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第8章 通貨制度構築編

第212話 通貨制度開始に際しての売買訓練 その2

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 売買初心者の彼ら・彼女らには分からないことが多く、とにかく教えながらの販売になった。
 今から商売を始めてお金を取り扱おうとする者たちは、一般客よりも更に熱心に動向を窺っていたように思う。
 そんな中――

「アルトラ様、こんにちわ~」

 正月同様、また丸い格好でレッドドラゴンの誰かが来店した。
 声からするとレイアか。

「レイアいらっしゃい。一人?」
「はい~、『寒いから売買の仕方を見て来て後で教えろ』とフレハル様が……」
「珍しいね、こういう時はアリサが来るイメージだけど」
「アリサならコタツで寝てます……うぅ……ジャンケンで負けて私が来るハメになったんです!」

 あらら、早くも大凶効果かしら?
 アリサは普段押し付けるようなことはしないけど、寒くなると途端にポンコツになるのね。
 その後ひとしきり店内を見て回って、レジに持って来た商品は――

「何だか……肉ばっかだね……」
「フレハル様、野菜あまり食べませんから」

 そういえばそうだったな……初めて会った頃も野菜避けて食べようとしてたっけ。 (第51話、第59話参照)

「じゃあ、ニンジンとジャガイモとタマネギをサービスしてあげる」
「あはは、フレハル様にとってはこの上ない嫌がらせですね」
「ふふ……『肉ばっか食ってんなよ!』って言ってあげて」


  ◇


 疑似店舗で販売した初日の午後――

 訪問する客足が減り、少々うたた寝をしていたところ、ナナトスがカンナー他九人を引き連れて私のところへやって来た。

「随分大人数で押し寄せたね」
「自分たちも買い物の基本は覚えないとならないッスからね!」

 一応子供向けに、カイベル監修で食堂の面々にお願いしてお菓子も用意してある。主にゴトスが頑張ってくれた。
 チョコに飴に煎餅にスナック菓子にと、パッケージは手作り感を出しているものの、中身は日本の普通のスーパーに置いてあるものとして出してもそこそこ行けるのではないかというものを用意できた。
 しかし、普通に買い物に来たのかと思っていた私の目の前に突然差し出される右手。

「なに、この手は?」

 よく見ると、ナナトス以外の十人全員が手を出している。

「通貨制度始まるし、お金も配られたんで、お年玉くださいッス」 (第206話参照)
「ゲッ! 覚えてたの!?」
「『ゲッ』ってなんスか!? 覚えてたらお年玉くれるって言ってたのに!」
「もちろん覚えてますよ! 貰えたら嬉しいことってアルトラ様が言ってましたから!」
「買い物に来たんじゃないの?」
「お年玉で買わせていただくッス!」

 何で商品と引き換えにお金貰う私が、お金渡さなきゃならんのよ……
 でも約束は約束だしな……

「じゃあ、約束通りあげるよ。ちょっと待ってて」

 と言いつつ、店を出てその辺で拾い上げた石ころを――

「はい、お年玉」

 ――ナナトスとカンナーの手に落とす。

「それはもういいッスから!」

 これの意味を知らない他の九人はポカンとしている。

「仕方ない、覚えてたんならあげようか」

 “約束”ということで、引き連れて来た全員に三千イェンずつお年玉を配った。

「ヤッター!」
「「「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」」」

 その子供達が喜ぶ様に、顔には笑顔を貼り付けているが、内心かなり焦っている。
 全員に配ったことで、私に給付された二十万のうち三万三千イェンが一瞬で消えてしまった……残り十六万七千イェン……
 約束とは言ったけど、こんなに引き連れてくるとは聞いてない!!
 来年もみんなにあげないといけないのかな……

 そのお年玉で、疑似商店内のお菓子をごっそり買って行った。
 結局のところ、ナナトスのところには私のところに来て貰ったものと、神社の『超吉』で貰ったものとで、一万三千イェン手元に入り、買って行ったお菓子の分を差し引いても、手元に二十一万イェンあるらしい。私より金持ちじゃないか!


   ◇


 その日の夜から一週間、リーヴァントと副リーダー全員に、物の適当な価値を知ってもらうための勉強会を開いた。
 これは通貨制度開始後に、店を開いた者は適正な価格を指導してもらうため。
 通貨制度開始の日、彼らには各店舗を見て回ってもらい、適正とは言えないものを修正する指導に当たってもらいたいと思っている。そうでなければ私とカイベル二人ではとても手が回らないからだ。

 通貨の存在しないこの地で、それが開始されたとなると、適正とはほど遠い価格を付けられる可能性は十分にある。
 極端な話、ブランド品でもないリンゴ一つに五千イェンなんて価格を付けて店頭へ置いておいても、誰も買うことはない。
 または、ただのリンゴを百イェンで買って、それを買った者が再び五千イェンで店頭に並べて転売し、それがもし買われた場合は不当に利益を得たということになってしまう。
 こういったことを防ぐため、彼らにはある程度見極めるための目を持ってもらいたいということでこの勉強会を開くに至った。





 そして一週間――

 売買の練習開始した当初は町民全員が右も左もわからないような状態だったけど、一週間疑似商店を開いてみて、様々な人が訪問してくれ、現在はもうかなりの人数がほぼ売買の基本が分かって来たのではないかと思う。
 ちなみに、売り上げ的なものは、私のところ、毎日ほぼ完売。
 リナさんの服飾店、一週間かけてほぼ完売。
 ドワーフさんの電気雑貨店、一週間かけて三分の一ほどの売り上げだった。
 やっぱり高額になるにつれて売れにくいらしい。

 最終日には、疑似店舗を取り壊して役所に戻り、リーヴァントと副リーダー四人に、明日から通貨制度を開始する旨を伝える。

「いかがですか? みな売買の仕方が分かってきたでしょうか?」
「そうだね、予定通り明日から通貨制度開始しても大丈夫そうだよ。ただ、売る方の練習をすることは出来ないから、これはこちら側が指導していかないといけないかもね」
「では予定通り、明日から通貨制度開始ということでよろしいですか?」
「うん、お願い。じゃあ、他のみんなも明日忙しく動き回らないといけないと思うけど、よろしくお願いね」
「「「「はい」」」」

 今回第二地区側は、まだまだ生活基盤が整わないということで出店予定は無し。そのためジュゼルマリオは待機、役所で通常業務をしてもらう。





 また、当初は予定していなかったが、やはり今までの貢献度も考えなければならないと思い、役所、建築部、食堂、縫製所、鍛冶工房、雑貨工房、畑組改め農林部、生態調査組改め生態調査部、ドワーフ工房、潤いの木管理部、浄水施設、その他町づくりに貢献してくれた人々へ、今までの貢献度による報奨金として、配る金額を上乗せした。
 特に忙しく働いてくれた建築部、縫製所、農林部、ドワーフ工房、そして町の重要機関である潤いの木管理部、浄水施設には多めの金額を配る。今までは町でお金を借りていたと考え、それを支払ったと言うのが適切かもしれないな。
 この上乗せには大多数の人が賛成してくれた。これは、頑張ればその後は正当な報酬を貰えるということが暗に示されたからと思われる。
 その過程でリーヴァントにこんな話をされた。

「その理屈で言うと、アルトラ様は一番沢山貰わないとおかしいのでは?」
「わ、私は良いよそこまで考えなくても」
「いえ、ダメです。他の者にも示しがつきませんので、きちんと正当に貰っておいてください」

 その結果、いきなり町一番のお金持ちになった……詳細は聞いていないけど貰ったお金は一千万に届かないくらいと考えられる。もっとも……この町での一千万だから。現在としてはそれほどの価値は無いのだが。
 でも、何か申し訳ないから半分だけ貰って、無理言って半分返した。正直言って、私としてはいそいそと行動しているつもりはなく、どちらかと言えば命令・指揮はリーヴァントに任せて、私はやりたいことをやっているだけという感じがするので、満額貰うには心苦しいと思ったため。
 とは言え、突然五百万弱手に入った。
 一週間前にナナトスのワナにハマって、二十万のうち三万三千イェン消えた身としては、突然降って湧いたこれがとてもありがたい。早速お金の大半は銀行に預けた。

 そんなこんなで練習期間の一週間が過ぎ、明日遂に通貨制度が開始される。
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