転生少女は溺愛に気付かない

たぬ

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放課後デート①

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「……明日は入学式のため君らは休みだ。喜ぶのはまだ早い……って喜ぶはずないか」


 休日は何日あっても足りないというのに先生は何を言ってるんだ?


 ちらちら


「進級しても顔ぶれが変わらなかったことは喜ばしい。喜ばしいが、が!だ。
 君らの学年が我が校で総合点数の平均を塗り替えた。もちろん悪かったんじゃない。良かったんだ。特に去年の君らを含む上位3クラスはな。」


 良いニュースが続いてるのにまるで悪しき出来事のように語り続ける前年度同様Jクラス担任 の 冴羽仁さえば じん先生。


 HRで連絡事項漏れが多々ある人で、今日みたいによく分からない出だしで語り始めることも多々ある。にしても今日は長いな。


 先生よ、話が長くなるには若すぎないかい?


 チラッ


「立花!聞いてたか?」


 脳内会話で完全に聞いてなかった。ここは正直に……なれないので、全力で誤魔化す。


 この手だけは使いたくなかっだが止むを得なし。私ならできる。羞恥心は捨てるもの。

 満面の笑みで、首は20度肩身ける。そして一言「はい、もちろんです、先生!」

 人はニコニコしている相手に嫌悪感を抱きにくいはず!これは経験に基づいた怒れるお兄ちゃん(浩成)撃退措置である。


「そっそうか……なら、と今回は言ってやるが次はもういっぺん最初から聞かすからな!朝倉起立。要約!」


 我が歴史の正当性が証明された瞬間だった……なんちゃって、結果は成功とも失敗とも取れるどっちつかずな状況だが、まぁ怒られなかったので成功とみなす!


 こちらを心配そうに見ていた壮馬くんは突然当てられ、慌てて立ち上がるも、長話を端的にまとめてくれた。

 一つ 休日も勉学を怠らないこと
 二つ 1週間後にオリエンテーションがありその準備をすること
 三つ 下校に際して安全が確認できるまでHRが続くこと


 多分私の意識は1つ目の話からサヨナラしてたんだろうことは分かった。


 チラッ


 2つ目の話は私に関係ないらしい。オリエンテーションは去年五十嵐先輩が学校案内をしてくれたが、女生徒が案内することはないらしい。その日は休んでもいいし、自習室や図書室、カフェテリア等々の利用に登校するのも自由。


 チラッチラッ


 3つ目は、なんでだ?不審者情報のせいで警戒すべきなのは分かる。なら廊下の人達も教室にいるべきだし、そもそも犯人が捕まるまで帰れないのでは?


 チラッ

 ジ~~


 あーもう!視線がうるさい!!

 一日中この状態だ。どうした?春休みを挟んだら女性を、私のこと忘れたの?学期末はこんなことなかったのに、入学当時に逆戻り。見られすぎて『ちらっ』って効果音が聞こえてきそう。


 チラッチラッ じ~ー チラッ


 布のこすれる音でリミックスが作れそう。もしやモールス信号的な合図を送ってたりしますか?残念ながら、それらの類は全く分かりません。

 これでもHRのおかげでマシなのは何となく察している。

 シャッターが下りて目視はしなくて済んでいるが廊下がやけに賑やかなのは感じていた。先にHRが終わった子達がいるんだろう。休み時間の度にこうなってたから。一番混雑していたらしい昼休みは、校長先生の指示通り更衣室で過ごした。午前の休み時間を見てなかったら移動しなかったかもしれない。本当に英断でした。


 誰かにこの状況を相談したいけど友達来てないし。紗江ちゃんが学校を休むだなんて想定外だったよ。

 友達いない

 話し相手いない

 寂しい


「もしもし立花聞こえるか?」

「聞こえてます先生!」

 声のするすぐ横に顔を向けると、しゃがみ込んだ冴羽先生と目が合う。先生は目を細めにっこりと微笑んだ。

「それはなりよりだ。廊下に車の準備が出来たから後はお前の護衛に頼む。それでは皆さん、立花が無事教室を出たらHRを終わります。」


 あっ、帰っていいんだ。


 不満を言いかけた男子生徒を私語禁止だと黙らせた冴羽先生は、私の後ろにいる、SP筆頭のニックに目配せをした。ニックも肯首で返す。

 すまない、クラスメイトよ。私は一足先に帰らせていただく。


 ニックの指示に従い廊下に出ると一人用の電気自動車が廊下にあった。車から1m間を開けて知らない生徒が周りを取り囲んでいた。見える範囲に女生徒は1人も見当たらない。

 人でごった返しすぎて、車を走らせたら確実に怪我人を出すだろう。よく見るとネクタイカラーが赤、青、緑。学年コンプ!

 廊下は教室を造れるほどに広いよ。空間はある。だが、何故こんなにも集まった君たちand先輩方。


 ラファエルさんに逢いたい。今なら憎まれ口を叩く界人お兄ちゃんでもいい。


「ニックさん……」

「ご安心を鈴奈様の護衛チームが今道を作っております。来ましたよ」


 宥めるように優しく声をかけてくれるニックさんの言葉通り、人並みがパカッと割れた。肉壁によってエレベーターまでの床が見えるようになった。





 徐行をしながらSPさん達が開いてくれた道を進み、その道はうちの車まで続いていた。

 こんなに護って貰ってなんだが、一人用電気自動車必要でしたか?という言葉は飲み込み、下駄箱に着いた時点で車に寄りかかっているラファエルさんと目が合った。

 私は急いで電気自動車から降り、慣れない厳重な下駄箱トラップを解除して靴を履き替え、彼の元に駆け寄る。あとちょっとの所で、何も無いのに足が絡まり身体が前に傾く。

 転けるっと咄嗟に目を閉じ、衝撃に備えて体を強ばらせる。しかし痛みがない。触れられている部分から伝わってくる体温に落ち着き、一時我を忘れる。


「危ないから次からは歩いてくださいね。」


 優しい落ち着く声の持ち主が支えていてくれた。

 鈴奈はラファエルに支えてもらいながら立ち上がり、スカートを叩いて居住まいをただす。目の前で醜態を働いてしまったことが恥ずかしくて、小さく蚊の鳴く声みたいな音量で一言お礼を伝えると、急いで車に乗り込んだ。扉を閉める間もなく開け放たれた扉からラファエルが乗り、入口近くにいた鈴奈とゼロ距離に座る。鈴奈は慌てて距離をとるもラファエルは距離を詰め、鈴奈の腰を抱き寄せた。


「近すぎませんか?」

 鼓動がうるさい。

「そんなことありませんよ」

「いや、近いと思います。
 こんなに車の中広いのに固まって座らなくてもいいんじゃない?」

「私の膝上で眠ったんですから恥ずかしがらなくてもいいんですよ。」

「恥ずかしがってなんか」

 近くから見つめてくる美しいラファエルの顔に、心臓が騒ぐ。

 恥ずかしい。どうして彼に抱かれて眠れたのか自分の神経を疑う。しかも2度もだなんて……。森でデートしたときの強気な姿勢をとりたくても今ではタジタジだ。男性に対する免疫が皆無の私にはオーバーキルです。


 ラファエルは鈴奈の頬が紅潮していく様を見て、口の端を人知れず上げる。自らの行動で鈴奈の一挙一動に変化を与えていること喜びをかみ締めていた。

 俺の前でだけ魅せる表情をもっと堪能したいが話題を変えてやった方がいいな。


「学校はどうでしたか?」

「学校ですか?建物も人もへんてこりんでした。」

「というと?」

「廊下と教室の仕切りとなる窓にシャッターがあったり、車で移動をしたり、女生徒が2年生だけ1ヶ月休んでよかったり、成績が1年生の一年間で3年分決まったり、校長先生自ら校内案内をしたり、生徒が私を見せ物扱いしてたり?です。」

「成績が最初の1年間で決まるのは私の母国でも同じだからよくあることだと思うけど、鈴奈が挙げた殆どは浩成と界人たちがつくった伝統に起因してそうだね。」

 お兄ちゃんたちが?

「浩成が入学する前までは星稜に1年生に告白禁止って暗黙の了解はなかったんだよ。」

「そんなルールがあるですか?」

「知らなかった?
 拓海さんから聞いた話によると、鈴奈がいずれ入学することが分かっていたから、浩成は鈴奈が少しでも学園生活に馴染めやすいようにそんな了解を生み出したらしい。方法までは教えてもらわなかったけどね。」

 その了解があの異常な事態になるのか繋がらない。

「つまり、鈴奈に話しかけたい人達が視線を寄越していたんだ。」

「クラスメイトや廊下に集まっていた人皆そうだってことですか?」

 クラスメイトは皆こちらを伺っていたし、廊下は他クラスの人達でごった返していた。さすがにあんなに沢山の人が告白したくてうずうずしてただなんて信じられない。

「違う人も紛れ込んでるだろうけど大半はそのはずだよ。あのルールがなかったらこんなに可愛らしい君がフリーなはずないもの。」

 ラファエルは不意に鈴奈の頬に手を添え、上を向かせる。

「そそんな……」

 声が裏返ってしまう。


 ラファエルがさらに覗き込んできて、添えられている指先が頬を撫でる。


 話題転換し油断していた鈴奈は再び広がった甘い空気に息を詰め、あわあわと慌てたいが、顔がラファエルに固定されているため、視線だけが右往左往する。

 何を言うべきが鈴奈が悩んで口を開くも何も言葉が出ず閉じるを繰り返す。その姿をみてラファエルは微笑を浮かべるが、突然眉間に皺を寄せ、表情を暗くした。

「もし……気に入る奴…がいるなら、そいつと交際しても構いません。」

 重々しく開かれた口から出た一文を鈴奈は理解できなかった。付き合いだしたばかりなのに、他の人との交際を許可されるって……私は別れ話をされているの?ツキりと胸が傷んだ。

 たぶん私はかなりラファエルさんを好きだと思う。それが恋愛感情か尊敬かはたまた親愛か分からないが、彼とのお付き合いを辞めるのは嫌だとはっきりと分かる。

「私は嫌ですよ!絶対に別れません」

 その日初めて彼の目を見てはっきりと告げた。

 ラファエルは驚き目を丸くする。

「俺も鈴奈と別れる気はない。ただ他に好意を寄せる相手がいるならそいつとも付き合っていいって話しだ。」

 ラファエルの言うのが、この世界の一般的な男女の交際なのだろうか?つまりそれは複数人と同時に交際をするってことだ。前世の感覚から言うと浮気だが、他重婚が推奨されるこっちでは確かに当たり前なのかもしれない。

「私は一人とだけ付き合いたいし、生涯一人だけを愛し抜きたい。」

 鈴奈は制服のスカートを握りしめ、視線を落とす。

 世俗に疎く、この考えが許されるのか分からない。高校に進学してから国を挙げて女性にお金をかけていることが見て取れた。権利には義務が伴う。女性が優遇されるなら、代わりに何を求められているのか。聞かなくてもなんとなく察していた。子供を沢山産むこと。愛する相手との子供ならこちらも大歓迎だが、そのためにどんな法があるかを知らないのだ。何度か頭をよぎった時に調べようとしたが、毎度断念した。明確にしてしまったら何かが壊れる気がした。


「鈴奈……」

 失望されただろうか。彼は割り切って考えられるのに、私にはそれが出来ないから

「鈴奈、いいのか?」

 何を問われているのか分からず、無意識に顔を上げ、表情を読もうとラファエルの顔を見ると、心配げにこちらを伺っていた。

「やっぱり、法律的に私の願いは叶わないの?」

 恐る恐る聞いた鈴奈に、ラファエルは鈴奈の予想に反する返答をした。

「法的に?全く問題ない。俺を君の唯一の彼にしてくれるのかい、鈴奈?
 その、俺が心配してるのは、鈴奈が気に入った奴なら何人でも囲ってもいいのに、俺一人だけでいいのかってことで、」

「私はお父さんお母さんみたいに、お互いにとって自分たちだけの関係に憧れがあるの。」

 生をうけてからずっと

「私は彼氏も結婚相手も1人だけがいい。ラファエルさんのことを好きにさせてくれるんでしょ?期待してる」

 いつも服をきっちりと着込みキリッとしているラファエルさんが自信なさげにしていると逆に私は自信が持てるみたい。法的問題もないみたいだし、私の将来図のモヤがひとつ消えたのも要因かな。

「ねぇラファエルさん、その口調好きよ」


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