建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第8章 通貨制度構築編

第217話 噴出した問題点 その2

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「次は私の方のトラブル良いかな?」
「はい、アルトラ様どうぞ」
「ダイクーの建築工房の依頼が激減して、今後生活が困窮するんじゃないかって心配してた」
「仮橋の建て替えはどうなってるんでしたっけ?」
「それは彼の部下の組が、現在進行形で推し進めてるらしい」
「では、以前提案したアルトラ様の家を新しくするのはどうですか?」

 と、リーヴァントから提案されるも……

「いや、そんな個人的なことで彼らを使うわけにはいかないよ」
「以前雷の国の女王様がご訪問されたことがありましたよね? それに、私は知りませんでしたが、水の国の女王様も来られたことがあるとか」
「確かに来たことあるけど……それが何か?」
「そこで、外から来たお客様をお迎えするような仕組みを作ったらどうでしょう?」
「それを私の家に?」
「はい。高貴な方々は、直接アルトラ様のお宅に来られる方が多いので、この際アルトラ邸に、お迎えするような場所を設えたらいかがでしょうか?」

 いやいやいやいや!! 私の少ないプライベートスペースが一切無くなってしまうじゃないの!!
 い、一応突っ込んで聞いてみるか。

「外から来たお客様を迎える? 外国から来た人ってこと?」
「はい」

 迎賓館みたいなやつってことか?
 う~ん……外国のお客様ね……現在ここの扱いが、中立地帯だからそんな“一つの国”のように振舞ってしまって、七大国が許してくれるかどうか……
 下手したらそれこそ戦争の火種になりかねない気がする……

「それもこれも七大国会談の結果がどう出るかにかかってるってところかな。とにかく現状は地獄の門前広場あそこにキチっとした建物を建てるわけにはいかないってところだけは確定的事項かな。と言うか、あそこはゼロ距離ドア使わなきゃこの町アルトレリアから五十キロ離れてる場所だから、迎賓館を立てるのには向かないよ」
「確かに……そうですね。ゼロ距離ドア使って一歩でアルトラ邸なので感覚がズレてました」

 ホッ……私のプライベートスペースは何とか保たれた。

「それなら、私の下で本格的に道の整備などの公共事業を請け負ってもらいましょう。今までは手の空いてる村人に手伝ってもらって整備していましたが、正式な形ということで。ダイクーは建築部と建築工房を兼任していましたが、今後は建築部一本に絞ってもらって請け負ってもらうという形に」
「それで納得してもらえれば、それで行こうか」

 それなら給料出しても納得がいく。それに専門家が関わるならもっと綺麗に整備されるはずだ!
 後々話をしに行こう。

   ◇

「他にありますか?」
「もう一つ私のものが!」
「アルトラ様どうぞ」
「今回ワインが新しく作られ、販売されているようですけど、お酒のことは私にはわからないので、お酒に関して分かる方にご助力願いたいと思うんですけど……」
「とは言っても……」
「この町ではそもそもお酒飲んだことある亜人ひとなんてごく少数ですし……」

 まあ、そうよね……そもそも私がアクアリヴィアから持ち帰ったものがこの町のお酒の起源だし……
 でも……私にはあの亜人ひとがいる! あの方々がいる!

「はい! じゃあ私に任せて!」

 予想通り、ヤポーニャさんが釣れてくれた。

「ああ……私はハーフドワーフだから実はお酒はあまり飲まないんだけど、うちのドワーフ連中は沢山酒飲んでるから、きっと良いようにしてくれると思う。フィンツたちに言っておくよ」
「助かります、ではお願いしますね」

 よし! お酒のことは丸投げできた!
 私が考えるよりよほど美味しく仕立ててくれるはずだ。
 ただ……今ですら過労気味だけど、これお願いして大丈夫かしら……? でも嬉々としてやってくれるような気はする。
 まあ、まだ初日だしもう少し様子を見て、ヤバイと思ったら強制的に休んでもらおう。トロルの技術者も大分育ってきたし、休んでも問題無いでしょう、多分。

 後日、これについて話を聞いたところ、ヤポーニャさんに提案されたドワーフ三人は、全員「俺が俺が!」と言って、全員で酒造りを取り合ったらしい。
 職人全員そっちへ行かせるわけにはいかないため、日替わりで監督を交代するということで落ち着いたとか。
 が、朝あからさまに態度が違うため対応に苦慮してるらしい。自分が監督の日の者は饒舌になりルンルン気分で出勤するのに対し、自分の監督ではない日の者は無口になりあからさまに不機嫌になるそうだ。
 きっと「今日はアイツが当番かぁ……くそっ! ズルいじゃないか」なんて考えてるのかもしれない。
 でも、出勤した後の仕事はキチッとしてくれるので、まあ多分特に問題は無いでしょう。

   ◇

「他にある方は?」
「はい、僕の方で」
「はい、ルークくんどうぞ」
「運送業が出来たのはご存じですか?」
「つい最近知ったね」
「私も」
「私もです」
「この町、馬飼ってる亜人ひといたんですね」
「あの馬にも名前付けておこうか。私はスレイプルってのを推す」
「何か由来があるんですか?」
「オーディンっていう神様が乗ってる馬の名前が『スレイプニル』って言ってね、脚が八本あるのよ。で、あの運送業に使われている馬の脚が六本だから、『スレイプニル』から『ニ』を取って『スレイプル』」
「なるほど、六本脚だから八本脚から二本を取って『スレイプル』ですか! 良いですね! それにしましょう!」

 そういうわけで、あの六本脚の馬の種類は『スレイプル』に決まった。

「盛り上がってるところ申し訳ないんですが、本題に移って良いですか?」
「あ、はい、どうぞ」
「その運送業のことについてなんですが、通貨制度開始初日にも関わらず、運ばれたものが破損してるとか、傷が付いてるとか、そういった話が出て来てます。例えば運んだ野菜が割れてたり折れてたり――」

 そうか、始めたばかりだから運ぶことが『主』になっていて、傷付けずに運ぶというところにまでまだ考えが達してないのかもしれない。

「これを改善させてほしいとの苦情が利用者から出てます」

 発泡スチロールでもあれば良いんだけど、そんなものまだ無いしな……

「箱に詰めて運んでないんですか? 最近出来た段ボールとか」
「もちろん詰めてます。しかしそれでも壊れると苦情があったそうなので」
「石魔法 (※)で包んでリヤカーに固定してはどうですかな? 揺れなければ壊れないのでは? 運び終わってから石魔法を解除すれば」
   (※石魔法:土魔法の下位属性)

 石で包んでって……箱にするってことかしら?

「それだと、中でガンガン当たるから余計壊れると思うけど……」
「本当ですか?」
「試してみましょうか。じゃあちょっと待ってて」

 ゲートを使い、とある物を買いに行った。

「どこ行ったんでしょう?」
「わかりませんが、すぐ帰ってくるでしょうし、少し待ちましょう」
「フィンツたちが『アルトラは話の途中で度々どっか行く』とか言ってたけど、ホントに突然どこかへ行くんだね」
「まあ……我々はもうある程度慣れましたよ……」
「アルトラ様がどこかへ行った後、状況が改善することの方が多いので『また何か思いついたんだな』くらいにしか思わなくなりましたね」

   ◇

「お待たせ」
「どこ行ってたんですか?」
「ちょっとこれを買いに」

 手に持った二本の大根を掲げる。

「「「大根?」」」
「じゃあ、これを一本石魔法で包みます。はい、じゃあ力が弱い方が良いから……リナさん、これを少しの間振ってみてください」
「私じゃこんな大きい石の箱持てませんよ?」
「大丈夫、軽石で作ってあるから。あなたより小さい私が持ってるくらいだからあまり重くないよ」
「それもそうですね」

 リナさんが石で固めた大根を受け取る。

「少しってどれくらいですか?」
「疲れたらやめて良いよ。振る時は思いっきり振らずに軽くお願い」

 少しの間、石の箱に入れた大根を振ってもらう。

「ちょっと疲れてきましたね」
「じゃあ箱を開けて中を見てみましょうか」

 石の箱を開けて中を見てみると――

「これは……ボロボロですね……」
「一部大根おろしみたいに擦りおろされてますね……」

 予想してたとは言え、凄くきったなくなってしまったわ……ごめんなさい、後でスタッフが美味しくいただきます。

「これはダメですね……」
「石魔法の練度を上げてツルツルの石にしてはどうでしょうか?」

 磨かれた大理石みたいにするってことかな?

「そこまで綺麗にするとなると、イメージし切るのが難しいよ? 私でもそこまでツルツルに出来るかどうか……」

 とは言え、試したいというのだから、一応試しに作ってみたところ――

「ツルツルの石の箱が出来ましたね」
「この箱、私の顔が映ってますよ!」

 やれば出来るもんだ。

「では、今度はこれに入れて振ってみたらどうでしょうか?」

 結果は予想が付くけど……それを試してみんなが納得行くならやってみるか。
 その結果――

「さっきの表面がでこぼこした石の箱と大して変わりませんね……でこぼこでも、ツルツルでも、大根はボロボロですね……」
「変わったのは大根おろしにならなかったことくらいですね」
「じゃあ、この石の箱案はボツということで」
「これならそのまま運んでポッキリ折れたとしても、その方がまだマシですな」

 う~ん……発泡スチロールは無い……エアクッションとかもまだプラスチックが無いから作れないしな……
 エアクッション?
 ……
 …………
 ………………
 魔法でエアクッション作れば良いんじゃない?
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