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第8章 通貨制度構築編

第215話 通貨制度開始直後はトラブルだらけ その2

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 とある八百屋にて――

「大根千イェン!? 人参八百イェン!? 高っ!! これはちょっと高すぎよ。これじゃ売れないよ?」
「あ、やっぱり高いですか? 値段の設定がまだよくわからなくて……」
「逆にこのスイカ安すぎない? 二千イェン以下のスイカってあまり見たことないけど……原価は?」
「原価って何でしたっけ?」
「えーと……農林部からいくらで買った?」
「二千五百イェンで……あっ」
「それだと利益どころか損にしかならないね……」
「慌ただしくて気付いてませんでした……三千五百イェンにしておきます」

 ただ、この高い果物スイカが現状買われるかどうか……

「切って小分けにして安く売った方が売れるかもよ?」

 日本のスーパーではスイカを丸々売ってるところはあまり見たことがない。半分か、四分の一にカットしたものが多い気がする。八百屋はまた違うかもしれないけど……

「でも……そうすると果汁が出て持ち運びに不便じゃ……?」

 それもそうか……この地には果汁が出ないように包むためのビニールが無いし……どうすれば……
 でも、プラスチックは土で分解されないらしいから、なるべく作りたくない。と言っても、他の国では既に作られていたりはするんだけど……
 そこで土で分解されるビニールに代わる生分解性プラスチックってのがあったことを思い出した。確か……デンプンで作られてるんだっけ?
 それを踏まえた上で、生分解できるビニールラップをイメージして創成魔法を使う。

 見た目はどう見てもビニールラップな物体が出来た。

 これ本当に土で分解されるのかしら?
 後でカイベルに聞いて、本当に分解されるのならドワーフさんにお願いして量産体制を作ってもらおう。
 今後は、こういったパッケージングする物も必要になってくると思う。
 そう考えると、やっぱり人類とプラスチックやビニール袋って切っても切れない関係ってことなのね……

 じゃあ、とりあえずこれを渡してスイカを包んでもらって……と思ったけど、これを渡すのはダメか、私にしか作れないし。カイベルに同じような性質のものが作れないか聞いてからにした方が良さそうだ。

「確かに小分けすると果汁が出るか……じゃあ、それに対する方策を考えるから、今日のところはそのまま売ってもらえる?」
「わかりました、良い方策をお願いします」
「もしくは……店頭販売で販売して、そのまま店先か店内で食べてもらえば、必ずしも持ち帰ってもらうこともないけど……」
「それ良いですね! そうします!」
「ただ、外は寒いから店内にした方が良いかな」

 と、言ったそばからスイカをカットし、皿に並べて小分けで販売を始めた。
 ここはまあ、とりあえず問題無いかな。
 と言うか……このスイカ、寒いところでも育つ種類なのね。
 さて、今作ったこのビニールラップ“らしきもの”が土に分解されるなら、これの設計図を印刷してドワーフさんに再現してもらおう。そうすれば食材を包めて、尚且つ環境にも優しいビニールラップが出来るはずだ。


   ◇


 とあるワイン店――

 遂にドワーフさんが待ち望んでいた酒が出来た。

「ワイン出来たのね!」
「はい、収穫時から試行錯誤していて少々時期が遅れてしまいましたが、何とか出来ましたよ!」

 メイフィーの部下が出店している。
 あ、酒樽だ……瓶じゃないのか。
 酒樽って初めて見た……ガラスの技術者がまだそれほどいないから瓶までは出来ないのかな?

「試飲いかがですか?」
「う、うん……じゃあ頂こうかな」

 酒関係はほとんど飲まないから、こちらから飲んで良いか聞かずに、言われなければ味見もスルーしようと思ってた。
 薦められてしまったからには飲まなければ仕方ない。

 飲んでみるも……うん、まあ香りはフルーティーで悪くない。でも渋い、苦い……ワインってこれが普通なのかな?
 私はそもそもワインをほとんど飲んだことがないからよくわからない。
 ワインって確か熟成期間必要なんだっけ?
 このワイン、ブドウ収穫して大して時間が経ってないはずだから、多分熟成なんてほとんどしてないはず。本来は何年くらい必要なんだろう?
 気温は大丈夫なんだろうか? 店先販売だから気温は現在十二度ほど。これについてもわからんな。
 これはドワーフさんにお願いした方が良いかも。きっと嬉々として協力してくれると思う。
 全部ドワーフさん頼みになっている……このままだと過労死しそうだ、トロルの技術者にもお願いしないと。

「いかがですか?」
「う、うん、まあ……美味しい……のかな?」
「お口には合いませんでしたか……?」
「は、初めてのワインにしては美味しいと思う……」

 と、大分テキトーなことを言ってしまう。
 金額は二十センチくらいの小さい樽で一万イェン。高っ!
 でも、材料が現時点では希少過ぎるから、これはこれでOKか。

「でも、試飲をやってるのは良いと思うわ! 飲んで気に入って買ってくれる人はいると思うし!」

 と、一応フォローを入れておく。
 今夜の集会で話して、判断を仰ごう。


   ◇


 ダイクーの建築工房にて――

「通貨制度が開始された途端に建築依頼がガクンと減った……」

 ああ、恐れていた事態その2……多分建築関係は一時的に依頼が減るだろうと思っていた。
 なぜなら、この家作りというのは、地球人ならみんなが知ってる通り物凄くお金がかかる!
 たった二十万配った程度で、家が建つわけがない。
 現代なら数百万から数千万、魔界ここでは魔法という便利な能力があるからもっとずっとリーズナブルだが、ごく小さい家だとしても、それでも配った金額の少なくとも十倍を下らないくらいの金額は必要になると思う。
 少し時間が経てば、沢山儲かった人たちから、「店舗を大きくしたい」みたいな依頼が増える可能性があるけど、現状で依頼が来るとは思えない。
 今までは、労働力を食料品などの低い報酬でよしとしていたところがあり、物々交換であったため労働者もその日一日の食べ物さえあればある程度納得していたが、通貨制度が出来たことにより食費程度の少額で労働させるというわけにはいかなくなった。

「……よう、アルトラ様、どうするべきだろうな?」

 表情がかなり暗い……うっ……心が痛い……
 それに、ちょっと恨み節も入ってる……? 通貨制度提案したのも、始める決断したのも私だしな……

「まだ物々交換の時の食料の蓄えが多少あるし、通貨制度開始に際して大量の給金を貰ったから良いものの、これが長く続くと従業員も離れていってしまうだろうし、食いっぱくれてしまう」
「仮橋を本橋に建て替える計画は?」

 この町の川にかかる橋は、多くが私が樹魔法で生やした“仮橋”となっている。徐々に本橋にしていく予定のはずだ。

「それは部下の組が請け負ってるよ」
「そうなのか……」

 本橋の建設は続行中らしい。さて、困ったな。彼らにはどんな仕事をしてもらおうか。とりあえず――

「役所内で相談してみます。悪いようにはしないから任せてもらえる?」
「わかりました……よろしく頼みます」

 そうは言ったが……さてどうしたもんかな?


   ◇


 役所の食堂にて――

「ハンバームちゃん、通貨制度開始したけど、どんな様子?」
「お客さんが少し減った感じがしますね」

 通貨制度開始前は、先述したが外食と言ったら食堂ほぼ一択だった。

「売上がガクンと下がっちゃった感じ?」
「いーえ? 元々お金貰って料理を提供していなかったので、むしろお客さんが減って、お金を貰えるようになったので随分楽になりました。お客さんも別の店へ流れるようになったので忙しさは大幅に減りましたね。通貨制度が無い時とは比較対象が無いので、何とも言えないですけど……多分順調なんじゃないかと」

 あ、そっか、今この時点から飲食店始めた人は、客が中々来なくてお金も中々貰えないけど、ハンバームちゃんは元々無給で料理を提供してたから、通貨制度始まってからは、むしろ客が減った上にお金を沢山貰えるようになったわけね。二重の良いとこ取りだ。
 しかもこの町では、「料理と言ったらハンバームちゃん」ってくらいネームバリューがあるから、多分他の飲食店より頭一つも二つも抜けた売上かもしれない。

「まあ……今まではアルトラ様が食材調達してくださってたので楽でしたけど、今後は自分でやらないといけないところが大変ですけど……」
「それは……頑張って!」

 ガッツポーズを向ける。

「じゃあ食堂については特に問題無さそうだね」
「そうですね。ただ――」

 やっぱり何かトラブルがあるのか。

「お米と小麦がもう残り少ないので、このまま行くと数日でご飯やパンは提供できなくなりますね」
「やっぱりか……」
「やっぱり?」
「別の飲食店でも米と小麦の問題は出て来たのよ」
「まだアクアリヴィア産に頼ってますからね……」

 これはすぐさま米と小麦の生産に着手しないとダメかも。

「今の状況が大体わかったよ、米と小麦についても対応していく」
「お願いします」

 見回ってみたら、まさにトラブルだらけ。物事の始まりってこんなもんなのかしら?
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