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第3章 水の国アクアリヴィア探訪編

第85話 リディアの『睡眠中イカ問題』と『洗顔、歯磨き問題』

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 翌朝、リディアの寝ている方を見ると――
 またもイカ状態になっていた……囲いをイカサイズにしておいて良かった。
 寝る度に変身解けてるんじゃこの先困るな……毎夜毎夜『縮小魔法ミニマム』を使わないといけない。何とかしないと。
 おねしょと同じようなもので、成長するに連れて変身が解除されなくなってくるかしら?
 今はまだ幼体だから脚含めないで5mだから部屋に収まってたけど、この先成長して、脚含めないで50mなんて大きさになったら、部屋どころか家が潰れる。

 当のリディアはまだまだ爆睡中、起きる様子はない。
 イカって海の中だとそんなに寝ないんじゃないのか? 最上位イカだからデーンと構えてられるからよく眠るのかしら?

 今の時間は……7時か。もし出勤時間を考慮するなら、もう大急ぎで支度しないといけない時間、人によってはもう通勤中だけど、集落生活での7時はまだ早朝も同然の時間帯だから、この時間はいつものんびりしている。

「水族館って何時からだろう?」

 まだ時間ありそうだし、リディアの『睡眠中イカ問題』について解決法を考えるか。
 人型時の推定4倍の高さになることを考えると、睡眠中にイカに戻りかけた時にそれと並行して身体が小さくなるような仕掛けを施すのが良いのかな?
 さて、ここでまた魔道具を作るために創成魔法の出番だ。なるべく自然に着用してもらうなら、パジャマ辺りが最適かな?

 とりあえず実験として自分用にパジャマを作ってみよう。
 これに巨大化に反応する『縮小魔法ミニマム』が発動するパジャマを創成魔法で作り出す。元の状態より1cm膨張したら自動で『縮小魔法ミニマム』が発動するようにしておこう。
 じゃあこれを着用して実験だ!
 ……
 …………
 ………………
 で、私、どうやって巨大化する?
 私、巨大化出来ないから、私用にパジャマ作っても意味が無かった!
 巨大化の変身魔法に反応してくれるかしら?
 パジャマを脱いで、巨大化魔法で本当に巨大化するのか、試しに自分にかけてみる。

拡大魔法ギガンティック!」
 徐々に巨大化していく。

「おぉ!!?」
 原理はわからんけど、自分の体が大きくなっていくのはわかる。
 あ、まずいスケールを指定していない!
 天井が迫ってくる! いや私が天井に迫っていく!

「うわぁぁまずいまずい! 解除解除!!」
 天井に到達する前に元に戻った。
 鼻を少しこすった。
 危ない危ない……今度は私が天井を突き破るところだった……
 じゃあ作ったパジャマを着てリトライ。

拡大魔法ギガンティックスケール150%!」
 おお! 一瞬だけ身体全体が1cm巨大化したけど、すぐに元に戻った!
 よし! パジャマは成功だ!

 ただ、ここで一つ問題に気付いた……
 問題となるのはズボンの方だけど……
 人型の時は良いとして、人型の時に履いたこのズボンは、イカになった時にどうなるのかしら?
 変身する時には煙に包まれるから途中経過がどうなってるのかわからない。
 でもあの煙吹き飛ばしたら、もしかしたら人とイカが融合したような気持ち悪い状態になってそうだからやらない。やりたくない。少しくらいミステリアスなところがあっても良いはずだ!

 片方に四本ずつ入ってくれるのかな? いや、そもそも身体のバランスが人型とイカじゃ全然違うし……
 イカ用にパジャマが変形するように作るか? それだと足が入るところが八本必要なのかな? そんなズボン見たことないけど……
 ………………まあ、脱げてしまっても上部分だけで機能しててくれれば問題無いか。多分あの腕に当たる二本の触手に袖が通っていれば全部脱げることはないでしょう。

 あとはこれをリディア用に作り直して、自然にプレゼントして着てもらえばOK。
 これの名前何にしようか?
 う~ん……『反伸縮パジャマ』とか? 自分で思い付いておいてだけど何だこの名前、伸縮するのかしないのかわからない名前だな……名前だけ考えると着心地は良さそうとは思えない。
 『伸縮阻害パジャマ』とか。何か悪そうな名前ね……『害』の字辺りが。それに何か硬そう……
 あ、そうだ! 単純に『リディア専用パジャマ』で良いか。そもそも彼女以外が使っても意味無いわけだし。

 一旦、『リディア専用パジャマ』を亜空間収納ポケットへしまう。タイミングを見てプレゼントしよう。

「お二方、おはようございます! 8時ですよ! 9時開園ですので、支度しましょう!」
 タイミング良くリナさんが起こしに来てくれた。

「リナさん、おはよう。リディア、朝だよ!」
「ふあィ……」
「人に変身して! 顔洗って、歯磨いて!」
 人型になったのを確認してリディアの縮小魔法ミニマムを解除する。

「顔洗って、歯磨くって何すれば良いんダ?」
 海の中の生物だから、顔なんか洗うわけないし、歯磨きもするわけがないか……

「亜人の世界では、朝起きたら歯を磨く。その後、顔を洗って目を覚ますの」
 亜空間収納ポケットから歯ブラシを取り出してリディアに渡す。実はこういったアメニティ用品は何個か作ってストックしている。特に歯磨きは大事だ。

「歯を磨くのは何デ?」
「それがマナーです」
 ホントは虫歯にならないようにとか、口臭防止にとかあると思うけど。リディアに当てはまらないことが多そうだ。口臭は関係あるかもしれないが。

「マナーはどういう意味ダ?」
「え~と……『相手に対する礼儀』とかかな」
「じゃあ歯の磨き方教えテ」
「リディア利き手はどっち?」
「右」
「じゃあ右手に持って、口の中をそのブラシでゴシゴシするの。それで、最後に口をゆすいで吐き出す」
「それだけカ? 簡単だナ」
 素直に歯を磨き始めた。

 亜人ひととして生活するようになったためか、亜人ひとの文化に興味があるようで、言われたことは素直に実行してくれる。
 駄々をねるようなことが無いから、対応は随分楽だ。逐一文句言うどこかの高位種族フレアハルトにも見習ってもらいたい。
 ただ、この後反抗期があれば、また面倒なことも起こるかもしれない。可愛いのは今のうちだけかな……

「顔ってどうやって洗うんダ?」
 実演するのが早いかな、私も顔洗わないといけないし丁度良い。

「蛇口をひねると水が出るから、両手ですくって、こう」
 バシャッと顔にかける。

「わかった? 何回もやって綺麗にするのよ」
「わかった、やってみる! 両手ですくって……こう!」
 初めてやったためなのか、力が強過ぎるのかはわからないが、顔だけにとどまらず広範囲に散らばる散らばる。
 それどころか手に溜まった水がそのまま身体の方に大量にこぼれた落ちた……
 当のリディアは、こぼれた水には気にも留めず、私が言った通り素直に『何回も』バシャバシャ大量にかける。
 辺り一面ビッショビショ……

 あぁ……あの広範囲拭かないといけないのか……

「どうダ? 綺麗になったカ?」
 顔は綺麗になったかもしれないが、相対的に床が汚れた……
 元々イカだから身体が濡れても全く気にしないし……

「綺麗になったね! でも次はもうちょっと大人しめに顔洗おうか……」
 リナさんに雑巾を借りてきて床を拭く。その際になぜ雑巾が必要になったか事情を説明。

「ふふっ……アルトラ様、何だかお母さんみたいですね~」
 私もちょっと思ってたよ!
 前世で子供産んだことも育てたこともないのに、子育てみたいなことしてるな……と。
 年齢27歳ってバレてるからそう思ったんだろうけど、見た目年齢はリディアに近いから、せめて「お姉さんみたいだ」って言ってほしかった。

 その後、用意してくれた朝食をいただき、水族館へ出発。
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