建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

文字の大きさ
上 下
219 / 544
第8章 通貨制度構築編

第216話 噴出した問題点 その1

しおりを挟む
 通貨制度開始初日の夜――

 リーヴァントと副リーダー、リナさん、ヤポーニャさんに集まってもらい、今日の報告をしてもらう。

「飲食店の米と小麦が不足してますね」
「私が見回って来たところもそうです!」
「私のところもそうでしたな」
「どこもかしこも米と小麦の不足ですね」
「全体的に米と小麦が不足してるな。アルトラ様、どうにかならんかな?」

 う~ん……ここまで不足が顕著に表れるとは……通貨制度開始は、時期尚早だったかな……みんなご飯とパン好きなのね。

「とは言っても、生産するのにもしばらく時間がかかるしね。それに……時期が悪い。今の時期じゃ、少量の生産は出来そうだけど、大量生産は難しいしね」

 成長促進魔法を使うにしても、水温が低いから小規模なら可能だけど、町全体の飲食店をカバーする量はちょっと……賄おうとすると多分また寝込む。下手すると死ぬかもしれない。
 いっそ米そのものを作り変えてしまって、冬にも育つものにすれば良いかとも考えたが、それをすると味や食感が心配。
 なぜなら私は冬に育った米を食べたことがないから、『冬に育つこと』と『冬に育った米がどうなるか』というところのイメージの両立が難しい。いざ育ってみてもあまり美味しくない可能性は十分にある……まあ美味しくなる可能性も十分にあるけど……
 あと、もう一つの懸念としては、『冬も育つ』ということは、米を育ててくれる人の休みの期間が全く無くなってしまう可能性がある。しかも水仕事だから、初夏の田植えより何倍も過酷!
 そういうところも考えると、現時点で存在しないからと言って、おいそれと「冬に育てられる米に作り変えてしまえば良い!」というわけにはいかないのである。

「あ、じゃあ私がこの寒い期間だけでも賄いましょうか?」

 と、手を挙げてくれたのはリナさん。

「賄うって……一体どうするの?」
「輸入します。私の会社、貿易会社もありますので」

 ……
 …………
 ………………

 少しの沈黙。お金持ち規模が大きすぎてみんな考えがまとまらないようだ。

「あれ? どうかしましたか?」
「そ、そんなこと可能なんですか!?」
「大量に!?」
「それは凄い!」
「え、ええ、経営にはあまり口を出さないので、ほぼお飾りではありますけど、一応貿易会社の社長もやってますので」
「じゃあ是非お願いします!」
「これで米と小麦問題も解決ですな!」

 どんだけお金持ちなのこの子……

「いやいやいや、ちょっと待って!」

 みんなの歓喜に沸いたところへ水を差す。

「それ、代金どうするの?」
「私が持ちます」
「いや、それは何と言うか……助かるんだけどダメでしょ。リナさんの会社に損害しか与えてないじゃない」
「大丈夫です! 私のポケットマネーから出しますから!」

 ポケットマネーどんだけ~……?

 いや、それでもリナさんの負担になるのは違いない。「ポケットマネーでやってくれるなら、会社に損害が出るわけじゃないし良いかぁ~」とはならない。
 少し考え方を戻そう。
 私がウォル通貨を作り出す方法としては、アルトレリア産の作物を売って、それを元手に米とか小麦を買うくらいか。うちの作物は結構品質が良い。都会でもそれなりに売れる品質にはなってると思う。米・小麦以外の作物なら、先日のリーヴァントの試算で半年は賄えるくらいの生産が予定されているらしい。つまり少しくらいなら外貨稼ぎに利用できそうだ。
 とは言え……公式に外貨を得るのはまだ問題がある気がする。
 私は以前、この中立地帯で使われる各国通貨の解釈を――

 ・特定の国の通貨を他国の通貨へ換金 ⇒ OK?
 ・特定の国で買った物資を村人に配る ⇒ OK?
 ・特定の国の通貨を村人に配る ⇒
     条件付きでOK?(トロル村でこのお金と物を交換しないこと)
 ・村人が特定の国へ行ってその国と同じ通貨を使う
                  (旅行なども含む) ⇒ OK?
 ・特定の国の通貨をトロル村の通貨として使う ⇒ 絶対にNG

 ――という風に考えた。 (第161話参照)

 この『作物を売って水の国ウォル通貨を得る』という構図は、『作物を売る⇒ウォル通貨を得る⇒米・小麦を買う』となるから、一応上の『村人が特定の国へ行ってその国と同じ通貨を使う』に当たると思う。ここで私の考えでは一応『OK?』としている。
 が、以上は全部が私の想像上の結論、云わば空論でしかないので、この解釈で本当に各七大国が納得しているかどうかは未だにわからないのだ。
 レヴィが七大国会談が近々あるって言うから、出来ることならそこでこの中立地帯アルトレリアの立ち位置と扱いが確定するまでは何とか外貨稼ぎは控えておきたいところ……

「う~ん……う~ん……う~ん……」

 ダメだいくら考えても、町全体を賄うための米と小麦が育つまでの期間を埋めるのは難しい。
 ハンバームちゃんの話では、残り数日で底を尽くって話だから、他の飲食店はもっと早いかもしれない。

「ごめん、じゃあリナさんお願いできるかな? 輸入ソレに掛かるお金についてはまた後日ってことにしてもらえるとありがたい。何かしらで捻出するから」
「あ、はい、いつでも大丈夫ですよ。それにこのアルトレリア通貨を育てて、他の七大国と取引できるくらいに価値を上げてもらえれば、ここのお金で払ってもらっても良いですし」
「う~ん、それは……一体何十年後になるんだろうね……」
「期待してますね!」

 また難しいことをサラリと言ってくれる……
 今日始まったばかりの通貨が、七大国に通じるようになるなんてどれほどの期間が必要になるかわからない。
 地球の話に置き換えても、昔からずっとある国の通貨ですら突然、大国と渡り合えるほど爆騰 (※)したなんて話は中々聞いたことが無い。
 ましてや新興の地域の通貨がそうそう価値が上がるとは思えない。夢のような話だ。
   (※爆騰:暴騰より更に爆上げという意味で、『爆騰』と記しました)

「私は以前伝説級のアクセサリ貰ってますし、あれを頂いたというだけでもこの冬のお米と小麦の価値を軽く超えますよ」

 ああ、そういえばあのアクアマリンの腕輪、数千万は下らないとか言ってたっけ。 (第89話参照)
 あ、ちなみに彼女がこっちへ来た時に壊されてたけど、修復して返した。

「そっか、う~ん……じゃあお願いしても良いかな?」
「はい、お任せください!」
「でもそれだけの量どうやって運ぶの? 空間魔法で運ぶにしても量を考えると中々骨が折れるよ?」
「大丈夫です! スカイドラゴン便がありますので!」

 新しい単語出て来た! 何だスカイドラゴン便って?

「スカイドラゴン便って何?」
「ワイバーンやドラゴンフラヤーなど空を飛ぶドラゴンが荷物を運んでくれる運搬サービスです。海ならシードラゴン便がありますよ」

 ああ、つまりスカイドラゴン便は空輸で、シードラゴン便は海運ってことか。陸路はもしかしてランドドラゴン便? そんなわけないか、馬の方が早そうだ。
 車すらまだ開発されてないから、飛行機は尚更まだ無いってことなのね。でも船はあるっぽいな。

 ここでも疑問が出てくる。
 果たして、「他国のスカイドラゴン便を使うのは、七大国相手としてはOKなのだろうか?」ということ。
 レヴィやアスモが私が地獄の門付近に居を構えたことを知っていたくらいだから、恐らく他国にもここの町が大きくなっていることは伝わっていると思うけど、各国からリアクションが無いから良い状態なのか悪い状態なのか全く判断が付かない。
 少々臆病になり過ぎてるだけか? 私が自意識過剰なだけか?
 七大国会談までそれほど日にちも無いし、スカイドラゴン便使うことには目をつぶろうか? 流石に七大国会談までの少ない日数で他国から攻撃されるなんてことは無いと思うし。

 散々考えに考え抜いた末、今回は使うことに決定。七大国会談がすぐそこということで、そこで私がアルトレリアの立ち位置を明確にしてくれば問題無いだろうという結論に至った。

「じゃあ、スカイドラゴン便でお願い」
「わかりました!」

   ◇

「みんな他に何かある?」
「スイーツ店でも小麦は不足していますが……それに付け加えて卵と牛乳も」

 ああぁぁ……それもあるのか……これらは米や小麦と違って腐るから困る……

「卵と牛乳も輸入リストに追加しておいますか?」

 と、リナさんが薦めてくれるものの……

「米と小麦に加え、卵と牛乳までってのは流石に……今後の展望が予測できない……」
「それに、卵と牛乳って腐りますよね? 大量に仕入れても大丈夫なんですか?」
「確かに……」

 ただでさえ、リナさんに対して大きく借金をしてしまったようなものなのに、この上更に卵と牛乳となると……
 何よりもこの二つは、米・小麦と違って今後の入手のアテが全く無い。ここでお願いしたらずっと輸入に頼ることになってしまう。

「残念だけど、今後はこの二つはしばらく手に入れられないものと考えてください」
「「「「ええぇぇーーーっ!!」」」」

 ここにいる少数だけでこの悲痛な叫び。
 これが町規模だと考えると……町全体お通夜みたいな雰囲気にならないでしょうね?
 私だって卵と牛乳食べたい!
 しかし、心を鬼にして言っておかねばならない。

「卵と牛乳は現状、この町で手に入れる方法が無いので、入手方法が確立するまで我慢をお願いします」
「うぅ……そんな……」
「無いものは無いので仕方ないですね……」

 みんな「これから卵と牛乳を使った料理は食べられないのかぁ……」と本気で残念がってるのが見て取れる……
 私が魔界ここに来る一年くらい前はもっともっと粗末なもの食べてたのに……
 やっぱり生活水準が上がってしまうと、水準を下げるのは容易ではないのかな……?

「しかしスイーツ店の問題はどうするんですか? もう店仕舞いですか?」

 卵も牛乳も使わないスイーツは数あるし、しばらくはそれで代用してもらうくらいしかないか。

「そちらは私が対応します。卵も牛乳も使わないレシピでしばらくしのいでもらおうと思います」

 後日、卵・牛乳を使わないレシピをカイベルにプリントアウトしてもらって、スイーツ店に対応に行こう。

 今後、何とかニワトリみたいなやつと、乳牛みたいなやつを手に入れられたら良いんだけど……
 でも、「生物を輸入してほしい」って言うのも現状問題がある気がするし。空想敵国の七大国の縛りがキツイ……
 どこからかこの町に迷い込んで来てくれれば問題無く養畜できるのに!
 とりあえず、この問題は七大国会談後に棚上げかな。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...