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第2章 トロル集落の生活改善編
第45話 川を通すためのマーキングと退屈しているプリンス
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大体一時間くらい経った頃からフレアハルトに明らかな態度の変化が現れる。
「……退屈だな…………」
テンション爆下げの状態で私の後ろをでかい図体でトボトボと付いてくる。
一時間前は『貴様の作業をとくと見せてもらおうではないか!』なんて言いながら、嬉々として付いてくる顔を見せてたのに。
相手が表情がわかりにくいドラゴンだというのに『飽きた』という表情がわかるって、どんだけ飽きた顔してんのよ! 嫌なら帰りゃ良いのに……
「まあ、そうでしょうね、百メートル間隔で杭打ってるだけだし、退屈なら帰っても良いよ?」
「我は一族のために貴様を監視せねばならんのだ!」
「アルトラ様、フレアハルト様は飽きっぽいので全て相手にしてると疲れますよ」
「そうですよ~、この人私より子供っぽいですから!」
お付きにまで軽く見られてるって、王子としてどうなの?
まあ、私も領主でありながら気軽に話しかけられるし同じようなもんか。
ここはポジティブ解釈だ! お付きがきちんと諫められるということは、きっと部下の話もちゃんと聞ける気さくな王子なんだろう。
「お前たちはいつも一言多いな! アルトラよ、あとどれくらいあるのだ?」
「今五十本杭を打ってきたから、あと四十七.五キロくらいかな?」
「全部で五十キロ!? そんなにやらんといかんのか!? 貴様一人で!? 部下にやらせれば良いではないか」
「部下は集落の復旧に忙しいのよ。あと次の段階から参加してもらう予定だから。川を通そうって言うんだからそりゃ労力もかかるでしょ」
「その杭の間隔だが、倍の間隔を開けるとかはダメなのか?」
「二百メートル間隔だとよほど目が良くないとこの杭が見えないんじゃない? 見えないと次どっちの方向に掘り進めれば良いかわからないし」
人間の時の私なら百メートル離れていると、もう全く見えない。眼鏡をかけてせいぜい二十から三十メートルが良いところだろう。この集落の人々はまだ文明というものが無いに等しいから、近眼の人は少ないと判断して百メートル間隔に設定したけど……私の予想が外れて全く見えなかったら困るな……
ちなみに、今の身体の私なら二百メートルでも見えると思う。
◇
その一時間後。
「これ、本当に進んでおるのか?」
「進んでるよ、今百本目の杭打ち終わったところだし」
「景色が変わらんから進んでる気がせんな……」
◇
更に一時間後。
「よし、百五十本目終了! あれ? フレアハルトは?」
後ろを向くと、いつの間にかフレアハルトがいなくなっている。お付きの二人しか付いて来ていない。
「少し前に『昼寝するから一時間したら迎えに来い、その間の監視を頼む』とおっしゃってました」
う~ん……まさにボンボンって感じね……
今正午くらい。まだ昼寝には三、四時間早いと思うけど……相当退屈だったのね……
「お付きの二人も大変ねぇ……」
「いえ、幼少の頃からお仕えしているので、もう慣れっこですよ」
「道理であしらい方が上手いと思ったよ。さて、お昼になったしお弁当でも食べようかな」
「あ、お待ちください『アルトラが何か食べる素振りを見せたらすぐ呼べ、我も食べたい』とおっしゃっていたので」
他人の食べ物取ろうってか……
アリサが上を向いて何かやり始めた。以前≪エコーロケーション≫を会得したためか、何を言ってるのか分かる。『アルトラ様がご飯をお召し上がるになるようです』ということをフレアハルトへ超音波でも送っているようだ。
しばらく後方を眺めていると、フレアハルトらしきレッドドラゴンがかなりのスピードで飛んできた。
「昼飯はどこだ?」
「ここに……」
「いや、これ私のだから」
ナチュラルに食を促さないで……
「亜人がどのようなものを食べているのか食べてみたい」
「でも、私が持って来た弁当これだけだし、ドラゴンにはこの量じゃ食いでが無いんじゃない?」
「それでも良い、一口くれ!」
「うーん、じゃあ放り込むから口開けて」
羽を出してドラゴンの頭上まで飛び、弁当の中にある肉をフレアハルトの舌の上に落とした。
「これは! 上手いな! 何の肉だ!?」
「ガルムの肉よ」
「ガルム? ガルムとはどんな生物だ?」
「火山付近に沢山いる赤い狼だけど、ほらあそことかあそこにもいる」
普段はもう少し近くまで寄ってくるのだが、ドラゴンが三体もいるためか辛うじて赤い体色が見える程度の距離までしか近寄ってこない。この身体になった私は多少目が良いから、多分距離にして五百メートルくらい先にいると思う。まあクッキリ見えるわけじゃなくて、赤い点が何か動いてるな程度にしか見えないけど。
「ああ、あれはそんな名前だったのか」
「いや、私が知ってる知識の中で当てはめてそう呼んでるだけだけど」
「あの狼は食ったことがあるぞ! あれを食ってもこんな味はせんが?」
「うちの料理人の腕が良いのよ」
あと、最近川の流域で発見されたサトウキビみたいなもので作った砂糖らしきものと、既に発見されている塩のお蔭かな。料理人のハンバームちゃんが上手い具合に甘さとしょっぱさを組み合わせてくれた。
サトウキビっぽいものについては、増産する前の試食段階。ちょうど良いから今回のお弁当にしてもらった。集落に広まるのはもう少し先になりそうだ。
「二人も食べてみる?」
「いえ、わたくしどもは……アルトラ様の食べるものが無くなってしまいますし」
「遠慮しなくて良いのに、はい、あーん」
「では、お言葉に甘えて」
「レイアも」
「ありがとうございます!」
二人の舌の上に落とす。
「どう?」
「おいしー!」
「本当ですね、美味しいです」
「でしょ?」
後でレッドドラゴンが大いに喜んでいたとハンバームちゃんに伝えておこう。
「もっとくれ!」
いや、王子意地汚いな!
「あとは私のだよ、そもそも私のお弁当だし」
一口だけしか分けられなかったけど、他種族にも受け入れられるような味だということがわかった。
お昼ご飯後、マーキングの再開。
「はぁ……またつまらん時間が始まるのだな……」
オブラートにも包まず口に出すんだな……てか、お前もう帰れよ。
「貴様、領主だよな?」
「一応そうだけど?」
「領主がなぜそんな面倒なことをやらねばならんのだ? 我が父上などふんぞり返っておるぞ?」
「まあ私の考えで川を作ろうとやってることだから、基礎的な部分は私がやらなきゃ始まらないでしょ? 面倒なことでも率先してやらないと領民は付いてきてくれないものよ? 退屈なことをやるのも上に立つものの務めってことかな」
「………………」
「まあ……この工法が理にかなってるかどうかはまた別問題なんだけど……私失敗も多いから」
◇
「よし、二百本目! 今日はここまでにして次は明日にしようかな。どこかの誰かが飽き飽きしてるし」
「やっと終わりか! いやー長かったな!」
たった五時間張り付いてただけだが……
お付き二人は、流石この王子に振り回されてるだけあって、忍耐力がある。傍から見ているだけだと退屈だろうに、ずっと見ていても文句一つ言わない。
フレアハルトがいなければ、もうあと二、三時間はやっておきたかったとこだけど。
「……退屈だな…………」
テンション爆下げの状態で私の後ろをでかい図体でトボトボと付いてくる。
一時間前は『貴様の作業をとくと見せてもらおうではないか!』なんて言いながら、嬉々として付いてくる顔を見せてたのに。
相手が表情がわかりにくいドラゴンだというのに『飽きた』という表情がわかるって、どんだけ飽きた顔してんのよ! 嫌なら帰りゃ良いのに……
「まあ、そうでしょうね、百メートル間隔で杭打ってるだけだし、退屈なら帰っても良いよ?」
「我は一族のために貴様を監視せねばならんのだ!」
「アルトラ様、フレアハルト様は飽きっぽいので全て相手にしてると疲れますよ」
「そうですよ~、この人私より子供っぽいですから!」
お付きにまで軽く見られてるって、王子としてどうなの?
まあ、私も領主でありながら気軽に話しかけられるし同じようなもんか。
ここはポジティブ解釈だ! お付きがきちんと諫められるということは、きっと部下の話もちゃんと聞ける気さくな王子なんだろう。
「お前たちはいつも一言多いな! アルトラよ、あとどれくらいあるのだ?」
「今五十本杭を打ってきたから、あと四十七.五キロくらいかな?」
「全部で五十キロ!? そんなにやらんといかんのか!? 貴様一人で!? 部下にやらせれば良いではないか」
「部下は集落の復旧に忙しいのよ。あと次の段階から参加してもらう予定だから。川を通そうって言うんだからそりゃ労力もかかるでしょ」
「その杭の間隔だが、倍の間隔を開けるとかはダメなのか?」
「二百メートル間隔だとよほど目が良くないとこの杭が見えないんじゃない? 見えないと次どっちの方向に掘り進めれば良いかわからないし」
人間の時の私なら百メートル離れていると、もう全く見えない。眼鏡をかけてせいぜい二十から三十メートルが良いところだろう。この集落の人々はまだ文明というものが無いに等しいから、近眼の人は少ないと判断して百メートル間隔に設定したけど……私の予想が外れて全く見えなかったら困るな……
ちなみに、今の身体の私なら二百メートルでも見えると思う。
◇
その一時間後。
「これ、本当に進んでおるのか?」
「進んでるよ、今百本目の杭打ち終わったところだし」
「景色が変わらんから進んでる気がせんな……」
◇
更に一時間後。
「よし、百五十本目終了! あれ? フレアハルトは?」
後ろを向くと、いつの間にかフレアハルトがいなくなっている。お付きの二人しか付いて来ていない。
「少し前に『昼寝するから一時間したら迎えに来い、その間の監視を頼む』とおっしゃってました」
う~ん……まさにボンボンって感じね……
今正午くらい。まだ昼寝には三、四時間早いと思うけど……相当退屈だったのね……
「お付きの二人も大変ねぇ……」
「いえ、幼少の頃からお仕えしているので、もう慣れっこですよ」
「道理であしらい方が上手いと思ったよ。さて、お昼になったしお弁当でも食べようかな」
「あ、お待ちください『アルトラが何か食べる素振りを見せたらすぐ呼べ、我も食べたい』とおっしゃっていたので」
他人の食べ物取ろうってか……
アリサが上を向いて何かやり始めた。以前≪エコーロケーション≫を会得したためか、何を言ってるのか分かる。『アルトラ様がご飯をお召し上がるになるようです』ということをフレアハルトへ超音波でも送っているようだ。
しばらく後方を眺めていると、フレアハルトらしきレッドドラゴンがかなりのスピードで飛んできた。
「昼飯はどこだ?」
「ここに……」
「いや、これ私のだから」
ナチュラルに食を促さないで……
「亜人がどのようなものを食べているのか食べてみたい」
「でも、私が持って来た弁当これだけだし、ドラゴンにはこの量じゃ食いでが無いんじゃない?」
「それでも良い、一口くれ!」
「うーん、じゃあ放り込むから口開けて」
羽を出してドラゴンの頭上まで飛び、弁当の中にある肉をフレアハルトの舌の上に落とした。
「これは! 上手いな! 何の肉だ!?」
「ガルムの肉よ」
「ガルム? ガルムとはどんな生物だ?」
「火山付近に沢山いる赤い狼だけど、ほらあそことかあそこにもいる」
普段はもう少し近くまで寄ってくるのだが、ドラゴンが三体もいるためか辛うじて赤い体色が見える程度の距離までしか近寄ってこない。この身体になった私は多少目が良いから、多分距離にして五百メートルくらい先にいると思う。まあクッキリ見えるわけじゃなくて、赤い点が何か動いてるな程度にしか見えないけど。
「ああ、あれはそんな名前だったのか」
「いや、私が知ってる知識の中で当てはめてそう呼んでるだけだけど」
「あの狼は食ったことがあるぞ! あれを食ってもこんな味はせんが?」
「うちの料理人の腕が良いのよ」
あと、最近川の流域で発見されたサトウキビみたいなもので作った砂糖らしきものと、既に発見されている塩のお蔭かな。料理人のハンバームちゃんが上手い具合に甘さとしょっぱさを組み合わせてくれた。
サトウキビっぽいものについては、増産する前の試食段階。ちょうど良いから今回のお弁当にしてもらった。集落に広まるのはもう少し先になりそうだ。
「二人も食べてみる?」
「いえ、わたくしどもは……アルトラ様の食べるものが無くなってしまいますし」
「遠慮しなくて良いのに、はい、あーん」
「では、お言葉に甘えて」
「レイアも」
「ありがとうございます!」
二人の舌の上に落とす。
「どう?」
「おいしー!」
「本当ですね、美味しいです」
「でしょ?」
後でレッドドラゴンが大いに喜んでいたとハンバームちゃんに伝えておこう。
「もっとくれ!」
いや、王子意地汚いな!
「あとは私のだよ、そもそも私のお弁当だし」
一口だけしか分けられなかったけど、他種族にも受け入れられるような味だということがわかった。
お昼ご飯後、マーキングの再開。
「はぁ……またつまらん時間が始まるのだな……」
オブラートにも包まず口に出すんだな……てか、お前もう帰れよ。
「貴様、領主だよな?」
「一応そうだけど?」
「領主がなぜそんな面倒なことをやらねばならんのだ? 我が父上などふんぞり返っておるぞ?」
「まあ私の考えで川を作ろうとやってることだから、基礎的な部分は私がやらなきゃ始まらないでしょ? 面倒なことでも率先してやらないと領民は付いてきてくれないものよ? 退屈なことをやるのも上に立つものの務めってことかな」
「………………」
「まあ……この工法が理にかなってるかどうかはまた別問題なんだけど……私失敗も多いから」
◇
「よし、二百本目! 今日はここまでにして次は明日にしようかな。どこかの誰かが飽き飽きしてるし」
「やっと終わりか! いやー長かったな!」
たった五時間張り付いてただけだが……
お付き二人は、流石この王子に振り回されてるだけあって、忍耐力がある。傍から見ているだけだと退屈だろうに、ずっと見ていても文句一つ言わない。
フレアハルトがいなければ、もうあと二、三時間はやっておきたかったとこだけど。
応援ありがとうございます!
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