上 下
122 / 531
第5章 雷の国エレアースモの異常事態編

第121話 カイベルのハイパースペック

しおりを挟む
 ゴゴォォォン!! ゴゴォォォン!!

 雷の音がうるさくて眠れんな……
 アスモを見ると寝息を立てている。他の護衛の方々は一人を除いて起きている人はいない。
 何でこの方々は普通に眠れてるの? 慣れ?

「アルトラ様、眠れないのですか?」
「う~ん、こううるさくちゃね……ラッセルさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、まあある程度慣れてますから、生活音の一つとして聞こえていてます」
「まさか、首都もこんなにうるさいんですか?」
「いえいえまさか! 首都はきちんと防音対策がされていますよ」
 それは良かった……首都に着いてまでこの巨大な落雷音を聞かにゃならんのかと……

 全員寝てるかと思ったらリディアは起きてた。
「雷うるさくて眠れなイ……」

 地獄の門前広場組の私とリディアだけ眠れず、護衛のラッセルさん以外の他の人はぐっすり。
 カイベルは私が寝ている間は機能停止しておくように組み込んだ命令の所為せいか、私が目を覚ます度に再起動を繰り返している。

「アルトラ様、何度も目が覚めるようですが、眠れないのですか?」
 そのセリフはさっきラッセルさんからも聞いた……

 何とか音を小さくする方法は無いものか……

 音は空気の振動で伝わるから、空気の振動を遮断すれば良いのかな?
 空気の振動っていうと……大気と考えれば風魔法の領分?
 以前洪水起こした時にやった二重の防御結界を試してみようか。

 コテージの外に出て、まずはコテージの周囲に雷吸収の防御結界を施す。
 このままだとまだ落雷の時に出る音までは届いてくる。
 この雷結界の下に風吸収の防御結界を施す。
 これで空気の振動を吸収してくれるはず。

「リディア、音はどう?」
「ぱったりと聞こえなくなったゾ! おやすミ!」

 これ以降、音に悩まされることも無くなった。






 朝 (と思われる時間)までぐっすり眠れた。

「アルトラ様、朝食ができております」
「ああ……カイベルおはよう」
 起きてすぐ目だけで周囲を見回す。
 あ、そうか、今日は出先のコテージの中だったんだっけ。

「お! 美味しそうね」

 朝食はほぼ全てアクアリヴィアで購入した食材で出来ている。
 食パンに昨日のイクシオンの肉をベーコン加工した物の上に目玉焼きとチーズをトッピングした『ベーコンエッグチーズトースト』。
 ウインナーにスクランブルエッグ。
 あと馬肉をセルフで焼肉にするものと……ん? この肉とあっちの肉、色も肉質も違うような……? まあ良いか。
 野菜は村で採れたもの。
 コーヒーと牛乳を取り揃え、お好みでブレンド可能。砂糖も完備。

 ラッセルさんと交代で起きていた護衛の一人、アレックスさんが小声で話しかけてきた。
「……アルトラ様、少々よろしいですか?」
「はい? どうかしましたか?」
「……カイベルさんとは一体どんな方なんですか?」
「アクアリヴィアで雇った使用人ですけど……それが何か?」
「さきほど早朝に、コテージを出て行かれようとしたのでお声がけしたところ――」

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

『どちらへ行かれるのですか?』
『少し散歩をしてきます』
『雷対策の魔法をかけているとは言え、周囲に危険な生物が多いですが……護衛致しましょうか?』
『いえ、問題ありません、少々席を外しますので、アルトラ様とリディア様をよろしくお願いします』

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「そう言って出ていきまして、少ししたら小さめのデンキヒツジを担いで帰って来て、凄い手際の良さであっという間に解体、洗浄していました。それも全く服を汚さずに……」
 何怪しまれることやってんのカイベル……

「その後、羊から抽出した腸に、馬と羊のひき肉を合い挽きで詰めてウィンナーを作っていました。更にその後、凄い勢いで牛乳からバターを分離させたり、羊から何か取り出して牛乳に入れたと思ったらチーズが出来てたり、コーヒー豆を凄い早さですり潰したりしていました……それも全て素手で……」
 あ! さっき馬肉とは別の肉があると思ってたけど、あれって羊の肉だったのか!
 羊から取り出したって、何を? 何を入れたら牛乳がチーズになるのかしら?

「その後、土魔法と火魔法と物質魔法でコテージ内にテーブルと食器、焼肉用の鉄板を自作していました。テーブルと食器程度ならまだしも、厚い鉄板を作るなど並み大抵の魔力では出来ないと思います。彼女は一体どんな亜人なのですか?」
 何も言えねぇ……ホント何やってんの……?

「デンキヒツジは我々アスモデウス様の側近ですら単身で倒すのは中々骨が折れるのに……しかも仔羊を狩ってくるなんて……仔羊を攻撃すると周りの親羊が狂暴化するので狩るのはより大変なんですよ。それをあの女性の細腕で、短時間で狩りから食事、テーブルから食器まで作ってしまうなんて……」
「あ、ええっと……その……彼女は地球から異世界転移に巻き込まれてしまった日本人で……」
「異世界の方ですか!? だからあれほど精密なのですね!」
 いや、違いますけど……?
 日本人でもそこまでスペック高い人は稀です……と言うか、コーヒー豆を素手ですり潰せる地球人はいません。

「異世界の方なら納得ですね」
 そうか? 納得早くない? 私が言うのもなんですが、もうちょっと疑った方が良いと思います!

「ああ、あああの、でもあれだけのスペックの人は滅多にいないので、もし異世界転移者を見つけても過度な期待はしないであげてください。普通の! 『普通の』亜人と変わらない人が大多数なので! いえ! 99.9999999%は魔法すら使えない『普通の』人間ですので!!」
 一応『普通の』ということを強調して訂正しておかないと、次に雷の国に異世界転移されてきた人が大変な苦労をしそうだ……

「そうなんですね。あんな凄い方を使用人にされるなんて、アルトラ様は強運の持ち主ですね」
「え、ええ……そうですね……私のところに来てくれた彼女には感謝してます」

 オルシンジテンからカイベルにモデルチェンジしてから、生活がワンランク上がったしね。食に関してはワンランクどころかファイブランクくらい上がったかもしれない。ホント感謝だわ。
 あらゆることが「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態。
 そんな話をしていたら、カイベルから声がかかる。

「さあ、皆様もどうぞ、お召し上がりください」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「アルトラ様、この二つも異空間収納ポケットに入れておいてもらえますか?」
 渡されたのはさっきの羊の肉の余ったものと、羊毛。
 凄い羊毛! これはエルフィーレへのお土産にしてあげよう。

 一応聞いておくか。
「何で羊獲りに行ったの?」
「相手は女王様ですので、馬一種類だけでは足りないかと思いまして」
「それなら言ってくれればカトブレパス肉出したのに」
「まだ寝てましたし、昨夜は音の大きさで寝られないということでしたので、もうしばし寝かせておこうかなと思いまして」

 うん、まあ一応アレックスさんへは誤魔化せたと思うし、いっか。
 それと、何か羊毛多い気がする。これ一頭分なの?

「カイベル、この羊毛一頭分?」
「いえ、近くにいた十頭ほどの羊毛を刈り取ってきました。今後使うと思いまして」
 超危険生物を殺さずに? どうやってるの?

「電気を発するだけで、他は普通の羊とそれほど変わりませんので」

 これが出来た理由は、どうやらカイベルを作った時にこれでもかとかけたバリアの影響らしい。雷も無効化しているので、カイベルにとってはただの羊と変わらないようだ。
 それでも十頭分刈ってくるなんて信じられない速さだけど……

「ところで……牛乳に羊の何を入れたの?」
「あれは、哺乳期間中の仔羊の胃から採れるレンネットと呼ばれるミルクを固める酵素です」
 チーズを固めるのってそんなのが必要なんだ……

「カビからも取れますが、今回は羊を狩って来たのでそれを利用しました」
 カイベルのやることは知らないことだらけだ……

 朝食後、コテージを壊して出発。
 あと、残り30kmほどだから、何も無ければ今日中には着けるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

処理中です...