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第9章 七大国会談編

第236話 各国の有翼人

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 そこへ遅れて、風の国魔王代理アスタロトがやってきた。

「ティナリス、アルトラ殿が本当にベルゼビュート様なのですか?」
「ベルゼビュート様の魔力ですよ! 魔王代理なのにあなたにはわからないのですか?」
「残念ですが……私は代理で魔王をやってるとは言え大罪を継承していないので、貴女たち高位種族や魔王のような高精度の感知能力は無いのです」
「あなたは……アスタロト……さん、でしたね?」
「失礼しました、アルトラ殿、わたくしあなた亡き後から現在まで、風の国で国王及び魔王代理を務めているアスタロトと申します」

 現・王様と言っても良い立場なのに、地方から来た私に対してこんなに深々と頭を下げるとは……
 そして、顔を上げたと思ったら――
 ………………何だ? 何か期待してるような顔している。
 あっ!
 そういえば、さっき『敬愛する先代ベルゼビュート様』って言ってたな……
 つまり、この顔は『私のことを覚えておりますか?』って問うているのだ。

「も、申し訳ありません、あなたのことは思い出せていません」
「そ、そうですか……」

 がっかりさせてしまった……

「では改めて、お久しぶりですアルトラ殿……いえ、ベルゼビュート様。転生とは言え、魔界へ戻られたのを心よりお喜び申し上げます」
「『戻られたのを』って普通戻って来れるもんなんですか?」
「いえ、わたくしの知り得る限り、魔王が一度死んで魔界に戻って来たのは初めてのケースでございます。ですので、戻って来たと聞いた時には恥ずかしながら少し小躍りしてしまいました。しかし……このように小さくなってしまわれるとは……お姿まで変わってしまって……おいたわしい……」

 それは大きなお世話じゃないか? この姿だって十分不自由無く暮らせてるぞ? 高いとこのもの取るのだって、飛べば良いだけだし。
 まあ、アスタロトは昔の私の姿の方が良いって思っただけだろ。今の私の姿の方が良いって人もいるだろうし、見解の相違だ。

「アスタロトさん、中立地帯開放について、賛成してくださったことに感謝致します」
「以前のように『アスタロト』と呼び捨てでお呼びください」

 会ったばかりの人を呼び捨てするのもなぁ……

「我々も、地獄あのばしょが永劫の時を中立地帯として過ごしてきたので、何か変えていただけるのではないかと期待しております」

 うぉぉ……他国からのプレッシャーが半端じゃない……
 会談参加前は、『他国との交流ができるようになれば良いな』程度に考えて、『異分子である私が居るから排除に動こうとする可能性があるなら、攻め込まれる前に先に乗り込んで私という人間を知ってもらおう!』なんて軽く考えて参加表明したけど、数千年?数万年?の重みはそんなことでは許してくれないらしい。

 そっか……私に賛成してくれた魔王と魔王代理の方々は、変化を求めているわけだ。そりゃそうか、当然だ。
 ってことは、今まで以上に気を引き締めて中立地帯の統治に尽力しなきゃいけないってことか……
 途中で「やっぱりや~めた!」ってわけにはいかなくなったわけだ……
 これって……七大国会談に参加したことによって、もしかして自分で自分の首を絞めてしまったのでは? 少なくともサタナエルに明確に敵として認識されてしまったし……
 それに、アスタロトこの人、何だか随分と私に心酔しているような印象を受ける。今の私でがっかりされないかしら?

「これからどうされるのですか?」
「え~と……同居人がお留守番しているので早々に帰ろうと思います。今日は宿泊先が用意されているそうなので、そこで一泊して明朝帰国予定です。また来た時のため、参考までにお聞きするんですが、この辺に観光で見られる場所ってありますか?」
「ここに観光するところはありませんよ?」
「えっ!? 無いんですか!?」

 レヴィの従者ルイスさんの空間転移魔法で来たから、どんなところか全然わからないけど……
 七大国の王が集まるくらいだし、人も多く集まるんじゃないかと予想していた。近くには名所と呼べるものは何も無いのか……

「ここは世界の頂と呼ばれる山の中腹辺りに作られた会議場ですので、観光できるようなところは残念ながらありません」
「そうなのか……」

 見られるところでもあるならリディア連れて来ようかと思ったけど……

「ここにあるのは、七大国会談が開かれた時に、そのスタッフとしてお世話をするために住んでいる者たちが暮らす村くらいです」
「この場所って大分標高が高いところにあるんですよね? 多分三千メートルより上くらいですか?」
「いえ、五千メートルほどのところにいると思います」
「五千!?」

 地球で五千メートルのところなんて、人が住んでいられないが……魔界では違うのかしら?

「そんなところに住んでるんですか? 四年間何も無いんですよね?」
「ええ、まあ今回のケースのように臨時に次の会談が予定される場合もありますが、大抵四年間会談は開かれませんね」
「四年間何も無いのにスタッフが住み続けるんですか?」
「それだけ昔はこの会談を重要と捉えていたのでしょう。現在はそこまで重要視されておらず、各国の近況報告と情報交換くらいの場になっていますが」
「ここに住んでる人たちってどんな人たちなんですか? 寒かったりとかは……?」
「高所順応が出来ている有翼人が多いですね。各国から集められて生活しています。例えば雷の国の天使の末裔と云われている『ヘルヘヴン族』、水の国の音と歌声によって人を癒す『セイレーン族』、風の国の風を操る鳥人と呼ばれる『ハーピー族』などです。もっとも現在は空間魔術師が各国から一人ずつ七人常駐しているため気圧操作で高所順応の必要はあまりありません。空間転移魔法によっていつでも帰れる好待遇ですよ。各国から予算が与えられているため、家は立派、食料や物資についても何不自由なく暮らしています。自ら飛んで麓へ下りられるので商売を営んでいる者も数多くおりますよ。人口は各国百人ほどで、千人には満たないと思います。気温については火の国と氷の国の住民が住んでいるため、一定の温度に保たれています」

 各国の有翼人ってところにちょっと興味をそそられた。

「他の四ヵ国の有翼人ってどんな種族がいるんですか?」
「火の国の『バルログ族』、氷の国の『クロセル族』、土の国の『ガーゴイル族』、樹の国の『アルソミトラージ族』です。ガーゴイル、バルログ、クロセルについては私と同じ魔人に属する種族、アルソミトラージは木の精霊の一種で、植物としては空を飛べる希少な種族です」
「山の麓で商売してる者がいるとのことですが、近くに町があるんですか?」
「ええ、多少大きな町がありますね。そこなら見る物もありますが」

 よし、じゃあ次はリディアを連れて来よう。
 ヴェルフェゴールが言うには、次の会談で集まる面々は温和な国が多いって話だし危険も少ないだろ。

「アスタロト様、そろそろ……」
「そうですね、とりあえず今日は挨拶だけということで、後日改めて中立地帯を訪問させていただきます。今後ともよいお付き合いを」
「ベルゼビュート様、また後日ご訪問させていただきますね!」
「あ、はい」

 帰ろうとする最中、フレアハルトとティナリスの目が合った。
 険しい顔でお互いの力量を測っているように見える。
 ピリついた空気が流れ――

 突然、二人が右手同士がっちりと手を握り合った。
 まさか突然のバトル!?

「あなたも高位種族でしょ? ベルゼビュート様のことお願いね!」
「ああ、任せておくが良い!」

 何やら通じるものがあるらしい。
 激突とかには発展しなかったか……良かった。
 しかし、思わぬところで風の国との繋がりが出来てしまった。

 そうこうした後、レヴィ一行とアスモ一行が迎えに来てくれた。

「あ、いたいた、ベルゼ!」
「……今日泊まるホテルに案内する……」
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