転生少女は溺愛に気付かない

たぬ

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2年生

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 今日から新学期

 久々に制服に袖を通す。

 リボンタイを締めると気持ちが切り替わった気がする。休みが終わって学校に毎日通わないと行けないって気分にね。
 ちょっと嫌だけど、今日は新学期!陽気なBGMでも流れそう♪

 最高の一日にしなきゃ

 最高の一日に少しの変化を加えるには………何か今までと違うことをしたいな……髪型はどう?
 うーん、かんざしのハーフアップに代わる邪魔にならない、けどちょっと凝った髪型……両サイドにそれぞれ細い三つ編みを2つずつ作って、一方の三つ編みにもう一方の三つ編みを巻けば……うん、可愛い!

 たいはんはストレートで下ろしてるけど、そこに三つ編みが映えて良い。下を向いても顔にかからない。勉強にも差し障りなしだね。

 荷物よし、制服よし、新しい髪型よし!






「おはようございます、……おじいちゃん、おばあちゃん。」

 「おはよう鈴奈。今朝は早いな。座りなさい、直ぐに朝食が来る。」

 そうなの。今日の私は早起きなの。

 昨日までの私なら、まだ夢から覚めてないだろうけど、今日の私はちがう。身嗜みのために6時起きだ。
 放課後学校にラファエルさんが迎えに来てくれるって約束してくれたから。可愛いって思ってもらいたいもの。

 ちょっと眠いけど

「今日の髪型可愛いわね。制服姿を間近で見れて良かったわ。見れずにご先祖さまの元に召されると思ってたの。後はプロムドレスと成人式の着物、ウエディング姿、後曾孫を見たら後悔なく行けるわね。」

 お祖母さ……おばあちゃんは長生きしそう。心配要らないね。

 そういえば、去年参加しなかったけど、プロムが我が校にはある。主役は3年生せいだが、1・2年生は3年生のパートナーを見つければ参加自体は可能だ。
 残念ながら他学年に知り合いがいないから、その日はおじいさ……ちゃん、おばあちゃんとトランプしてた?かも。
 今年も参加は無理そうだ。他学年か……部活の先輩がいた。五十嵐先輩とか。でも、ほとんど参加してないから、知り合いと呼ぶにはなんとも微妙なライン。

「早起きした所悪いけど、当分は始業ベルギリギリに行きなさい。」
「なぜ?」
「行けば分かると思うけど、人でごったがえすはずよ。鈴奈ちゃんは護衛も多いから通行の妨げにならないように、人気がなくなってから登校しなさいね。」

 クラスの確認や休み明けの友人と会話するために、廊下に人が多く出るのかしら。

「それと絶対に護衛を傍にいさせてね。歩きづらかったり、周りが気になるかもしれないけど、絶対に護衛のそばにいるのよ。」
「絶対?」
「「絶対」だ」
「そう……わかった。」

 無口なおじいさ……ちゃんにまで言われたらしょうがないね。元々否やはないんだけど。







 予期せぬ時間が出来たおかげで、夢の国制作のアニメを移動時間含めて6話観れた。1話完結の話なのに、一つ一つが面白いから次から次へとのめり込んじゃった。気分は朝と同じ絶好調のまま。アニメの世界観に引っ張られてる感じが若干あるけどね。

「鈴奈様、到着しました。」

 エスコートを受けて、下車するとおばあちゃんの望んだ通り昇降口には誰も居ない。
 誰もいないとリムジンやそれに続く2台の黒いバン、そのバンから降りている黒いスーツを身にまとったSPが目立つ。桜舞い散る芝生にSPが……生えないよね。そりゃそうだ。

 下駄箱に向かうと見覚えのない新しい下駄箱に変わっていた。暗証番号、指紋認証、顔認証、音声生体認証が搭載されている下駄箱。これ本当に下駄箱?

 番号は誕生日に、後3つは適当に登録してっと。

「もしかしてロッカーも?」
「もちろんでございます。お時間を極力取らないよう認証時間が世界最速の装置を取り入れております。」

 説明をしてくれる彼はSPの隊長 ニック
 見た目40歳ぽいが、実年齢は56歳。美魔女ならぬ美ニック。見かけだけでなく身体能力も衰えていないらしい。ぜひ機会があれば見てみたい。
 車内でも質問に気前よく答えてくれた。
 ホームルームに間に合わくていいのかとか、護衛の人数、……ほとんどアニメを見てたからそんなに質問してなかったか。初対面の人と車内で2人の状況が気まずくて映像に逃げてたのもある。







「おや、お早いですね」
「校長先生、おはようございます。
 朝礼に間に合っていませんが、早いのでしょうか?」
「ああ、これは丁寧にどうも。おはようございます。
 女生徒は2年生の最初の1ヶ月間、遅刻、早退、欠席が許可されています。1ヶ月だけですから、来月以降は記録か残るので気をつけてくださいね。
 授業時間以外は積極的に更衣室避難所へ移動をお願いします。我々教員は迅速にトラブル対処を行う予定ですが、問題は少ない方がいい。そうでしょう?」
「はい、そうですね。あのトラブルって、」
「とにかく教室へ向かうにはまだ早いので校長室でお茶でも飲みませんか?いいお茶菓子があるんです。友人がお土産でくれてね。」

 本当に美味しい醤油煎餅だった。醤油のコクが深くて高級感があった。お茶には抹茶が入っていて飲みやすかったし、校長室のお客様用のソファーは新品同様張りがあって座り心地最高。

 雑談した後は校長先生自ら春休み中に改装した校内を案内してくれた。

 廊下は幅を広げ、壁に個人用のダイヤル式ロッカーを設置しており、前世見たアメリカの学園ドラマみたい。女子生徒のロッカーはニックの言っていた通り4重に護られていた。使用回数が減りそう。女子更衣室のロッカーはダイヤルだけ。入り口がカードと暗証番号だかららしいけど、実質こっちは3重。不思議!
 カフェテリアは利用客増強のために、料理の質を向上させ、パン以外にも食事をテイクアウトが可能になっていた。でも、記憶が正しければ、ここの利用客が少ないのは校舎から遠いせいだったはず。

「デザートやソフトドリンクの種類を増やした方がたくさん人が来ると思います。」
「そうなのかい?ならそうしよう。」

 学生以外も利用出来るならラファエルさんと来よう。

 窓ガラスが防弾ガラスになったり、壁に鋼鉄を仕込まれていたり目視では認識不可能な変化があるが、見た目では分からないから……

 1番嬉しかったのは、中庭の藤ノ木の下に設置されていたベンチが新しいものに取り替えられていたこと。お昼休みはここで過ごすのがお気に入りなの。校長先生の話だと1ヶ月はお預けになるけど、1ヶ月後も綺麗なままでいてね。

 お昼休みとか言えば、

「紗江ちゃんと佐伯薔薇さんはいつ頃来るか知っていますか?」
「剣持さんは一週間欠席。佐伯薔薇さんはお昼すぎに来られますよ。」
「わぁ、何となく尋ねただけで答えは返ってこないと思ったのに。校長先生が一生徒を把握しているだなんて」
「全員は流石に覚えきれませんが、運動の個人種目と頭脳で最も優秀なAクラスとJクラス、女生徒の顔と名前は把握してますよ。」
「団体種目は?」
「多いですから」

 確かに150人と既に多いところに120人追加は無理かな

「お昼時になってて欲しかったのですが、そう上手くはいきませんね。」

 時刻は2限目がそろそろ終わる頃
 授業の進捗スピードが速く、昨年度はついて行くだけで精一杯だったのに、2科目も逃しただなんて悪夢だ。一学年上がっても再びJクラスになれたが、なんとかしがみつけたに過ぎない。誰かがノートを写させてくれるといいけど

 そういえば、まだ生徒を1人も見てない。

「しかたない。教員に連絡、教員に連絡、2のJ以外はベルが鳴り次第シャッターを起動。立花と向かう。警備チームは2のJに急行されたし。繰り返す。2の……」
「ニック隊長さん、あれなに?」
「お嬢様は愚者に囲まれる覚悟をしておいて下さい。何を言われても「ごめんなさい」とお答えください。」
「謝るの?」
「「嫌!」でも「近づくな!」でも構いません。」

 怖い。何が起きるの?
 陽気なアニメ効果が流石に切れた。

「絶対にそばを離れないでねニック隊長。他のSPの方々も!」
「必ずお護り致します。」

 恐る恐る足を進め、拡充された廊下を進むと通り過ぎる教室全てに白く塗られたシャッターが下りている。改装によって鋼鉄の入った壁は音も通さない。足音だけが響き渡る。なんだか刑務所にいる気分。

 2-G、2-H、2-I、次だ。

「お嬢様、校長に渡されたボタンをしっかり握っていてくだい。いいですか、叫ばないよいにしてあげてください。思春期の柔らかい心は傷つきやすいですから。」

 ラファエルさんに内緒にする約束をしてニック隊長の裾を掴み、目を閉じ足を動かす。

 一、二、三、四、五、六、あれ?

 何も起きない。そろりと片目をゆっくり開けて周りを見るが、至って普通の教室に、久しぶりに見る顔ぶれ。学校ぐるみで騙されたのかと尋ねようと口を開くと同時に教室がワッと湧いた。

 クラスメイトの顔には笑顔だけが浮かんでいる。口々に私へ尋ねているようだが、声が重なり何一つ聴き取れない。

「星稜学園は噂通り生徒の質が高いですね。席を立つ者が誰一人いない。」

 今にも押し寄せそうな勢いだけどね。

 ピーーーーーー

 担任が笛を吹き、全員の注目を引く。

 笛を仕込んでたの?数学教師なのに…

「皆落ち着つけ。先程の話を思い出せ。紳士的に振る舞おう。
 立花、席は窓際1番後ろだ。
 それと新学期一発目の授業はどの科目も教材の配布と課題の回収のみ。一限目の古文で出されていた課題は俺から担当教員に渡しておくから、数学の課題と一緒に出してくれ。教材は机の上に置いてある。」

 教室後方にあったロッカーが無くなってる。廊下のはこれに取って変わったのか。

「先生私の席は本当にあれですか?」
「ああそうだ。どうかしたか?」

 どうかしたかって、どうかしてる。ソファーにサイドテーブルが私の席であるはずのスペースにある。あの空間に学ばせる気がないんだが……。

「校長先生、他生徒と同じ机と椅子に変更してもらうことはできますか?」
「気に入らないかい?」
「気に入らないと言うか……ノートを取りづらいと思うんです。」
「近くの席のやつに書かせるといい」
「いやそんな」
「「「「はい!!!!」俺やります!」俺だ!」僕が!」

 んー?

「ともかく!自分でやらないと覚えられないので、あの椅子では勉強しづらいと思うんです。」
「成績は今年度以降どんな点でも満点にするから心配いらないよ?」
「えっ?」
「えっ?知らなかったのかい?1年生の成績が高校の成績になるんだよ。出席日数だけは引き継がないから来月以降は毎日登校するよう心がけてくれ。」
「それだけ?」
「大事なことだ。出席日数は記載に残る。あまりに欠席する日が多いと身体の弱い子というイメージがついてしまう。婿探しにはデメリットだろう?」

 女性不足による人口減少の一途を辿る国の政府が考える政策として妥当な思考回路だ。将来会社を引き継ぐ界人お兄ちゃんの手伝いをしようと思っていたが、口外しない方が良さそうね。



 自分の席もといソファーに着席し、教材の確認と提出物を鞄から取り出す。ふぅー、新学期は思ってた疲れ方と違う疲労を伴った。なんでこうなっちゃったんだろう?席までほんの数メートル進む間も今も視線がうるさいし。いつも人によく見られるが、今日は一段と肩身が狭い。気を紛らわしてくれる壮馬くんは最も遠い席、廊下側の1番前の席にいる。

放課後にならないかな。早くラファエルさんに会いたい。

 
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