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第8章 通貨制度構築編

第188話 解決の水律の木

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 次の日に緊急の集会を開いた。これの報告をすることにする。

「久しぶりに雨上がったね!」
「でも、緊急で招集なんて、何かあったのかな?」
「緊急で招集するくらいだからきっと良い知らせじゃないよね……」

 午前中に役所のみんなで町中に呼び掛けてもらい、来れる人はなるべく来てもらうよう大人数を集めた。

「えー、今日はみなさんに大変残念なお知らせがあります」

「残念なお知らせって何だ?」
「私たちに直接関係することかな?」
「アルトラ様が言うと、より不安よね……」

「このまま行くと――」

 言葉を切って、一旦みんなを見渡し――

「世界は滅亡します!」

 みんながシンと静まり返り、一泊呼吸後――

「「「な・・・・なんだって―――――!!」」」

「ど、どういうことですか!? 急にそんなこと言い出すなんて!? アルトラ様が言うと冗談に聞こえませんよ!?」
「冗談で言ってないからね」
「ホ、ホントに冗談じゃないんですか?」
「潤いの木を作ったことによって、この星全体の水分バランスが崩れたらしくて、このままにしておくと魔界全土が水の底に沈むことになる」
「ま、まさか……最近強い雨が多いのは……?」
「そう、多分その所為せいね」
「ど、どうするんスか、アルトラ様ーー!?」
「な、何とか出来るんですよね!?」
「うん、だいじょう――」

 と言いかけたところ、周りの混乱の声にかき消されてしまった。

「ど、どうする? どこへ避難する?」
「星全体じゃどこへ避難したって同じじゃん」
「もう受け入れよう……無理だって……」
「そうだ! みんなで水の中で呼吸できる魔法を修得すれば良いんじゃない?」

 みんな大騒ぎ。そりゃそうだ、近々死ぬことが今決定されたんだから。
 でも――

「いやいや、水没は早くてもまだ数十年あるから」

 その瞬間にピタっと静まり返り、すぐに狼狽ろうばい再開。

「数十年だって、数十年!」
「良かったーー! とはならないな……」
「数十年後に水没して死ぬくらいなら、今……」
「魔法修得する時間できたじゃん! みんながんばろうよ!」

「みんな、落ち着いて! 今からそれを中和するための手段を講じるから心配無いよ!」

 の一言を発した途端に、再びシンと静まり返る。

「な~んだ!! ……驚かさないでくださいよ!」
「アルトラ様がそう言うなら安心ですね。良かったー! 滅亡はたった今無くなったのね」
「私死ななくて良かったわーー!」
「でも水の中で呼吸できる魔法は便利そうだから、修得してみようかな」

 いやいや、みんな私を信用し過ぎじゃないか?
 もう少しだけ危機感持とうよ。

「でも中和する手段って、どうするんですか?」
「この星全体の水のバランスが崩れた時に限り、その余分となった水を打ち消してくれるような木を作る」
「それって、今は水が多くなってるって言いましたけど、逆に木が水分を吸い過ぎたりして少なくなることはないんですか?」
「水分が多くなった場合に限り機能するように作るから、減ることはないようにする」
「な……何でもありですね……もうある程度慣れましたけど……」
「私から都合の良い話が出てきても『そういうものだ』と解釈して」

 まさにご都合主義な能力だが……

「あ、いつものやつですね」
「そういうわけで、今回みんなに集まってもらったのは、今から余剰水分を中和するための木を作るからそれなりの人数に目撃者になってもらって、この木の重要性を後世まで伝えていってほしいと思うわけよ」

 町の外、川付近に移動、更に少し南の平原まで、大人数を連れて移動した。

「じゃあ、ここに水分を調整してくれる木を作るから」

 水分を調整してくれる木の条件として――
  ・魔界全土の余分な水分を周囲の生物に悪影響を与えないように
   吸い込んで消し去る
  ・通常の木と同じように水分の循環、光合成などを栄養に果実を付ける
   ただし、この果実は消し去った水分とは全く無関係とする。
  ・魔界全土の余剰水分が無い場合は機能を停止する
   ただし、成長とは切り離しているため、この木の生存には影響しない。
  ・潤いの木と生死をリンクさせる
   潤いの木が存在する限り、枯れても切り倒されても同じ場所に生え、
   更にかなりの短時間で成木になるようにする。
  ・一個体限りで増えることがない
   ただし、枯れたり切り倒された場合に限り、同じ場所から
   同じ幼木が新しく芽吹く。

 ――の五つの条件をイメージして創成魔法で木の苗を作り大木まで成長させる。

「「「おぉ! おおおぉぉ!!」」」

「いつ見ても大木になる様は驚かされますね!」
「これで水分の調整が出来るんですか?」
「出来るはずよ。今日から先は、今よりも雨が少なくなると思う」
「この木に名前は付けないんですか?」

 名前か……
 またネーミングセンスが問われる質問……
 さて、じゃあ何にしようかな?
 『水調整の木』……普通過ぎるか。ちょっと長いし。
 『調律の木』……音楽の調整みたいでちょっと優雅だけど……もう少しひねるか。
 『水律の木』なんてどうだろう?

「じゃあ『水律の木』にしようと思う」
「どういう意図でその名前になったんですか?」
「『律』って漢字には『物事を行う基準となる掟』、『行動を秩序付けるための掟』なんて意味があるらしい。水の秩序を守るって意味でピッタリじゃない?」
「良いですね! じゃあ今後『水律の木』って呼ぶことにします!」
「果実も成るように作ったから、収穫して活用して」

 この木を作って以降、急激な豪雨はほとんど降らなくなった。





 後日――

「何か最近雨減っタ……ドシャ降りの中で『ローリングサイクロントルネード』するのが好きだったのニ……」

 リディアがことさら残念がってるけど……ローリングサイクロントルネード?
 何だソレ?
 新しい魔法の名前かしら?

 魔法の一種かと思って詳しく聞いたら、何のことは無い。
 雨の中で両手を大きく広げて、その場でグルグル回る、ただの横回転のことだった。
 それ、私が人間だった時でも出来たやつだわ。
 日本でも子供がやってるのはよく見るけど、大人がやったらまず間違いなく三半規管をやられて、しばらくグロッキー状態で立てなくなるアレ。類似する現象として『ぐるぐるバット』がある。
 それにしても『ローリング』に『サイクロン』に『トルネード』にってめちゃくちゃ回転する名前集めたわね。
 ただの横回転に随分大層な名前を付けたもんだわ……

「また大雨降るようにならないかナ~~」

 もうそんな状態にはさせないから、希望してもダメよ。





 そのまた後日――

 日課の散歩兼パトロール中、リディアとその友達四人を見つけたから少しの間聞き耳を立てていたら――

「最近、豪雨が降らなくなったから、『ローリングサイクロントルネード』のキレが悪いわ」

 ローリングサイクロントルネード……あの名前ってこの村の子供たちの共通認識なんだ……

「大雨の中でやるのが楽しかったのにナ!」
「ホントだな! もっと雨降れ!」
「雨よ降れ! 雨の神よ! 雨の魔王でも良い! 我らが願いを聞き届けたまえ~~!」
「あ、そうだ! トロル神にお願いしよう!」

 みんなで神社への階段を上って行った。
 トロル神、そんなお願い聞き届けてくれるかな?
 子供達がいなくなったので、その場を後にした。
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