232 / 544
第9章 七大国会談編
第229話 各国提議の時間 その2
しおりを挟む
そして、次は私たちの番の前、十一番目の提議国、先程サタナエルを憤怒させていた――
「氷の国・属国のギアーチョから来ましたオレグリア・アイシカルペです」
「貴様ら! この場で提議とは一体どういうことだ!?」
最初から語気を荒らげ、威圧するサタナエル。
憤怒の大罪と呼ばれるくらいだから、怒りやすいのはもうそういう性質なのかもしれない。
「……税金があまりに重すぎます。減税してはいただけないでしょうか?」
怒気を放たれているにも関わらず、淡々と話を勧める属国のギアーチョ国。
ここも税金か。いつの時代も重課税は禍根の種だな……
「それは出来ぬ相談だ」
「もう日に日に餓死者が出てくるほど困窮しています。何とか一部だけでも徴収を免除してはもらえませんか?」
「話にならん、今課している税金は必要であるために生まれた税制度だ」
「どうしてもですか?」
「くどい!」
「………………わかりました……なれば我ら氷の国属国ギアーチョは、この場で氷の国からの独立を宣言致します」
「何だと!?」
何やら火の国の属国以上にきな臭い話になってきたな……
「あなたに代替わりしてから、我ら属国民に対する税金は年々重くなるばかりだ。本当なら七大国会談を待たずに独立を宣言したかったところ、この七大国会談で提議すれば他の大国の目もあるし、少しはマシな対応をしてくれるだろうと淡い期待をしていたが、やはり無意味でした」
「独立などさせるとでも思うか?」
「………………我らの独立を阻むのであれば、我ら氷の国属国ギアーチョは、サタナエル様へ王位の返還を要求します!」
……
…………
………………
場がシンと静まり返り、魔王の中にも呆気に取られている者がいる。
なにせ、七つの大罪へ王位の返還を要求するということは……イコール命を落とすことに他ならないからだ。
「私に死ねということか? その言葉にどれほどの重みがあるのかわかっておるのだろうな!?」
サタナエルの魔力が増大。モニター越しにも部屋中が凍り付いていくのが見て取れた。
魔力で威嚇しただけにも関わらず、今私たちが居る下層階にも氷の魔力が届いていた。一瞬で天井が霜だらけに! 一部では短いながらつららが出現している!
「おやめください!! 世界の頂で対立するのは許可されておりません! それを破るというのであれば、『誓約による強制履行』が発動しますがよろしいですか?」
「っ!? くっ……」
司会進行役のカイムがサタナエルを制止する。
突然サタナエルが失速したけど、『誓約による強制履行』って何だろう?
「聞く耳は持ってもらえないようなので、私たちギアーチョ国からの提議はこれにて閉じさせていただきます」
ギアーチョ国は早々にこの場を立ち去ろうとする。
「ああ、そうそう……反乱を計画しているのが我が国だけであると思わない方がよいと思います。それでは」
物凄い殺伐とした空気になってしまった……
ん?
今、微かにルシファーの口元がつり上がったように見えたけど……
まさかこの件について何か関わっているのか? それともただ単に面白がっただけか……
この独立宣言後、程なくして、氷の国に七つある属国の内、三つの国がギアーチョ国の反乱に呼応、氷の国で本格的な内戦となる。
日和見だった属国たちは、同じく重税に悩まされていたため、アイスサタニアへの加勢をすることはなく、かと言って反乱軍側へ付くこともなく、沈黙を貫いた。
その結果は大分後になって知ることになる。
◇
「ねえカイベル、属国は不満があってこうやって提議するし、内容によっては今のギアーチョ国みたいに争いに発展しそうだけど、大国同士の戦争は無いの?」
「ひと昔前はありましたが、今は沈静化している状況と言えます。これには魔王体制が数千年続いているというところに理由があります。魔王を殺しても七つの大罪が別の者に移宿してその別の者が魔王になるので、魔王間での争い自体が不毛なためです。この世界から大罪自体が消えない限り、誰かしらが魔王になるため殺しても殺してもキリがないわけです」
なるほど、別の者が魔王になることを繰り返すのでは、確かに争う意味が無いわ。戦争で大将首が移るなんて話聞いたことないし。
「以前は他国へ自分の部下をスパイとして送って、魔王を継承させようとした者もいたようですが、その場合でも魔王同士で上下関係が成立しにくいため上手く行かないようです。よほど馬が合う場合でも、各魔王には自国領があるのでそちらの支配を主としなければならないため、部下として手元に置いておくことは不可能に近いのです」
「七つの大罪同士では上下関係が成立しないの? 今まで部下だったのに?」
「まず、継承すると多かれ少なかれ性格が変わります。これは大罪の性質が濃く現れます。ただし大きく性格が変わるかどうかは大罪との相性にもよります」
大きく変わるかどうかは大罪との相性次第ってことは、無闇に嫉妬したり他人を魅了しようとしない今代のレヴィやアスモは、あまり大罪との相性が良くないってことなのか。アスモの話では歴代のアスモデウスの中には魅了しまくって国を傾けた者がいるって話も聞いたし (第130話参照)。
逆によく怒るサタナエルや、高慢ちきなルシファーは相性抜群ってわけね。
あと、時代の経過で弱体化してるって言ってたし、ルシファーは相性良さそうに見えても、天界から大罪が堕とされたばかりの頃のルシファーに比べればかなり緩和してるってこともあり得る。
人間的な視点で見ると、相性良くない方が世のためにはなりそうね。
「性格が変わった結果、今まで部下だった者が大罪の継承により同格まで引き上げられるため、『同じ大罪の下には付きたくない』と心変わりするのでしょう。それでも以前は対等同士として、連合国という形で領土が合体した国もあったにはありましたが、寿命が来て魔王が別の者に代替わりすると、考え方も変わってしまいますので、次代ではやはり袂を分かつことになります。そのため今は仲が良くても一緒にいることはほとんど無いということですね」
「要するに大国同士の戦争は、今後起きにくいってこと?」
「はい。絶対に起きないとは言い切れませんが、起こる可能性はかなり低いと考えます」
『起こる可能性は低い』か……それでもさっきのルシファーの含み笑いは気になるのよね……
「あ、あと氷の国の属国は不満が相当溜まってるようだけど、火の国の属国はルシファーに反旗を翻そうとは思わないのね」
「それについては――」
「最後の提議のお時間です。中立地帯の方々、準備をお願いします!」
「あ、はい! じゃあ二人とも行こうか」
カイベルが何か言いかけたけど、まあ後でも良いでしょ。
そして少しの休憩を挟み、最後、十二番目の提議国、私たちの提議する番が回って来た。
「では、中立地帯の方々、準備ができましたらそちらの丸い床の上にお乗りください」
「氷の国・属国のギアーチョから来ましたオレグリア・アイシカルペです」
「貴様ら! この場で提議とは一体どういうことだ!?」
最初から語気を荒らげ、威圧するサタナエル。
憤怒の大罪と呼ばれるくらいだから、怒りやすいのはもうそういう性質なのかもしれない。
「……税金があまりに重すぎます。減税してはいただけないでしょうか?」
怒気を放たれているにも関わらず、淡々と話を勧める属国のギアーチョ国。
ここも税金か。いつの時代も重課税は禍根の種だな……
「それは出来ぬ相談だ」
「もう日に日に餓死者が出てくるほど困窮しています。何とか一部だけでも徴収を免除してはもらえませんか?」
「話にならん、今課している税金は必要であるために生まれた税制度だ」
「どうしてもですか?」
「くどい!」
「………………わかりました……なれば我ら氷の国属国ギアーチョは、この場で氷の国からの独立を宣言致します」
「何だと!?」
何やら火の国の属国以上にきな臭い話になってきたな……
「あなたに代替わりしてから、我ら属国民に対する税金は年々重くなるばかりだ。本当なら七大国会談を待たずに独立を宣言したかったところ、この七大国会談で提議すれば他の大国の目もあるし、少しはマシな対応をしてくれるだろうと淡い期待をしていたが、やはり無意味でした」
「独立などさせるとでも思うか?」
「………………我らの独立を阻むのであれば、我ら氷の国属国ギアーチョは、サタナエル様へ王位の返還を要求します!」
……
…………
………………
場がシンと静まり返り、魔王の中にも呆気に取られている者がいる。
なにせ、七つの大罪へ王位の返還を要求するということは……イコール命を落とすことに他ならないからだ。
「私に死ねということか? その言葉にどれほどの重みがあるのかわかっておるのだろうな!?」
サタナエルの魔力が増大。モニター越しにも部屋中が凍り付いていくのが見て取れた。
魔力で威嚇しただけにも関わらず、今私たちが居る下層階にも氷の魔力が届いていた。一瞬で天井が霜だらけに! 一部では短いながらつららが出現している!
「おやめください!! 世界の頂で対立するのは許可されておりません! それを破るというのであれば、『誓約による強制履行』が発動しますがよろしいですか?」
「っ!? くっ……」
司会進行役のカイムがサタナエルを制止する。
突然サタナエルが失速したけど、『誓約による強制履行』って何だろう?
「聞く耳は持ってもらえないようなので、私たちギアーチョ国からの提議はこれにて閉じさせていただきます」
ギアーチョ国は早々にこの場を立ち去ろうとする。
「ああ、そうそう……反乱を計画しているのが我が国だけであると思わない方がよいと思います。それでは」
物凄い殺伐とした空気になってしまった……
ん?
今、微かにルシファーの口元がつり上がったように見えたけど……
まさかこの件について何か関わっているのか? それともただ単に面白がっただけか……
この独立宣言後、程なくして、氷の国に七つある属国の内、三つの国がギアーチョ国の反乱に呼応、氷の国で本格的な内戦となる。
日和見だった属国たちは、同じく重税に悩まされていたため、アイスサタニアへの加勢をすることはなく、かと言って反乱軍側へ付くこともなく、沈黙を貫いた。
その結果は大分後になって知ることになる。
◇
「ねえカイベル、属国は不満があってこうやって提議するし、内容によっては今のギアーチョ国みたいに争いに発展しそうだけど、大国同士の戦争は無いの?」
「ひと昔前はありましたが、今は沈静化している状況と言えます。これには魔王体制が数千年続いているというところに理由があります。魔王を殺しても七つの大罪が別の者に移宿してその別の者が魔王になるので、魔王間での争い自体が不毛なためです。この世界から大罪自体が消えない限り、誰かしらが魔王になるため殺しても殺してもキリがないわけです」
なるほど、別の者が魔王になることを繰り返すのでは、確かに争う意味が無いわ。戦争で大将首が移るなんて話聞いたことないし。
「以前は他国へ自分の部下をスパイとして送って、魔王を継承させようとした者もいたようですが、その場合でも魔王同士で上下関係が成立しにくいため上手く行かないようです。よほど馬が合う場合でも、各魔王には自国領があるのでそちらの支配を主としなければならないため、部下として手元に置いておくことは不可能に近いのです」
「七つの大罪同士では上下関係が成立しないの? 今まで部下だったのに?」
「まず、継承すると多かれ少なかれ性格が変わります。これは大罪の性質が濃く現れます。ただし大きく性格が変わるかどうかは大罪との相性にもよります」
大きく変わるかどうかは大罪との相性次第ってことは、無闇に嫉妬したり他人を魅了しようとしない今代のレヴィやアスモは、あまり大罪との相性が良くないってことなのか。アスモの話では歴代のアスモデウスの中には魅了しまくって国を傾けた者がいるって話も聞いたし (第130話参照)。
逆によく怒るサタナエルや、高慢ちきなルシファーは相性抜群ってわけね。
あと、時代の経過で弱体化してるって言ってたし、ルシファーは相性良さそうに見えても、天界から大罪が堕とされたばかりの頃のルシファーに比べればかなり緩和してるってこともあり得る。
人間的な視点で見ると、相性良くない方が世のためにはなりそうね。
「性格が変わった結果、今まで部下だった者が大罪の継承により同格まで引き上げられるため、『同じ大罪の下には付きたくない』と心変わりするのでしょう。それでも以前は対等同士として、連合国という形で領土が合体した国もあったにはありましたが、寿命が来て魔王が別の者に代替わりすると、考え方も変わってしまいますので、次代ではやはり袂を分かつことになります。そのため今は仲が良くても一緒にいることはほとんど無いということですね」
「要するに大国同士の戦争は、今後起きにくいってこと?」
「はい。絶対に起きないとは言い切れませんが、起こる可能性はかなり低いと考えます」
『起こる可能性は低い』か……それでもさっきのルシファーの含み笑いは気になるのよね……
「あ、あと氷の国の属国は不満が相当溜まってるようだけど、火の国の属国はルシファーに反旗を翻そうとは思わないのね」
「それについては――」
「最後の提議のお時間です。中立地帯の方々、準備をお願いします!」
「あ、はい! じゃあ二人とも行こうか」
カイベルが何か言いかけたけど、まあ後でも良いでしょ。
そして少しの休憩を挟み、最後、十二番目の提議国、私たちの提議する番が回って来た。
「では、中立地帯の方々、準備ができましたらそちらの丸い床の上にお乗りください」
1
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる