建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第1章 灼熱の火山地帯冷却編

第12話 燃える木、凍てつく木、潤いの木

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 さて、植物に必要な光も出来たところで、今日の本題に戻る。

 再び、樹魔法と火魔法を組み合わせて、自ら燃える芽を作ってみる。
 が、やはりダメだ。
 そもそも樹魔法と火魔法の相性が悪過ぎる。
 自分から燃えていて、尚且つ燃え尽きもしない木は、自然の摂理にも反してるから作れないんだ。

「………………」

 少し思い付いたことがある。
 樹魔法と火魔法、そしてその繋ぎに創成魔法を使ったらどうだろう?
 早速思い付いたことを実行してみた。
 樹魔法と火魔法に創成魔法を組み合わせて、自ら燃える芽をイメージして作ってみる。
 すると――

 今度は見事に燃える芽が出来た!
 水をエネルギー源とせず、熱をエネルギー源とするように作ってみた。これなら推定四百五十度の外気熱をエネルギーにして成長出来るはずだ。
 さっき時間魔法を使ってみたところ危ないということがわかったので、無闇やたらに使うのを止めて、樹魔法を使って成長を促すことにする。さっきは失敗したけど、今度は光もあるからいけるはずだ。
 燃える芽を樹魔法で成長促進させ実が実る大きさまで大きくする。今度はちゃんと成木まで成長してくれた。
 燃えてるさまが赤い葉を生い茂らせた木のようだ。まるで動く紅葉のようで美しい。

「わぁ……凄く綺麗!! ………………でも……きっと近くにいるだけで地獄ね……」

 風が……! 上昇気流が凄い、火耐性があって私には感じられないけど多分放射熱も凄いことになってるはずだ。

「あ、そうだ温度計でも作ってみよう」

 千度まで耐えられる温度計を……と思ったけど、念のため千五百度まで耐えられる温度計を作ってみた。

「放射熱は、と」

 木からちょっと離れたところにいるのに七百六十三度……人間なら一瞬で焼け死んでる……
 多分、普段の外気温 (推定四百五十度)も手伝ってのこの温度だと思うけど……

「き……木の中心温度は?」

 千三百九十度……この温度計がぶっ壊れる……
 ケルベロスがあんなに遠くにいる……この熱さは口から炎を吐く地獄の番犬も耐えられないのか?

 はッ!!
 ケルベロスがあんな遠くにいるってことは……我が家は大丈夫か!?
 急いで我が家を見る。
 ヤバい……成木になって数十秒しか経ってないのに炎が壁を伝っている!
 急いで壁伝いに水魔法でバリアを張る。
 危うく延焼するところだった。

「フゥ…とりあえずこれで大丈夫かな」

 フッと思った、これって酸素はどうなってるのかしら?
 これだけ激しく炎を上げてれば、周囲の酸素をごっそり持っていって、この辺り無酸素状態になっててもおかしくないはずだけど……
 私が無酸素で大丈夫なのか、この木が酸素を出し続けているのか。
 酸素が無いと火が消えるはずだから、この木がそれ相応の酸素を出し続けているってことになるのかな?
 だとしたら物凄い酸素量を排出していることになる。

「すごい! この木は光合成さえ可能な環境なら、酸素の生成・燃焼、二酸化酸素の吸収を全部一つの木でやってるんだ!」

 だから何だとしか言えないが……

 燃える木をよ~く目を凝らして見ると実が成ってる……
 こんな燃える木でも、果実が成るのか……
 自分で作っておきながら、不思議な……いや、不思議通り越して不可思議な木だ。
 折角実ったから収穫してみる。
 木の実自体が炎を放っている……

「フフッ……これは明らかにダメだ……」

 思わず、『バカみたいな木だな』と頭の中で思ってしまい、失笑が漏れた。

「一応、無駄だと思うけど味も見ておこうかな」

 木の実の殻を剥いて中身を取り出す。
 炎に完全耐性があるので、味見しようと口に含んでみる。
 水分が全くなく、カッチカチで歯ごたえは抜群。極限まで水分を飛ばされ、クルミを十倍も百倍も硬くしたような食感だ。人間だった頃ならきっと噛み切れないどころか、歯が砕けてるだろう。
 味は……

「美味しくないわね……」

 カラカラだから味が濃縮されてるかと思ったけど、ほとんど味は無い。甘いイメージを入れ忘れたかな?
 以外なことに焦げや炭の味はしない。
 まあ、甘かったとしても、実が燃えてたら私以外は食べられないけどね。
 暴動や武装闘争があった時には火炎瓶の代用には出来そうだ。
 考えるまでもなく、処分することにした。
 火を噴く植物だから、水で枯れるように作っておいた。大量に水をかけて処分。
 大地が熱いから植物が生えなくて困っているのに、更に熱い木を作ってたら本末転倒だ。
 燃える木を処分したら、ケルベロスがしれっと所定の位置に戻って来た。

 超々灼熱に耐えられるからと言って、燃えてる木を作ってもダメだということがわかった。
 まず、この木に誰も近寄れないし……収穫以前の問題だ。
 そして極めつけは実すら燃えてるから、仮に収穫できても誰も食べられない。

「まさに『誰得?』な木ね……」

 次は逆に、樹属性と氷属性、創成魔法を組み合わせて、凍った芽を作ってみる。
 火がダメなら氷の木だ!
 樹魔法で成長……させようとしたが、成木になる前に燃え尽きた。
 マイナスって、絶対零度でもマイナス二百七十三.一五度にしかならないんだものね……推定四百五十度の温度には耐えられないか……

 最後に、樹属性と水属性、創成魔法を組み合わせて、常に潤った芽を作ってみる。
 これでダメならもう打つ手無し!
 樹魔法で成長促進させる。
 常に水を出す木なら大地も潤うかもしれない。
 木はぐんぐん成長していく。

「お! これは成功じゃない?」

 そう思ったのも一瞬で、あっという間に木の中の大量の水分が沸騰し、蒸発。大量の水蒸気で霧が発生。辺り一面見えなくなる。
 木が燃えないところは成功だけど、霧が濃くなり過ぎて何も見えない。
 顔の前に手をかざしてみた。恐らく目の前、五から十センチほどのところに手があるはずだが、自分の手すら見えない……

「これもダメか……」

 常に水を出し続けるため火では枯れさせることが出来ない。そのためもしものために、雷など強い電気が流れると水が一時的に止まるように作っておいた。
 そこまでは良いのだが、霧が濃すぎて、発生源である木がどこにあるかわからない。
 ここまで大量の霧は想定してなかった。

「クオォン! クオォン!」
 「アオォン! アオォン!」
  「ウォオォン! ウォオォン!」

 急に霧が発生したからか、ケルベロスが吠え始めた。
 口が三つあるからうるさいのなんの……
 多分この犬にとっては初めての経験なんだろう、心配そうな声である。


   ◇


 しばらく、木を探して霧の中をウロつく。
 木の目の前に居たはずなのにどこにあるのかわからない。
 大した大きさの広場でもないのに中々見つからない。
 探し回っている間、ずっと犬の声がしてる。


   ◇


 ピトッ

 何かにぶつかった。表面を触ると手が濡れる。この地獄の門前広場に水気みずけはこの木以外に無い。
 ということは――

「あぁ……やっと見つけた……」

 雷魔法で直接電気を流して、一時的に水を止める。
 残った霧は、風魔法で吹き飛ばす。
 あ、これ先にやっておけば一瞬でも木が見える時間が作れたな。
 よく見たら、足元が灰とすすと土だらけ……というか泥まみれかな。大量の霧の水分を土が吸って泥と化していた。それだけ駆けずり回ったのか。
 処分した潤いの木を見てみるとこちらも果実が成っている。
 一応味見してみた。

「うん! 甘くてジューシーで美味しい!」

 今度はちゃんと甘さと共に、更に私の好きな梨を明確にイメージして作ったため味は絶品だった。
 でも、残念ながら霧が凄く発生するから水が止まっている間に泣く泣く火炎で焼却……しようと思ったがもったいないので時間魔法で苗の状態まで戻した。

「あぁ……この木は使えないのが勿体ないな……果実も美味しかったし……ハァ……ここに植物って生えないのかな?」

 地面が冷えたら使えるかもしれないし、一応凍てつく木と潤いの木の苗だけは残しておこう。
 ただし燃える木テメーはダメだ。

「………………ん? 地面が冷えたら? ………………そうだ! 逆転の発想だ! 地面が熱いなら冷やしてしまえば良いんだ!」

 周囲には七つの活火山。全てが常に噴火しているような状態。
 これらを鎮めれば大地も冷えてくれるはず!
 とりあえず、今あるありったけの魔力を使って雨を降らせてみることにした。
 今日はあれこれやって気疲れしたので、早めに風呂に入って就寝した。





 その日の夜。
 日本には『かねの成る木』という言葉がある。まあ多くは良い意味では使わないんだけど……
 樹魔法を使って、とある実が成るように明確にイメージし、その実になるであろう芽を作ってみる。
 樹魔法で成長させ、成木になった。
 その木の付けた実は……一万円札だ!
 実を付けると一円玉から徐々に成長して行き、完熟すると最終的に一万円札になる。
 ちょっと実りが悪い実は千円札とか五千円札になった。
 お金のナンバーも全部違う、個体差というやつだろう。

「やった! 完璧だ! かねの成る木が出来た! これで大金持ちだ!」

 ………………
 …………
 ……

 夢だった…… 
 今魔界にいるから人間界のお金なんか使えんし……
 ちょっと虚しい朝だった……
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