9 / 546
第1章 灼熱の火山地帯冷却編
第8話 遂に訪れてしまった“アレ”問題
しおりを挟む薄くぼやけた世界は、また今日も目まぐるしくまわる。疲れきった大衆、雨上がりの雑踏、誰も私の事を気にもとめない。来るはずのない貴方を待ち続ける。ひとりだけ、この世界から取り残されたようで、酷く虚しい。
「帰ろうかな。」
そう呟いた時、目の前を見知った車が通り過ぎる。明るい橙ランボルギーニ。思わず目で追っていた。10数メートル先で止まったそれからは、その人物が降りてくる。予想外の期待に胸が小さく弾んだ。思わず水溜まりを乱す。しかし彼が駆け寄ったのはその助手席。開かれたドアからはオシャレに着飾った小柄な子が降りてきた。
「それじゃあ、また明日!」
数メートルの距離にいるはずの恋人。こちらに気づく様子もなく、2人は抱擁し合う。呆然と立ち尽くす私には、それが醜く美しいものに見えた。駅の中へと入っていく人物と、それを見送る人物。そして、それを見つめる人物。同じ舞台の登場人物なのだろうか。それとも、私はただの見物客に過ぎないのか。
「あれ、やっぱりお前だったのか。もしかして、朝からずっと?」
主人公は、真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってくる。口ぶりからして、今日の約束は覚えていたようだ。
「あ、うん、おつかれさま。」
いつものように笑顔を向ける。
「今から帰るところ?良かったら、今からどっか行く?」
殆どの人が帰路に着く頃、あのヒロインもその中の1人だったのだろう。彼の言葉に含まれているものは残酷なものなのだった。
「でも、疲れてるんじゃないの?」
「明日も休みだし、俺は全然構わないよ。お前が嫌なら無理にとは言わないけど。」
「んーん、私も大丈夫だよ。」
違う。明日は講義もバイトもある。
「じゃあ、乗りな。」
ドアを開けてくれる。さっきまで、別の人が座っていた席。微かに香水が漂う。彼好みの甘い匂い。今日の私と、同じ匂い。
「ありがとう。」
私の笑顔の奥には、一体何が孕まれているのだろうか。車に乗り込み、シートベルトを締める。
「どこいくの?」
「いつものところ。」
「そっか。」
もしかしたらという期待も、いとも簡単に打ち砕かれる。
車窓から見える舞台裏は、疲弊仕切っていた。各々が、今日の公演を終えたのだろう。
本来なら、私の舞台も華やかとは言わずとも充実したものなはずだった。10時間遅れの開始。淫猥なシナリオ。道化は笑顔を浮かべる。
妙に肌寒いここは、メインシーンへの馬車の中だろうか。
暫くすると、見慣れた通りが見えてくる。もうすぐお城に到着だ。
「あ、そういえばさ、今日新しい服来てみたんだ!似合うかな?」
「あー、そういやそれ見た事ないな、似合ってんじゃん。」
「ありがとう!」
本当は、よく見てない事も分かっている。惨めな道化は大袈裟に笑顔を作っていた。
「あー、やっぱちょっと疲れた。」
主人公はベットに倒れ込んだ。ぐるりと寝返りをうつ。
「ほら、来いよ。」
その言葉に、ゆっくりと跨り身体を倒す。トキメキも何も無い。冷めた熱が湧き上がった。
「お前上手いよな…。」
「ふふ。」
接吻の最中、そんな会話を交わす。熱は燃え上がると同時に温度を下げていく。
「ほら、して?」
彼がゆっくり擦り付ける。ここの所の流れだ。身体を起こし、ベルトを外す。少し大きくなったそれを口に含み、舌で撫でる。徐々に大きさが増していき、腰の動きも加わった。頭を押さえつけられ、息が苦しくなる。いやらしい音が響き渡り、速度をあげていく。
「ふっ…っあぁ…。」
微かな喘ぎと共に口内に液体が放たれた。嚥下するまでは放してもらえない。残りを吸い出し、吐き気を抑えながら無理やり押し込んだ。
「…口、洗っておいで。」
「うん…。」
その後、どうなるかは分かっている。口をゆすぐと、そっと部屋に戻った。顔を覗き込むと、案の定穏やかな寝息を立てていた。
「…おやすみ。」
高揚すら覚えないそれに自嘲を浮かべながら、隣りに横になる。視界が歪んだ。
「ふっ……ぅう…。」
主人公の演劇はもう終幕だ。起こさぬよう、息を殺しながら嗚咽をこぼす。
その感情の正体は分かっていた。
私とのデートの当日、彼は他の人とずっと一緒にいたのだ。約束の10時間後にその相手と赴いた。そして何食わぬ顔で欲を満たした。そこに愛などある筈がなかった。分かっていて、私はそれを拒むことは出来ない。嫌いになる事すら出来ない。
私には彼しかいない。そうでは無いと、周りに目を向ければ幾らでも他の人はいると、分かっている。しかし、私の事をしっかり見てくれる人は二度と現れない気がする。彼も、1度は私を愛してくれたのだ。体調を崩した日には、泊まり込んで世話を焼いてくれた。彼が困ってる時には相談もしてくれた。頼ってくれた。私には彼以外居ないのだ。私さえ我慢すれば、私はずっと彼の舞台にたっていられるのだ。間違っているとは分かっている。それでも、またいつかを思い出す。
「いっそ、私だけを見てくれればいいのに。」
ふらつきながら起き上がる。隣で眠る彼はそれに気付く素振りもない。ゆっくりとバッグを漁った。それを手に、再び彼に跨った。
「ん…なに…。」
不機嫌そうな声。
「大丈夫だよ。すぐに楽になるから。」
振り上げた腕を下げると同時に、ゆっくりと上体をおろす。
生暖かい液体が溢れ出る。
「………!!!」
彼の唇に自分のそれを合わせる。
みると、既に眼は虚ろだった。
刺した物を引き抜くと、血潮が舞った。
衝動に駆られ、傷口に顔を埋めた。何度も嚥下する。体内に彼が入ってくる。一つになれた。本当の意味で。
熱が増し、温度が上がる。
やっと、私たちは結ばれた。
「帰ろうかな。」
そう呟いた時、目の前を見知った車が通り過ぎる。明るい橙ランボルギーニ。思わず目で追っていた。10数メートル先で止まったそれからは、その人物が降りてくる。予想外の期待に胸が小さく弾んだ。思わず水溜まりを乱す。しかし彼が駆け寄ったのはその助手席。開かれたドアからはオシャレに着飾った小柄な子が降りてきた。
「それじゃあ、また明日!」
数メートルの距離にいるはずの恋人。こちらに気づく様子もなく、2人は抱擁し合う。呆然と立ち尽くす私には、それが醜く美しいものに見えた。駅の中へと入っていく人物と、それを見送る人物。そして、それを見つめる人物。同じ舞台の登場人物なのだろうか。それとも、私はただの見物客に過ぎないのか。
「あれ、やっぱりお前だったのか。もしかして、朝からずっと?」
主人公は、真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってくる。口ぶりからして、今日の約束は覚えていたようだ。
「あ、うん、おつかれさま。」
いつものように笑顔を向ける。
「今から帰るところ?良かったら、今からどっか行く?」
殆どの人が帰路に着く頃、あのヒロインもその中の1人だったのだろう。彼の言葉に含まれているものは残酷なものなのだった。
「でも、疲れてるんじゃないの?」
「明日も休みだし、俺は全然構わないよ。お前が嫌なら無理にとは言わないけど。」
「んーん、私も大丈夫だよ。」
違う。明日は講義もバイトもある。
「じゃあ、乗りな。」
ドアを開けてくれる。さっきまで、別の人が座っていた席。微かに香水が漂う。彼好みの甘い匂い。今日の私と、同じ匂い。
「ありがとう。」
私の笑顔の奥には、一体何が孕まれているのだろうか。車に乗り込み、シートベルトを締める。
「どこいくの?」
「いつものところ。」
「そっか。」
もしかしたらという期待も、いとも簡単に打ち砕かれる。
車窓から見える舞台裏は、疲弊仕切っていた。各々が、今日の公演を終えたのだろう。
本来なら、私の舞台も華やかとは言わずとも充実したものなはずだった。10時間遅れの開始。淫猥なシナリオ。道化は笑顔を浮かべる。
妙に肌寒いここは、メインシーンへの馬車の中だろうか。
暫くすると、見慣れた通りが見えてくる。もうすぐお城に到着だ。
「あ、そういえばさ、今日新しい服来てみたんだ!似合うかな?」
「あー、そういやそれ見た事ないな、似合ってんじゃん。」
「ありがとう!」
本当は、よく見てない事も分かっている。惨めな道化は大袈裟に笑顔を作っていた。
「あー、やっぱちょっと疲れた。」
主人公はベットに倒れ込んだ。ぐるりと寝返りをうつ。
「ほら、来いよ。」
その言葉に、ゆっくりと跨り身体を倒す。トキメキも何も無い。冷めた熱が湧き上がった。
「お前上手いよな…。」
「ふふ。」
接吻の最中、そんな会話を交わす。熱は燃え上がると同時に温度を下げていく。
「ほら、して?」
彼がゆっくり擦り付ける。ここの所の流れだ。身体を起こし、ベルトを外す。少し大きくなったそれを口に含み、舌で撫でる。徐々に大きさが増していき、腰の動きも加わった。頭を押さえつけられ、息が苦しくなる。いやらしい音が響き渡り、速度をあげていく。
「ふっ…っあぁ…。」
微かな喘ぎと共に口内に液体が放たれた。嚥下するまでは放してもらえない。残りを吸い出し、吐き気を抑えながら無理やり押し込んだ。
「…口、洗っておいで。」
「うん…。」
その後、どうなるかは分かっている。口をゆすぐと、そっと部屋に戻った。顔を覗き込むと、案の定穏やかな寝息を立てていた。
「…おやすみ。」
高揚すら覚えないそれに自嘲を浮かべながら、隣りに横になる。視界が歪んだ。
「ふっ……ぅう…。」
主人公の演劇はもう終幕だ。起こさぬよう、息を殺しながら嗚咽をこぼす。
その感情の正体は分かっていた。
私とのデートの当日、彼は他の人とずっと一緒にいたのだ。約束の10時間後にその相手と赴いた。そして何食わぬ顔で欲を満たした。そこに愛などある筈がなかった。分かっていて、私はそれを拒むことは出来ない。嫌いになる事すら出来ない。
私には彼しかいない。そうでは無いと、周りに目を向ければ幾らでも他の人はいると、分かっている。しかし、私の事をしっかり見てくれる人は二度と現れない気がする。彼も、1度は私を愛してくれたのだ。体調を崩した日には、泊まり込んで世話を焼いてくれた。彼が困ってる時には相談もしてくれた。頼ってくれた。私には彼以外居ないのだ。私さえ我慢すれば、私はずっと彼の舞台にたっていられるのだ。間違っているとは分かっている。それでも、またいつかを思い出す。
「いっそ、私だけを見てくれればいいのに。」
ふらつきながら起き上がる。隣で眠る彼はそれに気付く素振りもない。ゆっくりとバッグを漁った。それを手に、再び彼に跨った。
「ん…なに…。」
不機嫌そうな声。
「大丈夫だよ。すぐに楽になるから。」
振り上げた腕を下げると同時に、ゆっくりと上体をおろす。
生暖かい液体が溢れ出る。
「………!!!」
彼の唇に自分のそれを合わせる。
みると、既に眼は虚ろだった。
刺した物を引き抜くと、血潮が舞った。
衝動に駆られ、傷口に顔を埋めた。何度も嚥下する。体内に彼が入ってくる。一つになれた。本当の意味で。
熱が増し、温度が上がる。
やっと、私たちは結ばれた。
1
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる