建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第4章 アルトラの受難編

第107話 リッチのカエル生活

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 ところがその数日後。

「邪魔だどけ!」
「キャッ!!」

「お前……何てことするんだ! 大丈夫?」
「邪魔だから邪魔だとどいてもらっただけだが?」
「お前の今のは突き飛ばしだ! なぜ他人に対してもっと優しくできないんだ!」
「チッ、うるさいんだよ良い子ちゃんがッ!!」

 またしてもリッチがトラブルを起こしている……それを諫めるトーマス。

「…………今度は何?」
「あっ、アルトラ様、その女の子がリッチに手で押し出されて転んでしまいまして、それを咎めていたんです」
「リッチ、同じことをあなたがやられたらどう思うの?」
「そんなのムカつくに決まってるじゃないですか、相手をボコボコに痛めつけてやりますよ」
「そのやられてムカつくことをあなたは他人にやってるのよ?」
「それが何か?」
「…………自分がやられて嫌なことなのに、それを他人にやるの?」
「他人が嫌な思いをしたところで、私は嫌な思いをしませんからね」
 ここまで共感力が低いとは……話通じないってのはこういうのを言うのね……

「あなた……本当にカエルになりたいようね……?」
「フフッ、あなたが私をどうにかできるのですか? 亜人ひとを殺す覚悟も無いあなたが?」
 やっぱり『殺さない』って考えてるのは見透かされてるみたいね……

「わかりました、あなたが全く他人を思いやれないということがわかったので、ここに来る前にした約束の通りカエルに変えます」
「は? あなたにはそんなことできないのでは?」
「なぜそう思うのですか? 私は再三警告しました。ここに来る前からも何度も何度も何度も!! 村民と仲良くできるようにアドバイスもしました。しかし、何度言っても態度を改めることはないようなので、あなたには一生カエルとして過ごしてもらうことにします」
「嘘ですよね?」
「では亜人の人生さようなら。残りの人生はカエルとして過ごしてください」
「そんなこと出来るわけが……!
蛙変化魔法フロッグ・チェンジ
「うわああ~~~」

 リッチをウシガエルくらいの大きさのカエルに変化させた。

「殺しはしませんので、どこへなりとも行きなさい。あなたは今から自由です。ただし……もう亜人ひとが食べる美味しいものも食べられないし、逆にあなたが捕食される可能性も大きいけどね。では今まで亜人ひととしてご苦労様でした。さようなら」
「ゲンロロゲロロ!! (そんなの嫌だ!!)」
 リッチを一瞥いちべつして、その場を去った。

 と、見せかけて、あの状態だとホントにいつ食われてもおかしくないから、リッチに気付かれないように近くで見守ろう。
 とは言え、この付近には空からの天敵となる鳥はいないし、カエルを捕食しそうなのはガルムくらいしかいないから、そこに注意しておけばそれほど大変なことでもない。
 いや、最近は大地が冷えた影響でいろんな生物がこの辺りに流入してくるようになってきたから、鳥がいないとも限らないのか。

不可視化インビジブル
 自身に光を屈折させて透明に見える魔法をかけた。以前カイベルになる前のオルシンジテンにかけていた、非常に見つかりにくくなる魔法だ。
 これで周囲の者からは私の姿は見えてないはず。この状態でリッチを今日一日追跡する。
 このおしおきで次に同じ状態にされるのを恐れて、少しくらい考え方を変えてくれれば良いんだけども……
 これをやっても心境に何の変化も無いなら、もう私には手の打ちようが無い。そうしたらもうルーファスさんを頼る他無いか……

「ゲッロ~~、ゲロロゲロロゲゲンロゲロゲロゲロゲロゲロンゲ! ゲロゲロロゲロ、ゲロゲロロゲロ、ゲロロゲロゲロゲロロゲロ!! (くっそ~、何で私がこんな目に遭わなきゃならないんだ! アルトラのヤツ、いつか目に者見せてやる!!)」
 
 私が変身魔法をかけたためか、カエル語でしゃべってるリッチが何を言っているのか完全に理解できる。
 聞こえてないと思って、散々悪態付いてるな……

「ゲンロゲロロロゲロゲロロゲロンロ~~! (こんな姿でどうすれば良いんだ~~!)」
 姿がカエルのため皮膚が乾いたり、喉が渇くのか潤いの木付近にやってきた。
 いや、サハギンだから元々皮膚は乾きやすいかもしれないが。

「ゲロゲロゲロロゲロゲロゲンロゲロ (でもこの舌はなかなか便利だな)」
 離れたところから水飲んでる。

「あ、何か変な生き物いるぞ?」
 あ、まずい……ここではカエルはまだ珍しいのか? そういえば灼熱の大地だったからまだ見たことない。
 子供が興味を持って集まって来てしまった……
 でも、とりあえず命の危機があるまでは静観かな。
 あれ? リディアがいる。もうみんなと仲良くなったのね。

「捕まえよう!」
「ゲロロロゲロゲロゲロ! (触るなクソガキども!)」
「捕まえた! うわっ、何かヌルっとする! 汚ねっ!」
「ゲローー! (うわーー!)」
 どこかに放り投げられてしまった……
 子供達はどこかへ走って行ってしまった。が、リディアだけ一人残って最近植樹された街路樹の下にある小さい木の影を見ている。
 屈んで覗き込んでる。

「リッチなのカ? カエルになって何してル?」
 リディアには、あのカエルが誰なのかわかってるのか……魔力で個人まで特定できるとは……凄い感知精度だ……

 何だ?
 今度はこっち来た。
 こっちに来てキョロキョロと辺りを見回している。
 リディアに触れられないように、出来るだけ細い体勢を取る。変な汗が出てくるわ!

「おかしいナ? 何もいないのニ、この辺りからアルトラの魔力の気配がすル……」

 ヤバイ、リディアにバレそうだ! 魔力遮断シャットアウト・スペル
 漏出ろうしゅつする魔力を隠匿いんとくする魔法をかけた。これもオルシンジテンにかけてあった魔法だ。

「あれ? 魔力が消えタ……気のせいだったのかナ?」
 危ない危ない……リディアが通りかかる可能性を考えてなかった……
 魔力遮断魔法かけて正解だった。

「ゲロロロゲロゲロロ!! ゲロゲロロゲロロゲロロロロゲロゲロ!! (助けろイカ娘!! アルトラに元に戻すよう伝えろ!!)」
「何言ってるかわかんなイ……」
「リディアちゃん行くよー!」
「じゃ、友達待ってるから行くナ」
「ゲロ! ゲロゲロロッ!! (おい! 置いてくなっ!!)」
 リディアも走って行ってしまった。友達が増えたのは良いことだ。

「ゲロロゲロロロー…… (お腹空いたよー……)」
 目の前をトカゲが横切った。あれも最近見るようになったやつね。ちょっとだけ熱に強いタイプのトカゲ。
 今まさに食事のチャンスだけど、リッチは全く見向きもしない。亜人ひとの生活に慣れてるんだから、そりゃそうか。普通の人らしい食生活に慣れてれば、トカゲあれは口に入れる気はしないわ。
 リッチが食べ物を食べようとするなら食堂かな。
 ここからだとカエルの大きさでは大分距離があるけど。
 あ、動き出した。
 さっきのように今度は人に見つからないように影から影を移動している。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 途中、少し大きめの鳥に見つかった。鳥も飛んで来るくらいの気候になったんだな~、とちょっと感動する暇も無く……
 あ~、あれちょっとヤバイな、睨み合いになってる。『蛇に睨まれた蛙』ならぬ『鳥に睨まれた蛙』。

「ゲロロ! ゲロロゲロロゲンロロロゲロゲロロッロ! (コイツ! たかが鳥の分際で邪魔しやがって!)」
 舌をブンブン振り回して一生懸命威嚇しているけど……鳥の方は意に介してないな。手助けした方が良いかな? あのままだと食べられそうだ。

「ゲロッ! (うわっ!)」
 まずい! くちばしで咥えられた! 食べられる! 風魔法で手助けを!
 と思ったら――

「ゲロロ! (放せ!)」
 水魔法の水流を至近距離で目に当てて、難を逃れた。
 カエル状態でも魔法使えるのね……
 『フィニッシュファンタジー』ではカエル状態の時はカエルにする魔法かカエルから戻す魔法しか使えなかったけど。
 ちょっと水の中に毒か刺激性のものでも混ぜたのか、それ以降は攻撃してこなくなった。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 結局亜人ひとの足なら15分くらいの距離を2時間かけて食堂付近に着いた。
 目的は……ゴミ箱の中の残飯か。そのままじゃ食堂に顔出したところで誰にも気付かれないししね。

「ゲロッ! ゲロロゲロロロゲンロゲロ! (クソッ! 何で私がこんな目に!)」
 悪態付きながら、ゴミ箱から漁った残飯を食べている。

「ゲッロロゲンロゲロゲロゲンロゲロローー!! (一生こんな生活なんて嫌だーー!!)」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 日も暮れてきた。
 そろそろ元に戻してやるか。
 リッチガエルの前に姿を見せる。

「さて、カエルの生活はどうだったかしら? 少しは反省した?」
「ゲロロンロロゲロゲロォ!!! ゲロロゲロロゲロロ! ゲロゲロロロ!!! (ふざけんなよアルトラァ!!! 早く元に戻せ! この醜女しこめが!!!)」
「あんた……今しゃべってるのがカエル語だから、私が理解できてないと思って悪態付いてるのかもしれないけど、全部理解出来てるからね」
「…………ゲロンロロロ……ゲロロゲロゲロゲロロロ…… (…………ごめんなさい……元に戻してください……)」
 ちょっとしおらしくなったかな?

「次にいらぬトラブルを起こすようなことがあれば、また同じことをするので肝に銘じておいてください」
「…………ゲロロ……ゲロロ…… (…………わかり……ました……)」

「じゃあ、解除してあげるわ。蛙変化魔法フロッグ・チェンジ
 リッチをカエルから元の姿に戻した。

「少しは懲りたかしら?」
「……はい……」
 一応懲りたようだから、少しは態度を改めるでしょう。
 この時にはそう思っていたのだが――






「くそっ! アルトラめッ!! よくも上級貴族の私を辱めてくれたな……!! 絶対殺してやる……!!」
 反省は微塵もしておらず、むしろ恨みを深める結果となっていた。
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