転生少女は溺愛に気付かない

たぬ

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護るために

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 ※ラファエル視点





は~

 鈴奈を渡邊家へ帰し、立花家への帰路のなか、ラファエルはデートを思い返しては緩いため息をついていた。

はぁ~~

「はーはー、はーはー、うっと惜しいんだよ!いい加減にしろっての。溜息を吐きたいのはこっちなんだぞ。クソ~、何ちゃかり鈴奈と出かけてんだよ。ふざけんな。クソ!!」

 界人は移動中の車内であることに関係なく立ち上がり、殴りかからんとラファエルに近づき拳を振り上げる。


 ラファエルは衝撃を覚悟し目を閉じるが、待てど痛みがない。

 片目を開けて見ると、界人は振り上げた拳を開き、代わりにラファエルの胸ぐらを掴んで揺さぶる。


「ハッハッハ、おかげで付き合えました。これでもお兄様方には感謝してるんですよ。」

「付き合った?!んだとおぉおぉおぉぉお!!
 俺はてめぇに兄と呼ばれる筋合いねぇんだよ。一生呼ぶな!敬語も止めろ!気持ちわりぃ~」

 鈴奈とその父母、祖父母以外と対峙するとラファエルの言葉遣いは崩れる。界人の前は特に。浩成曰く、界人よりはマシらしい。

 界人は仕事が絡まなければ基本相手を無視。絡めば丁寧に接するが、鈴奈に近づこうとする男には、男の存在が残らないため不明。ラファエルのように消せない場合や身内にはこの荒らさを披露。界人と関わるなら仕事関連のみでありたい、とは父である拓海の言葉だ。


「界人落ち着け、気持ちは……わかるけど、すーちゃんが決めたことだよ。それに婚約ではなくお付き合いだ。お付き合い!すーちゃんの心ひとつで消えてなくなる儚いものだよ。」

 浩成の言葉はいつも、純粋で真っ直ぐな界人の台詞より一癖ある。

 界人も界人で、業務・警備関連では大幅な信頼を寄せられるが、鈴奈のこととなると途端にポンコツ化しやがる。今界人をからかうのは簡単だが、後で支障をきたすから扱いにくいんだよな。

「浩成兄、そんなことは承知の上だ。俺は妨害の難易度が上がったのが嫌なんだ。どう足掻いても鈴奈に、こいつの存在を完全に忘れさせる方法が思いつかねぇんだよ。」

 界人に案がないなら安心だ。浩成の言葉は心に刺さるが、人や金を動かす力は界人の方がある。次期立花カンパニー社長の肩書きは伊達じゃない。浩成が策を授けなければ万々歳なんだが……。


「俺のことは浩成さんも界人も目障りにお思いでしょう。しかし今は一旦脇に置いて頂きたい。報告をしたいんでね。」

 冗談(?)を含むも居住まいを正したラファエルの一言に浩成と界人の表情も引き締まる。

「どの口が言うだ。クソッ。
 で、変なもんでも掛かったか?あのコソコソ隠れやがる害虫を見かけたのか?」

 浩成さんの言う通りだな。鈴奈に界人と俺の会話は聞かせられないわ。言葉遣いが荒すぎる。

 ラファエルは顔に貼り付けた笑顔を濃くした。

「前者だ。暗殺者11名が鈴奈に接近しようと試みたところを確保。現地では軽傷で捕縛したと報告があったが、移送中に問題が発生した。4名重体らしい。依頼者が誰なのか口を割らそうとしてるが、顔も名も分からない。嘘発見器も犬も反応しなかったから本当ぽい。」

 尋問担当者には半分を潰す許可を出し、必ず聞き出せと支持したのに、1/3を半殺しにするだけに留めてしまった。俺はガッカリだよ。その4名さえも尋問後直ぐに医療班にみせたせいで、障害すらのこんねぇし。

 この鈴奈狂信者の2人のうちどちらかが、あの外道に復讐してくれれば文句無いんだが……そう上手くもいかないか。


「十中八九 碇だろ。他に女性を害するだなんて考える奴はいねぇよ。だけど、碇の野郎は無職だろ?どっから金出したんだよ。」

「界人それについても報告が挙がっている。報酬は後払いだったみたいで、依頼時に利用した飲食代しか貰ってないらしい。そのことに不満を覚えつつも、引っ掻き傷1つ1000万リン、刺傷1つ1億リン、暗殺成功で30億リンが美味しいと思ったんだろうな。」

(3リン=1円)

 報告を受けた時は耳を疑った。女性に手をかけようだなんて発想を抱いただけで捕まりそうなこのご時世でよくやるよ。金があっても事後は生き地獄だろうに。

 なんたって鈴奈になにかあれば、キャメロン家が総力を挙げ俺直々に復讐するっての。あと立花家と渡邉家も。少なくとも野蛮人共はこの大陸に居られなくなること間違いなしだ。

「ラファエルが手を出す前に、暗殺に参加した11名の親族、友人、会社の同僚の自宅近所とテレビ局、新聞社に事件の事実を広めるよう支持した。ラファエルのその顔を鈴奈に晒せば100年の恋も覚めるだろうに残念だよ。」

 先手を打たれてたか。手間が省けたな。

 鈴奈に晒す云々はお互い様だろうに。まぁ界人の場合はそこまで痛手ではないか?ギャップが俺よりはマシだしな。


 もし俺が後始末を全て買っていたら、犯人の身内も復讐リストに挙げ連ね、そいつらの粗を探して、無ければガセネタで脅し、自ら違法なことに手を伸ばさせ、溜まったところで務所にぶち込もうと思ったのに。時間を有効活用するかな~。

「界人、メディアに情報を流したなら、すーちゃんが人目に晒されるってことなのかい?」

「そうだよ浩成兄。鈴奈ももう16歳。世間一般の女性なら生誕祭に、自宅へ放送局と政経の要人を呼び、世の中にお披露目するけど、鈴奈の時はパーティにすら連れて行ったことがない。そうだろ?
 それでも、いつまでも隠し通せやしない。いつかは発表しなきゃ行けない。
 もしも……万が一………ないだろうけど、鈴奈がラファエルに嫁げば存在が世にバレる。その際、俺らの妹なんだと世に周知できてなかったら、馬鹿なヤツが鈴奈に近づこうとするかもしれない。
 今なら爺さんらが鉄壁の護りの中で囲ってくれている。おかげで俺らも動きやすいし、鈴奈のことを他の奴らに自慢できる。ずっとしたかったんだ。俺の妹はこんなにもサイコーなんだぞってな。」

「確かに動くなら今だけだもんね。どうせなら事件と一緒にラファエルとの交際も広めないか?」

 お兄様!いいんですか?俺の恋人だと広めることを浩成さん自らに提案されるだなんて感激だ。

「本気か?……効果的……ではある…か。他国とはいえ公爵家の後ろ盾は大きい。次いで渡邉の名前も出すべきだな。鈴奈がラファエルにゾッコンでこいつ一筋と噂を広めれば、求婚者を抑えられるかもしれない。心情的には最悪の気分だがな。」

 交際に加えて熱愛報道!

 今日はなんて幸せな日なんだ。

「細部は任せろ。帰宅次第書類に纏めて各所にデータを送信する。」
「界人が初めてイケメンに見える」
「んだとおめぇ、鈴奈の好みはお前の方が、……顔の一点だけだぞ。勘違いすんなよ。ニマニマ止めろ余計にうぜぇ」
「俺の顔好きなの?」
「界人、ラファエル、その話は今関係ない。界人、星稜高校でもその噂を広める手筈を一刻も早く整えた方がいい。それと教師陣に、すーちゃんの周りは危険度が高いことと渡邉家の護衛を学園内で増やすことを報告しといてくれ。
 春休みだから学園への送り迎えを考えなくていいが、明ければすーちゃんは2年生だ。つまり告白が解禁される。危険はなにも殺人犯だけではない。生徒も対象だ。」
「忘れてた。そういやぁ、もう春だったのか。なら情報伝達は急かすかな。儚き夢を抱える学生たちには、長期休暇中に諦めて貰いたい。
 鈴奈には悪いが、あいつが求める学園生活はもう無理だな。他生徒と半径1mは距離を開けさせて、教師には学園にいる間、誰か一人はついてもらうか有事の際に教師を呼ぶシステムを用意すべきだ。」
「システムの方にしよう。すーちゃんは目指可能な護衛が苦手だからね。避難場所も構内に設置しよう。」
「デート中に護衛を気にして目線を何度か向けてたから、渡邉家の護衛を増やすのはともかく、立花家から人員をまるっと変えるなら隠密も出来る人員を当てた方がいいよ。」

 花畑で花を見てた時も、木陰でサンドイッチを食べた時も、泉で涼んだ時も鈴奈は視線を気にしていた。告白の時は例外だけど!

「隠密か……渡邉の方で無理でもうちからはつけないほうがいい。偽物が紛れ込んだ際に発見が遅れかねない。負担をかけたくはないが、鈴奈に受け入れてもらうしかないかな。」
「界人にしては弱腰だね。すーちゃんのためにならって、今のうちに渡邉の護衛に我が家直伝隠密術を仕込むとは言わないんだね。」
「完成度が低くなるのは目に見えているだろ?渡邉のチームを信じるしかない。」

 守りに綻びを生んだら本末転倒だ。

「世間に学校、後は社内と取引先だ。親父と話すからあとはいい。大枠は決まったことだし細部もこちらで持たせてもらう。浩成兄は学園内の避難場所設置と教師への連絡システムを頼む。ラファエルは親父との話が終わり次第、政経陣との対面の時に付き合ってもらう。それと流す用の写真を何枚か撮るからそのつもりでいろよ。」

 あしらうのを手伝えってことね。了解。

 セルリナ王国唯一の公爵家てあるキャメロン家、大東帝国一権威と権力を持つ渡邉家、新興とはいえその渡邉家と並ぼうとしている立花家を後ろ盾に持つ外も中も美少女な女神。名家のご子息ご令嬢や未来を担う先導者達が通う学園で友人が出来ているならば、それらも世間の目を引くだろう。

 立花鈴奈が突然世に出れば、社会現象は間違いなく勃発するだろう。しかもどの方向に進むかは未知数。奇跡が起きない限り十中八九良くはない。

 他国にも注意を払っとくかな。

 俺自身の身体もより鍛えよう。鈴奈を守れるように。

 惚れてもらうためにも二人の時間を作るために、デートの計画も立てないとな。

 やることが多く、こっちに来る前に思っていたほど鈴奈の傍に居られないけど、今までの生活を忘れてしまうほど毎日が充実している。



「界人様、浩成様、キャメロン様到着しました。足元にお気をつけください。」

 さぁ、はじめようか。
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