転生少女は溺愛に気付かない

たぬ

文字の大きさ
上 下
35 / 56

年始(前編)

しおりを挟む
空は明るく窓から差し込む光は、寝ぼけた私の頭を覚まそうと騒いでるかのように眩しかった。
壁掛け時計をみると、既に12時を過ぎもうすぐ13時になろうとしている。

昨夜は年末定番のお笑い番組を日が変わるまで見て、初日の出を観るまで起きておくために、座敷の炬燵でルーといたところまでは覚えてるけれど…いつ寝たのかは分からない。

初日の出観たかった~

寝坊してしまったが故に、太陽はもう高い位置まで登ってしまっており、ありがたさを感じられないので、初日の出ミッションは来年の課題に繰り越しだ!
とりあえず朝食が食べたいな。起床後すぐなので、空腹感はないけれど、なにかお腹に入れないと普段は活動している時間なのに、いつもと違うせいで違和感がある。例年通りならば、冷蔵庫に佐藤さんと米花さんお手製のおせちがあるはず♪
 わがやに務めている使用人は、警備要員以外基本的に三が日は休みを取ってもらっており、シェフの佐藤さんや米花さんも今日ばかりはいない。本来なら正月の間、彼らの料理は口に出来ないはずが、10年くらい前からだったかな?その頃からおせちを作り置きしてくれるようになったらしい。当時幼かったため覚えてないのだけども…それまでは店で注文していたらしい。

お腹が満たされると周りに少しだけ注意を向けられるようになってきたため、周りを見渡してみるが、ルー以外の誰の姿もない。みな各自の部屋で寝ているのだろう。

そりゃまぁそうだよね…畳があるとはいえ硬い地べたで眠りたくはない。それにしても仕事のない日とはいえ、こんな時間に誰もリビングに降りてこないことは稀だ。みなギリギリまで起きていた(?)から まだ寝ているのかな?いかに就寝時刻が遅かろうとも流石にこの時間だ。起こしに行っても問題はあるまい。

家族の部屋はフロアが別々だし、3人とも朝が弱いため全員を起こすのに時間がかかる。きっと3人分のフロアを回れば30分は優にかかるだろう。昨晩お風呂にも入ってなかったっけ?そういえば顔、洗ってなかったな。

入浴後起こしに行くことを決め、自フロアへ戻った。




シャワーから上がって、界人お兄ちゃんの部屋から順に回るも、誰も部屋にいなかった。そのままリビングに戻ると3人と1匹が既にそこへいた。

「いつ起きたの?」

「『あけましておめでとう』が先だろうが」

手にしている新聞を丸めて、呆れた顔を向けたのとほぼ同時に界人お兄ちゃんは手の中の筒でポコッと私の頭を叩きながらそう言った。
間違ってはいないので、界人お兄ちゃんの言う通りというのは癪だが、不承不承ながら全員に年始初めの挨拶を返し(界人お兄ちゃんには「あけおめ」だけ)昨夜を共にした炬燵へ戻る。
食べたばかりではあったものの、二度目のお昼ご飯におせちを頂いたら今日のすることは夕飯を口に運ぶだけ。三が日は店も開いてないからこれといって外出する予定も立たない。年替わりのタイミングで連絡先を交換していた紗江ちゃんには新年の挨拶をしたからな~暇ん…テレビでも見ようかな。

お昼時だと芸能人に興味があまりない私には縁のない話が多く、アイドルユニットが1年を振り返るのとかお笑い芸人が組んだ特番とかにもそこまで惹かれない。こんなに暇なのは、世俗への関心事が低いせいでは?とも思うが、まぁいいや、ポチポチポチッあっ!街で一般人に質問しているこの番組。司会者がコメント面白い人だ。質問は昨年度の失敗と今年度のやらかしそうなこと。年始一発目にこのテーマって。まぁ抱負とかを聞いても面白くなる可能性が低いから仕方ないね。

「確かこの近くだねこの神社。今から行ってみない?家族みんなで」

「車で30分ちょいってところだが…浩成が外出したいだなんて珍しいな。いつも研究室と家の往復以外 外に出たがらないのに。大きくなったな…パパは嬉しいぞ」

おいおいと泣くお父さんと「うるさい」と一刀両断する界人お兄ちゃんの間で少しだけ一悶着あったが、結局放映された森野塚神社に父 兄 ルー(それと護衛)と参拝へ行くことになった。夕方間近の時間の今もさすがは元日、大人数でぞろぞろと境内を歩くのに罪悪感を感じるし、周りの視線が大変気になります!
すみませんすみませんって気持ちでいっぱいです。

「何背中丸めてんだ?ルーが歩きにくいからやめて欲しいって目で訴えかけてんぞ。鈴奈シャキッと背を伸ばせよ。そんなんじゃ二十歳になる前に昔話に出てくる魔女みたいな猫背になんぞ」

「界人!鈴奈をそんなに強く叩いちゃダメだよ。今はのは痛いよね」

ね~
ええその通りです浩成お兄ちゃん様!って全身がジーンとする。このジーンは感動ではなすて、

「すずなちゃーん!」

「あれって…」

体の痺れを逃がそうと必死な私にもはっきりと聞こえた。この可愛らしい声は

「紗江ちゃん!紗江ちゃんも参拝に?すごい偶然だね。」

「偶然…そうだね。どうしてそんなに動きがぎこちないの?あら、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私は鈴奈さんの友人 剣持紗江と申します。以後お見知り置きを」

背後で紗江ちゃんと(たぶん)両親がお兄ちゃんとお父さんと挨拶を交わしているのは分かってるんだけど、先程の界人お兄ちゃんの叱咤のせいで身体に若干の痺れが…

彼女紗江ちゃんの横にいる大人の男女はきっとご両親だろう。

「立花拓海の娘 立花鈴奈と申します。」

「改めまして、私は紗江の父 剣持慎也 そしてこっちにいるのが妻の美恵です。いつも君のことは紗江から聞いているよ。食卓で聞かない日はないほどにね。今日も参拝を終えて駐車地まで戻ったのに、携帯を見るなり突然引き返し始めたものだからびっくりしたよ。友人が来たなら納得だ。相手が好いた男性じゃなくて良かったよ本当に。今後ともよろしくね。」

ここに来るのは突然決まったし、ここは鳥居をくぐってから10分は経ったあたりだ。こっちからは何も連絡を入れていないのに、紗江ちゃんはいつどうやって気づいたのだろう。それに彼女には婚約者がいるはずだ。ならどうして

「紗江ちゃんからは婚約者が既にいると聞いていますが、その…好意を寄せる相手がいたらその…いややっぱりいいです。当たり前ですよね」

「そうだよ。当然さ。婚約者はともかく好きな人なんてまだ早い!父親として許せない」


決められた相手がいるのに、別の男を好きになるのは良くないって意味だと思ったけど…ちょっと別方向ぽいぞ。

「分かりますよ剣持さん。痛いほどに、卵子を提供することを約束しただけの一生娘に会わす気も娘の興味関心を向けさせる気もない相手には目をつぶれても、ほぼ確実に我が手元から愛娘を連れ去る奴なんぞを許せる男親はいませんよ。」

ガシッ

いや、『ガシッ』じゃないよ?なんで熱く握手を交わしているんだね?

それと聞き捨てならない情報が一つ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...