建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第9章 七大国会談編

第240話 魔王マモンが持つ『強欲』の大罪について

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「ところで、七大国会談では出席されていませんでしたが、魔王マモンさんというのはどのような方なんですか?」
「はい、心の広い方で、みなが幸せになれるようにとのお考えで行動してくれる素晴らしい方です」

 『強欲』の大罪とは思えない。
 この一言だけ聞くと、魔王マモンと『強欲』とは全く結びつかないわね。

「マモンさんって『強欲グリード』を司るんですよね? トライアさんの敬愛するような口ぶりからは全然強欲って感じがしないのですが……」
「そうですね。今代のマモン様はみなにお優しい方です。先代のマモンは欲の衝動が強く、全てを欲しがり、その果てに死に至りました」

 えっ!? 全てを欲しがって死に至った!?
 文脈が全然繋がらないんだけど……

「ど、どういうことですか? 全てを欲しがって死に至るって……」
「『強欲グリード』の大罪の衝動はその名の通り『欲』です。この欲には段階があり、最初こそはあれが欲しいこれが欲しいという物欲や名誉欲、金銭欲など、一般的な欲と言えるものくらいです。しかし、段階が進むと強烈な食欲に襲われ、食べ物を大量に摂取するようになります。次に食欲と性欲が同化して異性を食べるようになります」

 い、異性を食べるって……『セッ……』的な意味かしら……?
 悪いやつが出てくる漫画では、隠語で『食べる』って言ってるのを見たことがあるけど……

「た……食べるって性的な意味で……?」

 恐る恐る聞き返してみたが、聞き返すのがもう恥ずかしい……

「性的な意味とはなんですか~……?」

 そりゃこんな日本の隠語なんか通じるわけないな!
 言わなきゃ良かった!

「あの……その……雄しべと雌しべが……ゴニョゴニョ的な……」

 改めて説明するの恥ずかしいな、コレ!

「ああ、生物の営みのことですね! アルトラさんの故郷では受粉のことを『異性を食べる』と言うんですか?」

 『受粉』ってところが、植物の精霊らしさを醸し出している……いや、私が先にそう例えたから、それに乗っただけかもしれないけど……

「いえいえいえ! 言いませんよ! ただの隠語ですので……それもかなり下品な方の……」

 隠語を無闇に口にすべきではないな……
 あ、でも少女漫画とかの彼氏がたまに「キミを食べたい……」とか言ったりもするから、必ずしも下品ってわけではないか。

「それならまだマシなのですが、食欲と性欲が同化するので“食物的な意味”で食べるようになります。好みの問題もありますが基本的にはまずは異性、そして同性へと段階が進みます」
「ゲッ……それって…………つまり食人カニバリズムってことですか……?」
「はい、この段階になると身体の巨大化が始まり、多くの場合変容が見て取れるようになります。大抵の場合はこの段階で“強制的に代替わり”が行われます」

 “強制的に代替わり”……つまり暗殺するってことか……

「そして次は知識欲が出て自分が持たない技能を持つ者を喰らうようになります。この頃までは自我が残っていますが、この段階は短い期間しか無くすぐに次の段階に進みます。次の段階で生物欲が出て誰彼構わず喰らうようになります。親も子も知り合いも、毒を持っていようともお構いなく喰らいます。この段階まで進んでしまうと、身体も膨張し、ほとんど自我が残っていません」
「つまり、どんどんと貪欲に自身に吸収していこうとするってことですか?」
「そうですね、“食べる”と言うよりは“吸収する”と言うのが適切かもしれません。触手やスライムが相手に纏わりついて徐々に取り込まれるとか、そういう感じを想像していただけると分かりやすいと思います。そして、最終段階になると物質欲が出て、目に入る物全てを喰らうようになります。これは生物や木などの有機物に限りません。鉱石などの無機物、大地、山、雲まで食べるようになります。これを放置すれば最終的には星を喰らうほどの大きさまで大きくなるのではないかと予想されています。もっとも……ここまで段階が進む前に強制的な代替わりが行われているので、星を喰らうほどの大きさを見た者はありませんが」

 『強欲グリード』の大罪、怖っ!

「継承した時の恩恵は無いんですか?」

 そんなの継承したらどう考えても割に合わない!

「喰らったものの能力を引き継ぐと言われています」

 あれ? そうすると元々私が持ってた『暴食グラトニー』と同じタイプなんじゃ……?

「知識や技能、身体的特徴まで引き継ぐそうです」

 『暴食グラトニー』は知識まで引き継げるとは聞いていないな。上位互換という感じか。まあ『欲』の衝動の部分が危険リスキー過ぎて私は要らないけど……

「そのため、今代のマモン様は、亡くなられた方から身体の一部分、爪や髪の毛をいただいて知識として吸収しています」
「一部分で引き継ぐことができるんですか?」
「はい、衝動でも無ければ食亜人になど手を出しません。そうして蓄積された知識が、あの方を賢王と言わしめているのです」
「先代のマモンは、隠すのが上手かったらしく最終段階の物質欲まで進んでしまい、それを倒して『強欲グリード』を継承したのが現在のマモン様なのです」

 なるほど、現在のマモンが退治して継承したってわけか。
 ん? でも現在のマモンって三百年魔王を担ってるって聞いたような……ってことは少なくとも三百歳以上よね?

「確かマモンさんは、三百年魔王を続けてるって話でしたよね?」
「はい」
「その間に欲の段階が進行したりしなかったんですか? そんなに長い間強欲の衝動に耐え続けてられるものなんですか?」
「はい、それは今代のマモン様になって初めて分かった新事実でして……」
「今代になって新事実? 七つの大罪に数千年もの歴史があるのに?」
「はい、以前は森に住むエルフや獣人の方々など、亜人の方が継承していたのですが、初めて木の精霊である今代のマモン様が継承したところ、欲の段階が極端に進みにくいということがわかったのです。我々木の精霊はあまり欲を出さないので、『強欲グリード』を継承するには最適な身体だったというわけですね」
「今代のマモンさんも木の精霊なんですか?」
「はい、わたくしたちとは違う、『トレント』という木の精霊です」
「歴代のマモンはこの衝動と常に戦っておりますが、食亜人に至ったのは歴史上でもそれほど多くはありません。多くは自害か強制的な代替わりが行われておりますので」

 つまり……『強欲グリード』を継承した場合は、老衰みたいな自然死はできないと運命づけられるってことか。結構過酷な大罪ね……
 今代のマモンが継承したのは、彼女ら樹の国ユグドマンモンの民にとっては僥倖ぎょうこうだったのかもしれないわね。

「ところでそんな話をここでしてしまって良いんですか? まだ会ったばかりだというのに」
「『強欲グリード』のリスク部分については、広く知られている事実ですので、問題ありません。それに……これをお教えするのにはそれ相応に信頼に足るのではないかと判断した場合のみお教えすることにしています」

 ということは、私は既に一定以上の樹の国ユグドマンモンの信頼を得られているというわけか。

「手前勝手な話ではありますが、もし万が一マモン様が最終段階に至った場合、我が国の問題だけではなくなるためです」
「つまり……暴走を止めるのに手伝いが必要な可能性がある、と……?」
「はい、勝手な話ながら、最終段階の影響は計り知れないため、近隣諸国に注意喚起、また、救援要請をしなければならない可能性があります。現在のマモン様はお身体を悪くし、暴走が起こることも想定しておかなければなりません」
「暴走って欲望以外でも起こるんですか?」
「申し訳ありません、欲望以外での段階の進行は歴史上でもほとんど見られないので……ましてや今代のマモン様は継承種族の特性が今までと違うケースなので……現時点では『分からない』としか言えません。ですので、どのような状況でも対応できるようにしておいた方が良いと考えています」

 確かに……星を喰らうほどの大きさになると予想されているなら、その段階に至る前に止めなければならないものね……

「マモンさんは、現在のところ欲の衝動は強くなったり、もしくは、強くはならなくても欲の段階へ進行の兆しを見せたりしてるんですか?」
「いえ、今のところは欲の衝動は特に変わりません。このまま天寿を全うできれば、何事もなく継承できた初めてのケースになります」

 聞いている限り素晴らしく人徳のある人物みたいだから、強制的に代替わりされるという事態にならないことを祈りたい。
 そこでハンバームちゃんが料理を持ってきた。

「お待たせ致しました。アルトレリアの名物、ガルムのハンバーグでございます。ただし今回はアルトラ様のご要望で、カトブレパスとの合い挽きにしてあります。主食はご飯もパンも取り揃えてございますのでどちらでもお好きにどうぞ。前菜は我が町で採れた野菜を使ったサラダのの盛り合わせです。タレやドレッシングを複数用意してますのでこちらもお好みでどうぞ。デザートは梨を使ったパイです。少々お時間が足りませんでしたので、軽食になってしまいますがどうぞお召し上がりください」

 ホントは梨じゃなくて、潤いの木の実だけど、ややこしくなりそうだから今は伏せておく。

「「「おお~♪」」」
「良い香りがしますね~♪」
「美味しそうです♪」

 早速昼食をいただく。

「今度はこちらから質問よろしいでしょうか~?」
「はい?」
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