上 下
28 / 531
第2章 トロル集落の生活改善編

第27話 意図しなかった我が家の内覧会

しおりを挟む
 ドアを開くと、向こう側に見えるのは私の家の庭、もとい、地獄の門前広場。

「「「おおーー!?」」」
「どうなってるんだ!?」

 村人から驚きの声が上がる。
 私が先に通過する。
 地獄の門前広場側のドアの前で待っていると、村人がぞろぞろとドアを通り抜けてくる。

「ここがアルトラ様の住んでる場所か~」
「長く住んでるが、こっちの方は初めて来たぞ」
「あ、でっかい犬がいるよ!」
「顔が三つある! 恐いよー!!」

 ケルベロスを前に泣き出す子供がいる。
 しまった、泣き出すのは想定してなかった、そりゃあんな大きい犬が居たら大人だって恐いものね……
 壁とか作って見えないように区切った方が良いかもしれない。いや、そうすると狭くなるし……
 ケルベロスの前を通らないようにドアの場所を変更するか。
 当のケルベロスは、いきなり大勢押し寄せたもんだから、困惑気味だ。萎縮して縮こまっている。まあ、コイツに関しては地獄の門を通りさえしなければ生物を襲うことは無いから大丈夫だろう。
 一応地獄の門には『地獄の門を通り抜けた後に門を出ようとすると食われます。絶対に門を通り抜けようとしないでください』みたいな看板は付けておいた方が良いかな?

「え~と、私の住処はあっちの家なので、連絡がある場合はあっちに来てください」

 なぜかみんなキョトンとしている。
 そしてザワザワし出す。

「こっちの家の方が大きいのですが、こっちではないのですか?」

 みんながケルベロスの犬小屋の方を見る。
 やっぱりそう思うよね……

「そちらは犬小屋です。ケルベロスが夜に寝床として使っています」
「えっ!? 犬の家の方が大きいんですか!?」

 更にザワザワし出す。

「ええ、まあ、ケルベロスの方が身体が大きいのでどうしても大きめに作らざるを得ませんでした」
 ……
 …………
 ………………
 静寂…………がっかりされたか?

「うおぉぉ! なんと慈悲深い!!」
 は?

「感激いたしました! 自分よりも先に他人 (犬)を気遣うその心意気!」
 うん、まあ好感触なのかな?

「あのー……」
 大勢の村人の中から女の子が手を上げる。

「領主様のおうちの中を見てみたいのですが……」
「おお! それは良い!」
「家作る時の参考にさせてもらおう!」
 え!? 今から!? こんなに大勢で!?
 日本人は人を呼ぶ時は外面そとづらを気にして、事前にかなり掃除をする。
 突然の訪問でいきなり家に上げるのは抵抗があるなぁ……

「ダメ……ですか?」
 う~ん……まあ、散らかってはいないし、むしろまだ何も無いし、あるのは布団ぐらいだし別に良いか。
 ああ、でもこの村の人にとっては、布団もパジャマも未知の物なんだよなぁ……現時点では見つからない方が良いかもしれない。集落水没時にニートスとサントスには既にパジャマ姿を見られてるけど、あの時慌ててたからしっかりは見られてないだろ。
 あと、オルシンジテンは絶対に隠しておいた方が良いかな。
 ほとんどのことが答えられるから、あれが見つかると村中の人が頻繁にあれを頼りに訪れそうだ。
 そうなると、私の唯一の安息の場所が無くなってしまう。
 それにこの村は本どころか、まだ紙すら存在しないからアレが発見されるとかなり面倒だ。

「ちょ、ちょっと待っててね、準備してくるから」
 家の中に入って、オルシンジテンに光魔法で透明化の魔法をかけ、とりあえず屋根の上に追いやった。
 あとで、私以外が来た時に透明になる機能と、屋根の上に逃げる機能と、あと雨風を弾く機能を付けておこう。
 布団とパジャマもとりあえず屋根の上に追いやる。

「お待たせ。どうぞ」
 ゼロ距離ドアの試験運転だったはずが、なぜか我が家の内覧会みたいになってしまった。
 ただ単に木と土と、あと畳とフローリングと布団と風呂とトイレがあるだけの殺風景な家見て面白いだろうか?

「じゃあ、お邪魔しま~す」
 あ、土足で入らないで!
 って言おうとしたけど、トロルたち常に裸足だった!
 仕方ない……畳が汚れることも覚悟しておこう……

「わぁ~広~い!」
 えっ? 広くないでしょ!
 ほぼワンルームよ? まあそれでもトロル集落の家に比べれば広いのかな?

「おお! こういう骨組みにしたら良いのか」
 あ、いや、あまり参考にしないで!
 建築関係に明るくないからきっと耐震性はかなり悪いから!

「このわらの床なんて言うの?」
たたみって言うのよ」
「何か気持ち良いね!」
 たたみを気持ち良いと言うなんて……この子らは違いが分かる子だ。このまま育ってもらいたい。

「あ、あれは何ですか?」
 天井付近の壁を見る。そこには以前作った時計がかかっている。
 あ、しまった時計を隠すの忘れてた……
 あの時計、本当は機械のていを成していないからあまりバレたくなかったんだよね……
 魔法で作った、ただの板がデジタル時計を表示してるだけの魔道具だから。

「ああ……あれは時計と言って、今が何時なのかを示してくれるものです」
 今は15:22を示している。
 別の子から質問が飛んでくる。

「何時かわかって何の意味があるの?」
 何の意味がある……確かに何の意味があるんだろ?
 人間界で生活している時には欠かせないものだったけど……魔界の生活に果たしてこれが存在する意味があるのだろうか?
 そう考えるとある意味、前世からの夢であったスローライフが送れていると言えなくはないかも?
 まあ、でも今後文明が進むに連れて、時間を知らなければならない事態が増えるはずだし、あっても困ることはないよね……

「う~ん……時間がわかると、その時間に何をやれるかっていう計画が立てられるようになるのよ。例えば明るい時に出来ることと暗くなってから出来ることじゃ違うでしょ?」
「そうか! 暗くなったら寝なきゃいけないもんね!」
 一応納得してもらえたようだ。

 その後も村人がぞろぞろと入っては出て入っては出てを繰り返す。
 家の中を見ると……泥だらけだ……たたみも泥だらけ……まあ予想した通りだね……
 後で掃除してたたみを作り直しておこう……
 一応玄関も作ってあるんだけど、みんな常に裸足で生活しているから何の意味も成していない……
 これから家に上げる時は、足洗ってもらうようにしよ。いや、それより履物を作って普及させる方が良いか。
 私は外国の土足文化は馴染みが無いから、この際日本の土禁どきん (土足禁止)文化を定着させたい!

「え~と……ご満足いただけましたか?」
「はい! 家というものを堪能させていただきました!」
「参考にして作ってみたいと思います!」
「それは良かった……」

 我が家を汚した甲斐がありました……

「さあさあ、長く居るのもアルトラ様にご迷惑がかかるので、この辺りでおいとましましょう!」
 リーヴァントがみんなに帰宅を促す。
 遅い! 内覧会する前に促せ! リーヴァントを睨みつける。
 向こうからは笑顔が返って来た。どうやら彼も満足されたようだ……
 まあ、どの程度参考になるかはわからないけど、これで住宅事情が改善されるなら良いか。出来れば参考程度に留めてもらって、真似するまでに至るのは遠慮願いたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

わがまま令嬢の末路

遺灰
ファンタジー
清く正しく美しく、頑張って生きた先に待っていたのは断頭台でした。 悪役令嬢として死んだ私は、今度は自分勝手に我がままに生きると決めた。我慢なんてしないし、欲しいものは必ず手に入れてみせる。 あの薄暗い牢獄で夢見た未来も、あの子も必ずこの手にーーー。 *** これは悪役令嬢が人生をやり直すチャンスを手に入れ、自由を目指して生きる物語。彼女が辿り着くのは、地獄か天国か。例えどんな結末を迎えようとも、それを決めるのは彼女自身だ。 (※内容は小説家になろうに投稿されているものと同一)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...