建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第7章 川完成編

第174話 地鎮祭 (のようなもの)が執り行われた!

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 地鎮祭兼新しい村の名前公表の日がやってきた。
 でも今更ながらだけど、これって……家建てる前に行うものじゃないのかって思うんだけど……川工事の竣工しゅんこう前にやっておくべきだったかも……
 まあ……土地の名前が新しくなるし、この土地の神様に新しい名前を報告するって名目で、地鎮祭でも良い……のかな?
 この土地の土地神様! トロル神 (仮)様! 人間界でも無いから、少しくらいテキトーでも許してください!

 そういうわけで、発表より先に地鎮祭を執り行うことになったわけだけど……
 私は何にも知らないから、カイベルに神主役を丸投げ。
 私は、祝福してもらう側として参列することにした。
 のだが……

 地鎮祭の祭壇が作られている一方で、近くに新しい村の名前を公表する舞台もしつらえられている。
 祭壇は、先日作った神社 (社)の階段下に作られた。要するに階段下の鳥居の前。
 土地神様を祀り、この地の祝福を願う地鎮祭ということで、この場所が選ばれた。
 更に川完成式典の時とは違い、今回は食事まで用意される予定。今、食堂の従業員総出で作ってもらっている。

 私の知っている地鎮祭とは様相が全く違う。
 そもそも、町の人全員が参加可能な地鎮祭など聞いたことがないから、もはや別物と言って良い。

 …………うん、コレ、地鎮祭じゃないわ。パーティーだわ。
 ちょこっと檀上に上がって、紙に書かれた新しい名前を発表して、終了する予定だったものが、随分な大イベントになってしまった……
 紙に書かれるはずの新しい町の名前は、白い横断幕に書かれ、巻物にして檀上に吊るされている。私が新しい町の名前を発表する時に、紐を引いて、横断幕を広げる方式だ。
 仰々しい感じの場の雰囲気に気圧されて、少し委縮しながら、準備風景を見ていると――

「アルトラ様、どうでしょうか?」

 巫女装束をまとったカイベル登場!

「「「おお~~~!!」」」

 普段のメイド服とは違う姿に、周囲から歓声が上がる。
 普段は下ろしている長髪も、一ヶ所にまとめ上げてポニーテールを作っている。

「良い! めっちゃ良いよ!」
「カイベル! かわいいゾ! リディアも着てみたい!」

 巫女衣装をデザインして、エルフィーレの縫製所で作ってもらった。一週間だったから大分急ぎだったけど、よく出来ている。
 カイベルは黒髪だから巫女装束も良く似合う。
 ……って言うと、私が前世の私を自画自賛していることになるのかしら……?

「あれ? 今回ってアルトラ様がやるんじゃないんスか?」
「神主ってかなり特殊な職業でね、私は経験無いから、経験のあるカイベルにお任せした」

 もちろん嘘である。

「まあ、俺っちはアルトラ様のちんちくりんな巫女姿見るより、眼福なんで良いッスけど」

 一言多いな!

「それよりあの巫女衣装は貸し出しとかされないんスかね?」
「今のところあれ一点物だから予定は無いね」

 それに、年明けにも使いたいしね。
 貸し出しの話を聞いていたフレアハルトが

「ふむ……着たいのか?」
「着せたいんスよ!」

 誰か特定の目当ての子がいるのかな?
 普段着ない服を着たら、違って見えるってところは、人間も亜人も一緒か。
 これ、貸し出し制度とか出来たら、コスプレ文化が生まれそうね……ついこの間まで半裸のような格好で生活してた種族なのに。
 そして雑談も終わりの時、クリスティンが迎えに来た。

「そろそろ開始の時間になるので、準備をお願いします」
「じゃあみんな、準備しようか」


   ◇


 一応昨日役所関係者を二十人ほどを集めてリハーサルをしているので、その通りに並んでもらう。
 これ以上の人数はちょっと多過ぎるから、外側で観覧という形を取った。

「地鎮祭が開始されますので、皆様お静まりください」

 川完成式典の時に進行役を役所の受付嬢のマリリアにお願いしたので、今回の進行役は同じく役所の受付嬢のエリスリーンにお願いした。
 それまでは、みなワイワイと雑談や歓談を楽しんでいたが、厳かな空気を察したのかシンと静まり返る。

 地鎮祭が始まった。
 まずはカイベルが祭壇前に立ち、祓詞はらえことば奏上そうじょうする。

「掛けまくもかしこ伊邪那岐大神いざなぎのおおかみ――――」

 奏上そうじょうが終わると次は修祓しゅうばつと言うお供え物と町のみんなをはらい清める儀式。

「頭をお下げください」

 カイベルの発した言葉に連れて、この場にいる全員が頭を下げ視線を足元へ向ける。前日リハーサルをしていない外野で観覧している面々にも開始前に真似をしてもらうよう伝えてあり、みなそれにならった行動を取る。
 『大麻おおぬさ』をワシャワシャと振り、お供え物と町のみんなをはらい清める。

「どうぞ、お直りください」

 この後、土地の神を迎える『降神こうしん』、神にお供え物を奉納する『献饌けんせん』、この地の安全を祈願する『祝詞奏上』、四方に向かってお塩を撒くことによって清める『四方しほうはらい』などが行われたが、あまり動きが無いので割愛。

 そして、土地にくわを入れ、本来なら建築の許可を得るための『くわ入れの儀』。今回は建築目的ではないため、形式だけの形だけど。無理矢理理由を作るなら、今後もここで平穏に暮らせるように願うってところかな。
 くわを入れるポイントには盛り土がされており、ここに振り下ろすらしい。
 前日のリハーサル時に、ここでちょっと揉めた。
 代表して『くわ入れの儀』を誰が行うかというところで、私かリーヴァントかどちらにするかと言うこと。
 私としては元々住んでいたリーヴァントがやるべきだと思ったが、領主がやるべきだと譲らないため、渋々ながら了承といった経緯があった。
 カイベルからくわを渡される。

「『エイ!』と掛け声をかけながら三回軽く振り下ろして砂を崩してください」
「エイ! エイ! エイ!」

 と言いながら、くわを軽めに振り下ろし、盛り土の土を崩す。
 その後、『玉串拝礼たまぐしほうてん』で、玉串というものを祭壇にお供えし、二礼二拍手一礼。通常なら家を作ってもらう時に家族とその関係者全員がこれをやるらしいけど、人数も多いから十人だけとした。
 そして最後、神にお帰りいただく『昇神しょうしん』。これにて地鎮祭は締められる。

「これを持ちまして、地鎮祭をお納め申し上げます。皆様お疲れ様でした」

 滞り無く地鎮祭は終了した。
 地鎮祭後、雑談が聞こえてきた。

「何だか静かな祭りだったな」
「トロル神ってのが出来たらしいぞ、この土地の守り神様なんだとか。『ごしんたい』ってのがあの新しくできた石階段の上にあるらしい」
「もう見て来た。鏡ってのががあったよ。無闇に触ったらダメなんだと」
「触ったら何があるんだ?」
「悪いことが起こるって」
「じゃあ触らなければ?」
「村を守ってくれるってさ」
「ホントか?」
「まあ、俺には実感できないが、アルトラ様が言うからにはそうなんだろ。ちょっと『ごしんたい』とか言うのを見てくるわ」

 鏡には、私が村全体を対象にした『祝祷しゅくとう魔法』をかけてある。
 『祝祷しゅくとう魔法』というのは、祈りの力から効果影響を及ぼす魔法のこと。主に光魔法や防御魔法、身体強化魔法に属する。
 私が幸運や邪気を払う力をたまに物に込めて人に贈ったりする。
 以前アクアリヴィアを離れる時に、リナさんやそのメイドさんたちに贈った宝石に付与したものがそう。
      (第89話参照)

 鏡に付与した内容は除災招福、邪気退散、豊年満作、無病息災、健康増進、安産祈願というところ。
 もちろん、祈祷きとうに留まるから、必ずしも効果があるわけではないが、付与しないよりは大分良い結果がもたらされると思う。


   ◇


「カイベル、お疲れ様」
「はい、では私は普段着に着替えてきます」

 いつものメイド服に着替えに行った。
 新鮮だから、早々に着替えるにはちょっと勿体ない気もする……
 この場にカメラでもあれば、撮影して残しておきたかったところね。

「続きまして、いよいよこの村の新しい名前の発表に移りたいと思います。皆様、舞台の方へ移動をお願いします」
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