上 下
134 / 531
第5章 雷の国エレアースモの異常事態編

第133話 画期的な回復術の指導

しおりを挟む
「改めて、質問がある方いますか?」

「はい!」
「はい、そこの方」
「その回復方法は痛みを伴わないというのは本当ですか?」
「痛み?」
「急激に大怪我を回復させると、それに比例した痛みを伴いますよね? 今回の魔法災害では大怪我の方が多かったので、腕を生えさせるほどの回復をすると泣き叫んでしまうほど痛いらしく、見ていて可哀想でした」
「えっ!?」

 慌てて口をつむぐ。
 思わず「そうなの!?」と言いかけた。余計なことを口走る前に口を閉じられて良かった……
 もし、それを言ってしまったら、この回復方法の存在すら危うくなる。
 エキスパートと紹介されたにも関わらず、そんな基礎的なことすら知らないのかと。

 誰にも聞けないので、後でカイベルに聞いた話によると――
 実はこの世界の回復魔法は、突然回復させるものではなく、自己再生能力を急激に高めて再生を促すもの。
 細胞の組成を促し、急激な成長をさせると考えてもらえるとわかりやすい。イメージ的には思春期の成長痛を超激痛にした感じ……かな?
 そのため、大怪我であれば大怪我であるほど、それを急激に回復させた時にその怪我の大きさに比例した痛みを伴うのだという。
 今まで私が『回復魔法ヒール』を使う状況だった時は、大した怪我ではなかったため、回復時の痛みが発生していることに気付いていなかったらしい。
 腕や脚を生えさせるほどの急激な回復をすると、一瞬だけではあるものの、泣き叫びたくなるほどの激痛を感じるとのこと。
 この話を聞いてから、今後はよほどの極限状態でない限り、無闇に『回復魔法 (極大)ハイスト・ヒール』を使わないようにしようと決意した。

「コホン、徐々に回復していくため、痛みはほとんど無いのではないかと思います。多少傷口がチリチリしますが」
 実体験だけど……

「確かに……痛みはほとんど無くなりましたが、傷口がチリチリと疼きます」
 今治療した男性が助け舟を出してくれる。

「徐々に再生しているため小さな疼きがあるのだと思います。要するに回復している証拠と言えるのではないでしょうか? 他にありますか?」

「はい! ただの『自己再生魔法リジェネレート』ではダメなのですか?」
「全身的な怪我なら自己再生魔法リジェネレートでも良いのですが、腕や脚を生えさせるほどの回復力は出せないため、水球に閉じ込めて限定的、集中的に回復を促す必要があります」

「『MPドレイン』を付与する意味は何ですか?」
「水球と自己再生魔法リジェネレートだけでは、魔力切れで消えてしまう可能性もあるため、MPドレインを付与して、負傷者自身の魔力で再生時間を補ってもらいます。魔力は寝ていれば回復する上、MPドレインで吸われる魔力も微々たるものなので、完治するまでに時間はかかりますが、治療者、負傷者ともにメリットのある魔法だと思います」

「「「おお~~!!」」」
「痛みもほとんど無いなんて、画期的な方法じゃないですか!」

「あの……傷が皮膚で覆われてしまっている方はどうしたら良いんですか? そのまま『癒しの水球リジェネレート・スフィア』を使えば良いんですか?」
「いえ、その場合は再度傷を付けて、骨を露出させてやる必要があります。その場合は麻酔や昏睡魔法などで、痛みを感じない状態にしてから傷を付けた上で再度回復を行ってください。もちろん負傷者の同意を得たうえで」
「わかりました」

「では方法もわかったと思いますので、申し訳ないですがここに来ていただいている負傷者の方で実践練習をさせていただきたいと思います。コツを掴めたら現場へお願いします」

 前半組への治療方法の伝授を終え、すぐに現場で治療に当たってもらった。
 続いて後半組へ同じ方法を教え、私も現場の方へ参加。






 その参加している最中一人の男性に声をかけられた。

「昨日、私の腕を回復してくださった方ですよね?」
 あ、確かに見覚えある。私が治療した男性だ。

「い、いえ、違うと思います」
「そ、そうですか、似ているような気がしたので、すみません」
 しどろもどろしながら否定していると――

「あ、あなた昨日私の脚を治療してくれた方ですよね!」
 あ、この人も見覚えある。

「あ、やっぱり? あなたもそう思いますか?」
「金髪でユラユラ動く黒い服を着てた方ですよね?」
「ち、違うと思います」
 否定するとどんどん増える。
 この場は一旦離れた方が良いか?

「あ、あの次の方の治療がありますので、これで」
「あー! あなた昨日アスモデウス様と一緒に正門付近にいた人ですよね?」
 人の目って凄いな……絶対に否定できないようにどんどん外堀が埋まっていく……
 ホテル帰るまでに五十人くらい治療したしな……眼帯付けた程度じゃ隠し通せないか……

「あ、あんた、昨日空行って、巨大な鳥を捕えて来たアスモデウス様の相棒の謎の少女じゃないか?」
 決定的なやつキタ!
 もう仕方ないか……

「う……じ、実はそうです」
「その眼帯どうされたんですか!? まさか怪我でも?」
「い、いえ……はい……」
 最初は否定しようと思ったけど、顔を隠すために付けて来たとは恥ずかしくて言えない……

「やっぱり! あなたのお蔭で今までと変わらない生活をすることができています、ありがとうございました!」
「応援することぐらいしかできませんが、がんばってくださいね!」

 特に騒ぎにはならなかったから助かった……






 何とか大怪我した負傷者千八百五人の治療を終えることができた。
 しかし、千八百六人って聞いてたはずだけど……
 残りの一人は?

「……ベルゼ、お疲れ様。でももう一人だけ回復してもらいたい……怪我の大きさが大きさだけにあなたに頼みたい……」

 その負傷者は、胴体で切断されてしまったという一人の男性。
 今まで意識が無かったため、病院には入院させたものの、酷な話だが、死に向かうと思われていたため後回しにされたらしい。トリアージで言うところの赤ではあるものの、限りなく黒に近い人ってところか。
 サントラル公園広場での治療の終わり頃になって、その人の意識が戻ったため、急ぎ回復してほしいとのこと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...