。 (第70話参照)

「でもそれって電気で動くやつでしょ?」
「ここに来る前にヘパイトスさんに頼んで、魔力動力式に変換してもらいました。両親からここに来るための条件を課されまして、『一日一回通話してきなさい』って言われてるので」

 娘を心配する親心ってやつか。まあ、いくらレヴィのお墨付きがあったって言ったって、彼らアクアリヴィアの民から見れば、旧トロル村は未開の地もいいとこだしね。心配するのも分かるわ。
 トーマスも持ってるのかな?

「中継地点とかは必要じゃないの? ここから水の国首トリトナ都なで何百キロだか何千キロだか離れてるんでしょ?」
「そこが魔力動力式の良いところですよ。自身の魔力を消費しますけど、魔力が続く限りは通話可能な距離を伸ばせます。まあアクアリヴィアまで通信となると、私の魔力では一日に多くても三回くらいしか使えませんけど」

 なるほど、疲れと引き換えにさえ出来れば通信は可能ってわけね。

 その直後、集まった人々から声が上がる――
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