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第3章 水の国アクアリヴィア探訪編

第76話 お風呂タイム

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「おおぉぉ!」

 本当に大浴場だ! 個人宅に大浴場ってあるもんなのね。
 私とリナさんの闇のドレスを解除する。闇が霧散して消えた。

「ああ……もう消してしまうんですね……残念……」
まとったままだと洗いにくいでしょ?」
 これ、一応魔力で作った服だから、触感は布と同じようなものだし。

 置かれている椅子に座る。
 目の前に鏡。日本ではよく見る光景の大浴場だ。
 ここ本当に魔界なのかしら? 何か日本の文化があり過ぎる。

 思えば鏡を見るのは一体何ヶ月振りだろう?
 これが今の私の顔か。今まで水面に映った顔くらいしか見たことなかったから新鮮だ。
 へぇ~、こんな顔してたのか~、随分可愛く転生させてくれたなぁ。
 ホントに金髪なんだなぁ……今までは手で手繰り寄せた髪しか見たことなかったから、あまり実感無かったけど。
 生前は黒髪でポニーテール、あと眼鏡かけるくらい近眼だったから、自分の素顔ってあまり見たことなかったのよね。
 これが例の頭のツノか。もうちょっと見えにくいように髪の毛被せて隠しておこう。
 ………………いや、私は何しにここへ来たんだ! 身体洗いに来たんだから、髪の毛洗う前にツノ隠してどうする!

「あ、石鹸とかシャンプーとか、その辺に置いてあるのを適当に使ってください」

 石鹸とかシャンプーとか普通に地球と同じ物の名前として聞き取れるところが凄い。これも異世界転生効果かな? そう考えておこう。
 思えば、レヴィアタンが書いてくれた地図の魔界文字も普通に読めたし、あれも似たような効果だろう。

 これまた久しぶりのシャンプーだ。石鹸くらいは作ったが、シャンプーは集落の文明レベルを考慮してまだ作ったことがない。
 髪の毛も石鹸で洗っていた。
 ああ、ちゃんとした生活だ……
 ただ、この身体は汚れはするものの、通常はダメージというものに無縁らしく、髪の毛がゴワゴワになることもなかったのは幸いだったかな。

 横に圧迫感を感じて、振り向くと目の前に結構なボリュームの双房が。
 思わず眉間にちょっとシワが寄る。

「どうかしましたか?」
 キョトン顔がまた腹立つ……

 くっ、私も生前はあれくらいあったはずなのに!
 まあきっとそのうち成長するでしょう。
 ………………でも私、死人だけど成長するのかしら? もしかしたらずっとこのままの可能性も……早く『蘇生耐性Lv10』と『疑似生者』を解除して生き返らなきゃ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 う~ん、これ何回洗わないといけないの?
 今六回目だけど、何回洗っても頭の方から泥が出てくるんだけど……
 あと、ツノが邪魔で洗いにくい……

「頭、中々綺麗にならないですよね……」
 リナさんも同じか。
 ダメージに強くない普通の身体なら指がふやけてしまいそうだ……

「アルトラ様、髪の毛洗いっこしません? 自分で洗うより、人に洗ってもらった方が汚れが見えて良い気がしてきました」

 言おうかどうか迷ってたから、そっちから言ってくれたのはありがたい。
 こんなにフランクな人だったのか。
 そういえば、会った時から今に至るまで徐々に話し方が崩れてきている気がする。最初一人称『わたくし』だったのに『私』になってきてるし。もしかしたらこっちの性格が“地”かな?

「そうしようか、それは私も少し前から思ってた……」
「じゃあ、私が先に洗いますよ」

 と言うわけで、リナさんに洗ってもらうことにした。

「ああ……まだまだ泥が残ってますね……特にこのツノの周り……」
 もう六回も洗ってるのに……呪いみたいだ……ホントに最後に呪いかけていったんじゃないか?

「痒いとこ無いですかぁ?」
「もう流石に無いね」
「ですよねー、洗いすぎてるくらいですしねー」
「もう頭皮取れるんじゃないかってくらい洗ったしね」
「アハハハハ」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「はい! やっと綺麗になりましたよ。見た限りではもう泥は残ってません」
「ありがとう」

 結局更に二回洗ってもらわなければならなかった。でも、自分で洗ってたらもっとかかったかもしれない。
 これで枕を汚すことなく眠れる。
 次は私がやる番か。

「痒いとこ無いですか?」
「アハハ……それ私がさっき言いましたけど?」
「人の頭洗う時には言ってみたくなるじゃない」
「やっぱりー? そうですよねー」

 リナさんの髪の毛は私より短いからなのか、まだ少しだけ泥があるものの、ほとんど綺麗になっている。
 この一回で済みそうね。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「よし! もう汚れは残ってないと思う」
「ありがとうございました!」

 やっと身体の方に移れるか……時間にしたら多分1時間以上髪だけを洗ってたんじゃないかと思う。
 まあ、身体の方は泥が溜まりそうなところはあまり無いし、すぐ終わるだろ。
 髪の毛洗う時に、身体もほぼ洗えてるようなもんだしね。

 と、思っていたのだが――

「うわ……ヘソからめっちゃ泥出てくる……」

 ここからこんなに泥が出てくるってことは……
 ちょっと視線を下に送る。

「………………」
 湯舟を汚すわけにはいかないし、それ以上は考えないように、無心で洗おう……
 顔周辺は……何とか浸からずに済んだから大丈夫そう。耳からも鼻からも出てくることはない。その点だけは幸いだ。鼻になんか入ってたら、いつまでも悪臭がしてそうだ。

「ああ~~! 耳と鼻の泥が中々取れない! 口からも出てくる!」
 そういえば、リナさんは顔も沈みかけてたな……

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 何とか全身洗い終わった。
 やっとさっぱりしたー。
 いざ湯舟!

「はぁ……一仕事した後の風呂は最高ですな~」
「そうですねぇ~」

 しかし広い湯舟だな、泳げそう。

「今、泳げそうとか思いませんでしたか? 私たち以外誰もいませんし、泳いでも良いですよ?」
「いや、そんな子供みたいなことはしないよ」

 泳げそうとは思ったけども……

 何気なくリナさんの足元を見ると――
 ん? ヒレ?
 確認するように改めてリナさんの上半身、顔と順に視線を移す。再び足へ。

「どうかしましたか?」
「って、ええ!? ヒレ!? 足は? 足がヒレに変わってる!」
「そりゃ私、マーメイド族ですし」
 そんな「当然でしょ?」みたいな感じに言われてもこっちは足がヒレになってるとこ初めて見たから……

「マーメイドは腰より下が水に浸かると足がヒレに変化するんですよ」
 リナさん、人魚だったのね。見た目が人にしか見えなかったから、何の亜人なのかと思ってたけど。

「しかし、ホントに今日の事件は助かりましたよ。あの時のことを思い返してみても、騎士団全員で討伐しようとしても、全員が食べられてしまう想像しか付きませんでした」
「私も一瞬死を覚悟したし」

 何度も言おう、アレとは二度と戦いたくない!
 もし私に創成魔法を与えられていなかったら、もしくは創成魔法の行使できるルールが違っていたら、私はアレの中で養分を提供し続ける動けぬ奴隷のようになっていたかもしれない。更に言うなら街がどうなっていたか想像に余りある。
 アレを倒すには、地上に引きずり出した後、カタパルトみたいな巨大な弓を使って、丸太のような巨大な矢を射出して広範囲攻撃で無理矢理核を潰すくらいしないと倒せなかったと思う。
 通常の槍や弓矢では、多分核まで届かないだろうし、あの濁った身体でピンポイントに核を攻撃するのも難しいだろう。

 しかし、あの巨体だから地下水路からは出てこない可能性が高い。空間魔法は無効化されてしまったから、強制的に地上へ転移も出来ない。もはやあそこから引きずり出すのは至難の業だ
 もし地下水路内で倒せてなかった場合は、分体を沢山生み出して、街にいる一般の亜人たちを喰い荒らされる未来になっていた可能性も想像にかたくない。

 ………………いや、今になってよく考えたらまだ倒せる可能性があったかもしれない。
 あの未消化の鉄骨、あれはスライムの身体を貫通していた。ということは、物質魔法で鉄の杭を無数に作って雨のように降らせれば、もしかしたら核も破壊できたかもしれない。
 ただ、それだとまた亜人を食べるスライムが出現したかもしれないから、今回『亜人を食べない』ように作り替えたのがむしろ正解だった気もする。

「もし私が女王様なら特別褒賞ものですよ」
「それは貰えないのが残念ね」

 目撃者がリナさん一人 (と一部子供達だけ)だったのは幸いだったかもしれない。
 見られて話題にでもされてたら、街を歩くのが大変になってしまうから。

「さて、久しぶりにちゃんとしたお風呂も堪能させてもらったし、そろそろおいとましようかな」
「え? どこへ行くんですか!?」
「そりゃあホテルへ帰ろうと思ってるんだけど……」
「ここに泊まってもらっても良いですよ? それにまだ臭いがすると思うので、多分ホテル入り口で止められてしまうと思いますけど……」
「でも、せっかく手配してもらったホテルだしね……ルーファスさんの顔を潰すわけにもいかないし」
「こちらから帰れない旨の連絡を入れておきますよ」
「そう? じゃあここに泊まらせてもらおうかな?」

 お言葉に甘えることにした。
 リナさんに出会ってから、やってもらってばかりだ。こっちからも何かお返ししないとな。

 お風呂を出た後は、服が無いからやっぱり闇のドレスにと思ったけど、浴衣のような服を貸してくれた。
 下着は三枚同じものを買っておいたから、亜空間ポケットから出して履く。
 そして寝るための部屋は、ウォルタ邸の空いている部屋を貸してもらった。
 誰も使っていないということで、ベッドと絨毯くらいしか無いって、ちょっと申し訳なさそうにしてたけど、ホテルに負けず劣らず広めで、一泊するには十分過ぎる部屋だ。
 リナさんと少しおしゃべりを交わしたが、もう深夜の時間ということで、早々にお開きになった。

 ふかふかのベッドに寝るのは初めてだったからか、あまり寝付きは良くなかったが、それでも何とか寝ようとしていると――
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