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第8章 通貨制度構築編
第177話 炎を吹き出す木と炎に耐性のある木の創成
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町はずれへ案内してもらった。
早速樹魔法と火魔法を使い、創成魔法で組み合わせて、炎を出す木を作った。
ここで久しぶりの魔力動力式の温度計の出番。千三百度まで測れるアレだ。
(第12話参照)
使い道も無かったため、私の机の引き出しに入れておいたが、まさかまた日の目を見るとは。
六百二十三度……まあレッドドラゴンにとって二十三度くらいなら誤差の範囲でしょう。中心温度は……千百二度……こんな木は危な過ぎて複数は作れないな。
あ、でもリクエストは『火に強い木』って言ってたから、炎を出すのは違うのか?
でもフレアハルトの口ぶりからすると炎が出てた方が良いっぽい?
一応、炎を吹き出さず、六百五十度ほどに耐えられる木も一緒に作ってみた。要は隣のこの炎を吹き出す木の温度に耐えられる程度の耐火性を持った木。
「お? もう出来たのか?」
フレアハルトが様子を見に来た。
「一応炎を出す木と出さない木の二種類を作ってみた。炎を出さない木は木の実を植えれば増やせるよ」
「炎を出す木は?」
「そっちは増えると危なそうだから増えないように作った一代限りの木」
あと、レッドドラゴンはこの燃えてる木が平気だから、いろんなところで増やそうとするかもしれないと考えた上での結論。
「増えないのか……」
あからさまにガッカリされたけど、増やせるようにはしないからね!
「枯れたら、私が生きている限りはまた作ってあげるよ」
「う、うむ……」
「あ、くれぐれもこの木を町の外へは出さないでね。特に燃える木の方は枝一本、果実一つ外に出さないで!」
「なぜだ?」
「あなたたちレッドドラゴン族と私以外の種族は燃える木に近寄るだけで焼け死ぬから!」
「うむ……」
「焼け死ぬからね!!」
「あ、ああ……わかった……」
大事なことなので二回言っておく。
作れって依頼されたから作ったけど、こんな危ない木、存在してるだけでヤバイ。人間界にも自分で燃える木があるらしいけど、この木は発する熱量的にその比較にならないほど危ない。
絶対にレッドドラゴンの町に置いておくだけに留めておいてもらわないと!
「ああ、もしこの木がこの町の外に出たことが発覚したら………………絶交だからね。もう金輪際アルトレリアには入れさせないから」
「わ、わかった……」
「よし、とりあえず依頼された木は出来たから、族長さん連れて来てもらえる?」
「あいわかった」
◇
フレアハルトが族長さんを伴ってやってきた。
「族長さん、依頼されたように火に強い木を作りましたよ」
「お~! アルトラ殿! それは素晴らしい! こんな死の土地に木が生えるとは、夢のようだ!」
死の土地に生える近付いたら死ぬ木か……
「それで、どちらの木の方がお好みですか?」
「それはもちろん、こちらの葉のある木を――」
「えっ!? 父上! こっちの炎を吹き出す木ではないのですか!?」
「我は、トロル村で見たこの葉っぱというものが気に入ったのでな」
「こんなものただ葉が付いてるだけではありませんか!」
「貴様はトロル村で生活してるから珍しくないかもしれぬが、我はこれほど近くで見るのは中々無かったことなのだ。故にこの土地にも木が欲しいと、そう思ったのだ」
何だ何だ? 父子間で意見が統一されてないぞ?
「しかし、こっちの炎を吹き出す木なら我々の栄養補給ができますぞ?」
「……うむ……それもそうだな。では両方いただこうか。可能であればもっと増やしてもらいたい」
「え、と、燃えない方だけなら……燃える方は増やすと危険なので、あの一本限りとさせていただきます。それと……フレアハルトにはもう言いましたが、この燃える木は絶対にこの町の外には出さないでください」
「それはなぜですかな?」
「レッドドラゴン族と私以外の種族は燃える木に近寄るだけで焼け死にます」
「なんと!? 他種族は随分と貧弱なのですな」
いや、どちらかと言ったら、レッドドラゴンの性質の方が異常だと思うんだけど……三千度に耐えられる生物なんて、地球上には多分存在しない。
それに、その引き換えにあなたたちは水や氷に極端に弱いしね。
「ですので、絶対にこの町以外には枝一本、果実一つ出さないようにしてください」
「わかりました」
「もしこれが流出したことが発覚したら………………族長さんの命であがなってもらいます」
「なっ!? アルトラ殿!?」
「アルトラ! 貴様! それはどういう意味だっ!?」
「もちろんこれは冗談です。ですが、燃える木の流出は、他の種族にとってそれくらい深刻なことなのだと十分にご留意ください。この木はここ以外で存在するにはあまりに危険なのです」
「…………わかりました、絶対に外には出ないように致します」
「もし万が一流出が判明した場合は、すぐにお知らせください。こちらで確実に処分致しますので。黙っていることだけは絶対になさらぬようにお願いします」
「う、うむ……わかりました……」
「フレアハルトも絶交は冗談としておくから、万が一流出したらすぐに報告してね」
「うむ……わかった……」
一応位置特定ができるように魔力でマーキングをしておくか。万が一流出した時は、迅速に処分しないと死人が出る。木だから移動させられるとも思えないけど、ドラゴン形態なら引っこ抜いて移動させることも可能かもしれないしね。
いや……もしかしたらそもそもこれを渡さない方が賢明なのかもしれないけど……譲る流れになってしまっている以上、「やっぱりやめた」とは言い辛い……ここでだけ存在する分には多分他への影響は無いだろう。
「こっちの葉のある木については?」
「そっちは燃える木とは違って、ただ耐火性に優れているだけなので、流出してもそれほど問題はありません。ただ、通常の木と違って、中々燃えないので、亜人の世界に流出すると処分に困ります。この場所でも処分を考えるなら細かく切って溶岩湖にでも放り込んでください。溶岩流だと木くずくらい細かくしないと、溶岩が周りに付着して石化してそのまま残ると思います。ドラゴンの炎でもフレア・ブレスくらい高温を長く放射しないと中々焼失しないでしょう」
「ほう、なるほど、それは頑丈ですな」
「なので、その木を使えば、ここでも地上にあるような木の家を建てることが可能です」
「それは面白い、ここは石の建物ばかりですからな。しかもカラカラと乾いた石の……」
う~ん……確かに……ボロボロで崩れていきそうな石や岩で出来た家が多い。
「それで、これはどうやって維持するのですかな? 聞いた話では木というのは水が必要と聞きましたが……ここには水など存在しませんが……」
「火の魔力から勝手に栄養を摂取して育ちます。火の魔力に満ちたこの空間なら枯れることもないでしょう」
「そうですか、それなら特別注意しなければらなないことは無いのですな?」
「不都合があった時にはご報告ください」
「アルトラ、植物が育つには太陽の光も必要だと聞いたが?」
「それも対策済みよ」
以前カトブレパスの居た川の流域に育っていた、光を必要としない植物を参考にそういう条件を組み込んだ。
「そうですか。少々、我は席を外させてもらいます」
「あ、はい、どうぞ」
族長さんが突然どこかへ行った。私何か気に入らないこと言ったかな……?
後ろ姿を見送っていた時、その後ろ姿に映った風景を見て、更に自分の周囲を見回してフッと疑問が湧いた。
この町、食べ物が全く無いなと……畑も無いし、食べられそうな獣もいない。生物はレッドドラゴンしか住み着いていない。水なんて存在の痕跡すら無い。
およそ生物が生きていけるとは到底思えないような灼熱の環境だ。
せっかくなので聞いてみるか。
「ところで……あなたたちは何を食べて生きてるの? ここには食料になりそうな作物は無いし、動物もいないようだけど?」
まさか……ガルムと同じで共食い? にしては個体数が少なすぎるか。そんなことしたらあっという間に絶滅しそうだ。
「我らは火の魔力があれば生きられるからな。溶岩から自然の魔力を得ている。この火山内部に住んだのもそういう理由だ」
「え? だとしたらあの燃える木は要らないんじゃない?」
「魔力にも上質なものとそうでないものがあるからな」
「燃える木は?」
「美味いぞ。喜べ! お主の魔力は上質だ!」
「それはどうもありがとう。じゃあ溶岩は?」
「『栄養補給できれば良い』程度の存在だな。この町におると、そこら中に漂っておるから、事欠かないことだけは良い点だな」
つまり、あまり美味しくはないってことなのかな……
「自然物の魔力は雑味があるからな、普通だ」
魔力って雑味とかあるんだな~……魔力食べないからわからんわ。
「それは味があるってこと?」
「味……とはちょっと違うな。感覚的な話になるが、スカッと爽やかになる度合いという感じか。溶岩から自然発生する魔力は普通の気分になり、それより上質だと上機嫌になれるという感じと言えば良いか。表現が難しいな……」
つまり、私たちが空気が澄んでるところに行って「空気が美味い」って言ってるのと似たような感覚かもしれないな。
あ、それってもしかして――
「清涼感?」
「それだ! それを感じられるのが上質な魔力ということだな!」
これって……受け取り方次第では、「私の作った木は『麻薬』です」って言ってるように聞こえるけど……燃える木渡してホントに大丈夫なのかしら?
「でも、この木が美味しいのだとすると、みんなこの木の周りに集まってこない?」
「まあ、それでも良いのではないか? お主ら亜人たちも癒される場所があるからと言って、そこにずっと居るわけでもあるまい? それにそれが美味しいとは言っても、ずっと同じ物を摂取していれば別の物が食いたくなるしな」
それもそうか。
「あれ? じゃあ捕食行為はなに? 必要無い行動なの?」
「食物からでも栄養補給ができるということだな。普段は魔力を主食にしてるとは言っても、味覚が無いわけでないから、美味いものはちゃんと美味く感じるようにできている。魔力に飽きた時には、火山を出てその辺にいるガルムを食べたりしておった」
なるほど、つまり彼らは食べる物が無かったとしても、火さえあれば餓死することが無いってことか。
人間より便利な生態かも。
もしかして高位種族は、みんな自然物の魔力から栄養を得られるのかしら?
ということはリディアは海の中なら餓死せずに生きていられる?
いやいや、そんなわけないな。そもそもリディアを捕まえた理由が、釣った魚を貪り食って漁師に迷惑をかけてたからだし。
ドラゴン、もしくはレッドドラゴンだけが特殊な生態なのかもしれない。
「アルトラ殿!」
さきほど席を外すと言ってどこかへ行った族長さんが、何やら箱のようなものを持って帰って来た。
あれを取りに行ってたのか。
「報酬はこんなものでよいですかな?」
持って来た箱は宝箱だった。
この世界の宝箱って人間界で言うところの、アタッシュケースとかジュラルミンケースに当たるのかしら?
宝箱……ではあるんだけど、エレアースモで見たような木の箱ではなく、燃えないように石で出来た箱。あの箱、魔法の補助無しでは、多分私には重すぎて持てない……
蓋を開くと――
金色に輝くまばゆい光が!
金銀財宝!?
「えっ!? 何これ?」
こんなの今まで生きてきて見たことない!
宝箱に入った金銀財宝って、凄くファンタジーしてるじゃない!
「足りませんかな?」
「いえいえいえいえいえいえ!! 十分過ぎます!! むしろこんなに貰って良いんですか!?」
相場はわからないが、相当な金額分あると思われる。多分、一千万や二千万じゃない。
「この場所に本来なら根付かないものをもたらしてくれたわけですから、これくらいは当然でしょう」
「では、ありがたくいただきます」
そのままでは持ち上げることすらできなかったため、筋力強化の魔法を使って持ち上げ、亜空間収納ポケットに放り込んだ。
そういえば、ドラゴンは金銀財宝を蓄えるって話があったっけ。これ、それの一部かな?
川の代金をヘパイトスさんに支払って、大分財政が困窮してきたかと思ったけど、思わぬところで収入があった。これを換金すればまだある程度は外国の物が買えそうだ。
後日、カイベルに鑑定してもらったところ、二千五百から三千万ウォルほどの価値があるのではないかということだった。
早速樹魔法と火魔法を使い、創成魔法で組み合わせて、炎を出す木を作った。
ここで久しぶりの魔力動力式の温度計の出番。千三百度まで測れるアレだ。
(第12話参照)
使い道も無かったため、私の机の引き出しに入れておいたが、まさかまた日の目を見るとは。
六百二十三度……まあレッドドラゴンにとって二十三度くらいなら誤差の範囲でしょう。中心温度は……千百二度……こんな木は危な過ぎて複数は作れないな。
あ、でもリクエストは『火に強い木』って言ってたから、炎を出すのは違うのか?
でもフレアハルトの口ぶりからすると炎が出てた方が良いっぽい?
一応、炎を吹き出さず、六百五十度ほどに耐えられる木も一緒に作ってみた。要は隣のこの炎を吹き出す木の温度に耐えられる程度の耐火性を持った木。
「お? もう出来たのか?」
フレアハルトが様子を見に来た。
「一応炎を出す木と出さない木の二種類を作ってみた。炎を出さない木は木の実を植えれば増やせるよ」
「炎を出す木は?」
「そっちは増えると危なそうだから増えないように作った一代限りの木」
あと、レッドドラゴンはこの燃えてる木が平気だから、いろんなところで増やそうとするかもしれないと考えた上での結論。
「増えないのか……」
あからさまにガッカリされたけど、増やせるようにはしないからね!
「枯れたら、私が生きている限りはまた作ってあげるよ」
「う、うむ……」
「あ、くれぐれもこの木を町の外へは出さないでね。特に燃える木の方は枝一本、果実一つ外に出さないで!」
「なぜだ?」
「あなたたちレッドドラゴン族と私以外の種族は燃える木に近寄るだけで焼け死ぬから!」
「うむ……」
「焼け死ぬからね!!」
「あ、ああ……わかった……」
大事なことなので二回言っておく。
作れって依頼されたから作ったけど、こんな危ない木、存在してるだけでヤバイ。人間界にも自分で燃える木があるらしいけど、この木は発する熱量的にその比較にならないほど危ない。
絶対にレッドドラゴンの町に置いておくだけに留めておいてもらわないと!
「ああ、もしこの木がこの町の外に出たことが発覚したら………………絶交だからね。もう金輪際アルトレリアには入れさせないから」
「わ、わかった……」
「よし、とりあえず依頼された木は出来たから、族長さん連れて来てもらえる?」
「あいわかった」
◇
フレアハルトが族長さんを伴ってやってきた。
「族長さん、依頼されたように火に強い木を作りましたよ」
「お~! アルトラ殿! それは素晴らしい! こんな死の土地に木が生えるとは、夢のようだ!」
死の土地に生える近付いたら死ぬ木か……
「それで、どちらの木の方がお好みですか?」
「それはもちろん、こちらの葉のある木を――」
「えっ!? 父上! こっちの炎を吹き出す木ではないのですか!?」
「我は、トロル村で見たこの葉っぱというものが気に入ったのでな」
「こんなものただ葉が付いてるだけではありませんか!」
「貴様はトロル村で生活してるから珍しくないかもしれぬが、我はこれほど近くで見るのは中々無かったことなのだ。故にこの土地にも木が欲しいと、そう思ったのだ」
何だ何だ? 父子間で意見が統一されてないぞ?
「しかし、こっちの炎を吹き出す木なら我々の栄養補給ができますぞ?」
「……うむ……それもそうだな。では両方いただこうか。可能であればもっと増やしてもらいたい」
「え、と、燃えない方だけなら……燃える方は増やすと危険なので、あの一本限りとさせていただきます。それと……フレアハルトにはもう言いましたが、この燃える木は絶対にこの町の外には出さないでください」
「それはなぜですかな?」
「レッドドラゴン族と私以外の種族は燃える木に近寄るだけで焼け死にます」
「なんと!? 他種族は随分と貧弱なのですな」
いや、どちらかと言ったら、レッドドラゴンの性質の方が異常だと思うんだけど……三千度に耐えられる生物なんて、地球上には多分存在しない。
それに、その引き換えにあなたたちは水や氷に極端に弱いしね。
「ですので、絶対にこの町以外には枝一本、果実一つ出さないようにしてください」
「わかりました」
「もしこれが流出したことが発覚したら………………族長さんの命であがなってもらいます」
「なっ!? アルトラ殿!?」
「アルトラ! 貴様! それはどういう意味だっ!?」
「もちろんこれは冗談です。ですが、燃える木の流出は、他の種族にとってそれくらい深刻なことなのだと十分にご留意ください。この木はここ以外で存在するにはあまりに危険なのです」
「…………わかりました、絶対に外には出ないように致します」
「もし万が一流出が判明した場合は、すぐにお知らせください。こちらで確実に処分致しますので。黙っていることだけは絶対になさらぬようにお願いします」
「う、うむ……わかりました……」
「フレアハルトも絶交は冗談としておくから、万が一流出したらすぐに報告してね」
「うむ……わかった……」
一応位置特定ができるように魔力でマーキングをしておくか。万が一流出した時は、迅速に処分しないと死人が出る。木だから移動させられるとも思えないけど、ドラゴン形態なら引っこ抜いて移動させることも可能かもしれないしね。
いや……もしかしたらそもそもこれを渡さない方が賢明なのかもしれないけど……譲る流れになってしまっている以上、「やっぱりやめた」とは言い辛い……ここでだけ存在する分には多分他への影響は無いだろう。
「こっちの葉のある木については?」
「そっちは燃える木とは違って、ただ耐火性に優れているだけなので、流出してもそれほど問題はありません。ただ、通常の木と違って、中々燃えないので、亜人の世界に流出すると処分に困ります。この場所でも処分を考えるなら細かく切って溶岩湖にでも放り込んでください。溶岩流だと木くずくらい細かくしないと、溶岩が周りに付着して石化してそのまま残ると思います。ドラゴンの炎でもフレア・ブレスくらい高温を長く放射しないと中々焼失しないでしょう」
「ほう、なるほど、それは頑丈ですな」
「なので、その木を使えば、ここでも地上にあるような木の家を建てることが可能です」
「それは面白い、ここは石の建物ばかりですからな。しかもカラカラと乾いた石の……」
う~ん……確かに……ボロボロで崩れていきそうな石や岩で出来た家が多い。
「それで、これはどうやって維持するのですかな? 聞いた話では木というのは水が必要と聞きましたが……ここには水など存在しませんが……」
「火の魔力から勝手に栄養を摂取して育ちます。火の魔力に満ちたこの空間なら枯れることもないでしょう」
「そうですか、それなら特別注意しなければらなないことは無いのですな?」
「不都合があった時にはご報告ください」
「アルトラ、植物が育つには太陽の光も必要だと聞いたが?」
「それも対策済みよ」
以前カトブレパスの居た川の流域に育っていた、光を必要としない植物を参考にそういう条件を組み込んだ。
「そうですか。少々、我は席を外させてもらいます」
「あ、はい、どうぞ」
族長さんが突然どこかへ行った。私何か気に入らないこと言ったかな……?
後ろ姿を見送っていた時、その後ろ姿に映った風景を見て、更に自分の周囲を見回してフッと疑問が湧いた。
この町、食べ物が全く無いなと……畑も無いし、食べられそうな獣もいない。生物はレッドドラゴンしか住み着いていない。水なんて存在の痕跡すら無い。
およそ生物が生きていけるとは到底思えないような灼熱の環境だ。
せっかくなので聞いてみるか。
「ところで……あなたたちは何を食べて生きてるの? ここには食料になりそうな作物は無いし、動物もいないようだけど?」
まさか……ガルムと同じで共食い? にしては個体数が少なすぎるか。そんなことしたらあっという間に絶滅しそうだ。
「我らは火の魔力があれば生きられるからな。溶岩から自然の魔力を得ている。この火山内部に住んだのもそういう理由だ」
「え? だとしたらあの燃える木は要らないんじゃない?」
「魔力にも上質なものとそうでないものがあるからな」
「燃える木は?」
「美味いぞ。喜べ! お主の魔力は上質だ!」
「それはどうもありがとう。じゃあ溶岩は?」
「『栄養補給できれば良い』程度の存在だな。この町におると、そこら中に漂っておるから、事欠かないことだけは良い点だな」
つまり、あまり美味しくはないってことなのかな……
「自然物の魔力は雑味があるからな、普通だ」
魔力って雑味とかあるんだな~……魔力食べないからわからんわ。
「それは味があるってこと?」
「味……とはちょっと違うな。感覚的な話になるが、スカッと爽やかになる度合いという感じか。溶岩から自然発生する魔力は普通の気分になり、それより上質だと上機嫌になれるという感じと言えば良いか。表現が難しいな……」
つまり、私たちが空気が澄んでるところに行って「空気が美味い」って言ってるのと似たような感覚かもしれないな。
あ、それってもしかして――
「清涼感?」
「それだ! それを感じられるのが上質な魔力ということだな!」
これって……受け取り方次第では、「私の作った木は『麻薬』です」って言ってるように聞こえるけど……燃える木渡してホントに大丈夫なのかしら?
「でも、この木が美味しいのだとすると、みんなこの木の周りに集まってこない?」
「まあ、それでも良いのではないか? お主ら亜人たちも癒される場所があるからと言って、そこにずっと居るわけでもあるまい? それにそれが美味しいとは言っても、ずっと同じ物を摂取していれば別の物が食いたくなるしな」
それもそうか。
「あれ? じゃあ捕食行為はなに? 必要無い行動なの?」
「食物からでも栄養補給ができるということだな。普段は魔力を主食にしてるとは言っても、味覚が無いわけでないから、美味いものはちゃんと美味く感じるようにできている。魔力に飽きた時には、火山を出てその辺にいるガルムを食べたりしておった」
なるほど、つまり彼らは食べる物が無かったとしても、火さえあれば餓死することが無いってことか。
人間より便利な生態かも。
もしかして高位種族は、みんな自然物の魔力から栄養を得られるのかしら?
ということはリディアは海の中なら餓死せずに生きていられる?
いやいや、そんなわけないな。そもそもリディアを捕まえた理由が、釣った魚を貪り食って漁師に迷惑をかけてたからだし。
ドラゴン、もしくはレッドドラゴンだけが特殊な生態なのかもしれない。
「アルトラ殿!」
さきほど席を外すと言ってどこかへ行った族長さんが、何やら箱のようなものを持って帰って来た。
あれを取りに行ってたのか。
「報酬はこんなものでよいですかな?」
持って来た箱は宝箱だった。
この世界の宝箱って人間界で言うところの、アタッシュケースとかジュラルミンケースに当たるのかしら?
宝箱……ではあるんだけど、エレアースモで見たような木の箱ではなく、燃えないように石で出来た箱。あの箱、魔法の補助無しでは、多分私には重すぎて持てない……
蓋を開くと――
金色に輝くまばゆい光が!
金銀財宝!?
「えっ!? 何これ?」
こんなの今まで生きてきて見たことない!
宝箱に入った金銀財宝って、凄くファンタジーしてるじゃない!
「足りませんかな?」
「いえいえいえいえいえいえ!! 十分過ぎます!! むしろこんなに貰って良いんですか!?」
相場はわからないが、相当な金額分あると思われる。多分、一千万や二千万じゃない。
「この場所に本来なら根付かないものをもたらしてくれたわけですから、これくらいは当然でしょう」
「では、ありがたくいただきます」
そのままでは持ち上げることすらできなかったため、筋力強化の魔法を使って持ち上げ、亜空間収納ポケットに放り込んだ。
そういえば、ドラゴンは金銀財宝を蓄えるって話があったっけ。これ、それの一部かな?
川の代金をヘパイトスさんに支払って、大分財政が困窮してきたかと思ったけど、思わぬところで収入があった。これを換金すればまだある程度は外国の物が買えそうだ。
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