上 下
59 / 533
第2章 トロル集落の生活改善編

第58話 寒さに震えるレッドドラゴンを燃やした

しおりを挟む
 さて、今日はもうゴロゴロしよう。ベッドから一歩も出ないぞ!
 そう思っていたが、またトラブル発生。

「うっ……頭に何か伝わってくる……超音波?」
 エコーロケーションを会得した影響か、言葉染みたものまで聞こえる。

『アルトラ! 何で作業しに来んのだ!』

 え? 何これ? 誰だ? 作業って何だ? でもこの口調……
 まさか……この超音波ってフレアハルトが発してるの? この豪雨の日に杭打ち行ってるの!?
 ここから昨日作業中断したところまで40kmくらい離れてるのに、こんなところまで届くのか!
 急いでゲートを開き、昨日中断したところへ様子見に行く。

「遅い!」
 レッドドラゴン三人が雨ざらしで立っている。今日はドラゴンの姿だ。多分雨を喰らうことで下がる熱を逃がさないようにするためだろう。まあその代わり身体に当たる雨の量が多くなるけど……
 フレアハルト以外の二人は、何だかぐったりして元気無く見える……特にレイアのテンション爆下がり。

「この豪雨の日にまさか作業しに来てるとは思わなかったから……」
 なんだってこんな日に作業しに来てるんだろう……じゃあ改めて中止を言い渡そう。

「今日は雨が酷いから中止にする」
「それは困る!」

 は? レッドドラゴンは雨に弱いはずだから、普通やりたがらないと思うんだけど……

「今日の夕飯に店を予約してあるのだから中止にされては困る!」
 食への執念が凄い……そこまで気に入ったのか……

「そこまで言われると『料理人を見出した冥利に尽きる』けど……」
 自分で言ってて思ったけど何言ってんだコレ?

「そうは言ってもこの豪雨じゃ地面もぬかるんでるから作業なんかできないよ」
「では夕食までどうやって時間を潰すのだ!」
「う~ん、とりあえずウチくる?」

 我が家へのゲートを開く。

「ちょっとちょっと、その身体で通る気? ゲートは大きく開けるほど魔力消費が激しいから人型になってよ!」
「ムッ……仕方ないな」

 でかい図体三つも並べて通るなよ。

 全員我が家に招き入れる。
 びしょ濡れで寒そうだ、震えている。何時間待ってたんだろう? 午前中起き抜けにレヴィアタンと話をして3時間くらいは経ってるはずだから、ずっとあそこに居たんなら3時間雨ざらしか。火山からの50km間、雨をしのげるような木とかも無いしな。
 水魔法と火魔法で風呂にお湯を張る。
 こんなことになるんなら水の国観光してこなくて正解だった……私が家に帰ってこなければずっとあの場に居たかもしれない。

 見たところ、どう見てもお付き二人の方が元気が無い。フレアハルトには悪いけど、先に従者を入れよう。
「お風呂入れたから二人とも入っちゃって」
「我は?」
「レディファースト」
「何だその言葉は?」
「女性優先ってことよ」
「亜人の世界にはそんな言葉があるのか」

 亜人の世界にあるかどうかは知らないけど、人の世界にはある。最近は平等平等で廃れつつあるが……

「しかし主君より先に入るわけには……」
「よい、早く入れ」
「しかし……」
「良いから早く入っちゃって!」
 二人を強引に風呂場に押し込む。

「じゃあ先に入るね~」
「お言葉に甘えさせていただきます」
 アリサとレイアは風呂へ入っていった。

「寒いな……」
 ずっと雨ざらしだったから、さっきからずっと震えている。

「燃やす?」
「我をか!?」
 自分で言っておいてなんだけど、人型の生物に対して「燃やす?」って頭イカレてるとしか思えない返答だ。

 でも、
「熱バリア程度じゃ全然寒さやわらがないでしょ?」
「うむ、では燃やしてくれ」
 フレアハルトの足首から上だけ炎が外に漏れないように防御魔法:火無効を内側に向かってかける。これをやっておかないともしかしたら家が燃える。

 結界内に手を突っ込んで火魔法を使う。
纏わりつく炎クリンギング・フレイム
 溶岩付近にいるから温度は500℃ぐらいで良いかな? 炎としては超低温だが、他の種族がこれを喰らったら多分極々短い時間で焼け死ぬ。

「おお! 温かいぞ!」
 これで温かいって……風呂入った彼女らは風呂程度の温度では全然温まらないんじゃないかしら……?

「そういえば、さっきしばらく太陽が見えなくなったのだが……」
「あ~……奪われちゃった」
 てへ☆

「どういうことだ!? あんなものどうやって奪うのだ!? 触れることすらできんのに!」
「以前一度我が家に来た魔王に持ってかれた、そういう能力らしい」
「……なるほど、レヴィアタンか」
「知ってるの!?」
「遠目に見たことしかないがそういう能力があるということぐらいは知っている」
 一応ボカすような感じに言ったんだけど。

「まあ、我々ドラゴンの極致のような存在だしな」
「海蛇じゃないの?」
「海蛇も巨大になればドラゴンだ」
 『竜頭蛇尾』って言葉があるし、鱗もあれば身体も長い。大きく含めれば蛇はドラゴンってこと……なのか?
 『大林さんちのメイドラゴン』に登場していた『ケツァルコアトル』がドラゴンとして扱われてたけど、あれは蛇の姿した神だしな。
 いやでも、『竜頭蛇尾』って日本の言葉だし、由来は中国辺りだったはずだ。東洋の竜と西洋のドラゴンじゃ全然形状違うしそれでもドラゴンなのか?
 …………まあ私が疑問に思ったところで、当のレッドドラゴンが蛇をドラゴンと認めてるのだから海蛇も大きければドラゴンなのだろう。まあそんな問答はどうでも良いか。

「太陽はすぐ作り直したし、それほど寒くはならなかったでしょ?」
「雨ざらしだったから少し凍ったぞ」
 雨ざらしは私の所為せいではないが……

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 1時間くらいしてから二人がお風呂から出てきた。
「良いお湯でしたわ」
「フレハル様お待たせ~」
「お風呂冷たくなかった?」
「少しばかり温めさせていただきました」
 風呂釜を覗きに行ってみる。予想通り泡と湯気が凄い。完全に沸騰してるわ……これ温めたってレベルじゃない……
 湯量も最初の半分くらいに減ってる。どう考えても二人が入ったから流れたって量ではない。かなりの量蒸発したんだな……

「あの……先に言っておこうかと思うんだけど、もしトロル村のみんなとお風呂入る機会あっても、温めたりするのは禁止でお願いね」
 三人してキョトンとしている。

「なんで?」
「これほど沸騰する温度のお湯に入ると、多くの生物は死に至るから……」
「なるほど、わたくしたちが熱に強過ぎるからというわけですね、了解致しました」
 う~ん……この種族と共生していくのは中々骨が折れそうだ……

「では我も入らせてもらおうかな」
「…………ところでフレハル様、何で身体真っ黒なの?」
 身体の周りを燃やしてたから、身体中すすだらけになってしまった……

「気にするな、我は汚れを落としてくる」
 フレアハルトのすすについては二人に説明しておいた。
 二人とも爆笑。そんな温め方をされたことはないらしい。

 その後、風呂場から「くっ、すすが中々落ちん!!」と嘆くような声が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...