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第8章 通貨制度構築編
第218話 噴出した問題点 その3
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「一つ思いついたよ」
「どうするんですか?」
「箱をやめて、風魔法で品物を包むのはどうだろう?」
実際にやってみる。風魔法を使い、大根を空気の膜で包んでみた。
「「「おお~~!!」」」
「これなら壊れにくいでしょ? じゃあ今度は……クリスティンこれしばらく振ってみて」
「はい」
空気の膜で包んであるから振ると大根が飛び回るのがよく見えるが、割れたり欠けたりする様子は全くない。
「クリスティン、床に思いっきり投げつけてみて」
「え? 良いんですか? 大根が割れちゃうかもしれませんけど……」
「割れても良いから投げつけてみて」
「じゃあ……」
空気の膜に入った大根を床に投げつけると、勢いよくバウンドした。
「おお! 割れませんね!」
「これなら大丈夫そうですね。ただ、それなりに熟練した風魔術師が必要になりますけど、さっきのツルツルの石の箱に比べれば出来る者はいるでしょう」
「………………」
「アルトラ様、どうかしましたか?」
「これダメだわ」
「どうしてですか!?」
「一個でこれだけバウンドするってことは、これを複数積んだら?」
「「「あ~~なるほど」」」
「屋根の無いリヤカーで運ぼうとしたら、百パーセントどこかへ飛んで行きますね」
とすると、やっぱり箱に詰めるのは譲れないってわけね。
「リヤカーに屋根を付けてしまえば……?」
「それをしたとしても、運び出すのが大変そうじゃない? この空気の膜は形が固定化されてないから、少し押すだけで動き回るだろうし。ちょっと押してもすぐ同じ場所に戻ってくるし……荷物の中から探して運び出すだけでも一苦労よ」
そう、押しても同じ場所に戻ってくる物質ってのはとんでもなく苦労する……既に綿花の時に経験済みだ…… (第199話参照)
「ああ、じゃあ今のを応用してみよう!」
「応用? 今の空気の膜の方法をですか?」
「そう。まず箱の中に大根を入れて、その周りに小さい空気の膜を隙間無く沢山配置する」
「「「おお~」」」
「これなら大根も動きませんね」
「ただね……今のは私がやったから良いんだけど、空気の膜を長時間維持できる魔術師がこの町にどれくらいいる?」
……
…………
………………
「風魔法で風を巻き起こすだけとはわけが違いますからね……空気の膜を作って維持できる者となると……ほとんどいないでしょうね」
じゃあ、この方法もダメだな……
ってことは、魔法に頼らず、実在する物で何とかするしかないってことか。
「今の空気の膜の部分を土に変えて、土を敷き詰めるとかどうですか? これなら固定させられるんじゃないですか?」
「土に埋まってる作物運搬するだけなら良いんだけど、運送業って汚れちゃいけないものも運送するでしょ?」
「ダメかぁ~……」
「あ、一つ良いこと思いつきましたよ! アルトラ様がよく使われている亜空間収納ポケットはどうですか? あれなら中に入れてしまえば持ち運びも簡単ですし」
ん? どゆこと? 私が運送業やれってことかしら?
「そういう感じの魔道具を作ることはできませんか? 物を沢山入れて移動できる袋みたいな魔道具を」
ああ……つまり『四次元ポシェット』を作ってほしいって言ってるわけか。
「出来なくはないと思うけど……そういうのを作ると後々世界に及ぼす影響が大きくなりそうだから、極力空間魔法系の魔道具は作らない方針なのよね……」
この世界に来て、四次元ポシェットに当たる魔道具を使ってる人を見たことはない。魔王周辺の要人にすらそんな魔道具を使っているシーンを見たことがない。つまり四次元ポシェットに当たるような魔道具はまだ存在していない可能性が高い。
ということは、その機能のある物を私が創り出し、もしそれが他国の誰かに見つかった場合、大騒ぎされるのは必定!
疑似太陽ですら大騒ぎなのに、考え方次第ではいくらでも悪用可能な空間魔法系の魔道具なんか作ったら世界がどういう方向に転がるか想像も付かない。
「私の家に通じてるゼロ距離ドアの第一号は考え無しに作っちゃったけど、潤いの木に通じてる第二号は元々の計画では川の工事が終わったら壊す予定だったのよ。あそこまで行くのが大変だからって理由で残したには残したんだけど、未だに壊した方が良いのか残すべきなのか迷っている」
「そ、そうなんですか? あれは残しておいてほしいです!」
「私もそう思ってるから現在は結論は先延ばしにしている。あと通貨制度が始まったからにはタダで作るわけにもいかないしね」
「じゃあ、仮に! 仮に作ってもらうとしたらどれくらいかかるんですか?」
「う~ん……まあ……一千万イェンは下らないよね」
「私たちにはまだ一千万がどの程度かピンと来ないんですけど……」
「例えば八百屋さんにはトマトが大体百イェンで売られているじゃない? これの十万個分のお金」
「「「「トマト十万個分!?」」」」
「それがこの町限定で使う時のお値段かな。もちろん他国には持って出られないように作る。これでも格安なくらいよ? もし他国から同じ物を依頼されたら億は下らないね。その国の態度によっては数億から数十億は吹っ掛けるつもりだし」
もちろん『イェン』ではなく現地通貨の数億から数十億を。
「「「「数億から数十億!?」」」」
「って驚いてみましたけど、数億から数十億はどの程度ですか?」
「そうねぇ……」
数億の『数』って言っても二億から九億まで幅があるから――
「二百万個から九千万個分ってところかしら」
「「「トマト二百万個から九千万個分!!?」」」
「バ……バカげた数字だ……」
「そんなにあったらこの町真っ赤になってしまいますよ!」
「まあ、別にトマトで報酬を貰うわけじゃないから……今の話聞けば、どれくらい影響があるか分かってもらえた? だから空間魔法の魔道具はドア一つ作るだけでもよ~く考えて作らないといけないわけよ」
「途方も無い数字だってことは分かりました……何気なく使ってましたけど、あのドアってそこまで凄いものだったんですね……」
「それは流石に……おいそれと作ってほしいとは言えないですね……」
実際問題、他国間でゼロ距離ドアを繋げて、仮に秘密裏に悪いことしてやろうなんて輩がいた場合、簡単に相手の国に侵入出来てしまうからね。
まあ、これは空間魔術師にも言えることではあるけど、空間魔術師はMP消費が激しいから少ない時間しかゲートを開いていられないのに対し、ゼロ距離ドアは壊れない限りは半永久的に使い続けられるから危険度が段違いに高いと見ている。
しかし、『物を運ぶのに傷付けないようにしたい』という簡単なことすら、解決策が中々出ないとは……物が無いってのは不便ね……
そこで、フッと昔の知恵を思い出した。
「あ、じゃあこれはどう? 要らない紙を丸めて間に入れる」
これなら魔力も必要無い。
近年、地球では運送物を守るためエアクッションやプチプチが主流になっているから、この方法を失念していた。
昔は使わなくなったお茶碗などの割れ物は要らなくなった新聞紙で包んで仕舞っておいたものだ。私の祖父母の家の茶だんすにも包んだ茶碗を箱に入れて仕舞ってあったりする。
もっと昔になると江戸時代頃には浮世絵で包んで緩衝材として使っていたらしい。海外にもそれに包んで品物が輸送されたという話があり、現在浮世絵は海外でも注目を浴びている。
生前この話を聞いた時、「昔の人は芸術的価値のあるものに対して、何て勿体ない使い方をしたんだ!」と思ったものだ。
所詮は紙を丸めたものであるため、エアクッションほどの衝撃吸収効果は無いものの、ある程度の効果はある。破損もそれなりに軽減されるだろう。
丸める紙については、ここ最近で急激に広告が増えたし、役所にも処分する予定の紙が沢山あるから、特に問題は無いと思う。
「これなら風魔法の練度や魔術師の心配はしなくて良さそうですね」
「よし、じゃあこの方法を後日運送業者に伝えておきましょう」
出来ることなら早めに衝撃吸収素材の開発が必要ね。
◇
「他にも何かありますか?」
「商売とは違いますが、食料品の配給についてです。これは今後どうしますか?」
『働かざる者食うべからず』なんて言葉あるけど、そもそもお金を得るために働くことが始まったのが今日からなのだから、まだまだ職を手にしていない亜人は五万といる。
いや……『五万といる』という言葉はあるけど、この町の住民は千四百十二人なのだから、五万人はいないか……それでもまだ半分が職を手にしたかどうか程度だろう。
「そこは当面の間配る方向で行きましょうか。最低限、食と住居の保証くらいはしないと死者が出かねないし」
そこで通貨制度開始に際して設定した税金の出番だ。この徴収した税金から配給の分を捻出してもらう。
リナさんへの米・小麦の代金の支払いもこの税金から~~なんて言いたいところだけど、残念ながら現時点ではリナさんにとってイェン通貨は紙同然だから、その方法は不可能。
イェン通貨で支払うには、この通貨の価値を上げなければならない。そのためには七大国会談に出席して、この地をキチンと認識してもらわなければ!
まだまだ紆余曲折あると思うけど、今後も試行錯誤・悪戦苦闘しながら営んでいくことになりそうだ。
◇
「あ、カイベル、ちょっと相談があるんだけど」
「はい、アルトラ様がさきほど作られたビニールラップのことですね」
話が早い! 流石カイベル!
「問題ありません。ちゃんと土に還るように作られていますよ」
「じゃあこれと同じような特性のものを作るための設計図を印刷してもらえる?」
「わかりました」
よし、あとは職人さんの仕事だ!
これを渡して、環境に優しいビニールラップを作ってもらおう。
これが生産されれば、今後野菜をカットして販売ってことが可能になる。
「ところでカイベル、一つ聞いておきたいんだけど現在のイェンって、ウォルに換算するとどれくらいなのか試算できる?」
「はい、一イェン=〇.〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一ウォルというところでしょうか。しかも数字や絵柄付きですので、ただのメモ用紙としても使えず価値は皆無と言って良いでしょう。つまり他国ではただのおもちゃの紙です」
でしょうね……だってまだこの町に住んでる者以外誰も知らないし。
「タダで貰っても多くのものは一瞥して捨てるでしょう。更にトイレットペーパーにすらならず、使えばお尻は切れて荒れ――」
「もう良いもう良い! 分かってて聞いたけど、結構ダメージ受けたわ……」
まあ……予想してた通りのただの紙だったわ……
「唯一良いところはドワーフ作の意匠ですので、そこに芸術的価値が見いだされればあるいは……」
「ちなみに貨幣の素材価値はどれくらい?」
「地球とほぼ同じもので作りましたので、※
一イェン硬貨=〇.三ウォルほど
五イェン硬貨=二.三ウォルほど
十イェン硬貨=三.五ウォルほど
五十イェン硬貨=三.八ウォルほど
百イェン硬貨=四.五ウォルほど
五百イェン硬貨=五.一九ウォルほどです」
(※ウォル=円と違い過ぎるとややこしくなりそうなので円と同等程度の価値と思ってください)
「で、紙幣は?」
「価値無しです。メモ用紙にすらなりません」
二回聞いても価値無しか……硬貨も二束三文ね。そりゃそうか。
今後価値が上がるかなぁ……上がると良いなぁ……
「どうするんですか?」
「箱をやめて、風魔法で品物を包むのはどうだろう?」
実際にやってみる。風魔法を使い、大根を空気の膜で包んでみた。
「「「おお~~!!」」」
「これなら壊れにくいでしょ? じゃあ今度は……クリスティンこれしばらく振ってみて」
「はい」
空気の膜で包んであるから振ると大根が飛び回るのがよく見えるが、割れたり欠けたりする様子は全くない。
「クリスティン、床に思いっきり投げつけてみて」
「え? 良いんですか? 大根が割れちゃうかもしれませんけど……」
「割れても良いから投げつけてみて」
「じゃあ……」
空気の膜に入った大根を床に投げつけると、勢いよくバウンドした。
「おお! 割れませんね!」
「これなら大丈夫そうですね。ただ、それなりに熟練した風魔術師が必要になりますけど、さっきのツルツルの石の箱に比べれば出来る者はいるでしょう」
「………………」
「アルトラ様、どうかしましたか?」
「これダメだわ」
「どうしてですか!?」
「一個でこれだけバウンドするってことは、これを複数積んだら?」
「「「あ~~なるほど」」」
「屋根の無いリヤカーで運ぼうとしたら、百パーセントどこかへ飛んで行きますね」
とすると、やっぱり箱に詰めるのは譲れないってわけね。
「リヤカーに屋根を付けてしまえば……?」
「それをしたとしても、運び出すのが大変そうじゃない? この空気の膜は形が固定化されてないから、少し押すだけで動き回るだろうし。ちょっと押してもすぐ同じ場所に戻ってくるし……荷物の中から探して運び出すだけでも一苦労よ」
そう、押しても同じ場所に戻ってくる物質ってのはとんでもなく苦労する……既に綿花の時に経験済みだ…… (第199話参照)
「ああ、じゃあ今のを応用してみよう!」
「応用? 今の空気の膜の方法をですか?」
「そう。まず箱の中に大根を入れて、その周りに小さい空気の膜を隙間無く沢山配置する」
「「「おお~」」」
「これなら大根も動きませんね」
「ただね……今のは私がやったから良いんだけど、空気の膜を長時間維持できる魔術師がこの町にどれくらいいる?」
……
…………
………………
「風魔法で風を巻き起こすだけとはわけが違いますからね……空気の膜を作って維持できる者となると……ほとんどいないでしょうね」
じゃあ、この方法もダメだな……
ってことは、魔法に頼らず、実在する物で何とかするしかないってことか。
「今の空気の膜の部分を土に変えて、土を敷き詰めるとかどうですか? これなら固定させられるんじゃないですか?」
「土に埋まってる作物運搬するだけなら良いんだけど、運送業って汚れちゃいけないものも運送するでしょ?」
「ダメかぁ~……」
「あ、一つ良いこと思いつきましたよ! アルトラ様がよく使われている亜空間収納ポケットはどうですか? あれなら中に入れてしまえば持ち運びも簡単ですし」
ん? どゆこと? 私が運送業やれってことかしら?
「そういう感じの魔道具を作ることはできませんか? 物を沢山入れて移動できる袋みたいな魔道具を」
ああ……つまり『四次元ポシェット』を作ってほしいって言ってるわけか。
「出来なくはないと思うけど……そういうのを作ると後々世界に及ぼす影響が大きくなりそうだから、極力空間魔法系の魔道具は作らない方針なのよね……」
この世界に来て、四次元ポシェットに当たる魔道具を使ってる人を見たことはない。魔王周辺の要人にすらそんな魔道具を使っているシーンを見たことがない。つまり四次元ポシェットに当たるような魔道具はまだ存在していない可能性が高い。
ということは、その機能のある物を私が創り出し、もしそれが他国の誰かに見つかった場合、大騒ぎされるのは必定!
疑似太陽ですら大騒ぎなのに、考え方次第ではいくらでも悪用可能な空間魔法系の魔道具なんか作ったら世界がどういう方向に転がるか想像も付かない。
「私の家に通じてるゼロ距離ドアの第一号は考え無しに作っちゃったけど、潤いの木に通じてる第二号は元々の計画では川の工事が終わったら壊す予定だったのよ。あそこまで行くのが大変だからって理由で残したには残したんだけど、未だに壊した方が良いのか残すべきなのか迷っている」
「そ、そうなんですか? あれは残しておいてほしいです!」
「私もそう思ってるから現在は結論は先延ばしにしている。あと通貨制度が始まったからにはタダで作るわけにもいかないしね」
「じゃあ、仮に! 仮に作ってもらうとしたらどれくらいかかるんですか?」
「う~ん……まあ……一千万イェンは下らないよね」
「私たちにはまだ一千万がどの程度かピンと来ないんですけど……」
「例えば八百屋さんにはトマトが大体百イェンで売られているじゃない? これの十万個分のお金」
「「「「トマト十万個分!?」」」」
「それがこの町限定で使う時のお値段かな。もちろん他国には持って出られないように作る。これでも格安なくらいよ? もし他国から同じ物を依頼されたら億は下らないね。その国の態度によっては数億から数十億は吹っ掛けるつもりだし」
もちろん『イェン』ではなく現地通貨の数億から数十億を。
「「「「数億から数十億!?」」」」
「って驚いてみましたけど、数億から数十億はどの程度ですか?」
「そうねぇ……」
数億の『数』って言っても二億から九億まで幅があるから――
「二百万個から九千万個分ってところかしら」
「「「トマト二百万個から九千万個分!!?」」」
「バ……バカげた数字だ……」
「そんなにあったらこの町真っ赤になってしまいますよ!」
「まあ、別にトマトで報酬を貰うわけじゃないから……今の話聞けば、どれくらい影響があるか分かってもらえた? だから空間魔法の魔道具はドア一つ作るだけでもよ~く考えて作らないといけないわけよ」
「途方も無い数字だってことは分かりました……何気なく使ってましたけど、あのドアってそこまで凄いものだったんですね……」
「それは流石に……おいそれと作ってほしいとは言えないですね……」
実際問題、他国間でゼロ距離ドアを繋げて、仮に秘密裏に悪いことしてやろうなんて輩がいた場合、簡単に相手の国に侵入出来てしまうからね。
まあ、これは空間魔術師にも言えることではあるけど、空間魔術師はMP消費が激しいから少ない時間しかゲートを開いていられないのに対し、ゼロ距離ドアは壊れない限りは半永久的に使い続けられるから危険度が段違いに高いと見ている。
しかし、『物を運ぶのに傷付けないようにしたい』という簡単なことすら、解決策が中々出ないとは……物が無いってのは不便ね……
そこで、フッと昔の知恵を思い出した。
「あ、じゃあこれはどう? 要らない紙を丸めて間に入れる」
これなら魔力も必要無い。
近年、地球では運送物を守るためエアクッションやプチプチが主流になっているから、この方法を失念していた。
昔は使わなくなったお茶碗などの割れ物は要らなくなった新聞紙で包んで仕舞っておいたものだ。私の祖父母の家の茶だんすにも包んだ茶碗を箱に入れて仕舞ってあったりする。
もっと昔になると江戸時代頃には浮世絵で包んで緩衝材として使っていたらしい。海外にもそれに包んで品物が輸送されたという話があり、現在浮世絵は海外でも注目を浴びている。
生前この話を聞いた時、「昔の人は芸術的価値のあるものに対して、何て勿体ない使い方をしたんだ!」と思ったものだ。
所詮は紙を丸めたものであるため、エアクッションほどの衝撃吸収効果は無いものの、ある程度の効果はある。破損もそれなりに軽減されるだろう。
丸める紙については、ここ最近で急激に広告が増えたし、役所にも処分する予定の紙が沢山あるから、特に問題は無いと思う。
「これなら風魔法の練度や魔術師の心配はしなくて良さそうですね」
「よし、じゃあこの方法を後日運送業者に伝えておきましょう」
出来ることなら早めに衝撃吸収素材の開発が必要ね。
◇
「他にも何かありますか?」
「商売とは違いますが、食料品の配給についてです。これは今後どうしますか?」
『働かざる者食うべからず』なんて言葉あるけど、そもそもお金を得るために働くことが始まったのが今日からなのだから、まだまだ職を手にしていない亜人は五万といる。
いや……『五万といる』という言葉はあるけど、この町の住民は千四百十二人なのだから、五万人はいないか……それでもまだ半分が職を手にしたかどうか程度だろう。
「そこは当面の間配る方向で行きましょうか。最低限、食と住居の保証くらいはしないと死者が出かねないし」
そこで通貨制度開始に際して設定した税金の出番だ。この徴収した税金から配給の分を捻出してもらう。
リナさんへの米・小麦の代金の支払いもこの税金から~~なんて言いたいところだけど、残念ながら現時点ではリナさんにとってイェン通貨は紙同然だから、その方法は不可能。
イェン通貨で支払うには、この通貨の価値を上げなければならない。そのためには七大国会談に出席して、この地をキチンと認識してもらわなければ!
まだまだ紆余曲折あると思うけど、今後も試行錯誤・悪戦苦闘しながら営んでいくことになりそうだ。
◇
「あ、カイベル、ちょっと相談があるんだけど」
「はい、アルトラ様がさきほど作られたビニールラップのことですね」
話が早い! 流石カイベル!
「問題ありません。ちゃんと土に還るように作られていますよ」
「じゃあこれと同じような特性のものを作るための設計図を印刷してもらえる?」
「わかりました」
よし、あとは職人さんの仕事だ!
これを渡して、環境に優しいビニールラップを作ってもらおう。
これが生産されれば、今後野菜をカットして販売ってことが可能になる。
「ところでカイベル、一つ聞いておきたいんだけど現在のイェンって、ウォルに換算するとどれくらいなのか試算できる?」
「はい、一イェン=〇.〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一ウォルというところでしょうか。しかも数字や絵柄付きですので、ただのメモ用紙としても使えず価値は皆無と言って良いでしょう。つまり他国ではただのおもちゃの紙です」
でしょうね……だってまだこの町に住んでる者以外誰も知らないし。
「タダで貰っても多くのものは一瞥して捨てるでしょう。更にトイレットペーパーにすらならず、使えばお尻は切れて荒れ――」
「もう良いもう良い! 分かってて聞いたけど、結構ダメージ受けたわ……」
まあ……予想してた通りのただの紙だったわ……
「唯一良いところはドワーフ作の意匠ですので、そこに芸術的価値が見いだされればあるいは……」
「ちなみに貨幣の素材価値はどれくらい?」
「地球とほぼ同じもので作りましたので、※
一イェン硬貨=〇.三ウォルほど
五イェン硬貨=二.三ウォルほど
十イェン硬貨=三.五ウォルほど
五十イェン硬貨=三.八ウォルほど
百イェン硬貨=四.五ウォルほど
五百イェン硬貨=五.一九ウォルほどです」
(※ウォル=円と違い過ぎるとややこしくなりそうなので円と同等程度の価値と思ってください)
「で、紙幣は?」
「価値無しです。メモ用紙にすらなりません」
二回聞いても価値無しか……硬貨も二束三文ね。そりゃそうか。
今後価値が上がるかなぁ……上がると良いなぁ……
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