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第8章 通貨制度構築編

第199話 沢山集めるくん

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 カイベルから場所を聞いてその該当の島へやってきた。

「おぉ……凄い綿花畑」

 島は全体的に綿花が咲いている。
 詳しく知らないけど綿花って自生するのね。まあそういう進化をしたって考えておこう。この世界には骨鯨なんていう、超特殊進化した例もあるぐらいだし。 (第86話参照)

「これ全部収穫して行けば、町民全体に行き渡るかも」

 さて、これをどうやって刈ろうか。
 カイベルに頼んでも、この量は流石にかなりの時間を要するであろうことが、見ただけでわかる。
 町民にお願いするのも手だけど、大勢にお願いするのも時間がかかりそうだ。
 だとすれば――

「ここはまた魔道具を作るか」

 創成魔法で特定の物、詳しく言えば特定の魔力を持つものだけを吸い込んで集める魔道具を作ろうと思う。
 魔界で半年以上生活してきて、この世界にある万物は、何かしら微弱な魔力を帯びているらしいことがわかった。生物はもちろんのこと、木も、石や砂みたいな鉱物も微弱な魔力を帯びている。これらはその物体ごとに大なり小なり波長が違うらしい。この微弱に帯びた魔力を利用してやろうと思う。

 球状の魔道具を創り出した。大きさは手のひらに乗るくらい。
 そしていつも通り、中に物を入れる構造にする。今回は集めたい物を入れるように作った。この中に入れた魔力とほぼ同質の魔力の物体のみを吸い寄せて集める魔道具。
 起動するためのエネルギーは、ゴーレムの時同様、外側からの魔力で補充できるようにした。
 スイッチのオンオフで魔力の流れを切ることができ、オフにすることで効果が消えて、引き寄せていた物が外れるというシステム。電気磁石を思い浮かべてもらえると分かりやすい。電気が流れている間は金属が吸い付くけど、電気を切れば外れて落ちるみたいな。
 効果範囲は半径五十メートルほど。

「名付けて『沢山集めるくん』! さて、上手くいくかしらね」

 綿花から綿部分だけを千切り取って、『沢山集めるくん』の中に入れた。
 魔力を流して起動エネルギーを補充。スイッチをオンにして、上空へ放り投げた。
 すると――

 綿花がザワザワと動きだし、数秒ののち、綿だけが外れて魔道具の方へ集まっていく。

「おおぉぉぉ、凄い光景! 綿だけどんどん吸い寄せられる!」

 あっという間に、巨大なコットンボールが出来て、地面へ落下してきた。

「よし! あとはこれを亜空間収納ポケットに入れて~…………あっ……」

 で、どうやってこれを収納する?
 ただの綿とは言え、直径十メートルくらいの大きさになった。収納するのは簡単ではない。

「うわぁ……収穫だけ考えて、収納することを考えてなかった! 流石に大きすぎて持ち上がらない。とりあえず『沢山集めるくん』を停止させれば綿が引き剥がせるから、まずはスイッチを切って…………あっ……!」

 『沢山集めるくん』、あのコットンボールの中じゃないか!!
 収納より先に、綿を引き剥がすことを考えないといけない!
 ど、どうやってスイッチを切る!?

 ……
 …………
 ………………

「も、燃やしてみようか……? 一部分だけとか」

 ……
 …………
 ………………

 いやいやいや! 冷静に考えろ、私! ここで火なんか使ったら、綿毛なんだから簡単に全体に燃え移って全部焼失してしまうだろ!
 下手したら綿花畑の方にも飛び火して大惨事ってことも……

「引っ張ったら取れないかしら? …………あ、取れた。じゃあこのまま取り続けていけば、中心に辿り着けるかも」

 なんて考えて、コットンボールに穴を開けようと試みたが、引っ張って取れた綿が手から離れた瞬間に同じところへ戻って行くため、何度むしってもほぼ意味が無い。
 これはスイッチ切らないとどうにもならないな……

「か、掻き分けて入っていくしかないか……」

 仕方ないので、綿を掻き分けつつ、中心を目指す。幸いにも手である程度寄けることができる。例えるなら強力な球状の磁石にくっ付いてる鉄みたいな感じ。あれも剥がせはしないけど、磁石上なら自由にズラすことはできる。
 フワフワで気持ち良いが、相当掻き分けづらい……掻き分けてもかなりの量が戻ってくるから、中々前に進まない!

「ダメだ、届かない……」

 そうだ! 強力な風魔法で一旦空中に飛ばして、空中で更に激しい風を起こしてくっ付いている綿を散らしてしまえば触れることができるかも!
 コットンボールの下へ潜り込み、強力な風でコットンボールを上空へ弾き飛ばす。
 よし、ここまでは想定通り!
 次は地表の綿花畑に影響を与えないように、コットンボールが空中にある間に小規模な竜巻を起こして、『沢山集めるくん』から綿を無理矢理散らすことを考える。

「『つむじ風ワァールウインド』!」

 引き起こした風魔法によって、『沢山集めるくん』に引っ付いていた綿が、四方八方へ撒き散らされた。

「よし! 『沢山集めるくん』が見えた! あとは近付いてスイッチを切れば……」

 が、散らした瞬間にすぐに綿が集まって再び巨大コットンボールを形成してしまった。

「な、なんて厄介な魔道具なの!?」

 自分で作っておいて、何て言いぐさだと思うが、こんなに瞬時に再生するなんて想定してなかった……
 巨大コットンボールは、さっき上空に弾き飛ばした時と同じ状態に復元されて地面に落下。

「なんじゃコレ……」

 しかし、今のでヒントを得た! 風で撒き散らせるなら、撒き散らしつつ突き進めば良いのだ!

 今度は右手にドリルのように動く風の渦を作り、そのままコットンボールに腕を突っ込む。
 風をまとった腕は綿を撒き散らして道を切り開く。撒き散らされた綿は再び魔道具へ戻ろうとするが、撒き散らし続けるため、風をまとっている間は道が出来たままになる。このまま進めば『沢山集めるくん』が顔を出すだろう。

 本体が見えた!

 『沢山集めるくん』本体を吹き飛ばさないように少し風を弱め、スイッチをオフにした。
 魔力源 (※)をオフにした直後、引っ付いていた綿が地面に落下。
      (※魔力源:魔力で言うところの『電源』のようなもの)

「ふぅ……何とか魔力源を切れたわ……」

 アニメとかで、こういった周囲の物体を集める系のアイテムが登場することがたまにあるけど、実際作ってみるとこんなに厄介なのね……
 集めるだけなら問題無いけど、その後が大変。
 これは外側からオンオフ出来るようにリモコンが必要な魔道具だわ。
 魔道具をオフにした後には大量の綿。
 その様は最早綿の絨毯。ここに寝ころんだらさぞ気持ち良く寝られそうだ。

「うわぁ……これいちいち手で拾って亜空間収納ポケットに入れるのも面倒だな……あ、そうだ」

 早速『沢山集めるくん』を遠隔で動かすためのリモコンを追加で創成。更にボダン一つでリモコンのあるところへ戻ってくるという機能を付けた。
 『沢山集めるくん』を拾い上げて、亜空間収納ポケット内に投げ込む。
 亜空間収納ポケットの入り口を開けたまま、スイッチをオン。すると――

 地面に散らばった綿が勢いよく亜空間収納ポケットの中に吸い込まれて行く。

「おぉぉぉ! すっげぇぇ!!」

 あっという間に散らばった綿が片付いた。

「あとはスイッチをオフにして、と――」

 亜空間収納ポケット内を覗くと、綿は『沢山集めるくん』からちゃんと剥がれている。
 それを確認し、今度は追加した機能のスイッチを押すと、『沢山集めるくん』がリモコンを持つ私のところへ戻って来た。

「よし! ちゃんと戻って来たね! あとはこれを綿花畑がある限り繰り返そう!」

 その後、集めては収納、集めては収納を繰り返し、大量の綿をゲットだぜ!

 綿収穫後、布団店に卸しに行ったが、羊毛の時同様その物量の多さに驚愕、そしてちょっと引かれた。
 しかし、これで住民みんなに布団が行き渡ると思う。

 『沢山集めるくん』を使えば、作物の収穫とかにも便利そうだけど……これを使ったら楽することを覚えちゃうと思うから、私以外には使わせないようにしないといけないな。
 そうしないと、私が死んだ後に立ち行かなくなる。
 これを使えないのは残念だけど、作ったことは誰にも言わず秘密にしておこう。


   ◇


 余談だけど、部屋中のほこりが取れるかと思って、『沢山集めるくん』を室内で使ったところ、少量のほこりしか取れなかった。
 毎日カイベルがきちんと掃除してくれているため、この家にはほとんどほこりが無いらしい。
 が、この話はこれで終わりではなかった――

 翌日散歩兼パトロールのために家を出ると、家の外側がなぜかほこりまみれ。

「……何これ? 何でこんな汚くなってるの……?」

 何でこんなことになってるのかとよくよく考えると、昨日室内で使った『沢山集めるくん』に思い至った。
 効果範囲を半径五十メートルほどと設定したため、吸い付ける効果が家の中だけで収まらず、家外にある、家の中のほこりと同質の土を少量ながら吸引してしまい、我が家の壁面に張り付けてしまったらしい。
 幸いだったのは吸引する魔力がほんの少量家から漏れ出ただけだったこと。これがもし全開で吸い付けていたら、この家は土の重さで潰れていたかもしれない。

「…………あの……カイベルさん?」
「はい?」
「壁面に張り付いた土、払っておいてもらえる?」
「アルトラ様、今日のスケジュールはどうなっていますか?」
「今日は何の予定も無い」
「では、ご自分でどうぞ。私はいつも通り屋内の掃除を致しますので」
「………………」

 この日は泣く泣く家の壁全体の土を払うハメになった。
 今後この魔道具は使わないように亜空間収納ポケットに放り込んだ。
 まあ、よく考えたら、カイベルが毎日全部掃除してくれてるから別にこれ使わなくても良かったんだ。
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