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第7章 川完成編

第167話 遂に川が完成した!(潤いの木移植編)

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 コンクリ作業開始から三ヶ月、ドワーフの助けにより、遂に川を流すための水路が完成した!
 最近肌寒くなってきている。
 やっぱり冬に向かっているみたいだ。冬を前にして完成できて幸いだった。
 人間界に当てはめたら多分十年から十数年を要する工事だろうから、三ヶ月なんて信じられない早さだ。これも魔法がある世界だからということと、超常的な生物 (私含む)がいるからということで、無理矢理にも自身を納得させる。
 特にフレアハルト提案の掘削能力が凄かった……

 希望していた村への供給路となる支流、貯水池もいくつか作り、浄水施設と下水施設も出来た。
 現時点で主要施設には水道を作って、飲み水にも利用できるようになっている。
 田んぼなどの農業用にそちらへ向けた支流、貯水池も出来た。
 各家庭への水道設置だけど、これは徐々に整備していく予定。
 浄水機能や下水処理については以前実験したスライムに担ってもらう。

 あとは、村にある潤いの木を移植するだけだ!

「ああ……遂に潤いの木を引っこ抜いてしまうんですね……」
「ずっとここにあった木が無くなってしまうというのも、寂しい気がしますね……」
「もう潤いの木の果物は食べられないんですね……」
「それはかなりの心残りッスね! 大いなる損失ッス!」
「移植した先で収穫すれば良いじゃないか」
「やっぱりそのまま村に置いておくってわけにはいかないのかな?」
「でも、そうすると折角作った川の水路が無駄になっちゃうし」

 何か……みんな物凄く名残惜しそうね……

「じゃあ、別の木を植える? 一応苗の状態でストックしてある木があるんだけど」
「何の木ですか?」
「凍てつく木。暑い時期は近くにいると涼しいよ。多分凍って美味しい果実を付けるよ」
「……最近寒くなって来てますけど……」
「だよねー、じゃあ保留で」

 今度夏が到来した時に考えるか。多分ずっと冬ってことはないだろう。

「でも、また暑い日が来たら涼めて良いんじゃないか?」
「その暑い日はいつ来るの?」
「すぐは来ないかな?」
「ここ数日のことを考えると、しばらくは来ないんじゃない?」
「いや、でも――」
「みんな……そろそろ引っこ抜いて良いかしら? これ以上引き延ばすのもアレだし」

 みんながザワザワした後にリーヴァントが代表して答える。

「はい、よろしくお願いします」
「最後に聞いておくけど、村まで流れてくるまで数時間かかると思うけど、みんな水の予備は確保できてる?」
「「「大丈夫で~す」」」
「それに確保し忘れてても、村の入り口にあるゼロ距離ドアをくぐればすぐ水汲めますし」

 まあ、確かにそうか。
 よし、じゃあ引っこ抜いても大丈夫そうね。

 潤いの木に雷魔法を打ち込む。
 これでしばらく水が止まる。あとはこれの時間を戻して、苗木に近い状態に戻す。
 同時に、潤いの木の周囲に設置しておいた、水吸収の結界を全て解除。
 苗木に戻してるから、“引っこ抜く”って感じではないか。

「その苗木を火山へ持って行くんですか?」
「そうだね、これを火山の中心に植えて成長促進させて水を流す。数時間後にはこの水路は水で満たされてるはずよ」

 と言うわけで、ゼロ距離ドアで火山頂上付近へ移動。
 火山側のドアは、木を管理してもらうため工事現場から頂上付近へ既に移動させてある。

 潤いの木を植える予定の場所は、火口ではあるものの、中心に台地状に土を盛り立ててある。
 その周りに円環状に掘った水路、そして一か所川へと続く出口がある。
 管理用として、後々橋を渡すことを想定している。
 潤いの木を中心に植えれば、水が周りの水路を満たし、出口を出て川として村へと流れて行く構造。
 水路を形で表すなら、虫眼鏡ルーペのような形に掘られていると考えてもらえると分かりやすい。レンズの部分が木を植える予定の台地、枠の部分が水路。持ち手が水が流れ出る出口という感じ。

 水が流れる出口はまだ板で塞いである。
 この塞いでいるのには理由があり、川の開通式をみんながやりたいと言うので、潤いの木の成長を促進させ、成木にした後に、出口を塞いだ板を壊す予定。
 川が完成した時、木を移植する段階に来て、会議が開かれた際にこんな話が出て来た――

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

『川って、木を移植したらすぐ水を流すんですか?』
『え? そのつもりだけど、何か不都合があるの?』
『何か式典みたいなことはしないんですか?』

 そんなこと頭の片隅にも無かったな……
 以前私の領主就任パーティーをやったから、川完成式典もやりたいってことなのかしら?
 水路が完成したら、私がただ単に潤いの木の苗を所定の位置に植えて、成長させて、水が流れて、普段通りの生活をするだけ、そんな感じに考えていたが。
 長期に渡った大きいプロジェクトだったため、参加していた人たちの思いも一入ひとしおのようだ。

『じゃあ……私の故郷でやってた式典でもやってみる?』

 前日に役所内にて会議が行われ、テープカットのおおよそのやり方を説明し、簡単なリハーサルも行った。
 そこでフレアハルトが疑問を口にする。

『このテープカットには何の意味があるのだ?』

 意味? 何の意味があるんだろ? そういえば考えたことないな。
 テレビで『どこどこのなになにが完成しました!』なんて報道を見ても、ただ何となく、『ほ~ん、あれ遂に完成したんだな~』みたいに外側から気の無い傍観をしていただけだったし。
 だって、その完成した施設の当事者になったことないしね。

『完成した新しい施設の門出を祝う目的で行われます。未来の行く末に幸せが訪れますようにという意味で行われるのだと思います。ハサミには悪いものを断ち切る、テープカットには道を切り開くというような意味合いがあるようです』

 カイベルが説明してくれた。これにはそんな意味があるのね。

『ほう、なるほど、儀式ということか』

 昔からこれに何の意味があるのだろうと思ってたけど、フレアハルトの言葉で合点がいった。
 儀式って、それをすることで別に何かを得られるってわけでもないものね。
 お払いの儀式は場を清めるもの。それならこのテープカットは場を祝福する儀式と考えれば良いってことね。

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 ――というやり取りがあり、開通式を行うことになった。

 潤いの木を盛り土の中心に植える。

「さてみんな、木を成長させるよ?」

 村のみんなは、木を植える予定の場所の前面に集まっている。
 時間魔法で苗木に戻しておいた潤いの木を、樹魔法の成長促進魔法で成木まで成長させる。
 その過程で創成魔法を使い、枝払いによって湧水量を調整できるように変質させた。

「「「おぉ? おおおぉぉ!?」」」

 村にあった時よりも巨大に成長した。
 成長直後から、水がドバドバ出てくる。あっという間に周りの水路が満たされそうだ。

「木を成長させるのを見るのは二度目ですけど、やっぱり凄いですね!」
「あ~あ、ついに村から潤いの木が無くなったんだな……」
「そんなことより、この様子だとすぐにでも水が水路から溢れそうですよ?」
「じゃあ水が溢れだす前に開通式オープニングセレモニーに移ろうか。代表する人と役員の人たちはお願いね」
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