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第3章 水の国アクアリヴィア探訪編

第69話 フォーマルドレスを見繕ってもらった!

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 近くのブティックへやってきた。
 高級ホテルの近くにあるということで、綺麗に整えられている。
 ここに店出してるってのは、私みたいな (急にフォーマルドレスが必要になった)客も狙ってるってことかしら?

 売っているものはほとんどが一点物。スーパーの中の店で大きいハンガーラックに沢山かけられている量産品の服とは大違いだ。
 ガラス張りで外の明かりが入っている。
 正直こんな高そうな店来たことないから困る。

「リナちゃん、いらっしゃい、ごひいきにどうも」
 高級店っぽいけど、随分親しみのある応対だな。まあここは日本じゃないし、客にこんな親し気に話しても不思議ではないか。

「こんにちは、叔母様」

 叔母様!?

「あら、可愛い子連れて来たわね」
「リナさん、こちらの方はあなたの叔母さんなんですか?」
「はい、幼少の頃より可愛がってもらってます」
 凄いお金持ちを護衛に付けてくれたのね……
 私程度に付けられる護衛だから、てっきり居ても居なくても仕事に支障が出ない下の方の階級の方かと……
 ごめん、リナさん、凄く失礼に考えてた……
 ってことは、ルーファスさんの言うところの「国賓級」はリップサービスだと思ってたけど、本当の意味で私を重要人物と捉えてるってことか。
 待てよ? と言うことは、彼女の兄のトーマスも良い家柄? そんな人を我が村に連れ帰っちゃって良いのかしら?
 もしかしてリッチも? あの時トーマスに強く出てたってことは、リッチは彼女たち兄妹よりもっと良い家柄だったり? 名前もリッチだし……それは関係無いか。
 うわぁ……水の人材ゲットどころか、面倒を引き受けてゲットしてしまった気がする……

「ベルゼビュート様?」
「あ、はい!」
「叔母様、この方、元・風の国の女王様だから、失礼の無いようにお願いしますね」
「え? 風の国の女王様!? 失礼致しました、わたくしリナの叔母のリタ・ウォルタ・グレイと申します。以後お見知りおきを」
「お世話になります、わたくしベルゼビュート……いや、今はアルトラと名乗っています。元・女王というのは合ってるような違ってるような感じですけど。今は普通の一般人で護衛とかも連れているわけではないので、普通の一般人として扱ってください」
 女王の時の記憶なんて無いし、私にあるのは人間の一般人の記憶なんだからそんなかしこまった態度されると、逆に困る。

「お名前、アルトラ様だったんですか? みなさんベルゼビュート様ベルゼビュート様と言われるのでベルゼビュート様なのかと……」
「昔の名前がそうだったらしいんだけど、今の私にはその記憶が無いから今後はアルトラって言ってもらえるとありがたいかな」

「は、はあ……それで本日はどういったご用件で当店をご利用になられたのでしょうか?」
「今日はこちらの方のお召し物を見繕みつくろっていただけますか? フォーマルなドレスをお願いします」
 リナさんが率先して必要なことを伝えてくれるからありがたい。
 『高級ホテルに泊まりたいから』ってところも伏せてくれるのがありがたい。普通ただホテル泊まりたいだけにドレスを買う人がいるだろうか? いるとは思えない。

「では、こちらへどうぞ」
 店の奥へ促され移動する。

「アルトラ様、試着するには魔力の服を解かないと」
「あ、そうか、じゃあ解除」

 闇のドレスに使っていた魔力を遮断すると、私を覆っていた闇が霧散する。

「あっ」
「あっ」
「え!?」
 私とリナさんは『やっちまった』という表情、リタさんは突然現れた裸に面食らっている。
 慌ててその場にしゃがみ込む。
 しまった、ずっと闇のドレスまとってるのが平常状態だから、服を“着替える”ことを想定してなかった。中は裸だったの忘れてた……
 ついさっきリナさんとの話題で出たばかりだったのに。

「し、失礼しました」
 ど、どうしよう?
 とりあえず再度闇のドレスを出現させよう。
 再び闇のドレスをまとう。

「ビックリさせてしまい、すみません!」
 深々と頭を下げた。
 リナさんが言ってたのはこういうことか。今まで人前で解除したことなかったから見落としていることにすら気付かなかった。
 これは燃やされることがあったとしても、一応下着くらいは付けておかないとダメだわ。

「い、いえ、突然目の前で服が消えたので驚いてしまいました」
「叔母様、かくかくしかじか……ってことなの」
 リナさんが狼狽うろたえている私に代わって状況を説明してくれる。
 ルーファスさん、機転が利く人を付けてくれて、ホントありがたいです!

「アルトラ様、どうせですから一緒に下着も買っていかれたらどうですか?」
 今しがた失敗したばかりだしな……ここはリナさんに言う通りにしておこうか。

「じゃあ、お願いします……」
 支払いはこの国の税金らしいので出来るだけ安い物をお願いした。安いと言っても店が店だからそれなりの値がするけど。
 この見た目と体型に無難な、白のキャミソールとショーツを揃えてくれた。
 私の実年齢はこの身体の見た目の倍以上上だからもっと大人なやつでも……と思ったが、それはそれでミスマッチな感じがしたから揃えてもらったものをそのまま受け入れた。

 試着室に入り、さっそく着けてみたけど……
 これ、なんか窮屈ね……闇のドレスは締め付けられることがなかったから楽だった。
 今までの私は、周りからそう見えないだけで裸族だったってことなのかしら?
 下着を着けることに慣れるまで少しかかりそうね……
 同じものを三セット購入。これからは洗濯する必要が出てくるのか……何で人間時代やってたことなのに、面倒だと感じるんだろう……あ、きっと洗濯機が無いからだ。

 さて、メインのフォーマルドレスの方を見繕ってもらう。

「アルトラ様、これなどいかがでしょう?」
 この国を象徴する水色のドレスを持って来てくれた。試着してみる。

「う~ん……これは私には合わないかなぁ……」

 次に持って来たのは赤いドレス。
 試着してみるが……

「ちょっと派手かな。バラとか付いてるし」

 次に持って来たのは黒のドレス。
 今まで真っ黒の服着てたから、これがやっぱりしっくりくる。

「じゃあ、これにしようかな」
「えー!! それじゃあ闇のドレス解除前とそんなに変わらないじゃないですか!」
 リナさんからブーイングが飛んできた。

「でもこれがしっくり来るし……」
「ここでそれを選んだら、今後ずっと黒を着ることになるかもしれませんよ?」
 確かに……自分で『私の着る服は黒だ』と印象付けてるかもしれない。

 白を持ってきてくれた。
 試着してみたところ、何かいつもと違うものを感じた。
 何か……イイ……!
 今は収納しているけど天使の羽根と輪っかがあって、元々天使みたいなナリをしているから白が似合うんだ!

「これにしようかな?」
「良いですね! 髪の毛も金髪ですし、神話に登場する天使みたいですよ?」
 そういえば、レヴィアタンも特に何も言わなかったけど、魔界と天使って対立とかしてないのかな?

「ねぇ、魔界と天使って対立とかしてないの?」
「太古の昔はしていたみたいですよ? でももう数万年経ちますし、天使との接触なんて今はもうありません。真実かどうかもわからない伝説やおとぎ話ですよ」
「ずっと対立してるのかと思ってたよ」
 確かに魔界に堕とされて、今まで生活してたけど天使の気配は微塵も無い。
 戦争しているって話もまだ聞かない。
 これは私の活動範囲が平和なのか、それとも他の国も平和なのかはわからないが……

「ただ、あと何年か何十年かすると天球と冥球が最接近するので、軍事国家のような国はきな臭くなっていると噂されています。伝説上では以前の魔天大戦も最接近中に行われたと伝わっているので。アルトラ様は地球からの転生者と聞いておりますが、地球でラグナロクって名前で伝わってませんか?」
「聞いたことある! あれ本当の話だったのか! 太古の神々の時代の戦争だったって、物語として伝わってる。でも、あれは北欧神話の神々と巨人の戦いだったはずだけど……」
「魔界と地球では話にズレがあるのかもしれませんね。本当の話かどうかは、私たちにもわかりませんが、火の国の魔王ルシファーがラグナロクをもう一度起こそうという動きをしているという噂ですよ」
 『ラグナロク』って単語自体が「終末の日」って意味らしいから、天使と悪魔でもある意味間違ってはいないか。

 ラグナロク……そんなの起こされたら、私のスローライフがダメになってしまう。
 でも、ルシファーからは何の攻撃もされてないのにこちらから仕掛けるのは何か違う気がする……それって『予知でお前が犯罪者になる未来が見えたから、お前が罪を犯す前に逮捕する』って言うのと同じなんじゃないかな?
 現時点では静観かな。まだ数年から数十年あるって言うし。その間に何か動きがあるかもしれない。

 魔界と天使の対立があるかどうか聞いた話が、思わぬ話に拡大してしまった……
 ここは一旦思考を切断しよう。
 ハイ! 切断!

「じゃあ、この白のドレスをいただきます」
「ありがとうございます、では75,000ウォルいただきますね」
 アクアリヴィアの通貨はウォルって言うのか。75,000がどれくらいなのかわからない。日本円と比べていくらなのかしら?
 確かさっき買った果物の中にリンゴみたいなのがあったわね、あれが100ウォルだったと思うから……多分日本円の価値とそれほど変わらない。
 ってことは……75,000円!? 高っか! ホントにそんなの買って良いの!? 私人間だった頃服にそんな金額払ったことないけど!?

「はい、では小切手で、宮殿宛てで支払いをお願いします」
「毎度ありがとうございます」

 私は蚊帳かやの外で金銭の授受が行われる。何か申し訳ないな……

「リナさん、ホントにお金払わなくて大丈夫なの? 今私全く手持ち無いけど……」
「大丈夫ですって、あの疑似太陽で暗闇の時間が減ったことによって、物凄く経済が潤ったので、これっぽっちじゃ返し足りないくらいですよ」

 改めてホテル前に戻って来た。
 遂にチェックインする時が来た!
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