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第10章 アルトレリアの生活改善編(身分証明を作ろう)

第245話 新生フレアハルト

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 今度は思いっきり大声で呼んでみる。

「フレハル! おいフレアハルトッ!!」
「うおっ!? アルトラか!? なぜ我が家に居る?」

 全く反応無いからビックリしたぁ……ホントに凍死してるのかと思った……

「今日は特別寒いからあなたたちが凍死してないか様子見に来たのよ!」
「どうやって家の中に入った? 今日は寒すぎて誰も動こうとせんのに。まさか鍵を壊して……?」
「アリサに普通に入れてもらったよ」

 ドアを開けて閉めて、外でほったらかされたアレを普通と言えるかどうかはわからないけど……

「アリサのやつか、よくこの気温で動いたな」
「その後はコタツ入ったまま全く出て来なくなったけどね」

 お茶を出すって言ったのに、セルフでお願いしますって言われたし。

「じゃあ、無事であることが確認されたから私は帰るわ」
「待て!」
「なに?」
「この寒さをどうにかしてくれ! このままではコタツから出られん!」
「魔法強化したセーターだけじゃダメなの?」
「この惨状を見ればわかるだろう? 今も着ておるが、もうそんなものでは通じないくらい寒い!」

 確かにこのままだとちょっと困るな。彼らは色んな意味でこの町の戦力だし。
 流石に冬中この状態でいなければいけないのは可哀想だ。
 あ、そういえば、レッドドラゴンの魔法技術に火を無効化するってのがあるって話だったわね。似たようなこと出来るかしら?
 出来ることならみんなと同じ程度に感じるくらいの寒さにしてあげたい。と言うか、彼らはこの寒さをどれくらいに感じてるのかしら? もしかしたらマイナス何十度とかに感じられてるとか?

「じゃあ、あなたたちの水耐性、氷耐性を上げる魔法をかけるよ。一階へ下りて来てくれる?」
「ここではダメなのか?」
「三人同時にかけるから、手間を無くすために下へ」
「わ、わかった……」

 ……
 …………
 ………………

「……早くコタツ出て……」
「……うむ…………しかし、廊下通るのが嫌なんだよなぁ……暖房設置されておらんし……床板はひんやりするし……」
「早く出ろ!」

   ◇

 三人を一階に集め、コタツの外に座らせる。

「寒いよぉ~、アルトラ様何すんの~……?」
「何をするか知らんが早くやってくれ!」
「お、お早目にお願いします……」

 三人ともブルブル震える、とまではいかないものの、時折ブルッとするくらいには寒いらしい。
 この部屋、暖炉点いてて、ストーブガンガンで、ホットカーペットも引いてあるのに何でそんなに寒いの?って思うわ。
 三十六度まで感じられる私が、限界いっぱいまで暑いと感じてるんだから、この部屋は確実に三十六度以上ある。
 こんな熱い部屋、昔のドラマのボクサーが減量するシーンくらいでしか見たことないよ。
 暖炉、ストーブ、ホットカーペット、コタツって、人間界では恐らく絶対的に見ないであろう組み合わせよ?
 それでも彼ら彼女らにとっては、私が地球で感じてた冬の外くらいの寒さを感じているらしい。

「今からあなたたちの温感能力を一般の亜人ひとくらいにまで引き上げます」
「そんなことできるの!?」
「何でもっと早くやってくれなんだ!!」
「気温に慣れてくれるのを期待した、ドラゴンだし!」
「何でドラゴンにそんな信頼を置いておるのだ! お主が夏と言っていた季節ですら寒かったのだ、慣れるわけなかろう!」

 日本で読んでた物語のドラゴンは、どの創作物も割と万能だったんだけどな……
 うちのドラゴンどもは残念ながら適応出来なかったか……

「じゃあ最終手段。あなたたちの温感能力の冷感部分を整えようと思う」
「ああ、出来るならよろしく頼む」
「やった! これで外に出られるんだね!」
「冬でも活動できるようになりますね!」

 恐らく『永久的知性エターナル・ハイ上昇 (大)・インテリジェンス』と同じく永続バフと同じ要領で良いはず。

「じゃあ魔法をかけるよ。『全体的永久的エターナル・ミドル・遺伝的氷防アイスレジスト御 (中)・オール・ジーン』」

「ん? かかったのか? 特に何も変わらんぞ?」
「見た目も別に変化ないよね?」
「いえ! 何だか寒さが緩和した気がします! と言うより全く寒くないですね!」

 三人とも変化が起こったかどうかは微妙なようだ。

「外に出て確かめてみたら?」
「それもそうだな、家の中では変わったかどうかもわからぬしな」

 ということで外に出たものの――
 すぐ帰って来た。

「さ、寒いではないか!」
「全然変わってないよ!」
「そんなことないよ、さっきまではガンガン暖房が効いてる部屋にいるのに、コタツから出られなかったじゃない」
「「あ!」」
「確かにそうだな!」
「普通に厚着すれば外に出られるくらいの肌感覚になったんじゃない?」
「どうせなら全く寒くならないという状態には出来ぬのか? そうしてくれ!」
「そうですよ! 全く寒くならない魔法希望!」
「多分出来るとは思うけど、町のみんなと同じくらいじゃないとズルくない?」

 ……
 …………
 ………………

「ズルいとか言い出しましたよ、フレハル様ぁ?」
「火も氷も効かない一番ズルいやつがなぁ」

 レイアとフレアハルトにチクチク口撃される。
 アリサは、少し困り顔で黙って微笑んでいる。

「……火が効かないのも氷が効かないのも体質だからそこは大目に見てくれない? あなたたちだって火は効かないでしょ? と、とにかく三人だけ贔屓ひいきするわけにはいかないから!」
「ズルいかどうかはともかく、服を着れば外に出られるから、凄く生活するのが楽になりましたね!」
「これでお買い物も楽になります。アルトラ様、ありがとうございます」

 ……これって、寒さの耐性が上がっただけよね? 火については元のままなのよね?
 寒さの耐性が上がって、相対的に火の耐性が下がったとしたら、彼らはレッドドラゴンの町へ戻ることができなくなってしまう。

「………………」
「アルトラ、黙りこくってどうかしたか?」
「フレハル、ちょっと家の外へ出て」
「何だ?」

「そこでストップ、ちょっとそこを動かないで。ファイアボール!」

 フレアハルトへ向けて、両手を広げたくらいの大きさの火の玉を放つ。人間がこんなの喰らったら大火傷必至だ。

 ドオオォォォン!!

「これが何だ?」

 いきなり自分の身体に炎が当たったのに動じもしないのね……
 いきなり火の玉放つ私も私だけど。

「火傷とか痛みとかは?」
「あるわけなかろう、あの程度の火の玉など、息を吸い込むだけで消える」

 よし、火耐性も下がったわけではなさそうね!

「我に炎など、何のつもりだ?」
「寒さに強くしちゃったから、相対的に火に弱くなってないかどうか、一応確認したかったの」
「なるほど」
「何も無くて安心したわ」

 これで火に弱くなってたら、彼は大火傷だった。

「ところで、この魔法はいつまで続くのだ?」
「永続でかけたから死ぬまで続くよ」
「子には受け継がれんのか?」
「さあ? そこまでは子の代になってみないとわからない」

 一応『遺伝的ジーン』と文言に含めているけど、実際に効いているかどうかは、その代になってみないと分からない。

「そうか、ではレッドドラゴンの町の者全員にかけることは可能か?」
「まあ、可能ではあるけど……」
「では頼む」

 う~ん……まあ私がこの地域の気候を変えてしまったみたいだし、寒すぎると生活するのが大変よね。

「わかった、レッドドラゴン全員にかけに行くよ」

 そう約束し、今日のところは家に帰った。
 これで冬の間でも彼らに戦力として動いてもらうことができる。

 これ以降、厚着をして、町中で労働しているフレアハルトをあちらこちらで目にするようになる。
 ここより少し後、彼の尽力により、アルトレリア周辺で複数頭の六本脚の馬スレイプルが捕えられ、調教され、馬車が作られ、アルトレリアの主要な交通手段になっていく。





 次の日――

「フレハル……」
「お? アルトラか、このジュースというものは良いな! 今まで身体が冷えるから水分は極力摂らなかったが、身体が潤う感じがするぞ。美味いし」
「お蔭様でお肌のツヤが良くなりましたよ!」
「わたくしたちって、乾燥してたんですね……水を飲めるようになる前とお肌の潤いが全く違います」

 レッドドラゴン三人が水や水分多めの食べ物を口にするようになった。
 それに付随して肌質が良くなったらしい。

「三人とも……私が防御魔法で調整したのはあくまで普通の亜人ひとと同じように生活できるって程度だから、そんなに水分がぶ飲みしたら後でお腹ピーピーになって酷いことになるかもしれないよ?」

 人間なら水分を多量に摂取すれば腹下して、トイレとおともだちになる可能性がある。

 ……
 …………
 ………………

「はっはっは、水ごときでそんなことになるわけがなかろう」
「そうですよ~、たかが水飲んだくらいで」

 今までその水に触れもしなかったヤツらがよく言うわ!

「夏に、かき氷たった三口で腹下してたのに、大丈夫かしらね~……?」

 警告の意味で三人に聞こえるように不安を煽ってみた――

 ……
 …………
 ………………

 ――が、

「そうだな! 今ならかき氷も食べられる気がする! 雪でかき氷を作ってみるか!」
「いいですね! 私も食べてみたいです! 念願のかき氷!」

 なぜか火に油を注いでしまったらしい……
 不安になったりとかしないのかこの二人は。羨ましい性格だわ。

「わ、わたくしはご忠告通り、ここまでとしておきます……」
「アリサは賢明ね! じゃあ、二人とも忠告はしたからね!」

 後日聞いた話では、二人とも案の定お腹壊して二日間寝ていたらしい。そのうち一日はトイレとおともだち。
 アリサは、あの場で飲むのをやめたため特に何も無かったとか。
 献身的に二人の看護をしていたようだ。

 レッドドラゴンたちの様子見を終え、帰宅。
 しかし、ここでまた嫌な第六感が働いた。
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