建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第3章 水の国アクアリヴィア探訪編

第71話 女王レヴィアタンとの面会

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 チェックインしてから3時間が経った。
 室内に置いてある時計では午後9時を指している。
 夜って言ってたけど、大分遅い時間になってしまった。これって、もしかして私が約束をすっぽかしたことになってないよね?
 女王との面会の約束をすっぽかしたってかなり大問題なんじゃ……流石に宣戦布告とかにはならないとは思うけど……
 リナさんはこの部屋の外で要人警護をしてくれている。

「ねぇ、リナさん、流石にちょっと遅くない? 連絡はまだ来ないの? こっちが約束をすっぽかしたんじゃないかと不安になってくるんだけど……」
「アルトラ様、元魔王って聞いてましたが、随分心配性ですね、大丈夫ですって、連絡が来たら教えますから」

 あっけらかんと笑顔でしゃべる。
 私の心配性の部分は、多分日本人気質をそのまま受け継いでいるためだ。
 以前何かで聞いた話がある。日本人は外国人と比べると『不安遺伝子』とかいうのが多いらしい。この身体になって不安遺伝子も何も無いと思うけど、思考回路をそのまま受け継いでいるので、転生しても引き続き不安に考えることが多いんだろう。

「あ、連絡来ましたよ、女王様の公務が終わったらしいです。では参りましょうか」
 やっと終わったか……とりあえずこっちがすっぽかしたことになってなくて良かった……
 リナさんは、エレベーターへ向かおうとする。

「面会場所って宮殿?」
「はい、そうですよ」
「宮殿って、さっき私が捕まってたところだよね?」
「あれはまだ入り口付近ですね、あそこから大分奥の方にあります」
「じゃあエレベーター乗らなくて良いよ」
 ゲートを出して宮殿へ繋げる。

「わっ、それが空間魔法なんですね! 初めて近くで見ました! これに入ったらもう宮殿なんですね! あ、でも外出するならカードキーをフロントに預けないといけないので……」
「あ、それもそうか」
 ゲートを一旦閉じる。

 結局エレベーターへ。
 乗ろうと思って、チラっと隣を見ると――
 さっき見た例の『翼がある人用の穴』が目に留まった。ちょっと落ちてみたい。
 空から落下したことはあるけど、10階分の『筒の中』を通ってみたい。

「落ちてみますか?」
 私の心の中を読んだのか、横からリナさんが質問してくる。

「ちょっとそう思ったけど、この格好で10階分落ちたらパンツ丸出しになっちゃうからやめとくよ」
「さっき私の目の前でめくり上げてたじゃないですか」
「あれは……パンツじゃないから恥ずかしくなかったし……」
 やっぱり下着を見られるのと、闇のドレスを見られるのでは同じ中身を見られるのでも羞恥心が違うらしい。
 ちょっと昔『見せパン』とかいうのが流行った時に、「どっちにしてもパンツじゃないの? 普通のとどこが違うの?」とか思ってたけど、これが違いというやつか。少し理解できた。

 フロントへ行き、カードキーを預けて外へ出た。
 今度こそゲートで宮殿へ。

「わっ、ホントに一瞬で着きましたね!」
「この国に空間魔道士いるんじゃないの?」
「空間魔法を使える方はこの国に四人いますが、そのうち見習いが二人、アルトラ様のように空間移動を使える方はたった二人しかいないので、ほぼ女王様とその最側近の方々専用ですよ。その方々が亡くなられたら公務がかなり不便になるかもしれませんね」
 オルシンジテンが言ってた「ある程度使えるものが500万人に一人」は伊達じゃないわね……そりゃあスパイと疑われても仕方ないわ……私はそんな魔法をポンポン使えて、突然他国に出現して怪しまれないはずがない。

「では、ご案内致しますので、私に付いて来てください」
 宮殿入り口から本殿へは結構歩いた。時間にして15分ほどかな。
 謁見の間とは別の、小部屋のようなところへ通された。
 謁見の間のような広い場所じゃなくて良かった。あんなところで周りから見られてる状態で話をするなんて緊張の極致だ。

 コンコンコン

 少しして部屋のノック音がした。

「待たせてすまぬな、ベルゼビュート」
 レヴィアタンが入って来た。この間と口調が違うな。

「あ、ごめん女王用の口調だった、この間振りだねー、会いに来てくれて嬉しいよ!」
 抱き着かれた。凄い変わり身の早さだ……

「でも――」
 突然真顔になった。

「この度は私の部下が非礼を働いてしまったようで、申し訳なく思います。私があなたのことを説明不足だったためにこんなことになってしまいました」
 深く頭を下げられた。

「いえ、もう大丈夫ですから! これ以上尾を引くつもりもありません」
 高級ホテル宿泊のことを考えると、むしろ痛みが無い私にはご褒美としか……

「では、お言葉に甘えてこの件はここでお終いとさせていただきます…………いやー、女王の仕事って堅っ苦しくて肩が凝るのよねー。仕事終わったらドレス着てるのもわずらわしいし、ジャージに着変えて良いかな?」
 改めて凄い変わり身の早さだ……女王ってジャージ着るんだな……

「この間の際どい格好じゃないんだ」
「あれは世を忍ぶ仮の姿よ。誰も女王があんな格好してるとは思わないでしょ?」
「いや、この間ルーファスさんが『国民が嘆きますよ』って言ってたような気がするんだけど……」
「確かに国民にはバレバレになってるね。あの格好で出歩いてると挨拶されるし」
「国民にバレバレってことは、他国にもバレバレになってる可能性が高いと思うけど……」
「そんなことないよ、ベルゼビュートは気付かなかったじゃない」
「私の場合は気付かなかったんじゃなくて、人間界帰りで魔界に居た記憶が無いからそもそもレヴィアタンのことを知らなかっただけだけど……」
「あぁ~、改めて知らないって言われるのもショックだわー。そういえば、あなたはいつも着てる黒くてユラユラ動く服じゃないのね」
「女王様に会うからってフォーマルドレスを買ってきたの」

 申し訳ないけどあなたの国の税金で……

「わざわざそんな気を使わなくて良いのに、じゃあ、ちょっと着替えに行ってくる」
 ホントにジャージ着てくる気かな?

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「お待たせー!」
 ホントにジャージ着てきたよ……私は客じゃないのかな? 友達感覚でいるのかな?

「それで、今日は何しに来たの?」
 ソファに寝転んで頬杖突いている……話を聞く体勢が凄い……
 オブラートに包まないで言ってしまうと、何て失礼な姿勢なんだろう……ホントに話聞く気があるのかっていう姿勢。
 リラックスし過ぎでしょ、こっちは一応きちんとした格好してきたのに。
 まあ、そんなことより――

「前にお願いした、ドワーフとのコネクションの件はどうなってるかな?」
「ドワーフ? ………………ああ、あれか……」
 ああ……これは忘れられてたな…………希望は今潰えた……

「一応話は通しておいたよ」
「え!? 本当!? 今忘れてたって顔していたけど……?」
「話を通した後に忘れてたってこと、話だけは伝えてあるけど、客を選ぶのは彼らだから気に入られるように立ち回ってね。以前にも言ったけど、彼ら気難しい性質たちだからね」
「ありがとうー! それだけで十分だよ!」
「じゃあ、ちょっと待って今地図を描いてあげるから」

 描いてもらった地図は……下手過ぎてよくわからない……端折り過ぎている……スタート地点と目的地の間のこの空白には何か目印になるものはないの?
 あ、でも文字は綺麗だから読める。魔界文字で『ドワーフしょうかい』と書いてある。

「あ……ありがとう、このドワーフ商会ってところに行けば会えるのね?」
「そこにこの街のドワーフたちを取り仕切るヘパイトスっていう親方がいるから、その人に話を聞いて。そこからはあなたの交渉次第かな」
 ヘパイトス……何か鍛造とか建築の神に似た名前ね。
 今日はもう遅いし、明日の朝にでも行ってみるか。

「ふわぁぁ……ごめんね、ここ最近ちょーっと多忙で、本当なら食事でもと思うんだけど」
「気にしないで良いよ、ありがとう」
「また落ち着いた時にあなたの家を襲撃すると思うから、ごめん、もう寝るね……」

 物騒な言葉を言い残して、気絶するように寝てしまった。
 魔王が多忙で疲れるってどれほどのものなんだろう……? 私みたいな体力バカじゃないってことなのかな?
 もしかして、疑似太陽が関係あるかしら? あれの所為せいで夜じゃなくなる時間が増えたから、生活リズムが狂ってしまったとか?
 とりあえず外にいる護衛の人にレヴィアタンが寝てしまったことを伝えよう。

 ガチャ

「すみません」
 ドアを開けて部屋の外にいた護衛の人に声をかける。

「どうされましたか?」
「レヴィアタン寝てしまったんですが、どうすれば?」
「ああ、またですか……最近多忙になってしまって、気絶するように寝ることが増えたんですよ。こちらで寝室にお運び致しますので、申し訳ありませんが今日のところはお引き取りください」
「お構いなく」
「とは言え、お客人の目の前で寝てしまうのは初めてです。随分と信頼されておられるのですね」
 そこまで全幅の信頼を向けられているとは思わなかった……私と昔の私は違う人物と言っても過言ではないと思うのだけど。
 私がちょっとばかし警戒し過ぎてるのかな? いやでも、一度『創成魔法』取られちゃったからな……軽くトラウマになっているのかもしれない。

 レヴィアタンも寝てしまったし、私はホテルに帰るか。
 部屋を出ると――
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